監査基準 前文
監査基準の改訂に関する意見書(前文)
出典:企業会計審議会(金融庁)『監査基準の改訂に関する意見書(前文)』出題で参照している6回分の前文公式ページ:金融庁 企業会計審議会 ↗ 取得元:平成14年1月25日「監査基準の改訂について」 ↗・平成17年10月28日「監査基準の改訂について」 ↗・平成25年3月26日「監査における不正リスク対応基準の設定について」 ↗・平成26年2月18日「監査基準の改訂について」 ↗・平成30年7月5日「監査基準の改訂について」 ↗・令和2年11月6日「監査基準の改訂について」 ↗本文は公式の文書から取り出し、一字一句照合しています(2026-10-19 取得)。出題された8か所に線を引いています。
平成14年1月25日「監査基準の改訂について」
一
経緯
1
審議の背景
公認会計士(監査法人を含む。)による財務諸表の監査(以下「公認会計士監査」という。)は、財務諸表の信頼性を担保するための制度であり、その規範となる監査基準は、財務諸表の作成規範である会計基準とともに、適正なディスクロージャーを確保するための重要なインフラストラクチャーである。我が国の監査基準は、証券取引法に基づく公認会計士監査が昭和25年に導入されたことに伴い、「監査基準」及び「監査実施準則」という構成で設けられ、その後、昭和31年には正規の監査の実施に伴い「監査報告準則」も加わって今日の監査基準の構成が固まった。また、昭和40年から41年にかけて粉飾決算事件の発生等に対処する「監査実施準則」及び「監査報告準則」の大幅な改訂、昭和57年には企業会計原則の一部修正に伴う改訂、昭和58年には後発事象に関する改訂が行われた。さらに、平成元年から平成3年にかけての「監査基準」、「監査実施準則」及び「監査報告準則」の改訂においては、いわゆるリスク・アプローチの考え方が採用され、新たな内部統制概念の導入、監査報告書における特記事項の記載、経営者確認書の入手の義務づけ等による監査基準の充実強化と個別具体的な監査手続の削除による監査基準の純化が図られたところである。直近では、平成10年に、キャッシュ・フロー計算書が証券取引法上の財務諸表に加えられたことに対応して若干の改訂が行われ、現在の監査基準となっている。
平成3年の監査基準の改訂から既に10年余が経過しており、我が国企業の活動の複雑化や資本市場の国際的な一体化を背景として、公認会計士監査による適正なディスクロージャーの確保とともに、公認会計士監査の質の向上に対する要求が国際的にも高まっている。さらに、最近、経営が破綻した企業の中には、直前の決算において公認会計士の適正意見が付されていたにも関わらず、破綻後には大幅な債務超過となっているとされているものや、破綻に至るまで経営者が不正を行っていたとされるものもある。こういった事態に対し、なぜ、公認会計士監査でこれらを発見することができなかったのか、公認会計士監査は果たして有効に機能していたのか等の厳しい指摘や批判が行われている。
このような状況を背景として、平成11年10月に開催された当審議会総会において、「監査基準等の一層の充実」を審議事項とすることが決定され、第二部会において審議が行われることとなった。
2
審議の経緯
当審議会では、国際的な監査基準の動向をも踏まえ、「監査基準」、「監査実施準則」及び「監査報告準則」全般にわたって改訂すべき事項について網羅的に検討を行い、平成12年6月に「監査基準等の一層の充実に関する論点整理」(以下「論点整理」という。)を公表した。
論点整理では、企業が公表する財務諸表に対して公認会計士が独立の立場から実施する監査について、その信頼性の一層の向上を各方面から求められていることが明らかになったとの認識が示された。その背景を要約すれば、
(1)過剰流動性が現出させた飽和経済の崩壊に伴う企業破綻、あるいは信用力の低下が、企業の公表する財務諸表だけでなく、その信頼性に関し独立の立場から職業的専門家としての意見を表明する監査の機能に対しても批判を引き起こしたこと、(2)近年の情報技術(IT)の高度化は世界的な規模での市場経済化を促し、資本市場ならびに企業活動の国際化も進展させ、企業が公表する財務諸表の監査に対しても、国際的な水準での機能向上が求められていることが挙げられる。
このような認識に基づき、我が国のコーポレート・ガバナンスの変化や国際的な監査基準の展開をも視野に入れ、監査基準の具体的な改訂について審議を行った。平成13年6月には、財務諸表の重要な虚偽の表示の原因となる不正を発見する姿勢の強化、ゴーイング・コンサーン(継続企業の前提)問題への対処、リスク・アプローチの徹底、新たな会計基準への対応及び監査報告書の充実を図ることを改訂の重要なポイントとし、前文を含め監査基準を全面的に見直した「監査基準の改訂に関する意見書(公開草案)」を公表して、広く各界の意見を求めた。当審議会は、寄せられた意見を参考にしつつ更に審議を行い、公開草案の内容を一部修正して、これを「監査基準の改訂に関する意見書」として公表することとした。
二
改訂基準の性格、構成及び位置付け
1
改訂基準の性格
監査基準の基本的性格は、昭和25年に我が国に監査基準が設けられた折、「監査基準は、監査実務の中に慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを帰納要約した原則であつて、職業的監査人は、財務諸表の監査を行うに当り、法令によつて強制されなくとも、常にこれを遵守しなければならない。」と明示されたところであり、今日においても、その性格は変わるものではない。
しかし、前述のように、近年、資本市場や企業活動の国際化、企業が採用する情報技術の高度化、さらに連結財務諸表原則の改訂を初めとする会計基準の改訂や新設など、我が国における公認会計士監査をめぐる環境は大きく変貌している。これらの動きに対応して、監査人個々人のみならず監査事務所などの組織としても監査の実施体制を充実し、さらに監査の質の管理と向上に注意を払う必要性が認識されているところであり、また、これらは国際的な動向とも歩調を合わせることが求められている。
一方、国民経済的な視点からは、市場経済が一層の進展を見せ、いわゆる投資者の自己責任原則が種々の方面で徹底されるようになるにつれ、企業が公表する財務情報の信頼性の確保について、従来とは比較できないほどに社会の期待と関心が高まっている。当然に、公認会計士監査に対しても、その充実が求められている。
このような背景を踏まえ、今般の改訂では、単に我が国の公認会計士監査の最大公約数的な実務を基準化するという方針ではなく、将来にわたっての公認会計士監査の方向性を捉え、また、国際的にも遜色のない監査の水準を達成できるようにするための基準を設定することを目的としている。さらに、公認会計士監査に対する社会の種々の期待に可能な範囲で応えることも改訂基準の意図したところである。
2
改訂基準の構成
今般の改訂では、諸外国のように各項目ごとに個々の基準を設けるという形式は採らず、一つの基準とする形式は維持することとしたが、「監査実施準則」及び「監査報告準則」を廃止し、監査基準という一つの枠組みの中で、一般基準、実施基準及び報告基準の区分とした。その上で、実施基準及び報告基準について基本原則を置くとともに、項目を区分して基準化する方法を採った。
「監査実施準則」及び「監査報告準則」は、監査慣行が十分に確立していない状況において、抽象的な監査基準を補足するものとして設けられたという経緯がある。平成3年の監査基準の改訂において、「監査実施準則」の純化が大幅に行われ、監査基準を補足する具体的な指針を示す役割は日本公認会計士協会に委ねられることとなった。その後、日本公認会計士協会から、逐次、監査に係る具体的な指針が公表され、相当の整備が行われている。このような状況を踏まえると、各準則の位置付けが曖昧なものとなることから、各準則を廃止し、監査基準とこれを具体化した日本公認会計士協会の指針により、我が国における一般に公正妥当と認められる監査の基準の体系とすることが適切と判断した。なお、改訂基準の解釈にあたっては、この前文に示された趣旨を含めて理解することが必要である。
3
監査基準の位置付け
改訂基準における監査の目的が示す枠組み及びこれから引き出されたそれぞれの基準は、証券取引法に基づく監査のみならず、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律に基づく監査など、財務諸表の種類や意見として表明すべき事項を異にする監査も含め、公認会計士監査のすべてに共通するものである。
一方、監査に類似する証明の業務としていわゆるレビューがある。レビューは、諸外国では、財務諸表には会計基準に照らして特に修正を要する重要な事項は見当たらなかったことを、限定した手続により消極的に証明する業務であるとされており、財務諸表全体が適正であるかどうかについて意見の表明を行う監査とは、その保証水準を明確に異にするものである。したがって、レビューが監査の一環又は一部であると誤解され、監査と混同されると、却って監査に対する信頼を損ねる虞が生じることから、レビューについては監査基準の対象としていない。このような消極的な証明を行う業務については、種々異なる需要があるので、日本公認会計士協会が適切な指針を作成する方が、実務に柔軟に対応することができると考えられる。
三
主な改訂点とその考え方
1
監査の目的
従来、監査基準は監査それ自体の目的を明確にしてこなかったために、監査の役割について種々の理解を与え、これがいわゆる「期待のギャップ」を醸成させてきたことは否めない。また、監査の目的を明確にすることにより、監査基準の枠組みも自ずと決まることになる。このような趣旨から、改訂基準において監査の目的を明らかにすることとしたが、その内容については、以下の点に留意して理解することが必要である。
(1)監査の目的は、経営者の作成した財務諸表に対して監査人が意見を表明することにあり、財務諸表の作成に対する経営者の責任と、当該財務諸表の適正表示に関する意見表明に対する監査人の責任との区別(二重責任の原則)を明示した。
(2)監査人が表明する意見は、財務諸表が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を表明したものであることを明確にした。
(3)改訂基準では、基本的な構成からなる財務諸表に対する監査を前提として、財務諸表が企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適正に表示しているかどうかについて意見を表明するとしているが、監査の対象となる財務諸表の種類、あるいは監査の根拠となる制度や契約事項が異なれば、それに応じて、意見の表明の形式は異なるものとなる。
(4)適正意見と虚偽の表示との関係について、監査人が財務諸表は適正に表示されているとの意見を表明することには、財務諸表には全体として重要な虚偽の表示がないことの合理的な保証を得たとの自らの判断が含まれていることを明確にした。
(5)合理的な保証を得たとは、監査が対象とする財務諸表の性格的な特徴(例えば、財務諸表の作成には経営者による見積りの要素が多く含まれること)や監査の特性(例えば、試査で行われること)などの条件がある中で、職業的専門家としての監査人が一般に公正妥当と認められる監査の基準に従って監査を実施して、絶対的ではないが相当程度の心証を得たことを意味する。
なお、監査報告書における適正意見の表明は、財務諸表及び監査報告書の利用者からは、結果的に、財務諸表には全体として重要な虚偽の表示がないことについて、合理的な範囲での保証を与えているものと理解されることになる。
2
一般基準の改訂について
近年の監査を巡る環境の変化は、従来の一般基準により監査人に求められていた専門的能力や実務経験、独立性、公正不偏性、注意義務などの要件を一層徹底させ、また、監査人の自主的かつ道義的な判断や行動に任せていた点を制度的に担保する方向へと動かすものとなっていることも事実である。それらの現代的な動向は従来の監査基準では必ずしも十分に反映されていなかったので、改訂基準は以下の点でこれを改めることとした。
(1)
専門的能力の向上と知識の蓄積
監査人は、近年の資本市場の国際化、企業の大規模化や取引活動の複雑化、会計処理の技術的進展、会計基準の高度の専門化などに対応するために、職業的専門家としての能力の維持・研鑚に努め、実務経験を積み、これらの能力や知識を監査の実務に活かすことにより、これまで以上に監査に対する社会の期待に応えることが求められている。
(2)
公正不偏の態度と独立性の保持
監査人は、監査の実施に当たって、精神的に公正不偏の態度を保持することが求められ、独立性の保持を最も重視しなければならない。そのため、公正不偏な態度に影響を及ぼす可能性という観点から、独立の立場を損なう特定の利害関係を有することはもとより、このような関係を有しているとの疑いを招く外観を呈することがあってはならないことを明確にした。
(3)
職業的懐疑心
監査人としての責任の遂行の基本は、職業的専門家としての正当な注意を払うことにある。その中で、監査という業務の性格上、監査計画の策定から、その実施、監査証拠の評価、意見の形成に至るまで、財務諸表に重要な虚偽の表示が存在する虞に常に注意を払うことを求めるとの観点から、職業的懐疑心を保持すべきことを特に強調した。
(4)
不正等に起因する虚偽の表示への対応
財務諸表の虚偽の表示は、経営者による会計方針の選択や適用などの際の判断の誤りのみならず事務的な過誤によってももたらされるが、重要な虚偽の表示の多くは、財務諸表の利用者を欺くために不正な報告(いわゆる粉飾)をすること、あるいは、資産の流用などの行為を隠蔽するために意図的に虚偽の記録や改竄等を行うことに起因すると考えられる。そこで、監査人はこのような不正等について特段の注意を払うとともに、監査の過程において不正等を発見した場合には、経営者等に適切な対応を求めるとともに、その財務諸表への影響について評価することを求めることとした。
なお、違法行為については、それ自体を発見することが監査人の責任ではなく、その判断には法律の専門的な知識が必要となることも多い。また、違法行為は必ずしも財務諸表の重要な虚偽の表示の原因となるものではないが、監査人が重要な虚偽の表示につながる虞のある違法行為を発見した場合には、不正等を発見した場合に準じて適切な対応をとることになる。
(5)
監査調書
企業の大規模化や企業活動の複雑化は、とりもなおさず監査人の膨大な作業と高度な判断を要求するが、それらの作業や判断の質を自らあるいは組織的に管理するためには、監査調書の作成が不可欠である。また、監査人は自らの責任を問われるような事態に対処し、説明責任を果たすためにも、監査計画の策定から意見の形成に至るまでの監査全体について、判断の過程も含めて記録を残すことを求めることとした。なお、今後、コンピュータを利用して監査調書を作成することも視野に入れ、特に、文書による保存という表現は用いていない。
(6)
監査の質の管理
財務諸表の監査に携わる監査人に対して、自らの監査業務の質の確保に十全な注意を払うとともに、組織としても監査業務の質を担保するための管理の方針と手続を定め、さらに、その実効性の確認までを求めることを明確にした。監査業務の質の確保は、監査補助者の監督、他の監査人の監査結果の利用などに関しても同様に求められるものである。また、監査業務の質の確保には、新規に監査契約を締結する際における調査や前任監査人との引き継ぎ等も含まれる。
(7)
守秘義務
監査人が監査業務上知り得た事項を正当な理由なく他に漏らしたり、窃用することは、職業倫理の上から許されないことは当然であり、そのような行為は監査を受ける企業との信頼関係を損ない、監査業務の効率的な遂行を妨げる原因ともなりかねないことから、敢えて一般基準の一つとして維持することとした。ただし、監査人の交代に当たっての前任監査人からの引継ぎ、親子会社で監査人が異なるときに親会社の監査人が子会社の監査人から情報を入手すること、監査の質の管理のために必要な外部の審査を受けることなどは監査業務の充実に関連することであり、そのような場合には、関係者間の合意を得るなどにより、守秘義務の解除を図る必要がある。
3
リスク・アプローチの明確化について
(1)
リスク・アプローチの意義
平成3年の監査基準の改訂でリスク・アプローチの考え方をとり入れたところであるが、なおも我が国の監査実務に浸透するには至っていない。その原因の一端は監査基準の中でリスク・アプローチの枠組みが必ずしも明確に示されなかったことにもある。しかし、リスク・アプローチに基づく監査は、重要な虚偽の表示が生じる可能性が高い事項について重点的に監査の人員や時間を充てることにより、監査を効果的かつ効率的なものとすることができることから、国際的な監査基準においても採用されているものである。我が国の監査実務においてもさらなる浸透を図るべく、改訂基準ではリスク・アプローチに基づく監査の仕組みをより一層明確にした。
(2)
リスクの諸概念及び用語法
従来「監査上の危険性」としていた用語を国際的な用語法に改めて「監査リスク」とし、固有リスク、統制リスク、発見リスクという三つのリスク要素と監査リスクの関係を明らかにすることとした。監査実務において、これらのリスクは、実際には複合的な状態で存在することもあり、必ずしも明確に切りわけられるものではないが、改訂基準ではリスク・アプローチの基本的な枠組みを示すことを主眼としており、実際の監査においてはより工夫した手続が用いられることになる。なお、改訂基準におけるこれらの用語は以下の意味で用いられている。
①「監査リスク」とは、監査人が、財務諸表の重要な虚偽の表示を看過して誤った意見を形成する可能性をいう。
②「固有リスク」とは、関連する内部統制が存在していないとの仮定の上で、財務諸表に重要な虚偽の表示がなされる可能性をいい、経営環境により影響を受ける種々のリスク、特定の取引記録及び財務諸表項目が本来有するリスクからなる。
③「統制リスク」とは、財務諸表の重要な虚偽の表示が、企業の内部統制によって防止又は適時に発見されない可能性をいう。
④「発見リスク」とは、企業の内部統制によって防止又は発見されなかった財務諸表の重要な虚偽の表示が、監査手続を実施してもなお発見されない可能性をいう。
(3)
リスク・アプローチの考え方
リスク・アプローチに基づく監査の実施においては、監査リスクを合理的に低い水準に抑えることが求められる。すなわち、監査人の権限や監査時間等には制約もある中で、財務諸表の利用者の判断を誤らせることになるような重要な虚偽の表示を看過するリスクを合理的な水準に抑えることが求められるのである。このため、固有リスクと統制リスクとを評価することにより、虚偽の表示が行われる可能性に応じて、監査人が自ら行う監査手続やその実施の時期及び範囲を策定するための基礎となる発見リスクの水準を決定することが求められる。例えば、固有リスク及び統制リスクが高い(虚偽の表示が行われる可能性が高い)と判断したときは、自ら設定した合理的な監査リスクの水準が達成されるように、発見リスクの水準を低く(虚偽の表示を看過する可能性を低く)設定し、より詳細な監査手続を実施することが必要となる。また、固有リスク及び統制リスクが低いと判断したときは、発見リスクを高めに設定し、適度な監査手続により合理的な監査リスクの水準が達成できることとなる。このように、固有リスクと統制リスクの評価を通じて、発見リスクの水準が決定される。
(4)
リスク評価の位置付け
このようなリスク・アプローチの考え方は、虚偽の表示が行われる可能性の要因に着目し、その評価を通じて実施する監査手続やその実施の時期及び範囲を決定することにより、より効果的でかつ効率的な監査を実現しようとするものである。これは、企業が自ら十分な内部統制を構築し適切に運用することにより、虚偽の表示が行われる可能性を減少させるほど、監査も効率的に実施され得ることにもなる。したがって、リスク・アプローチに基づいて監査を実施するためには、監査人による各リスクの評価が決定的に重要となる。そのために、景気の動向、企業が属する産業の状況、企業の社会的信用、企業の事業内容、経営者の経営方針や理念、情報技術の利用状況、事業組織や人的構成、経営者や従業員の資質、内部統制の機能、その他経営活動に関わる情報を入手することが求められる。監査人がこれらの情報の入手やリスクの評価を行うに当たっては、経営者等とのディスカッションが有効であると考えられ、こういった手法を通じて、経営者等の認識や評価を理解することが重要となる。
4
監査上の重要性について
監査上の重要性は、監査計画の策定と監査の実施、監査証拠の評価ならびに意見形成のすべてに関わる監査人の判断の規準であり、次のように適用される。
(1)監査人は、監査計画の策定に当たり、財務諸表の重要な虚偽の表示を看過しないようにするために、容認可能な重要性の基準値(通常は、金額的な数値が設けられる)を決定し、これをもとに、達成すべき監査リスクの水準も勘案しながら、特定の勘定や取引について実施すべき監査手続、その実施の時期及び範囲を決定し、監査を実施する。
(2)監査人は、監査の実施の過程で判明した重要な虚偽の表示につながる可能性のある事項については、その金額的影響及び質的影響(例えば、少額であっても他の関連項目や次年度以降に重要な影響を与える可能性がある)を検討し、必要であれば、監査の実施の結果を見直したり、追加の監査手続を実施するが、このような金額的・質的影響の評価に関わる判断の規準も監査上の重要性の一部となる。
(3)監査人は、監査意見の形成に当たって、会計方針の選択やその適用方法、あるいは財務諸表の表示方法について不適切な事項がある場合に、当該事項を除外した上で適正とするか又は財務諸表を不適正とするかを判断するが、この判断の規準も監査上の重要性を構成する。
(4)監査人は、監査を実施する上で一部の監査手続を実施できなかったり、必要な証拠の提供を得られないなどの制約を受けた場合に、当該事実が影響する事項を除外した上で意見を表明するか又は意見の表明をしないかを判断するが、この場合の判断の規準も監査上の重要性の一部となる。
5
内部統制の概念について
リスク・アプローチを採用する場合、アプローチを構成する各リスクの評価が肝要となるが、なかでも統制リスクの評価は監査の成否の鍵となる。監査人としては、企業に内部統制が整備されていない場合には、意見形成の合理的な基礎を得ることが著しく困難なものとなる。したがって、企業としても、効果的かつ効率的な監査を受けるためには内部統制の充実を図ることが欠かせないことになる。十分かつ適切に内部統制が運用されている企業については、利用し得る範囲において内部監査との連携等も考慮して、一層の効果的かつ効率的な監査が行われることが期待される。監査人としても、内部統制の重要な欠陥を発見した場合には、経営者等にその改善を促すことが望ましい。
ここで、内部統制とは、企業の財務報告の信頼性を確保し、事業経営の有効性と効率性を高め、かつ事業経営に関わる法規の遵守を促すことを目的として企業内部に設けられ、運用される仕組みと理解される。
内部統制は、(1)経営者の経営理念や基本的経営方針、取締役会や監査役の有する機能、社風や慣行などからなる統制環境、(2)企業目的に影響を与えるすべての経営リスクを認識し、その性質を分類し、発生の頻度や影響を評価するリスク評価の機能、(3)権限や職責の付与及び職務の分掌を含む諸種の統制活動、(4)必要な情報が関係する組織や責任者に、適宜、適切に伝えられることを確保する情報・伝達の機能、(5)これらの機能の状況が常時監視され、評価され、是正されることを可能とする監視活動という5つの要素から構成され、これらの諸要素が経営管理の仕組みに組み込まれて一体となって機能することで上記の目的が達成される。
このような内部統制の概念と構成要素は国際的にも共通に理解されているものであるが、それぞれの企業において、具体的にどのような内部統制の仕組みを構築し、どのように運用するかということについては、各国の法制や社会慣行あるいは個々の企業の置かれた環境や事業の特性等を踏まえ、経営者自らが、ここに示した内部統制の機能と役割を効果的に達成し得るよう工夫していくべきものである。
なお、監査人による統制リスクの評価対象は、基本的に、企業の財務報告の信頼性を確保する目的に係る内部統制であるが、そのための具体的な仕組み及び運用の状況は企業によって異なるため、監査人が内部統制を評価するに当たっては上記5つの要素に留意しなければならない。
6
継続企業の前提について
(1)
継続企業の前提に対する対処
企業が将来にわたって事業活動を継続するとの前提(以下「継続企業の前提」という。)について、監査人が検討することに対する社会の期待が存在する。背景には、近年我が国で企業破綻の事例が相次ぎ、利害関係者の要望が強くなったことがある。さらに、すでに米国をはじめとする主要国の監査基準、ならびに国際監査基準(ISA)は、継続企業の前提に関して監査人が検討を行うことを義務づけていることからも、改訂基準で導入することが適当と判断したものである。
(2)
監査上の判断の枠組み
継続企業の前提に関わる監査基準のあり方としては、監査人の責任はあくまでも二重責任の原則に裏付けられたものとしている。経営者は、財務諸表の作成に当たって継続企業の前提が成立しているかどうかを判断し、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象や状況について、適切な開示を行わなければならない。したがって、継続企業の前提に重要な疑義が認められる場合においても、監査人の責任は、企業の事業継続能力そのものを認定し、企業の存続を保証することにはなく、適切な開示が行われているか否かの判断、すなわち、会計処理や開示の適正性に関する意見表明の枠組みの中で対応することにある。
監査人による継続企業の前提に関する検討は、経営者による継続企業の前提に関する評価を踏まえて行われるものである。具体的には、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象や状況の有無、合理的な期間(少なくとも決算日から1年間)について経営者が行った評価、当該事象等を解消あるいは大幅に改善させるための経営者の対応及び経営計画について検討する。
その結果、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象や状況が存在し、当該事象等の解消や大幅な改善に重要な不確実性が残るため、継続企業の前提に重要な疑義が認められる場合には、その疑義に関わる事項が財務諸表において適切に開示されていれば(他に除外すべき事項がない場合には)無限定適正意見を表明し、それらの開示が適切でなければ除外事項を付した限定付適正意見を表明するか又は不適正意見を表明する。なお、無限定適正意見を表明する場合には、監査報告書において、財務諸表が継続企業の前提に基づき作成されていることや当該重要な疑義の影響が財務諸表に反映されていないことなどを含め、当該重要な疑義に関する開示について情報を追記することになる。また、経営者が適切な評価を行わず、合理的な経営計画等が経営者から提示されない場合には、監査範囲の制約に相当することとなり、除外事項を付した限定付適正意見を表明するか又は意見を表明しない。ただし、事業の継続が困難であり継続企業の前提が成立していないことが一定の事実をもって明らかなときは不適正意見を表明することになる。
これらは、基本的に国際的ないし主要国の監査基準に沿ったものである。要は、企業の事業継続能力に関わる情報の財務諸表における適切な開示を促すことが継続企業の前提に関わる監査基準の考え方である。
(3)
継続企業の前提に関わる開示
継続企業の前提に影響を与える可能性がある事象や状況を余り広範に捉えると、その影響の重要度や発現時期が混淆し、却って投資判断に関する有用性を損なうとともに、監査人が対処できる限界を超えると考えられる。したがって、公認会計士監査においては、相当程度具体的であってその影響が重要であると認められるような、重要な疑義を抱かせる事象又は状況についてのみ対処することとした。
継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象や状況としては、企業の破綻の要因を一義的に定義することは困難であることから、財務指標の悪化の傾向、財政破綻の可能性等概括的な表現を用いている。より具体的に例示するとすれば、財務指標の悪化の傾向としては、売上の著しい減少、継続的な営業損失の発生や営業キャッシュ・フローのマイナス、債務超過等が挙げられる。財政破綻の可能性としては、重要な債務の不履行や返済の困難性、新たな資金調達が困難な状況、取引先からの与信の拒絶等が挙げられる。また、事業の継続に不可欠な重要な資産の毀損や権利の失効、重要な市場や取引先の喪失、巨額の損害賠償の履行、その他法令に基づく事業の制約等も考慮すべき事象や状況となると考えられる。いずれにせよ、このような事象や状況が存在する場合には、その旨、その内容、継続企業の前提に関する重要な疑義の存在、当該事象や状況に対する経営者の対応及び経営計画、当該重要な疑義の影響を財務諸表に反映しているか否か等について、財務諸表に注記を義務づけていくことが必要である。一方、企業活動の継続が損なわれるような重要な事象や状況は突然生起することは稀であり、財務諸表の注記が行われるまで何ら投資者に情報が開示されないことも問題であると考えられる。したがって、上記のような事象や状況につながる虞のある重要な事項については、有価証券報告書や営業報告書等において適切に開示されることが求められる。
7
情報技術(IT)の利用と監査の対応について
企業における情報技術の利用は監査実務にも大きな影響を与えている。特に、監査対象の財務諸表の基礎となる会計情報を処理するシステムが情報技術を高度に取り入れたものである場合は、監査の実施に当たって、統制リスク等の各種のリスク評価に大きく関係する。また、企業が利用している情報技術とシステムに関する十分な知識と対応できる技術的な能力の保持が監査人に求められるという意味で、監査人自身にとってもその責任の履行上、重要な影響が生じることとなる。
改訂基準では、このような状況を背景にして、企業における情報技術の利用に対応したいくつかの措置を講じているが、これも基本的な指示に止まっており、より技術的な指示は日本公認会計士協会の指針において設けられる必要がある。
8
実施基準に関わるその他の改訂事項
(1)
監査計画の充実
監査計画を策定することの重要性については、これまでも「監査基準」で指示されてきたところであるが、リスク・アプローチのもとでは、各リスクの評価と監査手続、監査証拠の評価ならびに意見の形成との間の相関性が一層強くなり、この間の一体性を維持し、監査業務の適切な管理をするために監査計画はより重要性を増している。改訂基準では、これらの点に鑑み、リスク・アプローチに基づいた監査計画の策定のあり方を指示した。
(2)
監査要点と監査証拠
監査要点とは、財務諸表の基礎となる取引や会計事象等の構成要素について立証すべき目標であり、実施基準において、実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性、表示の妥当性等を挙げるとともに、監査要点に適合した十分かつ適切な監査証拠を入手することを求めている。なお、監査要点は、監査を受ける企業の業種、組織、情報処理システムなどに対応して監査人が自らの判断で設定することが基本となる。
(3)
監査手続
改訂前の「監査基準」においては、監査人が自己の意見表明の合理的な基礎を得るために必要と認めて実施する監査手続として「通常実施すべき監査手続」という概念を用いたが、この表現は、あたかも定型的な監査手続の組み合わせとその適用方法があるかのような誤解を与えることもあるので、使用しないこととした。また、監査手続については、改訂前の「監査実施準則」で、実査、立会、確認、質問、視察、閲覧、証憑突合、帳簿突合、計算突合、勘定分析、分析的手続等として個々の監査の手法を列挙していた。しかし、改訂基準では監査手続を、統制リスクを評価するために行う統制評価手続と監査要点の直接的な立証のために行う実証手続という概念に区分した上で、監査人が選択する具体的な監査の手法の例示は削除した。重要な監査の手法については、日本公認会計士協会が指針において、その種類や適用方法を明確にすることが必要である。
(4)
会計上の見積りの合理性
新たな会計基準の導入等により、会計上の認識・測定において、従来にも増して経営者の見積りに基づく要素が重要となってきている。改訂基準では、会計上の見積りの合理性について、監査人自身も、十分かつ適切な監査証拠を入手して判断すべきことを指示し、そのために、経営者が行った見積りの方法の評価ばかりでなく、その見積りと監査人自身の見積りや決算日後に判明した実績とを比較したりすることが必要となる場合もあることを明記している。
(5)
経営者からの書面による確認
改訂前の「監査実施準則」における経営者確認書の入手は、それ自体が監査手続の一部を構成するものであるかが曖昧であるとの指摘があり、また、監査人が必要と認めた事項について経営者から書面により陳述を得ることが本来の趣旨であることから、経営者確認書という固定的なものとしてではなく、経営者からの書面による確認を監査手続として明確に位置付けた。したがって、必ずしも経営者からの書面による確認を監査の終了時に限るものではなく、監査人の判断により、適宜、適切に行うことになる。
(6)
他の監査人の監査結果の利用
企業活動の国際化・多角化及び連結対象会社の増加による監査範囲の拡大に伴い、他の監査人の監査の結果を利用する範囲も拡大することから、主たる監査人と他の監査人との責任のあり方についての議論があるが、改訂基準では従来の考え方を変更していない。すなわち、他の監査人の監査の結果を利用する場合も、監査に関わる責任は主たる監査人が負うものであり、報告基準においても他の監査人の監査の結果を利用した場合に特別の記載を求めることはしていない。
なお、監査範囲の大半について他の監査人の監査の結果を利用しなければならない場合には、実質的には他の監査人が監査を行うという結果となることから、監査人として監査を実施することについて、監査契約の締結の可否を含めて慎重に判断すべきである。
9
監査意見及び監査報告書
我が国の監査実務を国際的に遜色のないものとすることは改訂の目的の一つであり、監査報告書の書式の改訂もその一環である。また、近年、監査を巡る社会の関心が高まるなかで、監査がどのように行われ、またいかなる判断が監査人により行われ、その結果としていかなる意見が表明されるかについて、これまで必ずしも社会的な理解が得られていたとは言えない。このような事情を背景として、改訂基準では、自己の意見を形成するに足る合理的な基礎を得て意見を表明することを報告基準においても明確にした。また、改訂前の「監査実施準則」では「適当な審査機能を備えなければならない」との表現をしていた点について、監査の質の管理の一環として設けられる審査機能を踏まえ、報告基準では意見の表明に先立ち審査を受けなければならないことを明確にし、さらに、次のように監査報告に関する抜本的な改訂を行った。
(1)
適正性の判断
①監査意見の形成と表明に当たっての監査人による判断の規準を示すことに重点を置いた。これまでの「監査基準」や「監査報告準則」が監査報告書の記載要件を示すことを重視していた点、ならびに、結果として、会計基準への準拠性、会計方針の継続性及び表示方法の基準への準拠性という、適正である旨の意見表明に関する従来の三つの記載要件が、ともすれば形式的な監査判断に陥らせるものとなりがちであった点を改め、改訂基準は、監査人が意見を形成するに当たっての判断の規準を示すことを重視している。
②監査人が財務諸表の適正性を判断するに当たり、実質的に判断する必要があることを示した。監査人は、経営者が採用した会計方針が会計基準のいずれかに準拠し、それが単に継続的に適用されているかどうかのみならず、その会計方針の選択や適用方法が会計事象や取引の実態を適切に反映するものであるかどうかを判断し、その上で財務諸表における表示が利用者に理解されるために適切であるかどうかについても評価しなければならない。
③会計方針の選択や適用方法が会計事象や取引の実態を適切に反映するものであるかの判断においては、会計処理や財務諸表の表示方法に関する法令又は明文化された会計基準やその解釈に関わる指針等に基づいて判断するが、その中で、会計事象や取引について適用すべき会計基準等が明確でない場合には、経営者が採用した会計方針が当該会計事象や取引の実態を適切に反映するものであるかどうかについて、監査人が自己の判断で評価しなければならない。また、会計基準等において詳細な定めのない場合も、会計基準等の趣旨を踏まえ、同様に監査人が自己の判断で評価することとなる。新しい会計事象や取引、例えば、複雑な金融取引や情報技術を利用した電子的な取引についても、経営者が選択し、適用した会計方針がその事象や取引の実態を適切に反映するものであるかどうかを監査人は自己の判断で評価しなければならない。
なお、財務諸表において収益の認識等の重要な会計方針が明確に開示されることも必要である。
(2)
監査報告書の記載
①監査報告書は、基本的に、監査の対象、実施した監査の概要及び財務諸表に対する意見という三つの区分に分けて記載することとした。監査の対象には、いわゆる二重責任の原則についても記述することを明記した。また、監査の概要に関する記述を国際的な監査基準に合わせて、より詳細なものとし、監査が試査を基礎として実施されることや経営者によって行われた見積りの評価も含まれることなどを明記し、監査の内容に関する利用者の理解を促すようにした。
②監査範囲の制約を受けた場合の意見表明のあり方を含め、監査人の意見がいかなる規準で形成され、表明されるかを示した。特に、意見を表明しない場合と不適正意見の場合だけでなく、除外事項を付した限定付適正意見の位置付けも明確にした。さらに、訴訟に代表されるような将来の帰結が予測し得ない事象や状況が生じ、しかも財務諸表に与える当該事象や状況の影響が複合的で多岐にわたる場合(それらが継続企業の前提にも関わるようなときもある)に、入手した監査証拠の範囲では意見の表明ができないとの判断を監査人が下すこともあり得ることを明記したが、基本的には、そのような判断は慎重になされるべきことを理解しなければならない。
③継続企業の前提に関わる問題については、前述のとおり、監査人の意見表明についての判断の規準と監査報告書において記載すべき事項を示した。
(3)
追記情報
①監査人による情報の追記について示した。本来、意見表明に関する監査人の責任は自らの意見を通しての保証の枠組みのなかで果たされるべきものであり、その枠組みから外れる事項は監査人の意見とは明確に区別することが必要である。このように考え方を整理した上で、財務諸表の表示に関して適正であると判断し、なおもその判断に関して説明を付す必要がある事項や財務諸表の記載について強調する必要がある事項を監査報告書で情報として追記する場合には、意見の表明と明確に区分し、監査人からの情報として追記するものとした。具体的には、監査報告書の基本的な三つの区分による記載事項とは別に記載することとなる。したがって、除外すべき事項を追記情報として記載することはできない。これに関連して、監査人の意見との関係が曖昧であるとの指摘もある特記事項は廃止した。
②監査意見からの除外事項及び追記する情報に関連して、従来、除外事項とされていた正当な理由による会計方針の変更は、不適切な理由による変更と同様に取り扱うことは誤解を招くことから、除外事項の対象とせずに、追記する情報の例示としたが、会計方針の変更理由が明確でないものがあるとの指摘もある点を踏まえ、監査人には厳格な判断が求められることは言うまでもない。また、この改訂に伴い、会計基準の変更に伴う会計方針の変更についても、正当な理由による会計方針の変更として取り扱うこととすることが適当である。なお、会計方針の変更があった場合における財務諸表の期間比較の観点からは、変更後の会計方針による過年度への影響に関する情報提供についても、財務諸表の表示方法の問題として検討することが必要である。
③追記する情報には、監査報告書を添付した財務諸表を含む開示情報と財務諸表の記載内容との重要な相違を挙げているが、これは、財務諸表と共に開示される情報において、財務諸表の表示やその根拠となっている数値等と重要な相違があるときには、監査人が適正と判断した財務諸表に誤りがあるのではないかとの誤解を招く虞があるため、追記する情報として例示した。
(4)
監査報告書の日付及び署名
監査報告書の日付は、後発事象の範囲等も含め監査人の責任に関わる重要な事項である。したがって、監査人が自らの責任において監査が終了したと判断したときに監査報告書を作成することが基本であると考えられる。しかし、これは、財務諸表の開示制度上あるいは監査の終了をどう捉えるか等の問題であり、改訂基準においては特定の時点を示すことはしなかった。また、個人名や捺印が必要か否か、あるいは監査事務所などの名称のみの記載が適切か否かという問題は、むしろ、監査に関わる責任主体についての法律的あるいは制度的な問題であり、監査基準には馴染まないものと考えられることから、改訂基準においては監査人の具体的な記名方法を示すことはしなかった。
四
実施時期等
1改訂基準は、平成15年3月決算に係る財務諸表の監査から実施する。なお、改訂基準の実施に当たり、関係法令において、改訂基準に基づく監査報告書の記載事項、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況に関する注記事項等について所要の整備を行うことが適当である。2監査基準は、すでに述べたとおり、日本公認会計士協会の指針と一体となって一般に公正妥当と認められる監査の基準を形成するものである。したがって、改訂基準を実務に適用するに当たっては、監査人に対してより具体的な指示が明確にされることが必要であり、日本公認会計士協会において、関係者とも協議の上、早急に、改訂基準を実施するための具体的な指針を作成することが要請される。さらに、経済社会の変化が著しい状況において、国際的にも監査実務が高度化されていくと考えられることから、国際的な動向も踏まえ、具体的な指針について柔軟に見直しを行っていくことが求められる。
監
平成17年10月28日「監査基準の改訂について」
一
経緯
当審議会は、平成17年1月の総会において、監査基準の改訂に関する審議を開始することを決定し、平成17年3月から監査部会において審議を進めてきた。これは、証券取引法上のディスクロージャーをめぐり不適正な事例が相次ぎ、公認会計士・監査審査会のモニタリングの結果等からは、リスク・アプローチが適切に適用されておらず、その改善が求められる事例が多数見受けられたことに対応したものである。また、監査基準をめぐる国際的な動向をみても、近年、リスク・アプローチの適用等に関する基準の改訂が精力的に進められており、これを我が国にも取り入れることにより、監査の水準の向上を図ると共に、監査実務の国際的な調和を図ることができると判断した。平成17年7月、これらを取り入れた改訂監査基準を「監査基準及び中間監査基準の改訂並びに監査に関する品質管理基準の設定について(公開草案)」として公表し、広く各界の意見を求めた。当審議会は、寄せられた意見を参考にしつつ、更に審議を行い、公開草案の内容を一部修正して、これを「監査基準の改訂に関する意見書」として公表することとした。
なお、国際的には、継続的に監査基準の改訂が行われ、その作業はこれまで以上に頻繁なものとなってきている。我が国においても、こうした動きを踏まえて、継続的に監査基準を見直し、先端的な監査の考え方や手法等を積極的に取り入れ、公認会計士監査の質の向上を不断に図っていくことが重要であると考えられる。このため、当審議会では、今後も、継続的な監査基準の改訂作業を進めていく考えである。
二
主な改訂点とその考え方
1
事業上のリスク等を重視したリスク・アプローチの導入
リスク・アプローチに基づく監査は、重要な虚偽の表示が生じる可能性が高い事項について重点的に監査の人員や時間を充てることにより、監査を効果的かつ効率的に実施できることから、我が国でも、平成3年の監査基準の改訂で採用し、さらに、平成14年の監査基準の改訂で、リスク・アプローチに基づく監査の仕組みをより一層明確にしたところである。
しかし、現実の企業における日常的な取引や会計記録は、多くがシステム化され、ルーティン化されてきており、財務諸表の重要な虚偽の表示は、経営者レベルでの不正や、事業経営の状況を糊塗することを目的とした会計方針の適用等に関する経営者の関与等から生ずる可能性が相対的に高くなってきていると考えられる。また、経営者による関与は、経営者の経営姿勢、内部統制の重要な欠陥、ビジネス・モデル等の内部的な要因と、企業環境の変化や業界慣行等の外部的な要因、あるいは内部的な要因と外部的な要因が複合的に絡みあってもたらされる場合が多い。
一方、監査人の監査上の判断は、財務諸表の個々の項目に集中する傾向があり、このことが、経営者の関与によりもたらされる重要な虚偽の表示を看過する原因となることが指摘されている。そこで、リスク・アプローチの適用において、リスク評価の対象を広げ、監査人に、内部統制を含む、企業及び企業環境を十分に理解し、財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性のある事業上のリスク等を考慮することを求めることとした。
さらに、こうした観点から、固有リスクと統制リスクを結合した「重要な虚偽表示のリスク」の評価、「財務諸表全体」及び「財務諸表項目」の二つのレベルにおける評価等の考え方を導入した。このようなリスク・アプローチを「事業上のリスク等を重視したリスク・アプローチ」という。
なお、財務諸表に重要な虚偽の表示が生じる可能性に応じて、発見リスクの水準を決定し、これに基づいて監査手続、その実施の時期及び範囲を計画し、実施するというリスク・アプローチの基本的な考え方は変わらないことから、今回の改訂に係る部分を除いて、平成14年の改正における「監査基準の改訂について」に記載されている概念や考え方は踏襲されていることに留意が必要である。
2
「重要な虚偽表示のリスク」の評価
従来のリスク・アプローチでは、監査人は、監査リスクを合理的に低い水準に抑えるため、固有リスクと統制リスクを個々に評価して、発見リスクの水準を決定することとしていた。しかし、固有リスクと統制リスクは実際には複合的な状態で存在することが多く、また、固有リスクと統制リスクとが独立して存在する場合であっても、監査人は、重要な虚偽の表示が生じる可能性を適切に評価し、発見リスクの水準を決定することが重要であり、固有リスクと統制リスクを分けて評価することは、必ずしも重要ではない。むしろ固有リスクと統制リスクを分けて評価することにこだわることは、リスク評価が形式的になり、発見リスクの水準の的確な判断ができなくなるおそれもあると考えられる。そこで、原則として、固有リスクと統制リスクを結合した「重要な虚偽表示のリスク」を評価したうえで、発見リスクの水準を決定することとした。
3
「財務諸表全体」及び「財務諸表項目」の二つのレベルでの評価
財務諸表における重要な虚偽の表示は、経営者の関与等から生ずる可能性が相対的に高くなってきていると考えられるが、従来のリスク・アプローチでは、財務諸表項目における固有リスクと統制リスクの評価、及びこれらと発見リスクの水準の決定との対応関係に重点が置かれていることから、監査人は自らの関心を、財務諸表項目に狭めてしまう傾向や、財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす要因の検討が不十分になる傾向があることから、広く財務諸表全体における重要な虚偽の表示を看過しないための対応が必要と考えられた。そこで、財務諸表における「重要な虚偽表示のリスク」を「財務諸表全体」及び「財務諸表項目」の二つのレベルで評価することとした。財務諸表全体レベルにおいて重要な虚偽表示のリスクが認められた場合には、そのリスクの程度に応じて、補助者の増員、専門家の配置、適切な監査時間の確保等の全般的な対応を監査計画に反映させ、監査リスクを一定の合理的に低い水準に抑えるための措置を講じることが求められる。
また、財務諸表項目レベルでは、統制リスクの評価に関する実務的な手順を考慮して、まず、内部統制の整備状況の調査を行い、重要な虚偽表示のリスクを暫定的に評価し、次に、当該リスク評価に対応した監査手続として、内部統制の有効性を評価する手続と監査要点の直接的な立証を行う実証手続を実施することとしている。
4
「特別な検討を必要とするリスク」への対応
会計上の見積りや収益認識等の重要な会計上の判断に関して財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性のある事項、不正の疑いのある取引、関連当事者間で行われる通常ではない取引等の特異な取引等は、監査実施の過程において特別な検討を行う必要があることから、「特別な検討を必要とするリスク」として、それが財務諸表における重要な虚偽の表示をもたらしていないかを確かめるための実証手続の実施、及び、必要に応じて内部統制の整備状況の調査や運用状況の評価を実施することを求めている。
5
経営者が提示する財務諸表項目と監査要点
財務諸表の監査の目的は、財務諸表の適正性に対して、監査人が自らの意見を表明することにある。そのためには、監査人は、経営者が提示する財務諸表項目について立証すべき監査要点を設定し、監査要点ごとに監査手続を実施して監査証拠を入手し、監査要点に関して立証した事項を積み上げて統合化し、財務諸表の適正性に関する結論を得ることになる。
経営者の提示する財務諸表項目は経営者が責任の主体であるのに対し、監査要点は監査人が設定した立証すべき目標であることを明示することにより、両者の関係を明確にすることとした。
三
実施時期等
1改訂監査基準は、平成19年3月決算に係る財務諸表の監査から実施する。ただし、平成18年3月決算に係る財務諸表の監査から実施することを妨げない。なお、改訂基準の実施に当たり、関係法令において、基準の改訂に伴う所要の整備を行うことが適当である。
2改訂基準を実務に適用するに当たって必要となる実務の指針については、日本公認会計士協会において、関係者とも協議の上、適切な手続の下で、早急に作成されることが要請される。
監査基準
平成25年3月26日「監査における不正リスク対応基準の設定について」
一
経緯
1
審議の背景
公認会計士(監査法人を含む。)による財務諸表の監査(以下「公認会計士監査」という。)は、財務諸表の信頼性を担保するための制度であり、その規範となる監査基準は、財務諸表の作成規範である会計基準とともに、適正なディスクロージャーを確保するための資本市場の重要なインフラストラクチャーである。こうした観点から、当審議会では、監査をめぐる内外の動向を踏まえ、これまでも必要に応じて監査基準の改訂を行ってきている。
近時、金融商品取引法上のディスクロージャーをめぐり、不正による有価証券報告書の虚偽記載等の不適切な事例が相次いでおり、こうした事例においては、結果として公認会計士監査が有効に機能しておらず、より実効的な監査手続を求める指摘があるところである。
この点に関しては、監査基準をめぐる国際的な動向を見ても、重要な虚偽の表示の原因となる不正(以下単に「不正」という。)に対応した基準の見直しが継続的に行われており、また、各国において、職業的専門家としての懐疑心(以下「職業的懐疑心」という。)の重要性が再認識されているところである。こうしたことから、当審議会においては、国際的な議論の動向等も踏まえつつ、我が国の公認会計士監査をより実効性のあるものとするとの観点から、不正に対応した監査手続等の検討を行い、監査基準等の所要の見直しを行うこととした。なお、不正に関しては、財務諸表作成者である経営者に責任があるところであり、その対応としては、公認会計士監査における監査手続等の充実とともに、企業におけるコーポレート・ガバナンスのあり方の検討などを含め、幅広い観点からの取組みが重要であると考えられる。また、平成20年4月より上場企業を対象に内部統制報告制度が導入されており、企業においては適正な財務報告を作成するための取組みが継続して行われているところであり、虚偽表示のリスクの評価に当たっては、企業の内部統制の整備状況等が重要な要素となる。したがって、監査人は、企業における内部統制の取組みを考慮するとともに、取締役の職務の執行を監査する監査役等と適切に連携を図っていくことが重要である。
2
審議の経過等
当審議会における監査基準等の見直しに関する議論は、平成24年5月から監査部会において審議が進められた。同部会においては、不正に関する公認会計士監査の実務の状況や監査基準の国際的な改訂の状況等を踏まえ、不正による重要な虚偽表示のリスクに対応した監査手続等の明確化等に向けた監査基準等の見直しの審議を行い、平成24年12月、公開草案として公表し、広く各界の意見を求めた。当審議会では、寄せられた意見を参考にしつつ、更に審議を行い、公開草案の内容を一部修正して、これを「監査基準の改訂及び監査における不正リスク対応基準の設定に関する意見書」として公表することとした。
なお、監査部会の審議においては、いわゆる「循環取引」のように被監査企業と取引先企業の通謀が疑われる場合等に、監査人として採ることが考えられる監査手続として、「取引先企業の監査人との連携」が議論された。検討された「取引先企業の監査人との連携」は、被監査企業と取引先企業の通謀が疑われる場合の一つの監査手続であると考えられるものの、解決すべき論点が多いことから、今回の公開草案には含めず、循環取引等への対応について、当審議会において継続して検討を行うこととしている。
また、監査報告書の記載内容の見直し、特別目的の財務報告に対する監査の位置づけを監査基準上明確にするかどうか、といった論点も議論されたところであるが、国際的な議論の動向や利用者のニーズに関する調査等を踏まえつつ、今後、当審議会において検討を行うこととしている。
二
監査における不正リスク対応基準の設定について
1
監査における不正リスク対応基準の設定
現行の監査基準では、「監査人は、職業的専門家としての懐疑心をもって、不正及び誤謬により財務諸表に重要な虚偽の表示がもたらされる可能性に関して評価を行い、その結果を監査計画に反映し、これに基づき監査を実施しなければならない」とされている。しかしながら、不正は他者を欺く行為を伴う意図的な行為であるために、監査人にとって、不正による重要な虚偽の表示を発見できない可能性は、誤謬による重要な虚偽の表示を発見できない可能性よりも高くなる。また、経営者により不正が行われる場合には、内部統制が無効化される場合が多いので、監査人が経営者不正による重要な虚偽の表示を発見できない可能性は、従業員不正による場合よりも高い。
近時相次いでいる不正による不適切な事例に対しては、現行の監査基準では、不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況等があるような場合に、どのように対応すべきかが必ずしも明確でなく、実務にばらつきが生じているという指摘や、そうした状況等がある時に、上記のような不正の特徴から、監査手続をより慎重に行うべきであるとの指摘がある。
こうしたことから、監査をめぐる内外の動向を踏まえ、不正による重要な虚偽表示のリスクに対応した監査手続を明確化するとともに、一定の場合には監査手続をより慎重に実施することを求めるとの観点から、監査における不正リスク対応基準(以下「不正リスク対応基準」という。)を設けることとした。
2
不正リスク対応基準の基本的な考え方
本基準は、以下の基本的な考え方に基づいて策定されている。
(1)財務諸表の虚偽の表示は、不正又は誤謬から生じるが、本基準においては、監査人が財務諸表監査において対象とする重要な虚偽の表示の原因となる不正について取り扱う。ここで「不正」とは、不当又は違法な利益を得る等のために、他者を欺く行為を伴う、経営者、従業員等又は第三者による意図的な行為をいう。したがって、本基準は、重要な虚偽の表示とは関係のない不正は対象としていない。
(2)本基準は、財務諸表監査の目的を変えるものではなく、不正摘発自体を意図するものでもない。本基準は、財務諸表監査における不正による重要な虚偽表示のリスク(以下「不正リスク」という。)に対応する監査手続等を規定しているものである。
(3)本基準は、すべての財務諸表監査において画一的に不正リスクに対応するための追加的な監査手続の実施を求めることを意図しているものではなく、被監査企業に不正による財務諸表に重要な虚偽の表示を示唆するような状況がないような場合や監査人において既に本基準に規定されているような監査手続等を実施している場合には、現行の監査基準に基づく監査の実務と基本的には変わらないこととなる。本基準は、過重な監査手続を求めるものではなく、現行の監査基準において既に採用されているリスク・アプローチの考え方を前提として、公認会計士監査の有効性を確保するため、不正リスクを適切に評価し、評価した不正リスクに対応した適切な監査手続が実施されるように監査手続の明確化を図ったものである。
(4)監査人の責任は、経営者の作成した財務諸表に対して監査意見を表明することにあり、財務諸表の作成に対する経営者の責任と、当該財務諸表の意見表明に対する監査人の責任とは区別されている(二重責任の原則)。経営者の作成した財務諸表に重要な虚偽の表示がないことについて、職業的専門家としての正当な注意を払って監査を行った場合には、監査人としてはその責任を果たしたことになる。
3
不正リスク対応基準の位置付け
(1)
不正リスク対応基準の適用
本基準は、企業の不正による重要な虚偽表示のリスクにより有効に対応することにより、我が国資本市場の透明性、公正性を確保することが最終的な目的となっているところから、すべての監査において実施されるのではなく、主として、財務諸表及び監査報告について広範な利用者が存在する金融商品取引法に基づいて開示を行っている企業(非上場企業のうち資本金5億円未満又は売上高10億円未満かつ負債総額200億円未満の企業は除く。以下「上場企業等」という。)に対する監査において実施することを念頭に作成されている。なお、本基準の適用範囲は関係法令において明確化されるものであり、関係法令において明示的に求められていない限り、本基準に準拠することを要しない。
(2)
不正リスク対応基準の位置付け
監査基準は、財務諸表の種類や意見として表明すべき事項を異にする監査も含め、公認会計士監査のすべてに共通するものである。これに対し、本基準は、前述のように、上場企業等に対する監査に限定して実施すること、不正リスクに対応するために特に監査人が行うべき監査手続等を一括して整理した方が理解しやすいと考えられることから、現行の監査基準、監査に関する品質管理基準(以下「品質管理基準」という。)からは独立した基準とすることとした。
なお、本基準は、上場企業等の不正リスクへの対応に関し監査基準及び品質管理基準に追加して準拠すべき基準であり、法令により準拠が求められている場合は、監査基準及び品質管理基準とともに、一般に公正妥当と認められる監査の基準を構成し、監査基準及び品質管理基準と一体となって適用されるものである。また、本基準の実施に当たっては、一般に公正妥当と認められる監査の基準を構成する日本公認会計士協会の作成する実務の指針と一体となって適用していくことが必要である。
(3)
不正リスク対応基準と中間監査及び四半期レビューとの関係
本基準は、年度監査のみではなく、基準上不正に関する実証手続が定められている中間監査にも準用される。
また、四半期レビューについては、年度監査と同様の合理的保証を得ることを目的としているものではないことから、本基準は四半期レビューには適用されない。なお、四半期レビューの過程において、四半期財務諸表に本基準に規定している不正による重要な虚偽の表示の疑義に相当するものがあると判断した場合など、四半期財務諸表に重要な点において適正に表示していない事項が存在する可能性が高い場合には、監査人は、四半期レビュー基準に従って、追加的手続を実施することになる。
4
不正リスク対応基準の主な内容
(1)
不正リスク対応基準の構成
本基準は、①職業的懐疑心の強調、②不正リスクに対応した監査の実施、及び③不正リスクに対応した監査事務所の品質管理の三つから構成される。
(2)
職業的懐疑心の強調
現行の監査基準においては、監査人は、監査の実施に際しては、「職業的専門家としての正当な注意を払い、懐疑心を保持して監査を行」うことが求められるとともに、「職業的専門家としての懐疑心をもって、不正及び誤謬により財務諸表に重要な虚偽の表示がもたらされる可能性に関して評価を行い、その結果を監査計画に反映」しなければならないとされている。
本来、この職業的懐疑心の保持は、正当な注意義務に含まれるものであり、監査人が職業的懐疑心を常に保持して監査を行うことこそが重要な虚偽の表示の指摘につながることを特に強調するために、監査基準では、正当な注意とともに列記されている。
監査人は、不正リスクに対応するためには、誤謬による重要な虚偽表示のリスクに比し、より注意深く、批判的な姿勢で臨むことが必要であり、監査人としての職業的懐疑心の保持及びその発揮が特に重要であると考えられる。このため、本基準においては、「職業的懐疑心の強調」として冒頭に掲記し、不正リスクの評価、評価した不正リスクに対応する監査手続の実施及び監査証拠の評価の各段階において、職業的懐疑心を発揮することを求めている。さらに、監査手続を実施した結果、不正による重要な虚偽の表示の疑義に該当するかどうかを判断する場合や、不正による重要な虚偽の表示の疑義に該当すると判断した場合には、職業的懐疑心を高めて監査手続を実施することを求めている。
職業的懐疑心の保持や発揮が適切であったか否かは、具体的な状況において監査人の行った監査手続の内容で判断されるものと考えられることから、監査人は本基準に基づいて監査の各段階で必要とされる職業的懐疑心を保持又は発揮し、具体的な監査手続を実施することが求められる。
なお、本基準における職業的懐疑心の考え方は、これまでの監査基準で採られている、監査を行うに際し、経営者が誠実であるとも不誠実であるとも想定しないという中立的な観点を変更するものではないことに留意が必要である。
(3)
不正リスクに対応した監査の実施
本基準においては、監査の各段階における不正リスクに対応した監査手続等を規定している。
①不正リスクに対応した監査計画の策定平成17年の監査基準の改訂により、会計上の見積りや収益認識等の重要な会計上の判断に関して財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性のある事項、不正の疑いのある取引、関連当事者間で行われる通常でない取引等は、「特別な検討を必要とするリスク」として、それが財務諸表における重要な虚偽の表示をもたらしていないかを確かめるための監査計画の策定や監査手続の実施等が求められている。
本基準においては、現行の重要な虚偽表示のリスクの検討に際し、不正リスク要因の検討や不正リスクを把握するために必要な手続を規定した。監査人は、入手した情報が不正リスク要因の存在を示しているかどうかを検討し、それらを財務諸表全体及び財務諸表項目の不正リスクの識別において考慮しなければならないこととした。その上で、監査人は、識別・評価した不正リスクに応じた監査計画を策定することが求められる。不正リスク要因とは、不正を実行する動機やプレッシャーの存在を示し、不正を実行する機会を与え、又は、不正を実行する際にそれを正当化する事象や状況を指し、典型的な不正リスク要因は付録1に例示されている。
また、監査人は、財務諸表全体に関連する不正リスクが識別された場合には、実施する監査手続の種類、時期及び範囲の選択に当たり、評価した不正リスクに応じて、監査手続の種類、時期若しくは範囲の変更、往査先の選択方法の変更又は予告なしに往査することなど、企業が想定しない要素を監査計画に組み込むことが必要になる。特に、不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合において、その状況によっては、修正する監査計画に企業が想定しない要素を組み込むこと(予告なしに往査することを含む。)が有効なことがあると考えられる。
②不正リスクに対応して実施する確認
監査人が、不正リスクに対応する監査手続として、照会事項の内容の正否にかかわらず回答を求める積極的確認を実施する場合には、回答がない又は回答が不十分なときには、代替的な手続により十分かつ適切な監査証拠を入手できるか否か慎重に判断しなければならないことを明確にした。特に、不正リスクが存在する場合の確認状に回答が得られない又は回答が不十分な場合には(例えば、担保差入その他引出制限のある資産の状況等)、すべての記載事項についての回答を入手できるよう留意し、代替的な手続に移行する場合には慎重に判断する必要がある。
③不正リスクに関連する監査証拠監査人は、不正リスクを識別している監査要点に対しては、当該監査要点について不正リスクを識別していない場合に比べ、より適合性が高く、より証明力が強く、又はより多くの監査証拠を入手しなければならないこと、十分かつ適切な監査証拠を入手していないと判断した場合は、追加的な監査手続を実施しなければならないことを明確にした。
④不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況
監査実施の過程において、付録2に例示されているような「不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況」を識別した場合には、「不正による重要な虚偽の表示の疑義」が存在していないかどうかを判断するために、適切な階層の経営者に質問し説明を求めるとともに、追加的な監査手続を実施しなければならないこととしている。
付録2に例示されている状況は、現行の監査基準に基づく現在の実務においても、監査人としては、重要な虚偽の表示の可能性が高いものとして、特に注意すべき状況を念頭に記載されている。
なお、付録2はあくまで例示であり、監査実施の過程においてそのような状況に遭遇した場合に、「不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況」として追加的な監査手続を求めているものである。したがって、付録2に記載されている状況の有無について網羅的に監査証拠をもって確かめなければならないということではなく、必ずしも付録2をチェック・リストとして取り扱うことを意図したものではない。
⑤不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合の監査手続不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況について、関連して入手した監査証拠に基づいて経営者の説明に合理性がないと判断した場合や、識別した不正リスクに対応して追加的な監査手続を実施してもなお十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合には、不正による重要な虚偽の表示の疑いがより強くなることから、これを不正による重要な虚偽の表示の疑義と扱わなければならないものとした。追加的な監査手続の実施の結果、不正による重要な虚偽の表示の疑義がないと判断した場合には、その旨と理由を監査調書に記載しなければならないことを明記した。
不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合には、想定される不正の態様等に直接対応した監査手続を立案し監査計画を修正するとともに、修正した監査計画に従って監査手続を実施しなければならないこととなる。
⑥専門家の業務の利用不正リスクに関連する監査実施の過程において、不正リスクの内容や程度に応じて、例えば、不正リスクに対応した金融商品の評価、企業価値評価、不動産の評価、不正調査、IT等に関する専門家等の技能又は知識を利用する必要があるかどうかを判断しなければならないことを明記した。
⑦不正リスクに関連する審査不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合には、監査事務所として適切な監査意見を形成するため、審査についてもより慎重な対応が求められる。したがって、監査事務所の方針と手続に従って、適切な審査の担当者による審査が完了するまでは意見の表明ができないことを明記した。
⑧監査役等との連携監査人は、不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合や経営者の関与が疑われる不正を発見した場合には、取締役の職務の執行を監査する監査役や監査委員会と適切に協議する等、連携を図ることが有効である。また、監査人は、監査の各段階において、監査役等との連携を図らなければならないことを明記した。
⑨監査調書不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合には、監査人が当該疑義に対して実施した監査手続の内容とその結果、また、監査人としての結論及びその際になされた重要な判断は、監査意見に重要な意味を有していると考えられることから、そうした内容については、監査調書に記載しなければならないことを明記した。
(4)
不正リスクに対応した監査事務所の品質管理
本基準においては、監査実施の各段階における不正リスクに対応した監査手続を実施するための監査事務所としての品質管理を規定している。ただし、不正リスク対応基準のうち品質管理に係る規定は、現在各監査事務所で行っている品質管理のシステムに加えて、新たな品質管理のシステムの導入を求めているものではなく、監査事務所が整備すべき品質管理のシステムにおいて、不正リスクに対応する観点から特に留意すべき点を明記したものである。
また、整備及び運用が求められる監査事務所の方針と手続は、監査事務所の規模及び組織、当該監査業務の内容等により異なることから、すべての監査事務所において画一的な不正リスクに対応した品質管理の方針と手続が求められているものではないことは言うまでもない。
①不正リスクに対応した品質管理のシステムの整備及び運用監査事務所に、不正リスクに適切に対応できるよう、監査業務の各段階における品質管理のシステムを整備及び運用するとともに、品質管理システムの監視を求めることとした。
②監査契約の新規の締結及び更新監査契約の新規の締結及び更新に関する方針及び手続に、不正リスクを考慮して監査契約の締結及び更新に伴うリスクを評価することを含めるとともに、監査契約の新規の締結及び更新の判断に際して(更新時はリスクの程度に応じ)、監査事務所としての検討を求めている。
③不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断された場合の審査不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断された場合には、通常の審査担当者による審査に比べて、監査事務所としてより慎重な審査が行われる必要がある。このため、当該監査業務の監査意見が適切に形成されるよう、当該疑義に対応する十分かつ適切な経験や職位等の資格を有する審査の担当者(適格者で構成される会議体を含む)を監査事務所として選任することを、審査に関する方針及び手続に定めなければならないこととした。
この監査事務所としての審査は、監査事務所の規模や組織等により、名称や体制等は異なることとなると考えられるが、例えば、大規模監査事務所の場合には、監査事務所本部における審査など、小規模事務所の場合には、社員全員による社員会における審査などが該当するものと考えられる。
④監査事務所間の引継監査事務所交代時において、前任監査事務所は、後任の監査事務所に対して、不正リスクへの対応状況を含め、企業との間の重要な意見の相違等の監査上の重要な事項を伝達するとともに、後任監査事務所から要請のあったそれらに関連する監査調書の閲覧に応じるように、引継に関する方針と手続に定めなければならないこととした。
また、後任監査事務所は、前任監査事務所に対して、監査事務所の交代理由のほか、不正リスクへの対応状況、企業との間の重要な意見の相違等の監査上の重要な事項について質問するように、引継に関する方針及び手続に定めなければならないこととした。
⑤監査実施の責任者間の引継監査事務所内において、同一の企業の監査業務を担当する監査実施の責任者が全員交代する場合(監査実施の責任者が一人である場合の交代を含む)は、監査上の重要な事項が適切に伝達されなければならないこととした。
三
実施時期等
1不正リスク対応基準は、平成26年3月決算に係る財務諸表の監査から実施する。なお、不正リスク対応基準中、第三不正リスクに対応した監査事務所の品質管理については、平成25年10月1日から実施する。
不正リスク対応基準は、中間監査に準用し、平成26年9月30日以後終了する中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から実施する。
2不正リスク対応基準の実施に当たり、関係法令において、所要の規定の整備を行うことが適当である。
3不正リスク対応基準を実務に適用するに当たって必要となる実務の指針については、日本公認会計士協会において、関係者とも協議の上、適切な手続の下で、早急に作成されることが要請される。
平成26年2月18日「監査基準の改訂について」
一
経緯
1
審議の背景
従来、監査基準では、「第一監査の目的」において、「財務諸表の監査の目的は、経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明すること」と規定し、幅広い利用者に共通するニーズを満たすべく一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成された財務諸表(以下「一般目的の財務諸表」という。)に対して、公認会計士(監査法人を含む。)が監査を行う場合を想定してきた。そして、当該一般目的の財務諸表に対する監査では、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されているかに加え、経営者が採用した会計方針の選択やその適用方法、さらには財務諸表全体としての表示が適正表示を担保しているかといった実質的な判断を含めた意見(以下「適正性に関する意見」という。)が表明されている。一方で、近時、公認会計士に対して、特定の利用者のニーズを満たすべく特別の利用目的に適合した会計の基準に準拠して作成された財務諸表(以下「特別目的の財務諸表」という。)に対しても、監査という形で信頼性の担保を求めたい、との要請が高まってきている。
特別目的の財務諸表は、一般目的の財務諸表と異なり利用目的が限定されていることに加え、例えば、財務諸表の利用者が財政状態や経営成績等を理解するに当たって財務諸表が全体として適切に表示されるように追加的な開示を求める規定(以下「追加的な開示要請の規定」という。)が会計の基準にないことが多いことなどから、公認会計士が監査意見を表明するに当たっては、必ずしも、適正性に関する意見を表明することが馴染まない場合が多いものと考えられる。また、一般目的の財務諸表であっても法令により一部の項目について開示を要しないとされている場合等には、適正性に関する意見を表明することは馴染まない場合もあると考えられる。これらの場合、適正性に関する意見を表明する場合と同様、財務諸表に重要な虚偽の表示がないかどうかの合理的な保証を得て監査意見を表明しなければならないことに変わりはないが、その会計の基準に追加的な開示要請の規定がないこと等を踏まえ、財務諸表が当該財務諸表の作成に当たって適用された会計の基準に準拠して作成されているかどうかについての意見(以下「準拠性に関する意見」という。)を表明することが、より適切であると考えられる。
なお、国際監査基準では、財務諸表の利用者のニーズに応じて、一般目的の財務諸表と特別目的の財務諸表という財務報告の枠組みが分類され、適正性に関する意見と準拠性に関する意見とのいずれかが表明されることが既に規定されており、実際に適用されている。
以上のことから、当審議会においては、従来の適正性に関する意見の表明の形式に加えて、準拠性に関する意見の表明の形式を監査基準に導入し、併せて、監査実務における混乱や財務諸表利用者の誤解等を避けるため、特別目的の財務諸表に対する監査意見の表明の位置付けを明確にすることとした。なお、その際には、国際監査基準を踏まえ、一般目的の財務諸表と特別目的の財務諸表とのそれぞれについて適正性に関する意見の表明と準拠性に関する意見の表明とがあり得ることを明らかにしつつも、一般目的の財務諸表を対象とした適正性に関する意見の表明を中心とした従来の我が国の監査基準の枠組みとの整合性には十分に配意したところである。
今回の監査基準の改訂では、準拠性に関する意見の表明の形式が導入されることとなるが、当該意見を表明するに当たっては、以下に記すとおり、適正性に関する意見を表明する場合に準じた対応が必要となることについて、公認会計士はもちろん、財務諸表の作成者や利用者に対しても十分に周知が図られることが望ましい。
2
審議の経過等
当審議会では、平成25年3月26日に公表した「監査基準の改訂及び監査における不正リスク対応基準の設定に関する意見書」の前文において、「特別目的の財務報告に対する監査の位置づけを監査基準上明確にするかどうか、といった論点も議論されたところであるが、国際的な議論の動向や利用者のニーズに関する調査等を踏まえつつ、今後、当審議会において検討を行うこととしている」と記載したところである。
これを受けて監査部会では、国際的な議論の動向や利用者のニーズに関する調査等を踏まえ、従来の監査基準が規定する監査の枠組みに特定の利用者のニーズに応じて作成される財務諸表に対する監査を取り入れるための論点等に関する審議を行い、平成25年11月、公開草案を公表し、広く各界の意見を求めた。当審議会では、寄せられた意見を参考としつつ、更に審議を行い、公開草案の内容を一部修正して、これを「監査基準の改訂に関する意見書」として公表することとした。なお、監査部会の審議においては、監査報告書の記載内容に関し、国際的な見直しの動向についても議論されたところであり、引き続き検討を行うこととしている。
二
主な改訂点とその考え方
1
監査の目的の改訂
監査基準において、これまでと同様、一般目的の財務諸表を対象とした適正性に関する意見表明が基本であることに変わりはないことから、監査の目的にかかる従来からの記述はそのまま維持することとしつつ、特別目的の財務諸表又は一般目的の財務諸表を対象とした準拠性に関する意見の表明が可能であることを付記し、明確化を行った。
適正性に関する意見の表明に当たっては、監査人は、経営者が採用した会計方針が会計の基準に準拠し、それが継続的に適用されているかどうか、その会計方針の選択や適用方法が会計事象や取引の実態を適切に反映するものであるかどうかに加え、財務諸表における表示が利用者に理解されるために適切であるかどうかについて判断しなくてはならない。その際、財務諸表における表示が利用者に理解されるために適切であるかどうかの判断には、財務諸表が表示のルールに準拠しているかどうかの評価と、財務諸表の利用者が財政状態や経営成績等を理解するに当たって財務諸表が全体として適切に表示されているか否かについての一歩離れて行う評価が含まれるが、準拠性に関する意見の表明の場合には、後者の一歩離れての評価は行われないという違いがある。
2
実施基準の改訂
監査の実施に当たっては、準拠性に関する意見の表明の場合であっても、適正性に関する意見の表明の場合と同様に、リスク・アプローチに基づく監査を実施し、監査リスクを合理的に低い水準に抑えた上で、自己の意見を形成するに足る基礎を得なければならないことから、「第三実施基準」(以下「実施基準」という。)が当然に適用されることに留意が必要である。
また、財務諸表に対する監査意見を表明する場合のほか、財務諸表を構成する貸借対照表等の個別の財務表や個別の財務諸表項目等に対する監査意見を表明する場合についても、監査基準が適用される(その際、監査基準中「財務諸表」とあるのは、必要に応じ「個別の財務表」又は「個別の財務諸表項目等」と読み替えるものとする。)。従って、個別の財務表又は個別の財務諸表項目等に対する監査意見を表明する場合であっても、単にそれらの検討にとどまることなく、意見を表明するために必要な範囲で、内部統制を含む、企業及び企業環境を理解し、これらに内在する事業上のリスク等が重要な虚偽の表示をもたらす可能性を考慮しなければならないことに留意が必要である。
なお、特別目的の財務諸表には多種多様な財務諸表が想定されることから、実施基準の「一基本原則」において、監査人は、特別目的の財務諸表の監査を行うに当たり、当該財務諸表の作成の基準が受入可能かどうかについて十分な検討を行わなければならないことを明確にした。
3
報告基準の改訂
「第一監査の目的」において、適正性に関する意見に加えて準拠性に関する意見にかかる記述を付記し、明確化を行うことを踏まえ、「第四報告基準」についても改訂を行い、監査報告書において記載すべき事項を明確にした。
すなわち、「第四報告基準」の「一基本原則」では、適正性に関する意見の表明について特別の利用目的に適合した会計の基準により作成される財務諸表の場合を付記するとともに、これに加えて、準拠性に関する意見の表明について規定し、監査人が準拠性に関する意見を表明する場合には、作成された財務諸表がすべての重要な点において、当該財務諸表の作成に当たって適用された会計の基準に準拠して作成されているかどうかについての意見を表明しなければならないことを明確にした。
準拠性に関する意見には、財務諸表には重要な虚偽の表示がないことの合理的な保証を得たとの監査人の判断が含まれている。この判断に当たり、監査人は、経営者が採用した会計方針が、会計の基準に準拠して継続的に適用されているかどうか、財務諸表が表示のルールに準拠しているかどうかについて形式的に確認するだけではなく、当該会計方針の選択及び適用方法が適切であるかどうかについて、会計事象や取引の実態に照らして判断しなければならないことにも留意が必要である。なお、準拠性に関する意見の表明については、別途の報告基準を改めて規定するのではなく、適正性に関する意見の表明を前提としている報告基準に準じることとしたが、特別目的の財務諸表の利用者の誤解を招かないようにするために「第四報告基準」に「八特別目的の財務諸表に対する監査の場合の追記情報」を新設した。すなわち、特別目的の財務諸表に対する監査報告書を作成する場合には、監査報告書に、会計の基準、財務諸表の作成の目的及び想定される主な利用者の範囲を記載するとともに、財務諸表は特別の利用目的に適合した会計の基準に準拠して作成されており、他の目的には適合しないことがある旨を記載しなければならないこととした。また、監査報告書が特定の者のみによる利用を想定しており、当該監査報告書に配布又は利用の制限を付すことが適切であると考える場合には、その旨を記載しなければならないこととした。
三
実施時期等
1改訂監査基準は、平成27年4月1日以後に開始する事業年度又は会計期間に係る監査から適用する。ただし、平成26年4月1日以後に発行する監査報告書から適用することを妨げない。
2改訂監査基準を実務に適用するに当たって必要となる実務の指針については、日本公認会計士協会において、関係者とも協議の上、適切な手続の下で、早急に作成されることが要請される。
監査基準
平成30年7月5日「監査基準の改訂について」
一
経緯
公認会計士(監査法人を含む。)による財務諸表の監査は、財務諸表の信頼性を担保するための制度であり、その規範となる監査基準は、財務諸表の作成規範である会計基準とともに、適正なディスクロージャーを確保するための資本市場の重要なインフラストラクチャーである。こうした観点から、当審議会では、監査をめぐる内外の動向を踏まえ、これまでも必要に応じて監査基準の改訂を行ってきている。しかしながら、近時、我が国では、不正会計事案などを契機として監査の信頼性が改めて問われている状況にあり、その信頼性を確保するための取組みの一つとして、財務諸表利用者に対する監査に関する情報提供を充実させる必要性が指摘されている。
我が国を含め、国際的に採用されてきた従来の監査報告書は、記載文言を標準化して監査人の意見を簡潔明瞭に記載する、いわゆる短文式の監査報告書であった。これに対しては、かねてより、監査意見に至る監査のプロセスに関する情報が十分に提供されず、監査の内容が見えにくいとの指摘がされてきた。
こうした中、主に世界的な金融危機を契機に、監査の信頼性を確保するための取組みの一つとして、監査意見を簡潔明瞭に記載する枠組みは基本的に維持しつつ、監査プロセスの透明性を向上させることを目的に、監査人が当年度の財務諸表の監査において特に重要であると判断した事項(以下「監査上の主要な検討事項」という。)を監査報告書に記載する監査基準の改訂が国際的に行われてきている。当審議会は、こうした国際的な動向を踏まえつつ、我が国の監査プロセスの透明性を向上させる観点から、監査報告書において「監査上の主要な検討事項」の記載を求める監査基準の改訂について審議を行い、平成30年5月、監査部会において公開草案を公表し、広く各界の意見を求め、寄せられた意見を参考としつつ、公開草案の内容を一部修正して、これを「監査基準の改訂に関する意見書」として公表することとした。
監査報告書における「監査上の主要な検討事項」の記載は、監査人が実施した監査の透明性を向上させ、監査報告書の情報価値を高めることにその意義があり、これにより、
・財務諸表利用者に対して監査のプロセスに関する情報が、監査の品質を評価する新たな検討材料として提供されることで、監査の信頼性向上に資すること
・財務諸表利用者の監査や財務諸表に対する理解が深まるとともに、経営者との対話が促進されること
・監査人と監査役、監査役会、監査等委員会又は監査委員会(以下「監査役等」という。)の間のコミュニケーションや、監査人と経営者の間の議論を更に充実させることを通じ、コーポレート・ガバナンスの強化や、監査の過程で識別した様々なリスクに関する認識が共有されることによる効果的な監査の実施につながること等の効果が期待される。
このような効果が発揮されるためには、監査人、監査役等、経営者といった各関係者において、今回の改訂の趣旨を十分に理解の上、実施された監査の内容に関する情報が財務諸表利用者に適切に伝わるよう運用を図っていくことが重要である。
二
主な改訂点とその考え方
1
「監査上の主要な検討事項」について
(1)
監査報告書における位置付け
我が国では監査基準設定当初より、監査報告書は、監査の結果として、財務諸表に対する監査人の意見を表明する手段であるとともに、監査人が自己の意見に関する責任を正式に認める手段であることから、その内容を簡潔明瞭に記載して報告する、いわゆる短文式の監査報告書が採用されている。監査報告書における「監査上の主要な検討事項」の記載は、財務諸表利用者に対し、監査人が実施した監査の内容に関する情報を提供するものであり、監査報告書における監査意見の位置付けを変更するものではない。このため、監査人による「監査上の主要な検討事項」の記載は、監査意見とは明確に区別しなければならないことを明確にした。
(2)
「監査上の主要な検討事項」の決定
監査人は、監査の過程で監査役等と協議した事項の中から、
・特別な検討を必要とするリスクが識別された事項、又は重要な虚偽表示のリスクが高いと評価された事項
・見積りの不確実性が高いと識別された事項を含め、経営者の重要な判断を伴う事項に対する監査人の判断の程度
・当年度において発生した重要な事象又は取引が監査に与える影響等について考慮した上で特に注意を払った事項を決定し、当該決定を行った事項の中からさらに、当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に重要であると判断した事項を絞り込み、「監査上の主要な検討事項」として決定することとなる。
監査人は、リスク・アプローチに基づく監査計画の策定段階から監査の過程を通じて監査役等と協議を行うなど、適切な連携を図ることが求められており、「監査上の主要な検討事項」は、そのような協議を行った事項の中から絞り込みが行われ、決定されるものである。
(3)
「監査上の主要な検討事項」の記載
監査人は、「監査上の主要な検討事項」であると決定した事項について、監査報告書に「監査上の主要な検討事項」の区分を設け、関連する財務諸表における開示がある場合には当該開示への参照を付した上で、
・「監査上の主要な検討事項」の内容
・監査人が、当年度の財務諸表の監査における特に重要な事項であると考え、「監査上の主要な検討事項」であると決定した理由
・監査における監査人の対応
を記載することとなる。
「監査上の主要な検討事項」の記載を有意義なものとするためには、監査人は財務諸表の監査の過程を通じて監査役等と適切な連携を図った上で、監査人が監査役等に対して行う報告内容を基礎として、当該財務諸表の監査に固有の情報を記載することが重要である。また、財務諸表利用者にとって有用なものとなるように、監査人は、過度に専門的な用語の使用を控えて分かりやすく記載するよう留意する必要がある。
(4)
監査意見が無限定適正意見以外の場合の取扱い
財務諸表に重要な虚偽の表示があること、又は重要な監査手続を実施できなかったこと等により無限定適正意見を表明することができない場合には、監査人はその理由、影響等について、区分を設けて記載しなければならないとされている。
不適正意見の場合には、重要かつ広範な事項について虚偽の表示があることから、通常、当該意見に至った理由が最も重要な事項であると想定されるが、当該理由以外の事項を「監査上の主要な検討事項」として記載するときには、意見の根拠の区分に記載すべき内容と明確に区別しなければならない。限定付適正意見の場合に、当該意見に至った理由以外の事項を「監査上の主要な検討事項」として記載するときも同様である。
なお、意見不表明の場合において、その根拠となった理由以外の事項を「監査上の主要な検討事項」として記載することは、財務諸表全体に対する意見表明のための基礎を得ることができていないにもかかわらず、当該事項について部分的に保証しているかのような印象を与える可能性がある。このため、意見不表明の場合には、「監査上の主要な検討事項」は記載しないことが適当である。
(5)
「監査上の主要な検討事項」と企業による開示との関係
企業に関する情報を開示する責任は経営者にあり、監査人による「監査上の主要な検討事項」の記載は、経営者による開示を代替するものではない。したがって、監査人が「監査上の主要な検討事項」を記載するに当たり、企業に関する未公表の情報を含める必要があると判断した場合には、経営者に追加の情報開示を促すとともに、必要に応じて監査役等と協議を行うことが適切である。この際、企業に関する情報の開示に責任を有する経営者には、監査人からの要請に積極的に対応することが期待される。また、取締役の職務の執行を監査する責任を有する監査役等には、経営者に追加の開示を促す役割を果たすことが期待される。
監査人が追加的な情報開示を促した場合において経営者が情報を開示しないときに、監査人が正当な注意を払って職業的専門家としての判断において当該情報を「監査上の主要な検討事項」に含めることは、監査基準に照らして守秘義務が解除される正当な理由に該当する。
監査人は、「監査上の主要な検討事項」の記載により企業又は社会にもたらされる不利益が、当該事項を記載することによりもたらされる公共の利益を上回ると合理的に見込まれない限り、「監査上の主要な検討事項」として記載することが適切である。財務諸表利用者に対して、監査の内容に関するより充実した情報が提供されることは、公共の利益に資するものと推定されることから、「監査上の主要な検討事項」と決定された事項について監査報告書に記載が行われない場合は極めて限定的であると考えられる。
もっとも、「監査上の主要な検討事項」の記載は、監査の内容に関する情報を提供するものであることから、監査人はその記載に当たり、企業に関する未公表の情報を不適切に提供することとならないよう留意する必要がある。「監査上の主要な検討事項」の記載に関する経営者及び監査役等との協議は、監査人が、当該事項の記載の結果生じる可能性がある不利益の重要性に関する経営者の見解を理解するために役立つと考えられる。
2
報告基準に関わるその他の改訂事項について
国際的な監査基準では、「監査上の主要な検討事項」の記載以外にも、監査報告書の記載内容の明瞭化や充実を図ることを目的とした改訂が行われている。当審議会は、我が国においても、財務諸表利用者の監査及び財務諸表への理解を深めるとともに、国際的な監査基準との整合性を確保する観点から、これらの点についても監査基準の改訂を行うこととした。
なお、中間監査基準及び四半期レビュー基準についても、今後、同様の観点からの改訂を検討することが必要である。
(1)
監査報告書の記載区分等
現行の我が国の監査基準では、監査報告書には、監査の対象、経営者の責任、監査人の責任、監査人の意見を区分した上で記載することが求められている。この点に関して、以下の通り改訂を行うこととする。
・監査人の意見を監査報告書の冒頭に記載することとし、記載順序を変更するとともに、新たに意見の根拠の区分を設ける
・経営者の責任を経営者及び監査役等の責任に変更し、監査役等の財務報告に関する責任を記載する
(2)
継続企業の前提に関する事項
現行の我が国の監査基準では、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合には、監査人は、継続企業の前提に関する事項が財務諸表に適切に注記されていることを確かめた上で、当該事項について監査報告書に追記することが求められている。
この点について、継続企業の前提に関する評価と開示に関する経営者及び監査人の対応についてより明確にするため、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合に監査人が監査報告書に記載する要件は変更することなく、独立した区分を設けて継続企業の前提に関する事項を記載することとした。あわせて、経営者は継続企業の前提に関する評価及び開示を行う責任を有し、監査人はその検討を行う責任を有することを、経営者の責任、監査人の責任に関する記載内容にそれぞれ追加することとした。
また、経営者は、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合、その旨及びその内容を有価証券報告書の「事業等のリスク」に、経営者による対応策を「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に記載することとされている。監査人は、監査の過程で継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況の有無及びその内容を確かめることとされている。この点に関し、監査人は、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合には、経営者による開示について検討することとなる。
三
実施時期等
1改訂監査基準中、「監査上の主要な検討事項」については、平成33年3月決算に係る財務諸表の監査から適用する。ただし、それ以前の決算に係る財務諸表の監査から適用することを妨げない。
2改訂監査基準中、報告基準に関わるその他の改訂事項については、平成32年3月決算に係る財務諸表の監査から適用する。
3改訂監査基準の実施に当たり、関係法令において、「監査上の主要な検討事項」の適用範囲その他の基準の改訂に伴う所要の整備を行うことが適当である。4改訂監査基準を実務に適用するに当たって必要となる実務の指針については、日本公認会計士協会において、関係者とも協議の上、適切な手続の下で、早急に作成されることが要請される。
監査基準
令和2年11月6日「監査基準の改訂について」
一
経緯
当審議会は、財務諸表利用者に対して監査に関する説明・情報提供を充実させる観点から、平成30(2018)年7月、監査報告書において「監査上の主要な検討事項」の記載を求める監査基準の改訂を行い、その後も引き続き、監査報告書の記載内容の充実について議論を行ってきたところである。近時、我が国では、企業内容等に関する情報の開示について、経営者による財務諸表以外の情報の開示の充実が進んでいる。これまでも、財務諸表とともに開示される財務諸表以外の情報において、財務諸表の表示やその根拠となっている数値等との間に重要な相違があるときには、監査人が表明した適正性に関する結論に誤りがあるのではないかとの誤解を招くおそれがあることから、当該相違を監査報告書に情報として追記することとされていたが、その取扱いは必ずしも明確ではなかった。今後、財務諸表以外の情報の開示のさらなる充実が期待される中、当該情報に対する監査人の役割の明確化、及び監査報告書における情報提供の充実を図ることの必要性が高まっている。とりわけ、監査人が当該情報について通読し、当該情報と財務諸表又は監査人が監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうかについて検討し、その結果を監査報告書に記載することには、監査人の当該情報に係る役割の明確化を図るとともに、監査の対象とした財務諸表の信頼性を確保するという効果も期待される。こうした問題意識を踏まえ、当審議会は、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容(以下、「その他の記載内容」という。)について、監査人の手続を明確にするとともに、監査報告書に必要な記載を求めることとした。
他方、近年の公認会計士・監査審査会の検査結果において、重要な虚偽表示のリスクの評価に係る手続や特別な検討を必要とするリスクに対応する手続が適切に実施されていないとの指摘がなされている。また、会計上の見積りに関して、経営者の使用した仮定の合理性の検討が不十分であるなど、重要な虚偽表示のリスクに対応する監査手続が不十分との指摘もなされている。リスク・アプローチに基づく監査の実施においては、リスク評価が決定的に重要であることから、特別な検討を必要とするリスクを含む重要な虚偽表示のリスクの評価について、その強化を図ることが必要である。同時に、会計上の見積りについては、適切に評価されたリスクに対応した深度ある監査手続が必要と考えられる。監査基準をめぐる国際的な動向をみても、世界的な金融危機を契機として会計上の見積りに係る基準が改訂されるとともに、実務における適用状況を踏まえリスク評価に関する基準の改訂がなされたところである。こうした動向を踏まえ、我が国においても、国際的な監査基準との整合性を確保しつつ、監査の質の向上を図ることが必要であると判断した。以上のことから、当審議会は、「その他の記載内容」及びリスク・アプローチに関する論点について審議を行い、令和2(2020)年3月、監査部会において公開草案を公表し、広く各界の意見を求めた。当審議会では、寄せられた意見を参考としつつ、更に審議を行い、公開草案の内容を一部修正して、これを「監査基準の改訂に関する意見書」として公表することとした。
二
主な改訂点とその考え方
1
「その他の記載内容」について
(1)
監査報告書における「その他の記載内容」に係る記載の位置付け
現行の監査基準では、監査人が監査した財務諸表を含む開示書類における当該財務諸表の表示と「その他の記載内容」との間の重要な相違は、監査人の意見とは明確に区別された監査報告書の追記情報の一つとして掲げられている。
この点、従来と同様、監査人は「その他の記載内容」に対して意見を表明するものではなく、監査報告書における「その他の記載内容」に係る記載は、監査意見とは明確に区別された情報の提供であるという位置付けを維持することとした。また、監査報告書において記載すべき事項を明確にすることにより、監査人の「その他の記載内容」に係る役割をより一層明確にした。
(2)
「その他の記載内容」に対する手続
監査人は、「その他の記載内容」を通読し、「その他の記載内容」と財務諸表又は監査人が監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうかについて検討することを明確にした。
その際、監査人が監査の過程で得た知識には、入手した監査証拠及び監査における検討結果が含まれるが、「その他の記載内容」の通読及び検討に当たって、新たな監査証拠の入手が求められるものではない。
なお、監査人は、「その他の記載内容」の通読及び検討に当たって、財務諸表や監査の過程で得た知識に関連しない内容についても、重要な誤りの兆候に注意を払うこととなる。
その結果、監査人が、上記の重要な相違に気付いた場合や、財務諸表や監査の過程で得た知識に関連しない「その他の記載内容」についての重要な誤りに気付いた場合には、経営者や監査役等と協議を行うなど、追加の手続を実施することが求められる。
「その他の記載内容」に重要な誤りがある場合において、上記の追加の手続を実施しても当該重要な誤りが解消されない場合には、監査報告書にその旨及びその内容を記載するなどの適切な対応が求められる。
(3)
「その他の記載内容」の記載
監査人は、監査報告書に「その他の記載内容」の区分を設け、
・「その他の記載内容」の範囲
・「その他の記載内容」に対する経営者及び監査役等の責任
・「その他の記載内容」に対して監査人は意見を表明するものではない旨
・「その他の記載内容」に対する監査人の責任
・「その他の記載内容」について監査人が報告すべき事項の有無、報告すべき事項がある場合はその内容を記載することとなる。
なお、財務諸表に対し意見を表明しない場合においては、「その他の記載内容」についての重要な誤りの有無を監査報告書に記載し、財務諸表の一部についての追加的な情報を提供することは、当該記載と財務諸表全体に対する意見を表明しないという監査人の結論との関係を曖昧にするおそれがあるため、「その他の記載内容」について記載しないことが適当である。
(4)
経営者・監査役等の対応
経営者は、「その他の記載内容」に重要な相違又は重要な誤りがある場合には、適切に修正することなどが求められる。また、監査役等においても、「その他の記載内容」に重要な相違又は重要な誤りがある場合には、経営者に対して修正するよう積極的に促していくことなどが求められる。
2
リスク・アプローチの強化について
(1)
リスク・アプローチに基づく監査
リスク・アプローチに基づく監査は、重要な虚偽の表示が生じる可能性が高い事項について重点的に監査の人員や時間を充てることにより、監査を効果的かつ効率的に実施できることから、平成3(1991)年の監査基準の改訂で採用した。また、平成14(2002)年の監査基準の改訂で、固有リスク、統制リスク、発見リスクという三つのリスク要素と監査リスクの関係を明らかにし、リスク・アプローチに基づく監査の仕組みをより一層明確にした。さらに、平成17(2005)年の監査基準の改訂では、監査人の監査上の判断が財務諸表の個々の項目に集中する傾向があり、経営者の関与によりもたらされる重要な虚偽の表示を看過する原因となることが指摘された。このため、「事業上のリスク等を重視したリスク・アプローチ」を導入し、固有リスクと統制リスクを結合した「重要な虚偽表示のリスク」の評価、「財務諸表全体」及び「財務諸表項目」の二つのレベルにおける評価等の考え方を導入した。しかしながら、近年、公認会計士・監査審査会の検査結果においてリスク評価及び評価したリスクへの対応に係る指摘がなされていることに加え、会計基準の改訂等により会計上の見積りが複雑化する傾向にあり、財務諸表項目レベルにおける重要な虚偽表示のリスクの評価がより一層重要となってきている。また、国際的な監査基準においても、実務において、特別な検討を必要とするリスクの識別に一貫性がない、会計上の見積りの複雑化への対応が必要であるなどの指摘がなされたことから、会計上の見積りに関する監査基準の改訂、特別な検討を必要とするリスクの評価を含め、重要な虚偽表示のリスクの評価の強化が図られたところである。
以上の状況を踏まえ、財務諸表全体レベルにおいて固有リスク及び統制リスクを結合した重要な虚偽表示のリスクを評価する考え方を維持することとした。また、財務諸表項目レベルにおいては、固有リスクの性質に着目して重要な虚偽の表示がもたらされる要因などを勘案することが、重要な虚偽表示のリスクのより適切な評価に結び付くことから、固有リスクと統制リスクを分けて評価することとした。さらに、特別な検討を必要とするリスクについては、固有リスクの評価を踏まえた定義とした。加えて、会計上の見積りについては、上記のとおり重要な虚偽表示のリスクの評価に当たり、固有リスクと統制リスクを分けて評価することを前提に、リスクに対応する監査手続として、原則として、経営者が採用した手法並びにそれに用いられた仮定及びデータを評価する手続が必要である点を明確にした。また、経営者が行った見積りと監査人の行った見積りや実績とを比較する手続も引き続き重要である。
なお、今回の改訂に係る部分を除いて、平成14(2002)年及び平成17(2005)年の改訂における「監査基準の改訂について」に記載されているリスク・アプローチの概念や考え方は踏襲されていることに留意が必要である。
(2)
財務諸表項目レベルにおける重要な虚偽表示のリスクの評価
財務諸表項目レベルにおける重要な虚偽表示のリスクを構成する固有リスクについては、重要な虚偽の表示がもたらされる要因を勘案し、虚偽の表示が生じる可能性と当該虚偽の表示が生じた場合の影響を組み合わせて評価することとした。なお、この影響には、金額的影響だけでなく、質的影響も含まれることに留意が必要である。
(3)
特別な検討を必要とするリスクの定義
現行の監査基準では、会計上の見積りや収益認識等の重要な会計上の判断に関して財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性のある事項、不正の疑いのある取引、特異な取引等は、監査の実施の過程において特別な検討を行う必要があることから、特別な検討を必要とするリスクとして、それが財務諸表における重要な虚偽の表示をもたらしていないかを確かめる実証手続の実施などを求めている。しかし、リスク・アプローチに基づく監査の実施に当たって、財務諸表項目レベルにおける重要な虚偽表示のリスクを適切に評価することがより一層重要となるなか、監査人は、固有リスクに着目をして、特別な検討を行う必要があるか検討する必要がある。そのため、財務諸表項目レベルにおける評価において、虚偽の表示が生じる可能性と当該虚偽の表示が生じた場合の影響の双方を考慮して、固有リスクが最も高い領域に存在すると評価したリスクを特別な検討を必要とするリスクと定義することとした。
三
実施時期等
1改訂監査基準中、「その他の記載内容」については、令和4(2022)年3月決算に係る財務諸表の監査から実施する。ただし、令和3(2021)年3月決算に係る財務諸表の監査から実施することができる。
2改訂監査基準中、リスク・アプローチの強化については、令和5(2023)年3月決算に係る財務諸表の監査から実施する。ただし、それ以前の決算に係る財務諸表の監査から実施することを妨げない。
3改訂監査基準の実施に当たり、関係法令において所要の整備を行うことが適当である。
4改訂基準を実務に適用するに当たって必要となる実務の指針については、日本公認会計士協会において、関係者とも協議の上、適切な手続の下で、早急に作成されることが要請される。
監査基準