監基報200
監査基準報告書200「財務諸表監査における総括的な目的」
出典:日本公認会計士協会『監査基準報告書200「財務諸表監査における総括的な目的」』最終改正 2024年9月26日公式ページ:JICPA 監査実務指針等の一覧 ↗本文(要求事項・適用指針)を収録。付録(文例・表)と「適用」の節は載せていません。本文は公式の文書から取り出し、一字一句照合しています(2026-10-19 取得)。出題された7か所に線を引いています。
1.本報告書の範囲
1
本報告書は、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠した財務諸表監査の実施に関する実務上の全般的な指針を提供するものである。特に、本報告書では、独立監査人の総括的な目的を記載するとともに、当該目的を達成するために実施される監査が有する性質と範囲について説明している。また、本報告書は、監査基準報告書の範囲、位置付け及び体系を説明し、さらに、全ての監査において適用される独立監査人の一般的な責任についての要求事項(一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠することを含む。)を記載している。以下においては、独立監査人を「監査人」という。
2
監査基準報告書は、監査人による財務諸表監査の観点から記載されている。したがって、その他の過去財務情報の監査に対して適用される場合には、状況に応じて適宜読み替えて適用されることになる。監査基準報告書は、例えば、有価証券の募集に関連する法令等において規定されている監査人の責任を取り扱っていない。当該責任は、監査基準報告書において記載されている責任とは異なることがある。そのような状況において、監査基準報告書が有用であることもあるが、その場合でも、関連する法令上の義務又は職業的専門家としての義務を全て遵守する責任が監査人にはある。
2.財務諸表監査
3
監査は、想定利用者の財務諸表に対する信頼性を高めるために行われる。これは、財務諸表が、全ての重要な点において、適用される財務報告の枠組みに準拠して作成されているかどうかについて、監査人が意見を表明することにより達成される。一般目的の財務諸表の場合、監査意見は、財務諸表が、適用される財務報告の枠組みに準拠して、全ての重要な点において適正に表示しているかどうかについて表明されることが多い。監査人は、一般に公正妥当と認められる監査の基準及び関連する職業倫理に関する規定に準拠して監査を実施することにより、当該意見を形成することができる(A1項参照)。
4
監査の対象である財務諸表は、取締役会による監督及び監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会(以下、監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会を「監査役等」という。)による監査の下で、経営者が作成するものである。一般に公正妥当と認められる監査の基準は、経営者や監査役等の責任を定めるものではなく、また経営者や監査役等の責任を規定する法令等に優先するものではない。ただし、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠した監査は、経営者が監査実施の基礎となる経営者の責任を認識しているという前提に基づいて実施される。財務諸表監査は、経営者又は監査役等のこれらの責任を軽減するものではない(A2項からA10項参照)。
5
一般に公正妥当と認められる監査の基準は、監査人に、意見表明の基礎として、不正か誤謬かを問わず、財務諸表全体に重要な虚偽表示がないかどうかについて合理的な保証を得ることを要求している。合理的な保証は、高い水準の保証である。合理的な保証は、監査人が、監査リスク(すなわち、財務諸表に重要な虚偽表示がある場合に監査人が不適切な意見を表明するリスク)を許容可能な低い水準に抑えるために、十分かつ適切な監査証拠を入手した場合に得られる。監査の固有の限界があるため、監査人が結論を導き、意見表明の基礎となる監査証拠の大部分は、絶対的というより心証的なものとなる。したがって、合理的な保証は、絶対的な水準の保証ではない(A27項からA51項参照)。
6
監査人は、監査の計画と実施、及び識別した虚偽表示が監査に与える影響と未修正の虚偽表示が財務諸表に与える影響の評価において、重要性の概念を適用する(監査基準報告書320「監査の計画及び実施における重要性」及び監査基準報告書450「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」参照)。一般的には、脱漏を含む虚偽表示は、個別に又は集計すると、当該財務諸表の利用者の経済的意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる場合に、重要性があると判断される。重要性の判断は、それぞれの状況を考慮して行われ、財務諸表の利用者の財務情報に対するニーズに関する監査人の認識、虚偽表示の金額や内容、又はそれら両者の組合せによる影響を受ける。監査意見は、財務諸表全体に対するものである。したがって、監査人が、財務諸表全体にとって重要でない虚偽表示についてまで発見する責任を負うものではない。
7
それぞれの監査基準報告書には、「本報告書の範囲及び目的」、「要求事項」及び「適用指針」が含まれており、これらは監査人が合理的な保証を得ることができるように記載されている。監査基準報告書は、監査人に、監査の計画、実施の過程を通じて、職業的専門家として判断し、職業的懐疑心を保持することとともに、特に以下の事項を要求している。・企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業の内部統制システムの理解に基づき、不正か誤謬かを問わず、重要な虚偽表示リスクを識別し評価すること。・評価したリスクについて、適切な対応を立案し実施することにより、十分かつ適切な監査証拠を入手すること。・入手した監査証拠から導き出した結論に基づき、財務諸表に対する意見を形成すること。
8
監査人が表明する意見の様式は、適用される財務報告の枠組み及び法令等によって決定される(A11項及びA12項参照)。
9
監査人は、また、実施した監査に関連する事項について、利用者、経営者、監査役等、又は企業外の関係者に対して、コミュニケーションを行い、報告する責任を有することがある。当該責任は、一般に公正妥当と認められる監査の基準又は適用される法令等に記載されている(監査基準報告書260「監査役等とのコミュニケーション」、監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」第42項等参照)。
3.監査人の総括的な目的
10
財務諸表監査の実施における監査人の総括的な目的は、以下のとおりである。(1)不正か誤謬かを問わず、全体としての財務諸表に重要な虚偽表示がないかどうかについて合理的な保証を得ることにより、財務諸表が、全ての重要な点において、適用される財務報告の枠組みに準拠して作成されているかどうか(適正表示の枠組みの場合は、財務諸表が全ての重要な点において適正に表示されているかどうか。)に関して、監査人が意見を表明できるようにすること。(2)監査人の発見事項に従って、財務諸表について監査意見を表明するとともに、監査基準報告書により要求されるコミュニケーションを行うこと。
11
一般に公正妥当と認められる監査の基準は、監査人が合理的な保証を得ることができず、かつ、監査報告書における限定意見では財務諸表の利用者への報告として不十分な場合には、監査人に対して意見を表明しないことを求めている。また、そのような場合には監査契約が解除されることもある。
4.定義
12
本報告書における用語の定義は、以下のとおりとする。(1)「過去財務情報」-過去の一定期間に発生した経済事象、又は過去の一定時点における経済的な状態若しくは状況について財務的に表現した特定の企業に関連する情報であり、主として企業の会計システムから得られる。(2)「監査実施の基礎となる経営者の責任に関する前提」-経営者は、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を実施するための基礎となる以下の責任を認識し理解しているという前提をいう。①適用される財務報告の枠組みに準拠して財務諸表を作成すること(適正表示の枠組みの場合は、財務諸表を適正に表示することを含む。)。②不正か誤謬かを問わず、重要な虚偽表示のない財務諸表を作成するために経営者が必要と判断する内部統制を整備及び運用すること。③以下を監査人に提供すること。ア.経営者が財務諸表の作成に関連すると認識している記録や証憑書類等の全ての情報イ.監査人が監査の目的に関連して経営者に依頼する、全ての追加的な情報ウ.監査人が監査証拠を入手するために必要と判断した、企業構成員への制限のない質問や面談の機会適正表示の枠組みの場合、①の責任は、「適用される財務報告の枠組みに準拠して財務諸表を作成し適正に表示すること」となる。「監査実施の基礎となる経営者の責任に関する前提」は、「監査実施の前提」と省略して記載される場合もある。(3)「監査証拠」-監査人が意見表明の基礎となる個々の結論を導くために利用する情報をいう。監査証拠は、財務諸表の基礎となる会計記録に含まれる情報及びその他の情報からなる。監査基準報告書においては、次のとおり記載がある。①監査証拠の十分性は、監査証拠の量的尺度をいう。必要とされる監査証拠の量は、評価した重要な虚偽表示リスクの程度及び監査証拠の質によって影響を受ける。②監査証拠の適切性は、監査証拠の質的尺度をいう。すなわち、意見表明のための基礎を裏付ける監査証拠の適合性と証明力をいう。(4)「監査人」-「監査人」は、監査業務に従事する者(通常、監査責任者又は監査チームの他のメンバー)、又は該当する場合には監査事務所に対して使用される。監査責任者に要求される事項又は監査責任者の責任を特に表す場合には、「監査人」でなく「監査責任者」が使用される。(5)「監査リスク」-監査人が、財務諸表の重要な虚偽表示を看過して誤った意見を形成する可能性をいう。監査リスクは、重要な虚偽表示リスクと発見リスクの二つから構成される。(6)「虚偽表示」-報告される財務諸表項目の金額、分類、表示又は注記事項と、適用される財務報告の枠組みに準拠した場合に要求される財務諸表項目の金額、分類、表示又は注記事項との間の差異をいう。虚偽表示は、誤謬又は不正から発生する可能性がある。監査人が、財務諸表が全ての重要な点において適正に表示されているかどうかに関して意見表明する場合、虚偽表示には、監査人の判断において、財務諸表が全ての重要な点において適正に表示されるために必要となる、金額、分類、表示又は注記事項の修正も含まれる。(7)「経営者」-取締役又は執行役のうち、企業における業務の執行において責任を有する者をいう。国によっては、ガバナンスに責任を有する者の一部若しくは全員が経営者である企業もあり、又はオーナー経営者のみが経営者である企業もある。(8)「合理的な保証」-財務諸表監査において、絶対的ではないが高い水準の保証をいう。(9)「財務諸表」-財務報告の枠組みに準拠して、過去財務情報を体系的に表したものであり、注記事項が含まれる。財務諸表は、一定時点における企業の経済的資源若しくは義務又は一定期間におけるそれらの変動を伝えることを目的としている。「財務諸表」は、通常、適用される財務報告の枠組みにおいて要求される完全な一組の財務諸表を指す。注記事項は、適用される財務報告の枠組みにより求められている、又は明示的か否かにかかわらず記載が認められている説明的若しくは記述的な情報から構成される。注記事項は、財務諸表本表において、又は脚注方式で記載されるが、財務諸表から他の文書に参照をすることによって財務諸表に組み込まれることもある(A12-2項及びA12-3項参照)。(10)「重要な虚偽表示リスク」-監査が実施されていない状態で、財務諸表に重要な虚偽表示が存在するリスクをいい、誤謬による重要な虚偽表示リスクと不正による重要な虚偽表示リスクがある。アサーション・レベルにおいて、重要な虚偽表示リスクは以下の二つの要素で構成される(A12-4項参照)。①固有リスク-関連する内部統制が存在していないとの仮定の上で、取引種類、勘定残高及び注記事項に係るアサーションに、個別に又は他の虚偽表示と集計すると重要となる虚偽表示が行われる可能性をいう。②統制リスク-取引種類、勘定残高及び注記事項に係るアサーションで発生し、個別に又は他の虚偽表示と集計すると重要となる虚偽表示が、企業の内部統制によって防止又は適時に発見・是正されないリスクをいう。(11)「職業的専門家としての懐疑心」-誤謬又は不正による虚偽表示の可能性を示す状態に常に注意し、監査証拠を鵜呑みにせず、批判的に評価する姿勢をいう。なお、職業的懐疑心ともいう。(12)「職業的専門家としての判断」-個々の監査業務の状況に応じた適切な措置について十分な情報を得た上で判断を行う際に、監査、会計及び職業倫理の基準に照らして、関連する知識及び経験を適用することをいう。(13)「適用される財務報告の枠組み」-財務諸表の作成と表示において、企業の特性と財務諸表の目的に適合する、又は法令等の要求に基づく、経営者が採用する財務報告の枠組みをいう(A5項及びA7項参照)。「適正表示の枠組み」は、その財務報告の枠組みにおいて要求されている事項の遵守が要求され、かつ、以下のいずれかを満たす財務報告の枠組みに対して使用される。①財務諸表の適正表示を達成するため、財務報告の枠組みにおいて具体的に要求されている以上の開示を行うことが必要な場合があることが、財務報告の枠組みにおいて明示的又は黙示的に認められている。②財務諸表の適正表示を達成するため、財務報告の枠組みにおいて要求されている事項からの離脱が必要な場合があることが、財務報告の枠組みにおいて明示的に認められている。このような離脱は、非常にまれな状況においてのみ必要となることが想定されている。「準拠性の枠組み」は、その財務報告の枠組みにおいて要求される事項の遵守が要求されるのみで、上記①及び②のいずれも満たさない財務報告の枠組みに対して使用される。(14)「ガバナンスに責任を有する者」-企業の戦略的方向性と説明責任を果たしているかどうかを監視する責任を有する者又は組織をいう。これには、財務報告プロセスの監視が含まれる。国によっては、ガバナンスに責任を有する者には、経営者を含むことがある。なお、我が国においては、会社法の機関の設置に応じて、取締役会、監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会がガバナンスに責任を有する者に該当するが、品質管理基準報告書及び監査基準報告書においては、原則として監査人のコミュニケーションの対象は監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会を想定し「監査役等」と記載している。一方、海外の構成単位の監査に関連する場合は、ガバナンスの構造の多様性を考慮して「ガバナンスに責任を有する者」を使用している。(15)「発見リスク」-虚偽表示が存在し、その虚偽表示が個別に又は他の虚偽表示と集計して重要になり得る場合に、監査リスクを許容可能な低い水準に抑えるために監査人が監査手続を実施してもなお発見できないリスクをいう。
1.財務諸表監査に関連する職業倫理に関する規定
13
監査人は、財務諸表監査業務に関連する職業倫理に関する規定(独立性に関連するものを含む。)を遵守しなければならない(A13項からA16項参照)。
2.職業的専門家としての懐疑心
14
監査人は、財務諸表において重要な虚偽表示となる状況が存在する可能性のあることを認識し、職業的懐疑心を保持して監査を計画し実施しなければならない(A17項からA21項参照)。
3.職業的専門家としての判断
15
監査人は、財務諸表監査の計画と実施において、職業的専門家としての判断を行使しなければならない(A22項からA26項参照)。
4.十分かつ適切な監査証拠と監査リスク
16
監査人は、合理的な保証を得るため、監査リスクを許容可能な低い水準に抑える十分かつ適切な監査証拠を入手しなければならない。それにより、監査人は、意見表明の基礎となる結論を導くことができる(A27項からA51項参照)。
(1)個々の監査業務に関連する監査実務指針の遵守
17
監査人は、監査基準又は法令により準拠が求められる場合、監査における不正リスク対応基準(以下「不正リスク対応基準」という。)、及び監査基準報告書を含む日本公認会計士協会が公表する監査実務指針のうち個々の監査業務に関連するものは全て遵守しなければならない。個々の監査業務に関連しているとは、特定の監査業務について、既に発効している監査実務指針の取り扱う状況が存在している場合をいう(A52項からA55項参照)。
18
監査基準報告書を適用するに当たり、監査人は、それぞれの監査基準報告書の目的を理解し、要求事項を適切に適用するため、その適用指針を含め、監査基準報告書を全体として理解しなければならない(A56項からA64項参照)。
19
監査人は、監査基準、本報告書、並びに個々の監査業務に関連する他の全ての監査基準報告書及び他の監査実務指針の要求事項を遵守しない限り、監査報告書上で一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠した旨を記載してはならない。
(2)それぞれの監査基準報告書に記載されている目的
20
監査人の総括的な目的を達成できるように、監査人は、監査の計画と実施において、監査基準報告書の相互関係を踏まえて以下の事項を行うため、関連するそれぞれの監査基準報告書に記載された目的を勘案しなければならない(A65項からA67項参照)。(1)監査基準報告書の目的を達成するために、監査基準報告書で要求されている監査手続に追加して監査手続を実施する必要があるかどうかの判断(A68項参照)(2)十分かつ適切な監査証拠を入手したかどうかの評価(A69項参照)
(3)関連する要求事項の遵守
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監査人は、第22項に従うほか、以下のいずれかに該当する場合を除いて、監査基準報告書に記載された要求事項を遵守しなければならない。(1)特定の監査基準報告書がその監査業務に全く関連しない場合(2)一定の条件の下で要求される事項であり、その監査業務に条件が合致しないため、要求事項がその監査業務に関連しない場合(A70項及びA71項参照)(3)不正リスク対応基準に基づく要求事項であり、その監査業務に不正リスク対応基準が適用されないため、要求事項がその監査業務に関連しない場合
22
監査人は、例外的な状況において、監査基準報告書の関連する要求事項に代えて代替的な監査手続が必要と判断する場合がある。このような状況においては、監査人は、当該要求事項の趣旨を達成するための代替的な監査手続を実施しなければならない。要求事項が特定の手続の実施に関するものであり、当該手続がその監査業務において、要求事項の趣旨を達成するために有効でない状況においてのみ、監査人は要求事項に代えて代替的な監査手続を実施する必要性が生じる(A72項参照)。
(4)目的を達成できない状況
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監査人は、関連する監査基準報告書の目的を達成できない場合、それにより監査人の総括的な目的の達成が妨げられ、その結果、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して、監査範囲の制約に関する限定意見を表明するか若しくは意見を表明しないこと又は監査契約を解除することが必要となるかどうか評価しなければならない。監査基準報告書の目的を達成できない状況は、監査基準報告書230「監査調書」(監基報230第7項(3)参照)において監査調書への記載が求められる重要な事項に該当する(A73項及びA74項参照)。
(1)監査の範囲(第3項参照)
A1
財務諸表に対する監査意見は、財務諸表が、全ての重要な点において、適用される財務報告の枠組みに準拠して作成されているかどうかについて表明され、これは全ての財務諸表監査に共通する。したがって、監査意見は、例えば、企業の将来の存続可能性を保証したり、経営者による業務遂行の効率性や有効性を保証したりするものではない。しかしながら、国によっては、法令等により、他の特定の事項(例えば、内部統制の有効性や、財務諸表と財務諸表以外の経営者による報告書との整合性等)について、監査人による意見の表明が要求されている場合がある。監査基準報告書には、財務諸表に対する意見形成に関連する範囲で、そのような他の特定の事項に関連する要求事項と適用指針が含まれているが、そのような意見を提供する追加的な責任を有する場合、監査人は追加的な作業の実施が要求されることになる。
(2)財務諸表の作成(第4項参照)
A2
法令等が、財務報告に関連する経営者の責任を規定することがあるが、責任の範囲や規定の方法は国により異なる。これら法令等による規定上の差異に関係なく、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠した監査は、経営者が以下の責任を有することを認識し理解しているという監査実施の前提に基づいて実施される。(1)適用される財務報告の枠組みに準拠して財務諸表を作成すること(適正表示の枠組みの場合は、財務諸表を適正に表示することを含む。)。(2)不正か誤謬かを問わず、重要な虚偽表示のない財務諸表を作成するために経営者が必要と判断する内部統制を整備及び運用すること。(3)以下を監査人に提供すること。①経営者が財務諸表の作成に関連すると認識している記録や証憑書類等の全ての情報②監査人が監査の目的に関連して経営者に依頼する、全ての追加的な情報③監査人が監査証拠を入手するために必要であると判断した、企業構成員への制限のない質問や面談の機会
A3
経営者は、財務諸表の作成について以下が要求される。・関連する法令等で認められた、適用される財務報告の枠組みを決定すること。・当該枠組みに準拠して財務諸表を作成すること。・財務諸表において、当該枠組みについて適切に記述すること。・財務諸表の作成においては、状況に応じた合理的な会計上の見積りを行い、適切な会計方針を選択及び適用する必要があるが、この際、経営者には判断が要求される。これらの判断は、適用される財務報告の枠組みに照らして行われる。
A4
財務諸表は、以下のいずれかの財務報告の枠組みに準拠して作成される。・広範囲の利用者に共通する財務情報に対するニーズを満たすように策定された枠組み。このような枠組みに準拠して作成される財務諸表を「一般目的の財務諸表」という。・特定の利用者の財務情報に対するニーズを満たすように策定された枠組み。このような枠組みに準拠して作成される財務諸表を「特別目的の財務諸表」という。
A5
適用される財務報告の枠組みは、多くの場合、認知されている会計基準設定主体が設定する財務報告の基準(例えば、企業会計基準委員会が設定する企業会計基準、指定国際会計基準、又は国際会計基準審議会が公表する国際会計基準)、又は法令等により要求される事項で構成されている。財務報告の枠組みは、認知されている会計基準設定主体が設定する財務報告の基準と、法令等により要求される事項の双方で構成されていることがある。その他にも、適用される財務報告の枠組みには、例えば、以下のようなものが含まれており、その適用に関する指針を示していることがある。・会計上の問題に関する法律上及び職業倫理上の外部要因(法令、判例、及び職業倫理上の義務を含む。)・会計基準設定主体、職業的専門家等の団体が公表する会計上の解釈指針(規範性はそれぞれ異なる。)・会計上の問題に関して会計基準設定主体、職業的専門家等の団体が公表する見解(規範性はそれぞれ異なる。)・一般的な実務慣行及び業界の実務慣行・会計に関する文献財務報告の枠組みとその適用に関する指針を示す文書等の間で、又は財務報告の枠組みに含まれる文書等の間で不整合が生じている場合には、最も規範性の高いものが優先して適用される。
A6
財務諸表の様式と内容は、適用される財務報告の枠組みにより決定される。財務報告の枠組みは、全ての取引や事象の会計処理又は表示・注記の方法については明記していないことがあるが、通常、一般的な原則を含んでいる。一般的な原則は、財務報告の枠組みにおいて要求されている事項の根底にある概念と整合する会計方針を策定し適用するための基礎を提供する。
A7
財務報告の枠組みは、適正表示の枠組みであることもあれば、準拠性の枠組みであることもある。財務報告の枠組みは、認知されている会計基準設定主体が一般目的の財務諸表の作成に使用すべき基準として公表する財務報告の基準から主に構成されている場合、適正表示の達成を意図していることが多い。この点について、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準は、会計基準からの離脱は認めていないが、金融商品取引法では、財務諸表規則等において追加情報の記載が求められており、適正表示の達成を意図していると考えられる。
A8
また、適用される財務報告の枠組みにおいて要求される事項は、完全な一組の財務諸表の構成についても記載している。多くの財務報告の枠組みにおいて、財務諸表は、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローについての情報を提供するためのものとされている。この場合、完全な一組の財務諸表には、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュ・フロー計算書、及び関連する注記が含まれる。
A9
監査基準報告書210「監査業務の契約条件の合意」は、適用される財務報告の枠組みが受入可能なものであるかどうかの判断に関する要求事項と指針を提供している(監基報210第4項(1)参照)。監査基準報告書800「特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監査」は、財務諸表が特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成される場合の特別な考慮事項を扱っている(監基報800第7項)。
A10
監査実施の前提は重要であるため、監査基準報告書210に記載のとおり、監査人は、監査契約の新規の締結又は更新の前提条件として、経営者がA2項に記載した責任を認識し理解していることについて、経営者と合意することが要求される(監基報210第4項(2)参照)。
(3)監査意見の様式(第8項参照)
A11
監査人が表明する意見は、財務諸表が、全ての重要な点において、適用される財務報告の枠組みに準拠して作成されているかどうかに関するものである。ただし、監査意見の様式は、適用される財務報告の枠組み及び法令等によって決定される。大部分の財務報告の枠組みには、財務諸表の表示に関して要求される事項が含まれている。その場合、適用される財務報告の枠組みに準拠する財務諸表の「作成」とは、「作成及び表示」を意味することになる。
A12
財務報告の枠組みが適正表示の枠組みの場合(一般的に、一般目的の財務諸表はこれに該当する。)、監査意見は、財務諸表が、全ての重要な点において適正に表示されているか、又は真実かつ公正な概観を与えているかどうかに関するものとなる。財務報告の枠組みが準拠性の枠組みの場合、監査意見は、財務諸表が、全ての重要な点において、財務報告の枠組みに準拠して作成されているかどうかに関するものとなる。監査基準報告書における監査意見は、特に明示しない限り、両方の意見の様式を対象としている。
財務諸表(第12項(9)参照)
A12-2
財務報告の枠組みによっては、企業の経済的資源又は義務を資産又は負債と呼び、その差額を資本又は純資産として呼称する場合がある。
A12-3
適用される財務報告の枠組みによって財務諸表への記載が要求される説明的・記述的な情報は、経営者による説明又はリスク報告書などの他の文書(財務諸表利用者が財務諸表と同じ条件で同時に利用可能なもの)の情報へ参照することによって財務諸表に組み込むことができる。「参照することによって財務諸表に組み込む」とは、財務諸表から他の文書への参照を意味するが、他の文書から財務諸表への参照は意味しない。適用される財務報告の枠組みが、説明的・記述的な情報の記載への参照を明示的に禁止しておらず、適切に参照されている場合、当該情報は財務諸表の一部を構成する。
重要な虚偽表示リスク(第12項(10)参照)
A12-4
本報告書においては、以下の二つについて合理的な可能性がある場合に重要な虚偽表示リスクが存在する。(1)虚偽表示が発生する(すなわち、発生可能性)。(2)虚偽表示が発生した場合に重要性がある(すなわち、影響の度合い)。
2.財務諸表監査に関連する職業倫理に関する規定(第13項参照)
A13
監査人は、財務諸表監査業務に関連する職業倫理に関する規定(独立性に関連するものを含む。)に従う。我が国においては、職業倫理に関する規定は、品質管理基準報告書第1号「監査事務所における品質管理」で記載しているとおり、公認会計士法・同施行令・同施行規則、日本公認会計士協会が公表する会則、倫理規則及びその他の倫理に関する規定から構成される。なお、各国の職業倫理に関する規定は、財務諸表監査に関する国際会計士連盟の「職業会計士のための国際倫理規程(国際独立性基準を含む。)」の規定に、各国で要求されるより厳格な事項を加えて構成されていることが多い。
A14
倫理規則では、倫理上の基本原則を次のとおり規定している。(1)誠実性(2)客観性(3)職業的専門家としての能力及び正当な注意(4)秘密保持(5)職業的専門家としての行動倫理上の基本原則は、職業的専門家に期待される行動の基準を定めている。倫理規則の概念的枠組みは、職業的専門家が基本原則を遵守する上での阻害要因を識別及び評価し、これに対処する際に適用することが求められているアプローチを定めている。監査、レビュー及びその他の保証業務においては、倫理規則が、それらの業務に関連する独立性に対する阻害要因について、概念的枠組みの適用により対処することを意図している。
A15
監査業務の場合、公共の利益の観点から、監査人は監査対象である企業に対して独立性を保持することが職業倫理に関する規定によって要求されている。倫理規則は、精神的独立性と外観的独立性の双方の保持を規定している。監査人は、企業に対して独立性を保持することにより、他の者からの不当な影響を受けることなく監査意見を形成することができる。監査人は、独立性を保持することにより、誠実に行動し、客観性と職業的懐疑心を保持することができる。
A16
監査に関する品質管理基準及び品質管理基準報告書第1号は、監査事務所とその専門要員が職業的専門家としての基準及び適用される法令等に従って責任を果たし業務を遂行することを合理的に確保するための、品質管理システムの整備及び運用に関する監査事務所の責任を扱っている(監査基準報告書220「監査業務における品質管理」第3項参照)。品質管理基準報告書第1号は、監査事務所に対し、品質管理システムの一部として、職業倫理に関する規定(独立性に関連するものを含む。)の遵守に関する品質目標を定めることを要求している(品基報第1号第29項参照)。監査に関する品質管理基準及び監査基準報告書220第16項から第21項は、職業倫理に関する規定(独立性に関連するものを含む。)の遵守に関する監査責任者の責任について記載している。また、監査基準報告書220のA10項は監査チームが個々の監査業務における品質管理において、監査事務所の方針又は手続に依拠することができる状況について記載している。
3.職業的専門家としての懐疑心(第14項参照)
A17
職業的懐疑心は、例えば、以下について注意を払うことを含む。・入手した他の監査証拠と矛盾する監査証拠・監査証拠として利用する記録や証憑書類又は質問に対する回答の信頼性に疑念を抱かせるような情報・不正の可能性を示す状況・監査基準報告書により要求される事項に加えて追加の監査手続を実施する必要があることを示唆する状況
A18
監査の過程を通じて職業的懐疑心を保持することは、例えば、監査人が以下のリスクを抑えるために必要である。・通例でない状況を見落とすリスク・監査手続の結果について十分な検討をせずに一般論に基づいて結論を導いてしまうリスク・実施する監査手続の種類、時期及び範囲の決定及びその結果の評価において不適切な仮定を使用するリスク
A19
職業的懐疑心は、監査証拠を批判的に評価するために必要である。これは、監査証拠の矛盾や、記録や証憑書類の信頼性、又は経営者や監査役等から入手した質問への回答又はその他の情報の信頼性について、疑念を抱くことを含む。また、例えば、不正リスク要因が存在し、かつ、その性質上不正の可能性がある単独の記録や証憑書類が財務諸表の重要な金額を裏付ける唯一の証拠である場合など、その状況に照らして、入手した監査証拠の十分性と適切性について検討することを含む。
A20
監査人は、記録や証憑書類の真正性に疑いを抱く理由がある場合を除いて、通常、記録や証憑書類を真正なものとして受け入れることができる。しかしながら、監査人は、監査証拠として利用する情報の信頼性を検討することが要求される(監査基準報告書500「監査証拠」第6項から第8項参照)。監査基準報告書は、情報の信頼性に疑義がある、又は不正の可能性の兆候がある場合(例えば、監査の過程で把握した状況により、ある記録や証憑書類が真正でないと疑われる場合、又は偽造されていると疑われる場合)、監査人に対し、更に調査を実施し、問題事項を解消するため監査手続の種類、時期及び範囲に修正又は追加が必要であるか否かを決定することを要求している(監基報240第12項、監基報500第10項、監基報505第9項、第10項及び第15項参照)。
A21
監査人が、過去の経験に基づいて、経営者、取締役等及び監査役等は信頼が置ける、又は誠実であると認識していたとしても、それによって職業的懐疑心を保持する必要性が軽減されるわけではなく、また、合理的な保証を得る際に心証を形成するに至らない監査証拠に依拠することが許容されるわけでもない。
4.職業的専門家としての判断(第15項参照)
A22
職業的専門家としての判断は、監査の適切な実施に必要不可欠なものである。これは、関連する職業倫理に関する規定及び一般に公正妥当と認められる監査の基準を解釈し、監査の過程を通じて要求される十分な情報に基づく判断を行う際に、関連する知識と経験を事実と状況に対して適用することが必要なためである。職業的専門家としての判断は、特に以下の事項に関する決定において必要となる。・重要性及び監査リスク・監査基準報告書の要求事項を満たし、監査証拠を収集するために実施する監査手続の種類、時期及び範囲・十分かつ適切な監査証拠が入手されたかどうか、及び各監査基準報告書の目的を達成し、それによって監査人の総括的な目的を達成するために追加して行うべき事項があるかどうかの評価・適用される財務報告の枠組みを適用する際の経営者の判断の評価・入手した監査証拠に基づき結論を導くこと(例えば、財務諸表の作成において経営者が行う見積りの合理性を評価すること。)。
A23
監査人に期待される職業的専門家としての判断は、研修及び経験を通じて合理的な判断を行うのに必要な能力や知識を身に付けた監査人により行使される。
A24
監査人は、どのような場合でも、自身が知っている事実と状況に基づいて、職業的専門家としての判断を行使する。監査基準報告書220で要求されているとおり、専門性が高く、判断に困難が伴う事項や見解が定まっていない事項に関して、監査業務の実施中に監査チーム内及び監査チームと監査事務所内外の適切な者との間で専門的な見解の問合せを実施することは、監査人が十分な情報を得た上で合理的な判断を行うのに役立つ(監基報220第35項参照)。
A25
職業的専門家としての判断は、監査及び会計の基準を適切に適用し、監査報告書日までに監査人が認識した事実と状況に照らして適切かつ整合的に行われる。
A26
職業的専門家としての判断は、監査の過程を通じて行使されることが必要であり、また、適切に監査調書に記載される必要がある。監査人は、経験豊富な監査人が以前に当該監査に関与していなくても、監査の過程で生じた重要な事項に関する結論に到達する際の職業的専門家としての重要な判断を理解できるような監査調書を作成することが要求されている(監基報230第7項参照)。職業的専門家としての判断は、事実や状況又は十分かつ適切な監査証拠による裏付けのない判断を正当化するために利用されるものではない。
(1)監査証拠の十分性と適切性
A27
監査証拠は、監査意見及び監査報告書を裏付けるために必要である。監査証拠は、累積的な性質のものであり、主として監査の過程で実施した監査手続から入手する。しかしながら、監査証拠は、過年度の監査において入手した情報(監査基準報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」第15項に記載のとおり、監査人が当年度の監査に影響を与える変化が生じていないかどうか判断した場合)、又は監査契約の新規の締結及び更新を通じて入手した情報など、その他の情報源から入手した情報を含むことがある。企業内外のその他の情報源に加えて、企業の会計記録は、監査証拠として重要な情報源である。また、監査証拠として利用する情報は、企業が雇用する、又は業務を依頼する専門家により作成されることがある。監査証拠は、アサーションを裏付ける情報と矛盾する情報の両方から構成される。さらに、情報がないことそれ自体が監査証拠となる場合がある(例えば、依頼した陳述を経営者が拒んだ場合)。監査意見の形成における監査人の作業のほとんどは、監査証拠を入手し評価することから成る。
A28
監査証拠の十分性と適切性は、相互に関連する。十分性は、監査証拠の量的尺度である。必要な監査証拠の量は、虚偽表示リスクの程度によって影響を受け(評価したリスクの程度が高いほど、より多くの監査証拠が要求される。)、また、監査証拠の質によっても影響を受ける(質が高いほど、少ない監査証拠で済む。)。しかしながら、数多くの監査証拠を入手したとしても、監査証拠の質の低さを補完しないことがある。
A29
適切性は監査証拠の質的尺度である。つまり、意見表明のための基礎を裏付ける、監査証拠の適合性と証明力である。監査証拠の証明力は、情報源及び種類により影響を受け、入手する状況により異なる。
A30
監査リスクを許容可能な低い水準に抑え、意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手したかどうかは、職業的専門家としての判断に係る事項である。監査基準報告書500及びその他の関連する監査基準報告書は、監査の過程を通じて、十分かつ適切な監査証拠の入手について監査人が考慮する追加的な要求事項及び詳細な指針を記載している。
(2)監査リスク
A31
監査リスクは、重要な虚偽表示リスク及び発見リスクの二つから構成される。監査人は、リスク評価に必要な情報を入手するための監査手続と、監査の過程を通じて入手される証拠に基づいて、リスク評価を行う。リスク評価は、正確に測定できるものではなく、職業的専門家としての判断に係る事項である。
A32
監査リスクには、財務諸表に重要な虚偽表示がない場合に、監査人が重要な虚偽表示があるという意見を表明するリスクを含まない。このようなリスクは、通常、重要ではない。また、監査リスクは、監査のプロセスに関連して使用される用語であり、財務諸表監査に関連して発生する訴訟、風評、又はその他の事象から発生する損失など、監査人の事業上のリスクは含まない。
重要な虚偽表示リスク
A33
重要な虚偽表示リスクは、以下の二つのレベルで存在する可能性がある。・財務諸表全体レベル・アサーション・レベル
A34
財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクは、財務諸表全体に広く関わりがあり、多くのアサーションに潜在的に影響を及ぼす。
A35
監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手するために必要なリスク対応手続の種類、時期及び範囲を決定するため、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを評価する。十分かつ適切な監査証拠によって、監査人は、監査リスクを許容可能な低い水準に抑えた上で、財務諸表に対する意見を表明できる。監査人は、重要な虚偽表示リスクを評価するために、様々なアプローチを利用する。例えば、監査人は、発見リスクを許容可能な水準に抑えるため、監査リスクの要素に関する一般的な関係を数量的に表すモデルを利用することがある。監査人は監査手続を計画する際に、このようなモデルを使用することが有用と考えることがある。
A36
アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクは、固有リスク及び統制リスクの二つの要素で構成される。固有リスクと統制リスクは企業側のリスクであり、財務諸表監査とは独立して存在している。
A37
固有リスクは、固有リスク要因の影響を受ける。固有リスク要因がアサーションにおける虚偽表示の生じやすさに及ぼす影響の程度に応じて、固有リスクの程度は変化する。監査人は、重要な虚偽表示リスクを識別し評価するプロセスの一環として、重要な取引種類、勘定残高又は注記事項、並びに関連するアサーションを決定する。例えば、見積りの不確実性が高い会計上の見積りによる金額で構成される勘定は、重要な勘定残高として識別される可能性がある。このような場合、見積りの不確実性が高いため、関連するアサーション・レベルのリスクに関する固有リスクの評価は高くなる可能性がある。
A37-2
事業上のリスクを生じさせる外部環境が固有リスクに影響を与えることもある。例えば、技術革新が進めば、特定の製品が陳腐化し、それにより棚卸資産の勘定残高が過大に表示される可能性が大きくなる。また、多くの又は全ての取引種類、勘定残高及び注記事項に関係する、企業と企業環境のある要因が、特定のアサーションに関連する固有リスクに影響を与えることもある。例えば、事業継続のために必要な運転資本の不足や倒産の多発に象徴される産業衰退等が挙げられる。
A38
統制リスクは、財務諸表の作成に関連する企業目的の達成を妨げるおそれがあると識別したリスクに対応するために経営者が整備及び運用する内部統制の有効性により影響を受ける。しかしながら、内部統制は、いかに良好に整備され運用されていたとしても、財務諸表の重要な虚偽表示リスクを低減することはできるが、それをなくすことはできない。これは、内部統制の固有の限界のためである。内部統制の限界には、例えば、人為的なミスや間違いが起こる可能性、又は共謀や経営者が不当に内部統制を無効化する可能性が含まれる。したがって、統制リスクは常に存在する。監査基準報告書330「評価したリスクに対応する監査人の手続」及びその他の監査基準報告書は、実施すべき実証手続の種類、時期及び範囲の決定において、どのような場合に内部統制の運用評価手続が要求されるのか、又は運用評価手続を利用するのかについて記載している(監基報330第6項から第16項参照)。
A39
重要な虚偽表示リスクの評価は、百分率などのような定量的な評価によることもでき、また定性的な評価によることもできる。いずれの場合においても、監査人にとって重要なことは、適切なリスク評価を行うことである。監査基準報告書では、通常、「重要な虚偽表示リスク」という用語が使用されており、固有リスクと統制リスクを分けて記載していないことが多い。ただし、監査基準報告書330に従ってアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに対応するためのリスク対応手続を立案し実施するため、監査基準報告書315では固有リスクと統制リスクを分けて評価することを求めている。
A40
監査基準報告書315は、財務諸表全体レベル及びアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの識別と評価についての要求事項と指針を記載している。
A40-2
監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手するために必要なリスク対応手続の種類、時期及び範囲を決定するため、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを評価する(監基報330第5項参照)。
発見リスク
A41
監査リスクを一定水準にするためには、設定する発見リスクの水準は、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの評価と逆の関係になる。例えば、監査人は、重要な虚偽表示リスクの程度が高いと判断した場合には、発見リスクの水準を低く設定する必要があり、監査人は、より確かな心証が得られる監査証拠を入手する必要がある。
A42
発見リスクは、監査リスクを許容可能な低い水準に抑えるために監査人が実施する監査手続の種類、時期及び範囲に関係している。したがって、発見リスクは、実施した監査手続の有効性によって影響を受ける。以下の事項は、実施した監査手続の有効性を高め、監査人が不適切な監査手続を選択したり、監査手続の適用を誤ったり、その結果を誤って解釈したりする可能性を抑えるのに役立つ。・適切な監査計画の策定・監査チームメンバーの適切な配置・職業的懐疑心の保持・適切な監督の実施と監査調書の査閲
A43
監査基準報告書300「監査計画」及び監査基準報告書330は、監査計画及び評価したリスクに対応する監査人の手続に関する要求事項と指針を記載している。監査の固有の限界のため、監査人は、発見リスクを抑えることはできても、それをなくすことはできない。したがって、発見リスクは常に存在する。
(3)監査の固有の限界
A44
監査人は、監査リスクをゼロに抑えることを期待されているわけではなく、また、ゼロにすることは不可能である。したがって、財務諸表に不正又は誤謬による重要な虚偽表示がないという絶対的な保証を得ることはできない。これは、監査の固有の限界があるためであり、その結果、監査人が結論を導き、意見表明の基礎となる監査証拠の大部分は、絶対的というより心証的なものとなる。監査の固有の限界は、以下を原因として生じる。・財務報告の性質・監査手続の性質・監査を合理的な期間内に合理的なコストで実施する必要性《財務報告の性質》
A45
財務諸表の作成は、企業の実態及びその環境に基づき財務報告の枠組みにより要求される事項を適用する際、経営者の判断を伴う。さらに、多くの財務諸表項目には、主観的な判断や評価又は不確実性が関連しており、合理的と考えられる解釈や判断に幅が存在することがある。したがって、一部の財務諸表項目は、財務諸表項目の残高に影響を与える固有の変動要因があり、その影響は追加の監査手続を実施してもなくすことはできない。例えば、一部の会計上の見積りが該当する。監査基準報告書は、会計上の見積り及び関連する注記事項が適用される財務報告の枠組みに照らして合理的又は妥当であるかどうか、並びに企業の会計実務の質的側面(経営者の判断に偏向が存在する兆候を含む。)について、特定の検討を行うことを監査人に要求している(監査基準報告書540「会計上の見積りの監査」及び監査基準報告書700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」第12項参照)。
監査手続の性質
A46
監査人による監査証拠の入手には、例えば、以下のような実務上及び法令上の限界がある。・経営者及びその他の者は、意図的であるかどうかにかかわらず、財務諸表の作成及び表示に関連する、又は監査人が依頼した、全ての情報を提供しない可能性がある。したがって、監査人は、関連する全ての情報を入手したという保証を得るための監査手続を実施しても、情報の網羅性について確信を持つことはできない。・不正は、それを隠蔽するために巧妙かつ念入りに仕組まれたスキームを伴うことがある。したがって、監査証拠を入手するために実施する監査手続は、意図的な虚偽表示を発見するためには有効でないことがある。例えば、記録や証憑書類を改竄するための共謀を伴う場合、監査人は監査証拠が正当なものではないにもかかわらず、正当性があると信じることがある。監査人は、記録や証憑書類の鑑定の技能を習得していないし、そのような鑑定の専門家であることも期待されていない。・監査は、法令違反の疑いについて公式な捜査を行うものではない。したがって、監査人は、そのような捜査を行うために必要となる特定の法的権限を有していない。
財務報告の適時性及び費用と便益の比較衡量
A47
監査手続の実施が容易でないこと、又は実施の時期や費用の問題は、代替手続のない監査手続を省略したり、心証を形成するに至らない監査証拠に依拠したりする理由とはならない。適切な監査計画を策定することにより、監査実施のための十分な時間と資源を利用できるようになる。しかしながら、情報の目的適合性とその価値は、時の経過とともに低下する傾向があるため、情報の信頼性とその費用を比較衡量する必要がある。財務報告の適時性及び費用と便益の比較衡量は、一部の財務報告の枠組みにおいて認識されている(例えば、国際会計基準審議会の「財務諸表の作成及び表示に関するフレームワーク」を参照)。したがって、財務諸表の利用者は、監査人が合理的な期間内に合理的な費用の範囲で財務諸表に対する意見を形成すると想定している。これは、財務諸表の利用者が、存在する可能性のある全ての情報を監査人が考慮することや、情報には誤謬又は不正が存在するという仮定に基づいて、それらが存在しないことが明らかになるまで、全ての事項を監査人が徹底的に追及したりすることは実務上不可能であるということを認識しているためである。
A48
したがって、監査人は、以下を実施する必要がある。・効果的な方法で監査を実施するために、監査を計画すること。・不正か誤謬かを問わず、重要な虚偽表示リスクを含む可能性が高いと想定される部分に重点を置いて監査を実施すること。・試査その他の方法を用いて、虚偽表示がないかどうかについて母集団を検討すること。
A49
監査基準報告書は、A48項を踏まえて、監査の計画と実施における要求事項を記載しており、特に監査人は以下を実施することが要求されている。・リスク評価手続とこれに関連する活動を実施して、財務諸表全体レベル及びアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを識別し評価するための基礎を得る(監基報315第12項参照)。・母集団についての結論を導くための合理的な基礎が得られる方法で、試査等により母集団を検討する(監基報330、監基報500、監査基準報告書520「分析的手続」及び監査基準報告書530「監査サンプリング」参照)。
監査の固有の限界に影響を及ぼすその他の事項
A50
特定のアサーション又は特定の事項に関しては、監査の固有の限界が監査人による重要な虚偽表示の発見に重要な影響を与える可能性がある。特に重要な影響を受けるアサーション又は特定の事項には、例えば、以下が挙げられる。・不正、特に上級経営者が関与する不正又は共謀を伴う不正(監基報240参照)・関連当事者との関係及び関連当事者との取引の実在性と網羅性(監査基準報告書550「関連当事者」参照)・違法行為の発生(監査基準報告書250「財務諸表監査における法令の検討」参照)・企業が継続企業として存続できない原因となる将来の事象又は状況(監査基準報告書570「継続企業」参照)関連するそれぞれの監査基準報告書は、監査の固有の限界の影響を軽減するための具体的な監査手続を記載している。
A51
監査の固有の限界のため、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して適切に監査計画を策定し監査を実施しても、重要な虚偽表示が発見されないという回避できないリスクがある。不正又は誤謬による財務諸表の重要な虚偽表示が事後的に発見された場合でも、そのこと自体が、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査が実施されなかったことを示すものではない。しかしながら、監査の固有の限界は、監査人が心証を形成するに至らない監査証拠に依拠する理由にはならない。監査が一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して実施されたかどうかは、監査人の総括的な目的に照らして、状況に応じて実施された監査手続、その結果得られた監査証拠の十分性と適切性、及びその監査証拠の評価に基づいた監査報告書の適切性によって判断される。
(1)一般に公正妥当と認められる監査の基準の性質(第17項参照)
A52
監査実務指針は、全体として、監査人の総括的な目的を達成するための実務上の指針を提供している。監査実務指針は、監査における一般的な責任を取り扱うものと、特定の領域や項目において責任を果たす際の詳細な考慮事項を扱っているものが含まれている。
A53
監査実務指針の適用範囲、発効及び適用の制限については、それぞれの監査実務指針に記載されている。
A54
監査の実施に当たって、監査人は、監査基準及び監査実務指針に加えて、法令により要求される事項の遵守が求められる場合がある。監査基準及び監査実務指針は、財務諸表監査に関係する法令に優先するものではない。法令の規定が監査基準及び監査実務指針と異なる場合において、法令のみに準拠して実施された監査は、必ずしも一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠したものにはならないことがある。
A55
また、監査人は、我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準に加えて、国際監査基準や特定の国の監査基準にも準拠して監査を実施することがある。このような場合、我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準の遵守に加えて、他の監査基準を遵守するために追加的な監査手続の実施が必要となることがある。
(2)監査基準報告書の内容(第18項参照)
A56
それぞれの監査基準報告書には、「本報告書の目的」及び「要求事項」(「~しなければならない」という文章で記載される。)に加え、関連する指針が「適用指針」に含まれる。また、その監査基準報告書を適切に理解するための背景説明等が記載された「本報告書の範囲及び目的」や「定義」が含まれることもある。したがって、監査基準報告書に記載された目的を適切に理解し、要求事項を適切に適用するためには、その監査基準報告書全体が関連することになる。
A56-2
不正リスク対応基準に基づく要求事項及びそれに関連する適用指針は、項番号の冒頭に「F」が付されている。
A57
「適用指針」は、必要に応じて、「要求事項」の詳細な説明及びその実施のための指針を提供しており、特に以下について記載していることがある。・「要求事項」の意味、又は対象とすべき範囲に関するより詳細な説明。監査基準報告書315等においては、「要求事項」に記載の内容が要求される理由を「適用指針」に記載している。・特定の状況において適切である手続の例示これらの指針は、それ自体が要求事項を定めるものではないが、監査基準報告書の要求事項を適切に適用するために有用なものである。また、「適用指針」は、監査基準報告書が扱う事項に関する背景を記載していることもある。
A58
「付録」は、監査基準報告書240付録4を除き、「適用指針」の一部を形成するものである。「付録」の趣旨及び想定される利用方法については、監査基準報告書の本文、又は「付録」の表題、若しくは冒頭で説明されている。
A59
「本報告書の範囲及び目的」には、必要に応じて、以下に関する説明が含まれている。・監査基準報告書の趣旨と範囲(他の監査基準報告書との関係を含む。)・監査基準報告書が扱う主題・監査基準報告書の主題に関する監査人及び経営者等のそれぞれの責任・監査基準報告書が定められた背景
A60
ある監査基準報告書の「定義」において、全ての監査基準報告書で使用される用語の説明が含まれることがある。これらは、監査基準報告書の一貫した適用と解釈のために記載されるものであり、法令により他の目的で規定された定義に優先することを意図するものではない。「定義」に含まれる用語は、特に記載のない限り、全ての監査基準報告書を通じて同じ意味を有する。
A61
監査基準報告書の「適用指針」には、必要に応じて、小規模企業の監査に特有の追加的な考慮事項が含まれる。これらの追加的な考慮事項は、小規模企業の監査において監査基準報告書の要求事項を適用する際の指針となるものであるが、監査基準報告書の要求事項を適用し遵守する監査人の責任を軽減するものではない。
適用の柔軟性に関する考慮事項
A62
一部の監査基準報告書(例えば、監査基準報告書315)に含まれる適用の柔軟性に関する考慮事項には、企業の性質や状況の複雑性にかかわらず、要求事項を全ての企業に適用するための例が示されている。
A62-2
監査基準報告書に含まれる小規模企業に特有の考慮事項は、主に非上場企業を想定して記載されているが、その一部は、小規模の上場企業の監査に参考になることがある。
A63
監査基準報告書における「小規模企業」とは、相当に小規模な企業を想定しており、我が国の監査基準に基づく監査を行う上では適用することになる例が少ないと考えられる。このため、適用に当たっては十分に留意する必要がある。なお、以下は、監査基準報告書が想定している小規模企業が有する特徴を例示したものである。ただし、例示している全ての特徴があらゆる小規模企業に該当するとは限らず、また必ずしも小規模企業の特徴を網羅的に示したものでもない。(1)所有と経営が少数に集中していること(多くの場合は1人である。なお、他の小規模企業に所有されている場合も含む。)。(2) (1)に該当する場合で、以下の事項のうち少なくともいずれかに該当していること。①単純な取引のみを行っていること。②会計システムが単純であること。③少数の事業のみ行っており、取り扱う製品の種類も少数であること。④内部統制システムが簡素であること。⑤経営者の人数が少数であり、それぞれが広範囲な内部統制に対する責任を有していること。⑥企業構成員が少数であり、広範囲な職務を担っていること。
A64
監査基準報告書において、「オーナー経営者」は、企業の所有者であり、かつ、日々の事業運営に関与している者を想定している。
自動化されたツールと技法に特有の考慮事項
A64-2
一部の監査基準報告書(例えば、監査基準報告書315)に含まれる「自動化されたツール及び技法」に特有の考慮事項では、監査人が「自動化されたツール及び技法」を利用して監査手続を実施する際の要求事項の適用方法について記載している。
(3)それぞれの監査基準報告書に記載されている目的(第20項参照)
A65
それぞれの監査基準報告書には目的が記載されており、監査基準報告書における要求事項と監査人の総括的な目的との関連を説明している。それぞれの監査基準報告書に記載されている目的は、監査人が、その監査基準報告書において期待されている結果に焦点を当てることができるように記載されている。また、監査人が以下を行うために具体的に記述されている。・何を遂行する必要があるか、及び必要な場合には、そのための適切な方法について理解すること。・特定の監査業務の状況において、目的を達成するために追加的な手続を実施する必要があるかどうか判断すること。
A66
それぞれの監査基準報告書の目的は、本報告書の第10項に記載されている監査人の総括的な目的との関連で理解されることになる。それぞれの監査基準報告書の目的の達成は、監査人の総括的な目的と同様に、監査の固有の限界により影響を受ける。
A67
それぞれの監査基準報告書の目的を考慮するに当たって、監査人は、監査基準報告書の相互関係を踏まえることが求められる。これは、A52項に記載のとおり、監査基準報告書は、監査における一般的な責任を扱っている場合と、特定の項目への適用における詳細な考慮事項を扱っている場合の両方があるためである。例えば、本報告書は、職業的懐疑心の保持を監査人に要求しており、これは、監査の計画と実施の全ての局面において必要であるが、他の監査基準報告書では要求事項として繰り返し記載はしていない。また、監査基準報告書315及び監査基準報告書330は、重要な虚偽表示リスクの識別と評価、及び評価したリスクに対応する手続の立案と実施に関する目的及び要求事項を記載しているが、これは、監査の過程全体を通じて適用されるものである。監査に関する特定の項目を扱う監査基準報告書として、例えば、監査基準報告書540は、監査基準報告書315及び監査基準報告書330における目的と要求事項を、その監査基準報告書の主題に関連してどのように適用すべきかについて記載しているが、目的と要求事項を繰り返し記載してはいない。したがって、監査基準報告書540の目的を達成するために、監査人は、他の関連する監査基準報告書の目的と要求事項を考慮に入れる。
監査手続を追加して実施する必要性の判断における目的の考慮(第20項(1)参照)
A68
監査基準報告書の要求事項は、監査人が、それぞれの監査基準報告書に記載された目的を達成し、それによって監査人の総括的な目的を達成できるようにデザインされている。したがって、監査人は、監査基準報告書の要求事項を適切に適用することにより、総括的な目的の達成のための十分な基礎を得ることが想定されている。しかしながら、個々の監査業務によって状況は様々であり、監査基準報告書においてそれら全ての状況を想定することはできない。したがって、監査人は、監査基準報告書の要求事項を満たし、その目的を達成するために必要な監査手続を判断しなければならない。監査人は、監査業務の状況において存在する特定の事項によって、監査基準報告書に記載された目的を達成するためには、監査基準報告書で要求されている監査手続に追加して監査手続を実施することが必要と判断する場合がある。
十分かつ適切な監査証拠を入手したかどうかの評価における目的の考慮(第20項(2)参照)
A69
監査人は、総括的な目的に照らして、十分かつ適切な監査証拠を入手したかどうかを評価するため、それぞれの監査基準報告書の目的を考慮することが要求される。この結果、入手した監査証拠が十分かつ適切でないと判断した場合には、第20項(2)の要求事項を満たすため、以下のいずれかの方法によることがある。・他の監査基準報告書に従って実施した監査手続の結果、関連する追加の監査証拠を入手したかどうか、又は入手するかどうか評価する。・要求事項を適用するに当たって実施する作業を拡大する。・状況に応じて必要と監査人が判断する他の手続を実施する。上記の方法がいずれも実務的でない又は不可能であると考えられる場合、監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手することができない。この場合、監査人は、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して、監査意見への影響又は監査業務の継続の検討が必要とされる。
関連する要求事項(第21項参照)
A70
状況によっては、特定の監査基準報告書(及びこれによる全ての要求事項)が関連しないことがある。例えば、企業に内部監査部門がない場合、監査基準報告書610「内部監査人の作業の利用」の要求事項は関連しない。
A71
監査業務に関連する監査基準報告書に、ある一定の条件の下で要求される事項(以下「条件付要求事項」という。)が記載されていることがある。条件付要求事項は、要求事項において想定されている状況があり、かつ、その条件に当てはまる場合に関連する。一般的に、要求事項に付される条件が、明示的なこともあれば、黙示的なこともある。例えば、以下のものがある。・監査範囲の制約がある場合、監査範囲の制約に関する限定意見を表明するか又は意見を表明しないよう要求する事項(監査基準報告書705「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見」第12項参照)は、明示的な条件付要求事項である。・監査の過程において識別された内部統制の重要な不備を監査役等に報告することを求める要求事項(監査基準報告書265「内部統制の不備に関するコミュニケーション」第8項参照)は、識別した重要な不備が存在することを前提としている。また、適用される財務報告の枠組みに準拠してセグメント情報が表示・開示されているかどうかについて十分かつ適切な監査証拠を入手することを求める要求事項(監査基準報告書501「特定項目の監査証拠」第12項参照)は、適用される財務報告の枠組みにおいて当該注記が要求され、又は任意に注記されていることを前提としている。これらは、黙示的な条件付要求事項である。要求事項には、適用される法令等を条件としているものがある。例えば、監査人は、「法令等により禁止されていない限り」何らかの措置を講じることが求められることがある。明示的又は黙示的に法令等によって容認又は禁止されている場合がある。
要求事項に代替する手続の実施(第22項参照)
A72
監査基準報告書230は、監査人が要求事項に代えて代替的な監査手続を実施する例外的な状況において監査調書に記載すべき事項に関する要求事項を記載している(監基報230第11項参照)。監査基準報告書は、個々の監査業務の状況に関連しない要求事項の遵守を要求するものではない。
(5)目的を達成できない状況(第23項参照)
A73
監査基準報告書の目的を達成したかどうかは、監査人の職業的専門家としての判断に係る事項である。この判断に当たって、監査人は、監査基準報告書の要求事項を遵守するために実施した監査手続の結果、十分かつ適切な監査証拠を入手したかどうか、及び個々の監査業務の状況において監査基準報告書の目的を達成するために追加して監査手続を実施する必要があるかどうかについて考慮する。したがって、以下のような場合は目的を達成できないことがある。・関連する監査基準報告書の要求事項を監査人が遵守できない場合・第20項に従い監査基準報告書の目的を考慮して必要と判断された追加の監査手続の実施又は追加の監査証拠の入手が、実務上困難である、若しくは不可能である場合(例えば、利用可能な監査証拠に制限がある場合)
A74
監査基準報告書230及び他の関連する監査基準報告書における文書化に関する要求事項を満たす監査調書は、監査人が総括的な目的を達成したとする監査人の結論の基礎について証拠を提供するものである。監査人は、例えば、チェックリスト等によって、個々の目的を達成したことを別途文書化する必要はないが、個々の目的を達成できなかった状況を監査調書に記載することにより、監査人の総括的な目的が達成できなかったかどうかを評価することができる。