出題マップ/監基報240財務諸表監査における不正
出題年度濃いマーカー=直接の根拠下線=補強・関連
← 出題マップに戻る
監基報240
財務諸表監査における不正
1.本報告書の範囲
11-2
(1)不正の特徴
23
(2)不正の防止及び発見に対する責任
4
(3)監査人の責任
56788-2
2.本報告書の目的
9
3.定義
10
1.職業的専門家としての懐疑心
11F11-21213
2.監査チーム内の討議
14
重要な事項の報告の指示
F14-2
3.リスク評価手続とこれに関連する活動
15
企業及び当該企業の属する産業における不正事例の理解
F15-2161718
(2)取締役会及び監査役等(FA10-6項参照)
1920
(3)識別した通例でない又は予期せぬ関係
21
(4)その他の情報
22
(5)不正リスク要因の検討
23
4.不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価
242526
(1)全般的な対応
2728
(2)評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに対応する監査人の手続
29
(3)経営者による内部統制の無効化に関係したリスク対応手続
303132
不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況を識別した場合におけるリスク評価への考慮
32-2F32-3
全般的な結論を形成するための分析的手続の結果の評価
33
虚偽表示の識別
3435
不正による重要な虚偽表示の疑義(FA50-2項参照)
F35-2F35-3F35-4
監査及び監査報告に及ぼす影響の評価
36
6-2.専門家の業務の利用
F36-2
7.監査契約の継続の検討
37
8.経営者確認書
38F38-2
8-2.審査
F38-3
(1)経営者とのコミュニケーション
39F39-2
(2)監査役等とのコミュニケーション
4041
10.適切な規制当局への不正の報告
42
11.監査調書
4344F44-2F44-34546
1.不正の特徴(第3項参照)
A1A2A3A4A5A5-2
1-2.監査人の責任(第8-2項参照)
A5-3
2.職業的専門家としての懐疑心(第11項から第13項参照)
A6A7A8A9A10FA10-2FA10-3
企業及び当該企業の属する産業における不正事例の理解(第F15-2項参照)
FA10-4FA10-5
不正による重要な虚偽表示リスクに関連する質問(第16項から第20項参照)
FA10-6
不正による重要な虚偽表示リスクに関する経営者の評価(第16項(1)参照)
A11
小規模企業に特有の考慮事項
A12
不正リスクの識別と対応について経営者が構築した一連の管理プロセス(第16項(2)参照)
A13
経営者及びその他の企業構成員への質問(第17項参照)
A14A15A16
内部監査担当者への質問(第18項参照)
A17A18A19
(3)その他の情報の検討(第22項参照)
A20
(4)不正リスク要因の検討(第23項参照)
A21A22A23A24
小規模企業に特有の考慮事項
A25
(1)収益認識における不正リスク(第25項参照)
A26A27A28
(2)不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価及び関連する内部統制(第26項参照)
A29A30
(1)全般的な対応(第27項参照)
A31
(2)要員の配置及び指導監督(第28項(1)参照)
A32A33
(3)監査手続の選択における企業が想定しない要素の組込み(第28項(3)参照)
A34
(4)評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに対応する監査人の手続(第29項参照)
A35A36A37A38
仕訳入力及びその他の修正(第31項(1)参照)
A39A40A41A42
(6)会計上の見積り(第31項(2)参照)
A43A44A45
(7)重要な取引の事業上の合理性(第31項(3)参照)
A46
7.監査証拠の評価(第32-2項から第36項参照)
A47
(1)財務諸表の全般的な結論を形成するための分析的手続(第33項参照)
A48
(2)識別した虚偽表示の検討(第34項から第36項参照)
A49A50
不正による重要な虚偽表示の疑義(第F35-2項から第F35-4項参照)
FA50-2
追加的な監査手続(第F35-2項及び第F35-3項(2)参照)
FA50-3
監査及び監査報告に及ぼす影響の評価
A51
7-2.専門家の業務の利用(第F36-2項参照)
FA51-2FA51-3
8.監査契約の継続の検討(第37項参照)
A52A53A54
9.経営者確認書(第38項及び第F38-2項参照)
A55A56FA56-2FA56-3
10.経営者及び監査役等とのコミュニケーション(第39項から第41項参照)
A56-4
(1)経営者とのコミュニケーション(第39項参照)
A57FA57-2
(2)監査役等とのコミュニケーション(第40項参照)
A58A59A60
(3)不正に関連するその他の事項(第41項参照)
A61A62A63
監基報240

監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」

出典:日本公認会計士協会『監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」』最終改正 2024年9月26日公式ページ:JICPA 監査実務指針等の一覧 ↗本文(要求事項・適用指針)を収録。付録(文例・表)と「適用」の節は載せていません。本文は公式の文書から取り出し、一字一句照合しています(2026-10-19 取得)。出題された9か所に線を引いています。

1.本報告書の範囲

1
本報告書は、財務諸表の監査における不正に関する実務上の指針を提供するものである。特に、本報告書は、監査基準報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」及び同330「評価したリスクに対応する監査人の手続」を、不正による重要な虚偽表示リスクに関してどのように適用すべきかについて記載している。
1-2
本報告書には、監査における不正リスク対応基準(以下「不正リスク対応基準」という。)に準拠して監査を実施する際に遵守が求められる要求事項と関連する適用指針(項番号の冒頭に「F」が付されている。)が含まれている(A5-2項参照。監査基準報告書200「財務諸表監査における総括的な目的」第21項(3)参照)。

(1)不正の特徴

2
財務諸表の虚偽表示は、不正又は誤謬から生ずる。不正と誤謬は、財務諸表の虚偽表示の原因となる行為が、意図的であるか否かにより区別する。
3
不正は様々な意味をもつ広範囲な概念であるが、本報告書では、監査人が財務諸表監査において対象とする重要な虚偽表示の原因となる不正について取り扱う。不正には、不正な財務報告(いわゆる粉飾)と資産の流用がある。監査人は、不正の発生が疑われる場合や、まれに不正の発生を識別した場合においても、不正の発生に関する法的判断は行わない(A1項からA5項参照)。

(2)不正の防止及び発見に対する責任

4
不正を防止し発見する基本的な責任は経営者にあるが、取締役会や監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会(以下、監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会を「監査役等」という。)も責任を負っている。なお、本報告書において、経営者とは、取締役又は執行役のうち企業における業務の執行において責任を有する者をいい、監査役設置会社においては代表取締役又は業務執行取締役を指し、指名委員会等設置会社においては代表執行役又は執行役を指す。経営者は、取締役会による監督及び監査役等による監査(以下「取締役会及び監査役等による監視」という。)の下で、不正の発生の機会を減少させることとなる不正の防止や、不正の発見と処罰の可能性によって各人に不正を思いとどまらせることとなる不正の抑止について強調することが重要である。これは、誠実性と倫理的な行動を尊重する企業文化を創出することに対する経営者の姿勢に関係し、取締役会及び監査役等による積極的な監視により強化される。取締役会及び監査役等による監視には、経営者が内部統制を無効化する可能性、又は企業の業績や収益力に関する投資家の判断に影響を与える利益調整など、経営者による財務報告プロセスに対する不適切な干渉を考慮することが含まれる。

(3)監査人の責任

5
監査人は、不正によるか誤謬によるかを問わず、全体としての財務諸表に重要な虚偽表示がないことについて合理的な保証を得る責任がある。監査の固有の限界のため、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して適切に監査計画を策定し適切に監査を実施しても、重要な虚偽表示が発見されないという回避できないリスクがある(監基報200のA50項及びA51項参照)。
6
監査基準報告書200のA50項に記載しているとおり、不正による虚偽表示に関しては、監査の固有の限界が重要な影響を与える可能性がある。監査人にとって不正による重要な虚偽表示を発見できないリスクは、誤謬による重要な虚偽表示を発見できないリスクよりも高くなる。不正には、文書を偽造すること、取引を故意に記録しないこと、又は意図的な虚偽の陳述を行うことのように、不正を隠蔽するために巧妙かつ念入りに仕組まれたスキームを伴うことがあるためである。このような隠蔽が共謀を伴っている場合には、更に発見することが困難になる。また、共謀により、監査証拠が実際には虚偽であるのに、監査人に心証を得られたと信じさせる要因となることがある。監査人が不正を発見できるかどうかは、不正の巧妙さや改竄の頻度と程度、改竄された個々の金額の重要性、共謀の程度、関与した者の組織上の地位などにより影響を受ける。監査人は、不正の可能性を識別できることがあるが、会計上の見積りのような経営者の判断を要する領域における虚偽表示が不正によるものか誤謬によるものかを監査人が判断することは困難である。
7
経営者は、直接的又は間接的に会計記録を改竄すること、不正な財務諸表を作成すること、又は他の従業員による不正を防止するためにデザインされた内部統制を無効化することができる立場にある場合が多いので、監査人が経営者不正による重要な虚偽表示を発見できないリスクは、従業員不正による場合のリスクよりも高い。
8
監査人は、合理的な保証を得るために、経営者が内部統制を無効化するリスクを考慮するとともに、誤謬を発見するために有効な監査手続が不正を発見するためには有効でない可能性があるということを認識し、監査の過程を通じて職業的懐疑心を保持する責任がある。本報告書により要求される事項は、不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価及び不正による虚偽表示を発見する手続の立案に資するように記載している。
8-2
監査人は、不正を含む、企業の違法行為について、法令や職業倫理に関する規定による追加の責任を有することがある。例えば、倫理規則では、以下の要求事項が定められている(A5-3項参照)。(1)違法行為又はその疑いに対処すること。これには以下を含む。・経営者や監査役等との当該事項についてのコミュニケーション・違法行為に対する経営者や監査役等の対応についての評価・追加的な対応が必要かどうかの判断(2)違法行為又はその疑いを他の監査人(例えば、グループ監査におけるグループ内の他の監査人)に伝達すること。(3)違法行為又はその疑いについて文書化すること。これらの追加の責任を遵守することによって、監査人は、本報告書や他の監査基準報告書に準拠した監査に関連する詳細な情報(例えば、経営者や監査役等の誠実性に関する情報)を入手することがある。

2.本報告書の目的

9
本報告書における監査人の目的は、以下の事項のとおりである。(1)不正による重要な虚偽表示リスクを識別し評価すること。(2)評価された不正による重要な虚偽表示リスクについて、適切な対応を立案し実施することにより、十分かつ適切な監査証拠を入手すること。(3)監査中に識別された不正又は不正の疑いに適切に対応すること。

3.定義

10
本報告書における用語の定義は、以下のとおりとする。(1)「不正」-不当又は違法な利益を得るために他者を欺く行為を伴う、経営者、取締役、監査役等、従業員又は第三者による意図的な行為をいう。(2)「不正リスク要因」-不正を実行する動機やプレッシャーの存在を示す事象や状況、不正を実行する機会を与える事象や状況、又は不正行為に対する姿勢や不正行為を正当化する状況をいう(A21項からA23項参照)。(3)「不正リスク」-不正による重要な虚偽表示リスクの略称。不正による重要な虚偽表示リスク、不正リスクいずれの表現も用いている。(4)「不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況」-不正による重要な虚偽表示が行われている可能性を示す状況をいい、監査手続を実施した結果、当該状況を識別した場合、監査人は、アサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに関する評価が依然として適切であるかどうかを判断する際にこれを考慮することが求められる。F(5)「不正による重要な虚偽表示を示唆する状況」-不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況のうち、不正による重要な虚偽表示が行われている可能性がより高いものとして不正リスク対応基準で取り扱われているものをいい、当該状況が存在する場合、監査人は、経営者に質問し説明を求めるとともに、追加的な監査手続を実施することが求められる。F(6)「不正による重要な虚偽表示の疑義」-不正による重要な虚偽表示の疑いが高いと監査人が判断した状況をいい、以下のいずれかに当てはまる場合が該当する。−不正による重要な虚偽表示を示唆する状況について、関連して入手した監査証拠に基づいて経営者の説明に合理性がないと監査人が判断した場合-識別し評価した不正による重要な虚偽表示リスクに対応して当初計画した監査手続を実施した結果、必要と判断した追加的な監査手続を実施してもなお、不正リスクに関連する十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合《Ⅱ要求事項》

1.職業的専門家としての懐疑心

11
監査基準報告書200第14項に記載のとおり、監査人は、経営者、取締役及び監査役等の信頼性及び誠実性に関する監査人の過去の経験にかかわらず、不正による重要な虚偽表示が行われる可能性に常に留意し、監査の全過程を通じて、職業的懐疑心を保持しなければならない(A6項及びA7項参照)。
F11-2
監査人は、不正による重要な虚偽表示リスクについては、その評価、対応する監査手続の実施、入手した監査証拠の評価に際し不正による重要な虚偽表示を示唆する状況を看過することがないよう、職業的懐疑心を発揮しなければならない。また、監査人は、職業的懐疑心を高め、不正による重要な虚偽表示の疑義に該当するかどうかを判断し、当該疑義に対応する監査手続を実施しなければならない。
12
監査人は、記録や証憑書類の真正性に疑いを抱く理由がある場合を除いて、通常、記録や証憑書類を真正なものとして受け入れることができる。しかしながら、監査の過程で把握した状況により、ある記録や証憑書類が真正ではないと疑われる場合、又は文言が後から変更されているが監査人に開示されていないと疑われる場合には、更に調査しなければならない(A8項参照)。
13
監査人は、経営者、取締役及び監査役等への質問に対する回答が矛盾していると判断した場合には、これを調査しなければならない。

2.監査チーム内の討議

14
監査基準報告書315第16項及び第17項は、監査チーム内で討議することと、討議に参加していない監査チームメンバーへ伝達する事項を決定することを要求している。この討議では、不正がどのように発生するのかも含め、不正による重要な虚偽表示がどこにどのように行われる可能性があるのかについて、特に重点を置かなければならない。監査チームメンバーは、経営者、取締役及び監査役等が信頼でき誠実であるという考えを持たずに、討議を行わなければならない(A9項及びA10項参照)。

重要な事項の報告の指示

F14-2
監査基準報告書220「監査業務における品質管理」第14項は、監査責任者に対し、職業的専門家としての基準及び適用される法令等に準拠して監査業務を指示、監督及び実施することについて責任を負うことを要求している。監査責任者は、監査業務の監督に際し、監査の過程で発見された不正に関連する重要な会計及び監査上の問題となる可能性がある事項を、監査責任者及び監査チーム内のより経験のあるメンバーに報告する必要があることを監査チームメンバーに指示しなければならない(FA10-2項及びFA10-3項参照)。

3.リスク評価手続とこれに関連する活動

15
監査基準報告書315で要求される、企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業の内部統制システムを理解するためのリスク評価手続とこれに関連する活動を実施する際、監査人は、不正による重要な虚偽表示リスクを識別するための情報を入手するため、第16項(不正リスク対応基準が適用される場合は、第F15-2項)から第23項の手続を実施しなければならない。

企業及び当該企業の属する産業における不正事例の理解

F15-2
監査人は、不正による重要な虚偽表示リスクを識別するための情報を入手するため、以下を理解しなければならない(FA10-4項及びFA10-5項参照)。(1)公表されている主な不正事例(2)不正に利用される可能性のある一般的及び企業の属する産業特有の取引慣行《(1)経営者及びその他の企業構成員》(FA10-6項参照)
16
監査人は、以下の事項について経営者に質問しなければならない。(1)財務諸表に不正による重要な虚偽表示が行われるリスクに関する経営者の評価(評価の内容、範囲及び頻度を含む。)(A11項及びA12項参照)(2)経営者が不正リスクの識別と対応について構築した一連の管理プロセス(経営者が識別したか注意を払っている特定の不正リスク、又は不正リスクが存在する可能性がある取引種類、勘定残高又は注記事項を含む。)(A13項参照)(3)上記の管理プロセスに関して経営者と監査役等の協議が行われている場合にはその内容(4)経営者の企業経営に対する考え方や倫理的な行動についての見解を従業員に伝達している場合にはその内容
17
監査人は、経営者、及び必要な場合にはその他の企業構成員に、その企業に影響を及ぼす不正、不正の疑い又は不正の申立てを把握しているかどうかを質問しなければならない(A14項からA16項参照)。
18
監査人は、内部監査機能を有する企業については、内部監査に従事する適切な者に対して、企業に影響を及ぼす不正、不正の疑いや不正の申立てを把握しているかどうかを判断するため、及び不正リスクに関する見解を得るため、質問を行わなければならない(A17項参照)。

(2)取締役会及び監査役等(FA10-6項参照)

19
監査人は、不正リスクの識別と対応について経営者が構築した一連の管理プロセスに対する監視、及び不正リスクを低減するために経営者が構築した内部統制に対する監視を、取締役会及び監査役等がどのように実施しているかを理解しなければならない(A18項及びA19項参照)。
20
監査人は、監査役等にその企業に影響を及ぼす不正、不正の疑い又は不正の申立てを把握しているかどうかを質問しなければならない。これらの質問は、経営者の回答を補強するためにも行われる。

(3)識別した通例でない又は予期せぬ関係

21
監査人は、収益勘定を対象としたものを含めて、分析的手続の実施により識別した通例でない又は予期せぬ関係が、不正による重要な虚偽表示リスクを示す可能性があるかどうかを評価しなければならない。

(4)その他の情報

22
監査人は、自ら入手したその他の情報が不正による重要な虚偽表示リスクを示しているかどうかを考慮しなければならない(A20項参照)。

(5)不正リスク要因の検討

23
監査人は、実施したその他のリスク評価手続とこれに関連する活動により入手した情報が、不正リスク要因の存在を示しているかどうかを検討しなければならない。不正リスク要因の存在は、必ずしも不正が行われていることを示すわけではないが、不正が発生した状況においては、不正リスク要因が存在していることが多く、したがって不正による重要な虚偽表示リスクを示すことがある(A21項からA25項参照)。

4.不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価

24
監査人は、第23項で識別した不正リスク要因を考慮し、監査基準報告書315第27項に記載のとおり、財務諸表全体レベル及びアサーション・レベルの二つのレベルで不正による重要な虚偽表示リスクを識別し評価しなければならない。
25
監査人は、不正による重要な虚偽表示リスクを識別し評価する際、収益認識には不正リスクがあるという推定に基づき、どのような種類の収益、取引形態又はアサーションに関連して不正リスクが発生するかを判断しなければならない。監査人は、収益認識に関する推定を適用する状況にないと結論付け、そのため収益認識を不正による重要な虚偽表示リスクとして識別していない場合には、第46項に従い監査調書を作成しなければならない(A26項からA28項参照)。
26
監査人は、不正による重要な虚偽表示リスクであると評価したリスクを、特別な検討を必要とするリスクとして取り扱わなければならない。そのため、監査人は、当該リスクに対応する内部統制を識別し、デザインを評価し、業務に適用されているかどうかを判断しなければならない(A29項及びA30項並びに監基報315第25項(1)①及び(4)参照)。

(1)全般的な対応

27
監査人は、監査基準報告書330第4項に記載のとおり、評価した財務諸表全体レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに応じて、全般的な対応を決定しなければならない(A31項参照)。
28
監査人は、財務諸表全体レベルの不正による重要な虚偽表示リスクが識別された場合には、評価したリスクに応じて全般的な対応を決定する際に、以下の事項を実施しなければならない。(1)重要な役割を与えられる監査チームメンバーの知識、技能及び能力、並びに評価した財務諸表全体レベルの不正による重要な虚偽表示リスクを考慮した上での監査チームメンバーの配置と指導監督(A32項及びA33項参照)(2)企業が採用している会計方針の選択と適用、特に主観的な測定と複雑な取引に関係する会計方針について、経営者による利益調整に起因する不正な財務報告の可能性を示唆しているかどうかの評価(3)実施する監査手続の種類、時期及び範囲の選択に当たって、企業が想定しない要素の組込み(A34項参照)

(2)評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに対応する監査人の手続

29
監査人は、監査基準報告書330第5項に記載のとおり、評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに応じて、リスク対応手続を立案し実施しなければならない。監査人は、評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに対しては、当該アサーションについて不正リスクを識別していない場合に比べ、より適合性が高く、より証明力が強く、又はより多くの監査証拠を入手しなければならない(A35項からA38項参照)。

(3)経営者による内部統制の無効化に関係したリスク対応手続

30
経営者は、有効に運用されている内部統制を無効化することによって、会計記録を改竄し不正な財務諸表を作成することができる特別な立場にある。経営者による内部統制を無効化するリスクの程度は企業によって異なるが、全ての企業に存在する。内部統制の無効化は予期せぬ手段により行われるため、不正による重要な虚偽表示リスクであり、それゆえ特別な検討を必要とするリスクである。
31
監査人は、経営者による内部統制を無効化するリスクに対する監査人の評価にかかわらず、以下の監査手続を立案し実施しなければならない。(1)総勘定元帳に記録された仕訳入力や総勘定元帳から財務諸表を作成する過程における修正についての適切性を検証するために以下の手続を立案し実施すること(A39項からA42項参照)。①財務報告プロセスの担当者に対して、仕訳入力及び修正のプロセスに関連する不適切な又は通例でない処理について質問すること。②期末時点で行われた仕訳入力及び修正を抽出すること。③仕訳入力及び修正を監査対象期間を通じて検証する必要性を考慮すること。(2)経営者の偏向が会計上の見積りに存在するかどうかを検討し、偏向の発生している状況が、もしあれば、不正による重要な虚偽表示リスクを示すかどうか評価するために以下の手続を実施すること(A43項からA45項参照)。①財務諸表に含まれる会計上の見積りにおける経営者の判断及び決定が、個々には合理的であるとしても、不正による重要な虚偽表示リスクとなるような経営者の偏向が存在する可能性を示唆するものかどうかを評価すること。示唆している場合には、会計上の見積りを全体として再評価すること。②過年度の財務諸表に反映された重要な会計上の見積りに関連する経営者の仮定及び判断に対して、遡及的に検討すること。(3)企業の通常の取引過程から外れた重要な取引、又は企業及び企業環境に関する監査人の理解や監査中に入手した情報を考慮すると通例でないと判断されるその他の重要な取引について、取引の事業上の合理性(又はその欠如)が、不正な財務報告を行うため又は資産の流用を隠蔽するために行われた可能性を示唆するものであるかどうかを評価すること(A46項参照)。
32
監査人は、識別した経営者による内部統制を無効化するリスクに対応するために、上記の監査手続に加えて、その他の監査手続を実施する必要があるかどうかを決定しなければならない。すなわち、第31項に記載している手続では十分に対応していない経営者による内部統制を無効化するリスクを識別した場合である。

不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況を識別した場合におけるリスク評価への考慮

32-2
監査人は、不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況を識別した場合には、監査基準報告書330第24項に従い、当該状況を考慮して、アサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに関する評価が依然として適切であるかどうかを判断しなければならない(A47項参照)。
F32-3
監査人は、不正による重要な虚偽表示リスクに対する十分かつ適切な監査証拠を入手したかどうかを判断しなければならない。また、監査人は、財務諸表の重要なアサーションについて十分かつ適切な監査証拠を入手していないと判断した場合には、追加の監査証拠を入手するため、監査手続を実施しなければならない(監基報330第25項及び第26項参照)。

全般的な結論を形成するための分析的手続の結果の評価

33
監査人は、企業に関する監査人の理解と財務諸表が整合していることについて全般的な結論を形成するために、監査の最終段階で実施した分析的手続の結果が、これまで認識していなかった不正による重要な虚偽表示リスクを示唆していないかどうかを評価しなければならない(A48項参照)。

虚偽表示の識別

34
監査人は、虚偽表示を識別した場合、当該虚偽表示が不正の兆候であるかどうかを評価しなければならない。不正の兆候であると判断したときには、不正は単発的に発生する可能性は少ないことを認識し、他の監査の局面との関係、特に経営者の陳述の信頼性に留意して、当該虚偽表示が与える影響を評価しなければならない(A49項参照)。
35
監査人は、重要であるかどうかにかかわらず、虚偽表示を識別した場合、当該虚偽表示が不正に起因するものであるか又はその可能性があり、経営者(特に上級経営者)が関与していると考えるときには、不正による重要な虚偽表示リスクに関する評価と、実施するリスク対応手続の種類、時期及び範囲への影響を再評価しなければならない。さらに、監査人は、それまでに入手した証拠の証明力を再検討する場合、従業員、経営者又は第三者による共謀の可能性も検討しなければならない(A50項参照)。

不正による重要な虚偽表示の疑義(FA50-2項参照)

F35-2
監査人は、監査実施の過程において、不正による重要な虚偽表示を示唆する状況(付録4参照)を識別した場合には、不正による重要な虚偽表示の疑義が存在していないかどうかを判断するために、経営者に質問し説明を求めるとともに、追加的な監査手続を実施しなければならない(FA50-3項参照)。
F35-3
監査人は、以下の場合、不正による重要な虚偽表示の疑義があるとして扱わなければならない。(1)識別した不正による重要な虚偽表示を示唆する状況について、関連して入手した監査証拠に基づいて経営者の説明に合理性がないと判断した場合(2)識別し評価した不正による重要な虚偽表示リスクに対応して当初計画した監査手続を実施した結果必要と判断した追加的な監査手続を実施してもなお、不正リスクに関連する十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合(FA50-3項参照)監査人は、不正による重要な虚偽表示を示唆する状況を識別したが、不正による重要な虚偽表示の疑義に該当しないと判断した場合には、第F44-2項に従い監査調書を作成しなければならない。
F35-4
監査人は、不正による重要な虚偽表示の疑義があると判断した場合には、当該疑義に関する十分かつ適切な監査証拠を入手するため、リスク評価及び立案したリスク対応手続を修正し、不正による重要な虚偽表示の疑義に関する十分な検討を含め、想定される不正の態様等に直接対応した監査手続を実施しなければならない。

監査及び監査報告に及ぼす影響の評価

36
監査人は、不正が行われた結果として財務諸表に重要な虚偽表示が行われていると判断した場合、又はそうであるかどうかを判断することができない場合には、監査及び監査報告に及ぼす影響を評価しなければならない(A51項参照)。

6-2.専門家の業務の利用

F36-2
監査人は、監査基準報告書620「専門家の業務の利用」第6項に従い、不正による重要な虚偽表示リスクの評価、監査手続の実施、監査証拠の評価において、不正リスクの内容や程度に応じて専門家の業務を利用する必要があるかどうかを判断しなければならない(FA51-2項及びFA51-3項参照)。

7.監査契約の継続の検討

37
監査人は、不正又は不正の疑いにより虚偽表示が行われ、監査契約の継続が問題となるような例外的な状況に直面した場合には、以下を実施しなければならない(A52項からA54項参照)。(1)その状況において必要となる職業的専門家としての基準及び適用される法令上の責任を判断すること(企業、監査役等又は規制当局等の第三者への報告が必要かどうかを含む。)。(2)監査契約の解除が可能な場合、監査契約の解除の当否を考慮すること。(3)監査人が監査契約を解除する場合には、以下の事項を実施すること。①監査契約の解除及びその理由に関して、適切な階層の経営者及び監査役等と協議すること。②職業的専門家としての基準及び適用される法令等に基づき、企業又は規制当局等に、監査契約の解除及びその理由を報告する必要性について検討すること。

8.経営者確認書

38
監査人は、以下の事項を記載した経営者確認書を入手しなければならない(A55項及びA56項参照)。(1)不正を防止し発見する内部統制を整備及び運用する責任は、経営者にあることを承知している旨(2)不正による財務諸表の重要な虚偽表示の可能性に対する経営者の評価を監査人に示した旨(3)以下の企業に影響を与える不正又は不正の疑いがある事項に関する情報が存在する場合、当該情報を監査人に示した旨①経営者による不正又は不正の疑い②内部統制において重要な役割を担っている従業員による不正又は不正の疑い③上記以外の者による財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性がある不正又は不正の疑い(4)従業員、元従業員、投資家、規制当局又はその他の者から入手した財務諸表に影響する不正の申立て又は不正の疑いがある事項に関する情報を監査人に示した旨
F38-2
監査人は、不正による重要な虚偽表示の疑義があると判断した場合には、当該疑義に関連した記述を経営者確認書に含めることを要請するかどうかを検討しなければならない(FA56-2項及びFA56-3項参照)。

8-2.審査

F38-3
監査責任者は、監査事務所の定める審査に関する方針及び手続に従って、不正による重要な虚偽表示リスクへの対応に関する重要な判断と結論について、監査の適切な段階で審査を受けなければならない。また、監査責任者は、不正による財務諸表の重要な虚偽表示の疑義があると判断した場合には、当該疑義に係る監査チームの対応について、監査事務所の方針と手続に従って、適切な審査担当者による審査を受け、審査が完了するまでは意見を表明してはならない。

(1)経営者とのコミュニケーション

39
監査人は、不正を識別した場合、又は不正が存在する可能性があることを示す情報を入手した場合、法令により禁止されていない限り、不正の防止及び発見に対する責任を負う者にその責任に関する事項を知らせるため、適切な階層の経営者に適時にこれらの事項についてコミュニケーションを行わなければならない(A56-4項、A57項及びFA57-2項参照)。
F39-2
監査人は、経営者の関与が疑われる不正又は不正の疑い(不正リスク対応基準で規定されている不正による重要な虚偽表示の疑義があると判断した場合を含む。)を発見した場合には、第40項に従って監査役等とコミュニケーションを行い、協議の上、経営者に問題点の是正等適切な措置を求めなければならない。

(2)監査役等とのコミュニケーション

40
監査人は、以下の企業に影響を与える不正を識別したか又は不正の疑い(不正リスク対応基準が適用される場合、不正による重要な虚偽表示の疑義があると判断した場合を含む。)を抱いた場合、適時に、監査役等とコミュニケーションを行わなければならない。(1)経営者による不正又は不正の疑い(2)内部統制において重要な役割を担っている従業員による不正又は不正の疑い(3)上記以外の者による財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性がある不正又は不正の疑い監査人は、不正又は不正の疑いに経営者の関与が疑われる場合、監査役等とコミュニケーションを行い、監査を完了するため必要となる監査手続の種類、時期及び範囲についても協議しなければならない。法令によって禁止されていない限り、当該監査役等とのコミュニケーションは求められる(A56-4項、A58項からA60項参照)。
41
法令によって禁止されていない限り、監査人は、不正に関連するその他の事項で、監査役等の責任に関係すると判断した事項について監査役等とコミュニケーションを行わなければならない(A56-4項及びA61項参照)。

10.適切な規制当局への不正の報告

42
監査人は、不正を識別した場合、以下に該当するかどうかを判断しなければならない(A62項参照)。(1)法令により、適切な規制当局に報告することが監査人に求められている。(2)職業倫理規程により、追加的な対応として、適切な規制当局に報告することが例示されている。

11.監査調書

43
監査人は、監査基準報告書315第37項が要求している重要な虚偽表示リスクに関する監査人の識別と評価についての監査調書に、以下の事項を記載しなければならない(監査基準報告書230「監査調書」第7項から第10項及びA6項参照)。(1)不正による重要な虚偽表示が行われる可能性に関する監査チーム内での討議及び重要な結論(2)識別し評価した財務諸表全体レベルの不正による重要な虚偽表示リスクとアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスク(3)不正による重要な虚偽表示リスクに対応する統制活動において識別された内部統制
44
監査人は、監査基準報告書330第27項が要求している評価した重要な虚偽表示リスクに応じた対応についての監査調書に、以下の事項を記載しなければならない。(1)財務諸表全体レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに応じた全般的な対応、及び実施したリスク対応手続の種類、時期及び範囲(2)アサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクと実施したリスク対応手続との関連性(3)監査手続の結果(経営者による内部統制を無効化するリスクに対応するために実施した監査手続を含む。)
F44-2
監査人は、不正による重要な虚偽表示を示唆する状況を識別したが、当該状況が不正による重要な虚偽表示の疑義に該当しないと判断した場合には、その旨とその理由を監査調書に記載しなければならない。
F44-3
監査人は、不正による重要な虚偽表示の疑義があると判断した場合、当該疑義の内容、実施した監査手続とその結果、監査人としての結論及びその際になされた職業的専門家としての重要な判断について、監査調書に記載しなければならない。
45
監査人は、不正に関し、経営者及び監査役等と行ったコミュニケーション並びに規制当局等への報告について、監査調書に記録しなければならない。
46
監査人は、収益認識に関係する不正による重要な虚偽表示リスクがないと判断したときは、その理由を監査調書に記録しなければならない。

1.不正の特徴(第3項参照)

A1
不正な財務報告であるか資産の流用であるかを問わず、不正は、不正を実行する「動機・プレッシャー」、「機会」及び不正行為に対する「姿勢・正当化」を伴って生じる。例えば、以下のような状況が不正の発生に関係している。・経営者が、企業内外の関係者から期待される(そして、恐らく非現実的な)利益目標又はその他の財務的な目標達成のプレッシャー下にある場合、財務的な目標達成の失敗の影響は経営者にとって深刻となり得ることから、不正な財務報告を実行する動機・プレッシャーが存在することがある。同様に、収入を超えた生活をしている者などは、資産を流用する動機をもつ場合がある。・例えば責任のある立場にいるため、又は特定の内部統制の不備を知っているために、内部統制を無効化できると考える者は、不正を実行する機会を有している。不正行為を働くことを正当化する者がいる。不誠実な行為と知りながら又は意図的に、そのような行為に関与することを許容してしまうような姿勢、人格又は価値観を有している者もいる。しかし、普段は誠実であっても、非常に強いプレッシャーを受けた場合には不正を実行する可能性がある。
A2
不正な財務報告とは、財務諸表の利用者を欺くために財務諸表に意図的な虚偽表示を行うことであり、計上すべき金額を計上しないこと又は必要な注記を行わないことを含んでいる。不正な財務報告は、企業の業績や収益力について財務諸表の利用者を欺くために、経営者が利益調整を図ることを目的として行われる可能性がある。このような利益調整は、経営者の些細な行為又は仮定や判断の不適切な変更から始まることが多い。これらの行為は、動機やプレッシャーによって、不正な財務報告にまで至ることがある。例えば、業績報酬を最大にしたいという欲求や、市場の期待に応えるというプレッシャーのために、不正な財務報告を行うことがある。また、税金を最小限にするための利益の圧縮、又は銀行からの資金調達を確保するための利益の水増しといった動機を持つこともある。
A3
不正な財務報告は、以下の方法により行われることがある。・財務諸表の基礎となる会計記録や証憑書類の改竄、偽造又は変造・取引、会計事象又は重要な情報の財務諸表における虚偽の記載や意図的な除外・金額、分類、表示又は注記事項に関する意図的な会計基準の不適切な適用
A4
不正な財務報告は、経営者による内部統制の無効化を伴うことが多い。経営者は、以下のような方法を用いて意図的に内部統制を無効化し、不正を行うことがある。・経営成績の改竄等の目的のために架空の仕訳入力(特に期末日直前)を行う。・会計上の見積りに使用される仮定や判断を不適切に変更する。・会計期間に発生した取引や会計事象を認識しないこと、又は認識を不適切に早めたり遅らせたりする。・適用される財務報告の枠組みで要求される注記事項又は適正表示を達成するために必要な注記事項を省略したり、不明瞭に記載したり、又は誤った表示をする。・財務諸表に記録される金額に影響を与える可能性のある事実を隠蔽する。・企業の財政状態又は経営成績を偽るために仕組まれた複雑な取引を行う。・重要かつ通例でない取引についての記録や契約条項を変造する。
A5
資産の流用は、従業員により行われ、比較的少額であることが多い。しかし、資産の流用を偽装し隠蔽することを比較的容易に実施できる立場にある経営者が関与することもある。資産の流用は、以下のような方法で行われることがある。・受取金の着服(例えば、売掛金の回収金を流用すること、又は償却済債権の回収金を個人の銀行口座へ入金させること。)・物的資産の窃盗又は知的財産の窃用(例えば、棚卸資産を私用又は販売用に盗むこと、スクラップを再販売用に盗むこと、競合企業と共謀して報酬と引換えに技術的情報を漏らすこと。)・企業が提供を受けていない財貨・サービスに対する支払(例えば、架空の売主に対する支払、水増しされた価格と引換えに売主から企業の購買担当者に対して支払われるキックバック、架空の従業員に対する給与支払)・企業の資産の私的な利用(例えば、企業の資産を個人又はその関係者の借入金の担保に供すること。)なお、資産の流用においては、資産の紛失や正当な承認のない担保提供といった事実を隠蔽するために記録又は証憑書類の偽造を伴うことが多い。
A5-2
不正リスク対応基準に準拠して監査を実施する際に遵守が求められる要求事項と関連する適用指針は、不正リスク対応基準が適用されない監査業務においても、業務の状況に応じて、参考となることがある(第1-2項参照)。

1-2.監査人の責任(第8-2項参照)

A5-3
法令や職業倫理に関する規定により、監査人は追加的な手続を実施し、追加的な対応を講じることが求められている場合がある。例えば、倫理規則により、監査人は違法行為又はその疑いに対処するよう措置を講じ、追加的な対応が必要かどうかを判断することが求められている。当該措置により、監査人は違法行為又はその疑いを監査チーム内の監査人(構成単位の監査人を含む。)又はグループ監査以外の目的でグループの構成単位において業務を実施する他の監査人(例えば、構成単位において法定監査のみを実施している監査人)に伝達することが求められる場合がある(倫理規則R360.16項及び第360.18 A1項参照)。

2.職業的専門家としての懐疑心(第11項から第13項参照)

A6
職業的懐疑心は、入手した情報と監査証拠が、不正による重要な虚偽表示が存在する可能性を示唆していないかどうかについて継続的に疑問をもつことを必要としている。これには、監査証拠として利用する情報の信頼性の検討、及びこれに関連する情報の作成と管理に関する統制活動において識別された内部統制があればその検討が含まれる。不正の持つ特性から、不正による重要な虚偽表示リスクを検討する場合には、経営者の説明を批判的に検討するなど、監査人の職業的懐疑心は特に重要である。
A7
監査人が過去の経験に基づいて、経営者、取締役及び監査役等は信頼が置ける又は誠実であると認識していたとしても、状況が変化している可能性があることから、不正による重要な虚偽表示リスクを検討する場合には、経営者の説明を批判的に検討するなど、監査人の職業的懐疑心は特に重要である。
A8
監査基準報告書200のA46項に記載のとおり、監査では、記録や証憑書類の鑑定を伴うことはほとんどなく、監査人はそのような鑑定の技能を習得していないし鑑定の専門家であることも期待されていない。しかし、ある記録や証憑書類が真正ではない、又は文言が後から変更されているが監査人に開示されていないと疑われる状況を識別した場合、さらに行う調査の手続には、以下の事項を含むことがある。・第三者への直接確認・記録や証憑書類の真正性を評価する専門家の利用《3.監査チーム内の討議》(第14項参照)
A9
財務諸表に不正による重要な虚偽表示が行われる可能性について監査チーム内で討議することは、以下の事項を可能にする。・監査チーム内で豊富な経験を有するメンバーが、不正による重要な虚偽表示が財務諸表のどこにどのように行われる可能性があるのかについての知識を共有すること。・監査人が、不正による重要な虚偽表示が財務諸表に行われる可能性への適切な対応を検討し、監査チームのどのメンバーがどの監査手続を実施するかについて決定すること。・監査人が、監査手続の実施結果をどのように監査チーム内で共有するか、及び知り得た不正の申立てにどのように対処するかについて決定すること。
A10
討議内容には、以下の事項を含む。・財務諸表(注記事項を含む。)のどこに、どのように不正による重要な虚偽表示が行われる可能性があるのか、経営者がどのように不正な財務報告を行ったり、隠蔽する可能性があるのか、どのように企業の資産が流用される可能性があるのかについての意見交換・利益調整を示唆する状況及び不正な財務報告となり得る利益調整のために経営者が採る手法の検討・経営者が注記事項を、適切な理解を妨げるような方法(例えば、余り重要でない情報を多く含めたり、不明瞭で曖昧な表現を使用するなど)で記述しようとするリスクの検討・「動機・プレッシャー」、「機会」、「姿勢・正当化」に関する企業の外部及び内部要因の検討・現金など流用されやすい資産に対する資産保全手続についての経営者の関与の検討・経営者や従業員の不自然な又は説明のつかない行動や生活様式の変化の検討・不正による重要な虚偽表示が行われる可能性に対し、監査の過程を通じて、職業的懐疑心を保持することの重要性の強調・不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況に遭遇した場合には、その状況の検討・実施する監査手続の種類、時期及び範囲に、企業が想定しない要素をどのように組み込むかの検討・不正による重要な虚偽表示が行われる可能性に対応して実施する監査手続、及びその監査手続が他の監査手続よりも有効であるかどうかの検討・監査人が知り得た不正の申立ての検討・経営者による内部統制を無効化するリスクの検討《重要な事項の報告の指示》(第F14-2項参照)
FA10-2
監査基準報告書220のA12項に記載されているとおり、監督には、監査の過程で発見された重要な会計及び監査上の問題となる可能性がある事項をより経験のある監査チーム内のメンバーに報告するように指示し、当該事項の重要性の程度を検討し、監査計画を適切に修正すること、また、専門的な見解の問合せが必要な事項又はより経験のある監査チームのメンバーが検討を必要とする事項を特定することが含まれる。
FA10-3
監査の過程で発見された不正に関連する重要な会計及び監査上の問題となる可能性がある事項には、事業上の合理性が不明瞭な通例でない重要な取引等、不正による重要な虚偽表示を示唆する状況が含まれる。

企業及び当該企業の属する産業における不正事例の理解(第F15-2項参照)

FA10-4
公表されている主な不正事例には、例えば、以下に記載された事例が相当することになる。・公認会計士・監査審査会が公表する監査事務所に対する直近の検査結果・日本公認会計士協会が会員向けに公表している会員の監査業務の実施状況の直近の調査結果これらの理解は、例えば、監査事務所内外で実施される不正に関する適切な研修への参加によって得られる。
FA10-5
不正に利用される可能性のある一般的及び企業の属する産業特有の取引慣行の理解は、監査基準報告書315第18項に従って以下の事項を理解する際に併せて得られることが多い。・企業及び企業環境に関する事項・適用される財務報告の枠組み並びに企業の会計方針及び会計方針の変更がある場合にはその理由これらの事項は、監査基準報告書315第37項に従って、監査調書に記載されることになる。また、これらの理解は、監査契約の新規の締結及び更新に当たって入手した情報により得られることがある。

不正による重要な虚偽表示リスクに関連する質問(第16項から第20項参照)

FA10-6
不正リスク対応基準において求められている不正による重要な虚偽表示リスクに関連する質問は、本報告書の第16項から第20項によって実施されることになる。

不正による重要な虚偽表示リスクに関する経営者の評価(第16項(1)参照)

A11
経営者は、内部統制を整備及び運用し、財務諸表を作成する責任を有する。したがって、不正リスクに関する経営者による評価及び不正を防止し発見するために構築した内部統制に関する経営者による評価について、監査人が経営者に質問することは有益である。経営者による評価の内容、範囲及び頻度は、企業により様々である。ある企業では、経営者は、年次ベースで又は継続的な監視活動の一部として、詳細な評価を実施する。また、別の企業では、経営者による評価が、制度化されているとまではいえず、かつ頻度も多くないことがあり得る。経営者による評価の内容、範囲及び頻度は、企業の統制環境についての監査人の理解に影響を与える。例えば、経営者が不正リスクに関する評価を行っていない場合は、経営者が内部統制を重視していないことを示唆している可能性がある。

小規模企業に特有の考慮事項

A12
ある企業、特に比較的小規模な企業では、経営者の評価の焦点が、従業員不正に関するリスクや資産流用に関するリスクに置かれることもある。

不正リスクの識別と対応について経営者が構築した一連の管理プロセス(第16項(2)参照)

A13
多数の事業所がある企業の場合、経営者の管理プロセスには、事業所や事業セグメントによって異なるレベルの監視活動が含まれることがある。また、経営者は、不正リスクが存在する可能性がより高い事業所や事業セグメントを識別していることがある。

経営者及びその他の企業構成員への質問(第17項参照)

A14
経営者に対する質問は、従業員不正による重要な虚偽表示リスクに関しての有益な情報を入手することができるが、経営者不正による重要な虚偽表示リスクに関しての有益な情報を入手することができる可能性は低い。監査人によるその他の企業構成員に対する質問は、通常は伝達されない情報を企業構成員が監査人に伝える機会を提供することがある。
A15
監査人が、不正の存在や疑いについて質問するその他の企業構成員には、例えば、以下の者が含まれる。・財務報告プロセスに直接関係しない業務担当者・異なる職位の従業員・複雑な又は通例でない取引の開始、記録又は処理に関係した従業員と、その管理者又は監視者・法務部門担当者・倫理担当役員又はその同等者・不正の申立てに対応する責任者
A16
経営者が最も不正を行いやすい立場にあることが多い。したがって、監査人は、質問に対する経営者の回答を評価する場合には、職業的懐疑心を保持して、質問に対する回答を他の情報で裏付けることが必要かどうかを判断する。

内部監査担当者への質問(第18項参照)

A17
監査基準報告書315第13項(1)及び第23項(1)②、並びに監査基準報告書610「内部監査人の作業の利用」では、内部監査機能を有する企業に対する監査に関連する要求事項を定め、指針を提供している。これらの報告書の要求事項を実行するため、監査人は、例えば、以下のような特定の内部監査活動について質問することがある。・内部監査人が不正を発見するために監査対象期間中に実施した手続・上記手続を実施したことにより発見した事項に対する、経営者による十分な対応の有無《(2)取締役会及び監査役等による監視活動の理解》(第19項参照)
A18
取締役会及び監査役等は、リスク管理、財務報告及び法令遵守に関する体制を監視する責任がある。取締役会及び監査役等は、不正リスクに対する評価と当該リスクに対応する内部統制に対する監視の役割を果たしている(監査基準報告書260「監査役等とのコミュニケーション」A1項からA7項参照)。
A19
監査人は、取締役会及び監査役等が実施している監視活動を理解することにより、経営者による不正が行われる可能性、不正リスクに対応する内部統制の妥当性及び経営者の能力と誠実性に関しての見識を得ることがある。監査人は、取締役会及び監査役会(又は監査等委員会若しくは監査委員会)の議事録の閲覧又は監査役等若しくは非業務執行取締役への質問などによって、これらを理解することができる場合がある。

(3)その他の情報の検討(第22項参照)

A20
分析的手続の実施により入手した情報に加えて、企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業の内部統制システムについて入手したその他の情報は、不正による重要な虚偽表示リスクの識別に有用なことがある。監査チーム内の討議により、そのようなリスクの識別に役立つ情報を入手することがある。さらに、監査契約の新規の締結及び更新に関する手続並びに企業に対して実施したその他の業務、例えば、期中レビュー業務において入手した情報は、不正による重要な虚偽表示リスクの識別に関連することがある。

(4)不正リスク要因の検討(第23項参照)

A21
不正は、通常、隠蔽されるためその発見は非常に困難であるが、監査人は、不正を実行する動機やプレッシャーの存在を示したり、又は不正を実行する機会を与えたりする事象や状況の存在を識別する場合がある。不正リスク要因としては、例えば、以下の事象や状況がある。・エクイティ・ファイナンスのために第三者の期待に応えなければならない場合には、不正を実行するプレッシャーを生じさせることがある。・非現実的な利益目標の達成に対する多額のボーナスは、不正を実行する動機を生じさせることがある。・有効でない統制環境は、不正を実行する機会を生じさせることがある。
A22
不正リスク要因に、重要度により序列を付けることは容易ではない。不正リスク要因の重要度は様々である。特定の状況が重要な虚偽表示リスクを示唆していない企業にも不正リスク要因が存在することがある。したがって、不正リスク要因が存在しているかどうか、及び不正による重要な虚偽表示リスクの評価において、不正リスク要因を考慮するかどうかについての決定には、職業的専門家としての判断が求められる。
A23
付録1では、不正リスク要因を、不正な財務報告に関する不正リスク要因と資産の流用に関する不正リスク要因とに分けて例示している。さらにこれらの要因を、不正が存在するときに通常示す以下の三つの条件に分類している。・不正を実行する「動機・プレッシャー」・不正を実行する「機会」・不正行為に対する「姿勢・正当化」不正リスク要因は、関連する内部統制が存在しないとの仮定の上で、虚偽表示の生じやすさを作り出す状況に起因する動機やプレッシャー又は機会に関係する場合がある。意図的な経営者の偏向を含む不正リスク要因は、それが固有リスクに影響を及ぼす場合には、固有リスク要因となる(監基報315第11項(6)参照)。企業の内部統制システムの状況が、不正を実行する機会を提供しているか又は不正行為を正当化する経営者の姿勢に影響を及ぼすことで、不正リスク要因と関連する場合がある。監査人が不正行為を正当化する姿勢に関する不正リスク要因に観察により気付くことは容易ではないが、例えば、企業の統制環境の理解を通じて、そのような情報の存在に気付く場合がある(監基報315第20項参照)。付録1で記載している不正リスク要因は、広範囲に及んでいるが例示にすぎないため、別の不正リスク要因が存在する場合もある。
A24
企業の規模、複雑性及び所有形態は、これに関連する不正リスク要因の検討に関して重要な影響を及ぼす。例えば、大規模企業の場合には、経営者による不適切な行為を抑止する働きをもつものとしては、以下のものがある。・取締役会や監査役等による有効な監視・有効な内部監査機能・文書化された行動規範の存在と運用さらに、事業セグメントのレベルで不正リスク要因を検討することにより、企業全体レベルでの検討とは異なった見識を得ることもある。

小規模企業に特有の考慮事項

A25
小規模企業の場合には、上記A21項からA24項の検討の一部若しくは全部が該当しない、又は余り適切でない場合がある。例えば、比較的小規模な企業では文書化された行動規範はないが、代わりに、口頭による伝達や経営者による実践を通じて、誠実性と倫理的な行動を尊重する企業文化を創出することがある。小規模企業において一人の経営者による支配がなされている場合、そのこと自体が、内部統制と財務報告プロセスに関して経営者により適切な態度を示し伝達することの欠如を示すことにはならない。例えば、経営者に承認を求めることは、その他の不備のある内部統制を補完し、従業員不正に関するリスクも低減できることがある。しかしながら、一人の経営者による支配は、経営者による内部統制の無効化の機会があるので潜在的な内部統制の不備となることもある。

(1)収益認識における不正リスク(第25項参照)

A26
収益認識に関連する不正な財務報告による重要な虚偽表示は、多くの場合、収益の過大計上(例えば、収益の先行認識又は架空計上)による。一方、収益の過少計上(例えば、収益の次年度以降への不適切な繰延べ)によることもある。
A27
収益認識における不正リスクは、ある企業においては他の企業より大きいことがある。例えば、業績が増収又は利益の達成によって評価される上場企業では、経営者が不適切な収益認識を通じて不正な財務報告を行うプレッシャー又は動機が存在することがある。同様に、例えば収益の大部分が現金売上による企業の場合では、収益認識における不正リスクは増大することがある。
A28
収益認識において不正リスクがあるという推定を適用する状況にないと判断することもある。例えば、単一の賃貸資産からのリース収入のように、収益取引が単一の形態で単純なものである場合には、監査人は収益認識に関連する不正による重要な虚偽表示リスクはないと結論付けることがある。

(2)不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価及び関連する内部統制(第26項参照)

A29
監査基準報告書315の付録3に記載しているとおり、経営者は、適用する内部統制の種類と範囲及び受け入れるリスクの種類と範囲に関して判断することがある。経営者は、不正を防止し発見するために適用する内部統制の種類と範囲の決定において、不正による財務諸表の重要な虚偽表示リスクの発生可能性を検討する。この検討の一部として、不正による重要な虚偽表示リスクの軽減に関して、特定の内部統制を整備及び運用することが、費用対効果に見合わないと結論付けることもある。
A30
経営者が不正を防止し発見するために整備及び運用している内部統制を、監査人が理解することは重要である。監査人は、不正による重要な虚偽表示リスクに対応する内部統制を識別することにより、経営者が不十分な職務の分離によるリスクを意識的に受け入れていることを把握することがある。これらの内部統制を識別し、デザインを評価し、業務に適用されているかどうかを判断することから得られる情報は、不正による重要な虚偽表示リスクに対する監査人の評価に影響を及ぼす不正リスク要因の識別にとっても有益なことがある。

(1)全般的な対応(第27項参照)

A31
評価した不正による重要な虚偽表示リスクに応じた全般的な対応の決定には、通常、以下のように高められた職業的懐疑心を監査全般にどのように反映することができるか考慮することを含む。・重要な取引の裏付けとなる証憑書類の種類及びその範囲をより注意深く選択すること。・重要な事項に関する経営者の説明や陳述を裏付ける必要性の認識を高めること。全般的な対応は、特定の手続の計画とは別の、より概括的な検討を伴うものであり、これらの検討には第28項に列挙する事項(関連する適用指針を含む。)が含まれている。

(2)要員の配置及び指導監督(第28項(1)参照)

A32
監査人は、例えば、不正調査の専門家やITの専門家のような専門的な知識と技能をもったメンバーを追加し、又は豊富な経験を有するメンバーを配置することによって対応する場合がある。
A33
不正による重要な虚偽表示リスクに関する監査人の評価と、監査チームメンバーの能力に応じて、指導監督の程度を決定する。

(3)監査手続の選択における企業が想定しない要素の組込み(第28項(3)参照)

A34
実施する監査手続の種類、時期及び範囲の選択に当たって、例えば、以下のような企業が想定しない要素を組み込むことは重要である。なぜなら、企業構成員のうち、通常の監査業務で実施される監査手続に詳しい者にとっては、不正な財務報告の隠蔽がより容易に行えることがあるからである。・重要性やリスクの観点からは通常選択しない勘定残高やアサーションについて実証手続を実施する。・監査手続の想定される実施時期を変更する。・異なるサンプリング方法を使用する。・往査事業所の選択方法を変更し又は予告なしに往査する。

(4)評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに対応する監査人の手続(第29項参照)

A35
監査基準報告書330第6項(2)では、監査人に、リスク対応手続の立案に当たって、評価した重要な虚偽表示リスクの程度が高いほど、より確かな心証が得られる監査証拠を入手することが求められている。また、監査基準報告書330第20項では、監査人に、評価したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクが特別な検討を必要とするリスクであると判断した場合、そのリスクに個別に対応する実証手続を実施することが求められている。監査人は、評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに応じて、以下のとおり、実施するリスク対応手続の種類、時期及び範囲を変更することがある。・より証明力が強く適合性の高い監査証拠を入手するために、又は裏付けとなる追加的な情報を入手するために、実施する監査手続の種類の変更が必要となることがある。監査手続の種類の変更は、例えば、以下のように、実施する監査手続の手法とその組合せに影響を及ぼすことがある。-特定の資産の実地棚卸立会や実査を実施することがより重要になる場合、又は重要な勘定や電子的な取引ファイルに含まれるデータについてより多くの証拠を集めるためにコンピュータ利用監査技法(CAAT)を利用することがある。-監査人は追加的な裏付け情報を入手する手続を立案する場合もある。例えば、経営者に利益目標の達成のプレッシャーがかかっていると監査人が識別した場合には、収益を認識できないような条件を付された販売契約を締結することによって、又は出荷前に請求書を発行することによって、売上を過大計上するリスクが存在していることがある。このような場合、監査人は、例えば、売上債権残高だけでなく日付、返品条件及び引渡条件を含めた販売契約の詳細を確認することがある。さらに、販売契約及び出荷条件の変更について、経理以外の部門に質問し、確認を補完することが有効なこともある。・実証手続の実施の時期の変更が必要となることがある。監査人は、期末日又は期末日近くで実証手続を実施することが、評価した不正による重要な虚偽表示リスクにより適切に対応すると結論付けることがある。意図的な虚偽表示又は利益操作が行われるリスクがある場合には、監査人は、期中の監査上の結論を期末日まで更新して利用するために実施する監査手続は有効でないと結論付けることがある。対照的に、意図的な虚偽表示(例えば、不適切な収益認識が関係する虚偽表示)は期中から始められる場合があるので、取引の発生に近い時期又は監査対象期間を通じて、実証手続を適用することがある。・実施する監査手続の範囲の変更が必要となることがある。例えば、サンプル数の増加や、より詳細なレベルでの分析的実証手続の実施が適切なこともある。また、CAATを用いることにより、電子的な取引ファイルと勘定ファイルに対するより広範な手続の実施が可能となることがある。CAATは、重要な電子的ファイルからのサンプルの抽出、特性に基づいた取引のソート又は項目抽出を行わずに母集団全体に手続を実施する場合に利用できる。
A36
監査人は、棚卸資産の数量に関係する不正による重要な虚偽表示リスクを識別した場合には、在庫記録の査閲が、実地棚卸時又は棚卸後において特に留意すべき事業所や品目を識別するために役立つ。この査閲の結果、例えば、予告なしに特定の事業所の実地棚卸の立会を決定する、又は各事業所で一斉に実地棚卸を実施するように企業に依頼することがある。
A37
監査人は、多くの勘定科目とアサーションに影響する不正による重要な虚偽表示リスクを識別する場合がある。これらは、資産評価、特定の取引(例えば、買収、リストラクチャリング又は事業セグメントの廃止)や重要な債務(退職給付債務等)に関する見積りを含むことがある。また、そのリスクは、経常的な見積りに関する仮定の重要な変更に関係することもある。企業及び企業環境の理解を通じて入手した情報は、経営者の見積り及びその基礎となる仮定と判断の合理性に対する監査人の評価に役立つことがある。過年度における経営者の類似の仮定と判断を遡及的に検討することにより、経営者の見積りを裏付ける仮定と判断の合理性についての理解が得られることもある。
A38
不正による重要な虚偽表示に関するリスク対応手続を、企業が想定しない要素を組み込んだ手続を含めて、付録2に例示している。当該付録には、収益認識に起因するものを含む不正な財務報告と資産の流用に関係する不正による重要な虚偽表示に関するリスク対応手続を含む。

仕訳入力及びその他の修正(第31項(1)参照)

A39
不正による重要な虚偽表示は、不適切な又は権限外の仕訳を記録するような財務報告プロセスにおける操作を伴うことが多い。これは監査対象期間を通じて又は期末に、経営者によって、連結決算修正又は組替えのように正規の仕訳によらずに財務諸表上の金額を修正することにより行われる可能性がある。
A40
監査人が仕訳入力に対する不適切な内部統制の無効化に関係する重要な虚偽表示リスクを検討することも重要である(監基報315第25項(1)②参照)。これは、自動化されたプロセスや内部統制が、不注意から生ずる誤謬のリスクを低減させることがあるにしても、自動化されたプロセスを不適切に無効化するリスク(例えば、総勘定元帳又は財務報告システムが自動的に処理した金額を個人が変更すること。)に対応しないためである。さらに、ITが情報の自動的な転送に使用されている場合、情報システムにはそのような介入についての可視的な証拠がほとんど又は全くないことがある。
A41
詳細テストを実施する仕訳入力及びその他の修正を識別して抽出し、これらの裏付けを適切に検証する方法を決定する場合には、以下の事項が関連している。・不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価の過程で入手した不正リスク要因とその他の情報は、詳細テストを実施する特定の仕訳入力及びその他の修正を識別するのに役立つことがある。・仕訳入力及びその他の修正に関して適用された内部統制仕訳入力及びその他の修正に関する内部統制について、監査人が運用評価手続を実施し有効と判断した場合には、必要となる詳細テストの範囲を狭めることができる。・財務報告プロセスと入手可能な証拠多くの企業では、定型的な取引の処理を手作業と自動化された内部統制を組み合わせて行っている。同様に仕訳入力及びその他の修正のプロセスは、手作業と自動化された内部統制の組合せで行っていることが多い。財務報告プロセスにおいてITを利用している場合には、仕訳入力やその他の修正は電子的情報のみで存在することがある。・不適切な仕訳入力やその他の修正がもつ特性不適切な仕訳入力やその他の修正は、例えば以下のような識別できる特性をもっていることが多い。(1)取引とは無関係な又はほとんど使用されない勘定を利用した仕訳入力(2)入力担当者以外によって入力された仕訳入力(3)期末又は締切後の仕訳入力のうち、摘要欄の説明が不十分な仕訳入力(4)未登録の勘定科目を用いて行われる仕訳入力(5)同じ数字が並ぶ数値を含んでいる仕訳入力(例えば、0000や9999)・勘定の性質と複雑性不適切な仕訳入力やその他の修正は、以下のような勘定に含まれる場合がある。(1)複雑な又は通例でない取引を含む勘定(2)重要な見積りと期末修正を含む勘定(3)過去において虚偽表示に利用された勘定(4)適時に調整されていない又は未調整の差異を含む勘定(5)内部取引を含む勘定(6)その他、識別した不正による重要な虚偽表示リスクと関係する勘定なお、複数の事業所又は構成単位がある企業では、複数の事業所又は構成単位からの仕訳入力を抽出する必要性を検討する。・非定型的な仕訳入力やその他の修正非定型的な仕訳入力は、月次の販売、購買、支払といった経常的な取引を帳簿に記録する仕訳と同じ内容と範囲の内部統制では対応できないことがある。
A42
監査人は、仕訳入力及びその他の修正に対する詳細テストの種類、時期及び範囲を、職業的専門家としての判断に基づき決定する。しかし、不正な仕訳入力やその他の修正は、多くの場合、期末に行われるため、第31項(1)②は期末時点で行われた仕訳入力やその他の修正を抽出するよう監査人に要求している。さらに、財務諸表の不正による重要な虚偽表示や様々な隠蔽行為は年度を通じて起こり得るため、第31項(1)③は監査対象期間を通じて仕訳入力やその他の修正を抽出する必要性があるかどうかについて考慮するよう監査人に要求している。

(6)会計上の見積り(第31項(2)参照)

A43
経営者は、財務諸表の作成に際して、重要な会計上の見積りに影響する多くの仮定又は判断を行うこと及び継続して見積りの合理性を監視することに責任がある。不正な財務報告は、会計上の見積りに関する意図的な虚偽表示によって行われることが多い。例えば、企業の業績と収益力に関して財務諸表の利用者を欺く目的で、利益の平準化又は目標利益水準を達成するために、引当金等が全て過少又は過大表示されることがある。
A44
過年度の財務諸表に反映された重要な会計上の見積りに関連する経営者の仮定及び判断に対する遡及的な検討を実施する目的は、経営者の偏向の可能性が示唆されているかどうかを判断することであり、過年度において利用可能であった情報を基礎として行った監査人の職業的専門家としての判断を問題とするものではない。
A45
遡及的な検討は、監査基準報告書540「会計上の見積りの監査」第13項においても要求されている。遡及的な検討は、経営者の過年度の見積りの妥当性に関する情報、確定額についての監査証拠又は該当する場合には当年度の重要な虚偽表示リスクの識別及び評価を裏付けるための事後的な再見積額についての監査証拠、及び財務諸表に注記することが求められる見積りの不確実性のような事項についての監査証拠を入手するためのリスク評価手続として行う。実務上、本報告書に記載される経営者の判断と仮定における不正による重要な虚偽表示リスクとなり得る偏向に対する監査人の検討は、監査基準報告書540により要求される事項と合わせて実施される。

(7)重要な取引の事業上の合理性(第31項(3)参照)

A46
企業の通常の取引過程から外れた重要な取引、又は通例でないと判断される重要な取引が、不正な財務報告を行うため又は資産の流用を隠蔽するために行われたことを示す兆候には、以下が含まれる。・取引の形態が非常に複雑である(例えば、連結グループ内における複数の企業間の取引、又は通常は取引関係のない複数の第三者との取引)。・経営者が、取引の内容や会計処理を取締役会又は監査役等と討議しておらず、十分に文書化していない。・経営者が、取引の経済実態よりも特定の会計処理の必要性を強調している。・特別目的会社等を含む非連結の関連当事者との取引が、取締役会によって適切に検討され承認されていない。・取引が、以前には識別されていなかった関連当事者、又は実体のない取引先や被監査会社からの支援なしには財務的資力がない取引先に関係している。

7.監査証拠の評価(第32-2項から第36項参照)

A47
監査基準報告書330第24項に記載しているとおり、監査人は実施した監査手続及び入手した監査証拠に基づいて、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに関する評価が適切であるかどうかを判断する必要がある。リスク評価が依然として適切であるかどうかは、監査人の職業的専門家としての判断に基づき、主に質的な側面を検討することにより行われるが、これにより、監査人は不正による重要な虚偽表示リスクについて理解を深め、追加的な又は異なる監査手続を実施する必要性についての見解が得られることがある。付録3では、不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況を例示している。

(1)財務諸表の全般的な結論を形成するための分析的手続(第33項参照)

A48
どのような傾向や関係が不正による重要な虚偽表示リスクを示唆しているかを決定する際には、監査人の職業的専門家としての判断を要する。特に、期末日前後の収益や利益を伴う通例でない関係が該当する。例えば、期末日前の数週間に計上された、異常に多額な利益や通例でない取引、又は営業活動によるキャッシュ・フローの傾向と矛盾する利益などである。

(2)識別した虚偽表示の検討(第34項から第36項参照)

A49
不正は、不正を実行する「動機・プレッシャー」、「機会」、不正行為に対する「姿勢・正当化」に関係しているので、不正が単発的に発生することはほとんどない。したがって、特定の事業所での多数の虚偽表示は、その累積的影響が重要でないとしても、不正による重要な虚偽表示リスクを示唆することがある。
A50
識別した不正の影響はその状況によって決まる。例えば、他の場合には重要ではない不正であっても、上級経営者が関与している場合は重要となることがある。そのような状況においては、経営者の陳述の網羅性と信頼性及び会計記録と証憑書類の真正性が疑わしくなるので、これまでに入手した証拠の信頼性に疑義が生じることがある。また、従業員、経営者又は第三者による共謀の可能性もある。

不正による重要な虚偽表示の疑義(第F35-2項から第F35-4項参照)

FA50-2
第32-2項に記載されているとおり、監査人は、不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況(付録3参照)を識別した場合には、当該状況を考慮して、アサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに関する評価が依然として適切であるかどうかを判断することが求められる。不正による重要な虚偽表示を示唆する状況(付録4参照)を識別した場合、当該判断は、第F35-2項から第F35-4項の手続を実施することにより行われる。第10項F(5)に記載のとおり、不正による重要な虚偽表示を示唆する状況が識別された場合には、不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況が識別された場合に比し、不正による重要な虚偽表示が行われている可能性がより高いことから、懐疑心を高め、第F35-2項から第F35-4項の所定の手続を行うことが不正リスク対応基準で求められている。

追加的な監査手続(第F35-2項及び第F35-3項(2)参照)

FA50-3
実施する追加的な監査手続の種類、時期及び範囲は、その状況に応じた監査人の職業的専門家としての判断事項である。例えば、監査人は、追加的な監査手続を実施した結果、入手した監査証拠に基づき経営者に質問し説明の合理性を確かめることもあれば、経営者に質問し説明を求めた結果、当該説明の合理性を確かめるため、必要と判断した追加的な監査手続を実施することもある。また、当初のリスク評価の基礎となった情報と大きく乖離する情報に気付いた場合、当初のリスク評価を修正した上で、追加的な監査手続を実施することもある。

監査及び監査報告に及ぼす影響の評価

A51
監査基準報告書450「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」及び監査基準報告書700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」では、虚偽表示の評価と対処及び監査報告書における監査意見への影響について要求事項を定め、指針を提供している。

7-2.専門家の業務の利用(第F36-2項参照)

FA51-2
監査基準報告書620第6項では、監査人に、十分かつ適切な監査証拠を入手するために会計又は監査以外の分野の専門知識が必要な場合、専門家の業務を利用するかどうか判断することを求めている。監査人は、以下の監査の局面において、不正による重要な虚偽表示リスクに関連して、監査人が専門家の業務を利用することが必要と判断することがある。・不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価・評価した財務諸表全体レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに対応する全般的な対応の決定と実施・評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに対応するリスク対応手続の立案と実施・入手した不正による重要な虚偽表示リスクに関連した監査証拠の十分性と適切性の評価
FA51-3
不正による重要な虚偽表示リスクの内容や程度に応じて、どのような分野の専門知識が必要かを検討することとなるが、不正リスクに関連する会計又は監査以外での専門知識には、以下のような事項を含むことがある。・資産及び負債の評価-複雑な金融商品-企業結合において受け入れた資産及び引き受けた負債・不正調査・ITを利用した複雑な情報システム専門家の利用方法としては、例えば、以下が考えられる。・第14項で要求されている、不正による重要な虚偽表示がどこにどのように行われる可能性があるのかについて特に重点を置いた、監査チーム内での討議に参加し助言を行う。・不正による重要な虚偽表示を識別するための情報を入手するために第16項から第18項で要求されている、経営者及びその他の企業構成員への質問に同席し、監査チームによる質問を支援するか、又は専門家自ら、経営者に対して質問を行う。・第26項で要求されている不正による重要な虚偽表示リスクに関連する内部統制の理解を行う際の、内部統制のデザインと業務への適用の評価を支援する、又は専門家自ら実施する。・第28項(3)で要求されている評価した財務諸表全体レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに応じた全般的な対応を決定する際に、企業が想定しない要素の組込みについて、具体的に組み込む要素に関する助言を行う。・第29項で要求されている評価したアサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクに応じたリスク対応手続の立案について、不正による重要な虚偽表示リスクに直接対応した内部統制の運用評価手続及び実証手続の立案に関する助言を行う。・第31項(1)で要求されている経営者による内部統制の無効化に関係したリスク対応手続として仕訳入力及び修正の適切性の検証のための手続について、立案の助言及び実施を支援する。例えば、詳細テストの実施対象とする仕訳入力及びその他の修正の抽出に関する助言や、CAATを用いた手続の実施を支援する。・不正による重要な虚偽表示リスクに応じたリスク対応手続を専門家自ら実施する、又は、他の監査チームメンバーが作成した監査調書を査閲する。・不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況を識別した場合、不正による重要な虚偽表示かどうかを決定するために必要な監査手続の種類、時期及び範囲の立案に関する助言を行う。また、監査手続の実施及び入手した監査証拠の評価を支援する。

8.監査契約の継続の検討(第37項参照)

A52
監査契約の継続が問題とされるような例外的状況の例には、以下の事項を含む。(1)不正が財務諸表にとって重要でない場合でも、その状況において監査人が必要と考える不正に関する適切な行動を企業がとらないこと。(2)不正による重要な虚偽表示リスクに関する監査人の検討と監査を実施した結果が、重要かつ広範な不正による特別な検討を必要とするリスクを示していること。(3)監査人が経営者又は監査役等の能力又は誠実性に関して重大な懸念を抱いていること。
A53
監査契約の解除は様々な状況で起こるため、これらを限定的に列挙するのは不可能である。監査人の判断に影響する要因には、経営者の不正への関与(経営者の陳述の信頼性に影響する。)やその企業に継続的に関与することへの影響が含まれる。
A54
監査人は、監査契約の継続や規制当局への報告が問題となるような状況においては、適切な法律専門家に助言を求めることが有益である。

9.経営者確認書(第38項及び第F38-2項参照)

A55
監査基準報告書580「経営者確認書」では、監査において適切な経営者確認書を入手することについて要求事項を定め、指針を提供している。経営者確認書において、経営者が適正な財務諸表を作成する責任を果たしたことに加えて、企業の規模にかかわらず、経営者には不正を防止し発見する内部統制を整備及び運用する責任があることを経営者が承知していることが重要である。
A56
不正の特性や、不正による重要な虚偽表示を発見することの困難さから、以下について経営者が監査人に示したことを確認する書面又は電磁的記録を、監査人が経営者から入手することは重要である。(1)不正による財務諸表の重要な虚偽表示の可能性に対する経営者の評価結果(2)企業に影響を及ぼす不正、不正の疑い又は不正の申立てに関する情報
FA56-2
監査人は、経営者の判断若しくは意思又はその他の事項等について、質問等の他の監査証拠から得た理解を裏付けるために、経営者から書面又は電磁的記録による陳述を入手することが必要と判断することがある(監査基準報告書500「監査証拠」のA25項並びに監基報580のA9項、A11項及びA12項参照)。監査人が、不正による重要な虚偽表示の疑義があると判断した場合に経営者確認書における確認の要請を検討する内容は、状況に応じて異なるが、例えば、以下の事項がある。・経営者が当該疑義に関連していると認識している全ての情報を監査人に提供した旨・当該疑義に関連した不正による重要な虚偽表示はないと経営者が判断している場合は、その旨及びその根拠
FA56-3
監査人は、不正による重要な虚偽表示を示唆する状況を識別したが、当該状況を不正による重要な虚偽表示の疑義に該当しないと判断した場合においても、当該状況に関連する経営者の陳述を経営者確認書に含めることを要請することが適切と判断する場合もある。

10.経営者及び監査役等とのコミュニケーション(第39項から第41項参照)

A56-4
国によっては、法令等により、監査人が一定の事項について経営者やガバナンスに責任を有する者にコミュニケーションを行うことが制限されている場合がある。法令等により、違法行為又はその疑いのある行為について、企業に注意喚起することを含め、適切な規制当局による調査を害するおそれのあるコミュニケーションやその他の行為を明確に禁止していることがある。例えば、マネー・ローンダリングに関する法令に従って、監査人が適切な規制当局に不正を報告することが求められている場合がある。このような状況では、監査人が検討する事項は複雑であり、監査人が法律専門家に助言を求めることが適切と考えることがある。

(1)経営者とのコミュニケーション(第39項参照)

A57
監査人は、不正が存在又は存在するかもしれない証拠を入手した場合は、速やかに、適切な階層の経営者に注意を喚起することが重要である。これは、例え些細な事項(例えば、従業員による少額の使込み)であっても同様である。どの階層の経営者が適切かの決定は、職業的専門家としての判断事項であり、共謀の可能性、不正の内容や影響の度合い等を考慮する。通常、適切な階層の経営者は、当該不正に関与していると思われる者の上位者(少なくとも一つ上位の職階の者)である。
FA57-2
監査人は、付録4に記載されている不正による重要な虚偽表示を示唆する状況を識別した場合、第F35-2項に基づき経営者に質問し説明を求めることになる。

(2)監査役等とのコミュニケーション(第40項参照)

A58
監査役等とのコミュニケーションは、口頭、書面又は電磁的記録により行われる。監査基準報告書260のA47項はコミュニケーションを口頭で行うか書面又は電磁的記録で行うかの決定に当たって考慮する事項を示している。監査人は、経営者が関与する不正又は財務諸表の重要な虚偽表示となった不正の場合、その内容や影響の度合い等により、適時に報告するとともに、文書によっても報告する必要があるかどうかを検討することがある。なお、監査人は、不正を識別した場合、法令等の規定により、監査役等に対し報告する責任がある場合があることに留意する。
A59
重要な虚偽表示とはならない従業員による不正に気付いた場合に、監査役等に伝達することが適切であることを考慮することがある。同様に、監査役等がこのような状況を知ることを希望する場合もある。このような場合のコミュニケーションの方法と範囲について、監査役等との監査の初期段階で協議しておくことは、コミュニケーションの充実に資することになる。
A60
監査人が、経営者、取締役又は監査役等の信頼性や誠実性に疑念を持つような例外的な状況においては、適切に対応するため、法律専門家に助言を求めることを検討する場合がある。

(3)不正に関連するその他の事項(第41項参照)

A61
監査役等と協議する不正に関連するその他の事項には、例えば、以下の事項が含まれる。・不正を防止し発見するために構築された内部統制と財務諸表の虚偽表示の可能性に対する経営者の評価の手続、その範囲及び頻度についての懸念事項・識別した内部統制の重要な不備及び識別した不正に対する経営者の不適切な対応・経営者の能力と誠実性に関する問題を含む、企業の統制環境に関する監査人の評価・不正な財務報告を示唆する経営者の行動(例えば、企業の業績や収益力について財務諸表の利用者を欺くための利益調整が行われたことを示唆することがある会計方針の選択及び適用)・企業の通常の取引過程から外れている可能性のある取引の承認に関する適切性又は網羅性に関する懸念事項《11.適切な規制当局への不正の報告》(第42項参照)
A62
監査基準報告書250では、監査人の秘密保持の義務の検討を含め、一定の状況において、違法行為又はその疑いを適切な規制当局に報告することが求められているかどうか、又は適切であるかどうかに関する監査人の判断についての詳細な指針が記載されている(監基報250のA27項からA32項参照)。
A63
第42項で要求される判断には、複雑な検討事項や職業的専門家としての判断を含むことがある。したがって、監査人が監査事務所内やネットワーク・ファーム内で協議することを検討することがある。監査人は、どのような追加的な対応を取り得るか及び特定の対応を講じることによる職業的又は法的影響を理解するために法律専門家に助言を求めることを検討することもある。

本文の出典:日本公認会計士協会『監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」』(最終改正 2024年9月26日)。公式ページ:JICPA 監査実務指針等の一覧(https://jicpa.or.jp/specialized_field/publication/kansa/#240)。

過去問:公認会計士・監査審査会ウェブサイト(論文式試験 監査論の試験問題、公共データ利用規約1.0)。「何を問われているか」とメモはほしゅが作成したもので、公式の解答ではありません。基準との対応づけは、ほしゅの独自の分析です。

「自分の線」はこの端末のブラウザにだけ保存されます。