監基報315
監査基準報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」
出典:日本公認会計士協会『監査基準報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」』最終改正 2024年9月26日公式ページ:JICPA 監査実務指針等の一覧 ↗本文(要求事項・適用指針)を収録。付録(文例・表)と「適用」の節は載せていません。本文は公式の文書から取り出し、一字一句照合しています(2026-10-19 取得)。出題された19か所に線を引いています。
1.本報告書の範囲
1
本報告書は、財務諸表の重要な虚偽表示リスクを識別し評価することに関する実務上の指針を提供するものである。
2.本報告書に関連する基本的な概念
2
監査基準報告書200「財務諸表監査における総括的な目的」は、監査リスクを許容可能な水準に抑えるために十分かつ適切な監査証拠を入手することを含め、財務諸表監査の実施に関する実務上の全般的な指針を提供する。監査リスクは、重要な虚偽表示リスクと発見リスクの二つから構成される。監査基準報告書200は、重要な虚偽表示リスクは、財務諸表全体レベルとアサーション・レベルの二つのレベルで存在する可能性があると説明している(監基報200第12項(5)、第16項及びA33項参照)。
3
監査基準報告書200は、監査人に、財務諸表監査の計画と実施において、職業的専門家としての判断を行使すること、及び、財務諸表において重要な虚偽表示となる状況が存在する可能性のあることを認識し、職業的懐疑心を保持して監査を計画し実施することを要求している(監基報200第14項及び第15項参照)。
4
財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクは、財務諸表全体に広く関わりがあり、多くのアサーションに潜在的に影響を及ぼす。アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクは、固有リスクと統制リスクの二つの要素で構成される。(1)固有リスクは、関連する内部統制が存在していないとの仮定の上で、取引種類、勘定残高又は注記事項に係るアサーションに、個別に又は他の虚偽表示と集計すると重要となる虚偽表示が行われる可能性とされている。(2)統制リスクは取引種類、勘定残高又は注記事項に係るアサーションで発生し、個別に又は他の虚偽表示と集計すると重要となる虚偽表示が、企業の内部統制によって防止又は適時に発見・是正されないリスクとされている。
5
監査基準報告書200は、十分かつ適切な監査証拠を入手するのに必要なリスク対応手続の種類、時期及び範囲を決定するため、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを評価すると説明している(監基報200のA40-2項及び監基報330第5項参照)。本報告書では、識別したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクについては、固有リスクと統制リスクとに分けて評価することが要求されている。監査基準報告書200で説明されているとおり、一部のアサーション並びに関連する取引種類、勘定残高及び注記事項の固有リスクは、他に比べて相対的に高いことがある。評価した固有リスクの程度は高いものから低いものまで様々であり、これを固有リスクの分布(境界線がなく無段階に連続的に変化する固有リスクの分布)と呼ぶことがある。
6
監査人が識別し評価する重要な虚偽表示リスクには、誤謬と不正の両方のリスクが含まれる。いずれも本報告書の対象としているが、不正は特に重要であることから、監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」に、不正による重要な虚偽表示リスクの識別、評価及び対応手続の立案に利用する情報を入手するためのリスク評価手続とこれに関連する活動に関する更なる要求事項と適用指針を記載している。
7
監査人によるリスクの識別と評価のプロセスは、反復的かつ累積的である。企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業の内部統制システムの理解は相互に関係しており、重要な虚偽表示リスクを識別し評価するための要求事項に記載されている。本報告書が要求する事項の理解の過程でリスクを暫定的に認識し、リスクの識別と評価の過程で当初の認識が見直される場合がある。加えて、本報告書及び監査基準報告書330「評価したリスクに対応する監査人の手続」は、監査基準報告書330に従ったリスク対応手続で入手した監査証拠に基づいて、又は新たな情報を入手した場合は、リスク評価を更新し、全般的な対応やリスク対応手続を変更することを要求している。
8
監査基準報告書330は、監査人に、評価した財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクに応じて、全般的な対応を立案し実施することを要求しており、さらに、監査人の統制環境の理解は、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクの評価と、それに関する監査人の全般的な対応に影響を及ぼすと説明している。また、同報告書は、監査人に、評価したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに応じて、実施するリスク対応手続の種類、時期及び範囲を立案し実施することを要求している(監基報330第4項及び第5項参照)。
適用の柔軟性
9
監査基準報告書200では、幾つかの監査基準報告書において適用の柔軟性に関する考慮事項が含まれているが、業務の内容と状況の複雑性にかかわらず全ての企業に要求事項を適用することが示されている(監基報200のA63-2項参照)。本報告書は、規模又は複雑性にかかわらず全ての企業の監査を対象としており、必要に応じて、複雑でない企業と複雑な企業における特別な考慮事項を適用指針にそれぞれ記載している。企業の規模がその複雑性の指標となる場合もあるが、小規模企業が複雑である場合も、大規模企業が複雑でない場合もある。
3.本報告書の目的
10
監査人の目的は、不正か誤謬かを問わず、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクと、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを識別し評価することである。これにより、リスク対応手続の立案と実施に関する基礎が提供される。
4.定義
11
本報告書における用語の定義は、以下のとおりとする。(1)「IT環境」-ITアプリケーション及びそれを支援するITインフラストラクチャーをいい、ITプロセスやITプロセスに関わる要員も含まれる。企業は、これらを業務の支援や事業戦略を達成するために利用する。本報告書の目的において、IT環境に関連する事項は以下のとおりである。①ITアプリケーションは、取引若しくは情報の開始、処理、記録及び報告において使用されるプログラム又は一連のプログラム群のことをいう。ITアプリケーションにはデータウエアハウスとレポートライターも含まれる。②ITインフラストラクチャーは、ネットワーク、オペレーティング・システム、データベース、そして、これらに関連するハードウェアとソフトウェアから構成される。③ITプロセスとは、IT環境へのアクセスの管理、プログラムの変更又はIT環境に対する変更の管理及びIT業務の管理をするための企業のプロセスをいう。(2)「IT全般統制」-IT環境の継続的かつ適切な運用を支援する企業のITプロセスに係る内部統制のことをいう。IT環境の継続的かつ適切な運用には、継続して有効に機能する情報処理統制、及び企業の情報システム内の情報のインテグリティ(すなわち、情報(データ)の網羅性、正確性、正当性)の確保が含まれる。「(1)IT環境」の定義も参照する。(3)「ITの利用から生じるリスク」-企業のITプロセスにおける内部統制のデザイン若しくは運用が有効でないことにより、情報処理統制が有効にデザイン若しくは運用されない可能性又は企業の情報システム内の情報のインテグリティ(すなわち、取引及びその他の情報(データ)の網羅性、正確性、正当性)に対し引き起こされるリスクをいう。「(1)IT環境」の定義も参照する。(4)「アサーション」-経営者が財務諸表において明示的か否かにかかわらず提示するものであり、財務諸表が、情報の認識、測定、表示及び注記に関して適用される財務報告の枠組みに準拠して作成されていることを表すものである。監査人は、重要な虚偽表示リスクの識別、評価及び対応において、発生する可能性のある虚偽表示の種類を考慮する際にアサーションを利用する(A1項参照)。(5)「関連するアサーション」-取引種類、勘定残高又は注記事項に係るアサーションのうち、重要な虚偽表示リスクが識別されたアサーションをいう。アサーションが「関連するアサーション」であるかどうかの判断は、関連する内部統制を考慮する前に行われる(すなわち、固有リスク)(A2項参照)。(6)「固有リスク要因」-関連する内部統制が存在しないとの仮定の上で、不正か誤謬かを問わず、取引種類、勘定残高又は注記事項に係るアサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼす事象又は状況の特徴をいう。固有リスク要因は定性的又は定量的な要因であり、複雑性、主観性、変化、不確実性、経営者の偏向又はその他の不正リスク要因が固有リスクに影響を及ぼす場合における虚偽表示の生じやすさを含んでいる(監基報240のA21項からA25項参照)(A3項からA4項参照)。(7)「事業上のリスク」-企業目的の達成や戦略の遂行に悪影響を及ぼし得る重大な状況、事象、環境及び行動の有無に起因するリスク、又は不適切な企業目的及び戦略の設定に起因するリスクをいう。(8)「重要な取引種類、勘定残高又は注記事項」-関連するアサーション(定義(5)参照)が一つ以上存在する取引種類、勘定残高又は注記事項をいう。(9)「情報処理統制」-情報のインテグリティ(すなわち、取引及びその他の情報(データ)の網羅性、正確性、正当性)のリスクに直接対応する、企業の情報システムにおけるITアプリケーションの情報処理又は手作業による情報処理に関連した内部統制をいう(A5項参照)。(10)「特別な検討を必要とするリスク」-識別された以下のような重要な虚偽表示リスクをいう(A6項参照)。①固有リスク要因が、虚偽表示の発生可能性と虚偽表示が生じた場合の影響の度合い(金額的及び質的な影響の度合い)の組合せに影響を及ぼす程度により、固有リスクの重要度が最も高い領域に存在すると評価された重要な虚偽表示リスク②他の監査基準報告書の要求事項にしたがって特別な検討を必要とするリスクとして取り扱うこととされた重要な虚偽表示リスク(監基報240第26項及び監査基準報告書550「関連当事者」第17項参照)(11)「内部統制」-企業が、経営者又は取締役会、監査役若しくは監査役会、監査等委員会若しくは監査委員会(以下、監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会を「監査役等」という。)の統制目的を達成するために策定する方針又は手続をいう(A7項からA10項参照)。①方針とは、統制を遂行するために、組織内ですべきこと又はすべきでないことを示すものをいい、文書化されていることもあれば、伝達の中で明示的に述べられていることもあり、行為や意思決定を通じて黙示的に示されていることもある。②手続とは、方針を実行するための行為をいう。(12)「内部統制システム」-企業の財務報告の信頼性を確保し、事業経営の有効性と効率性を高め、事業経営に係る法令の遵守を促すという企業目的を達成するために、経営者、取締役会、監査役等及びその他の企業構成員により、整備(デザインと業務への適用を含む。)及び運用されている仕組みをいう。監査基準報告書においては、内部統制システムは以下の五つの相互に関連した要素から構成される。①統制環境②企業のリスク評価プロセス③内部統制システムを監視する企業のプロセス④情報システムと伝達⑤統制活動(13)「リスク評価手続」-不正か誤謬かを問わず、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクとアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを識別し評価するために立案され、実施される監査手続をいう。
1.リスク評価手続とこれに関連する活動
12
監査人は、以下に関する適切な基礎を提供する監査証拠を入手するために、リスク評価手続を立案し実施しなければならない(A11項からA18項参照)。(1)不正又は誤謬による、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスク及びアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの識別及び評価(2)監査基準報告書330に従ったリスク対応手続の立案監査人は、裏付けとなるであろう監査証拠を入手する方向に偏らないように、又は矛盾するであろう監査証拠を除外する方向に偏らないよう、リスク評価手続を立案し実施しなければならない(A14項参照)。
13
リスク評価手続には以下を含めなければならない(A19項からA21項参照)。(1)経営者への質問、及び内部監査の活動に従事する者(内部監査機能がある場合)を含む、その他の適切な企業構成員への質問(A22項からA24項参照)(2)分析的手続(A25項からA29項参照)(3)観察及び記録や文書の閲覧(A30項からA33項参照)
他の情報源からの情報
14
第12項に基づく監査証拠の入手に当たっては、以下の情報を考慮しなければならない(A34項からA35項参照)。(1)監査契約の新規の締結及び更新に関する監査人の手続から得られた情報(2)監査責任者が企業の監査以外の業務に関与している場合には、その業務から得られた情報
15
監査人は、企業での過去の経験と過年度の監査で実施した監査手続から得られた情報を利用しようとする場合には、その情報が当年度の監査における監査証拠として適合性と信頼性を依然として有しているかについて評価しなければならない(A36項からA38項参照)。
監査チーム内の討議
16
監査責任者と監査チームの主要メンバーは、適用される財務報告の枠組みの適用状況及び財務諸表の重要な虚偽表示の生じやすさについて討議しなければならない(A39項からA47項参照)。
17
監査チーム内の討議に参加していない監査チームメンバーがいる場合、監査責任者は、当該メンバーに伝達する事項を決定しなければならない。
(1)企業及び企業環境並びに適用される財務報告の枠組みの理解(A45項からA50項参照)
18
監査人は、以下の事項を理解できるように、リスク評価手続を実施しなければならない。(1)企業及び企業環境に関する事項①企業の組織構造、所有とガバナンス及びビジネスモデル(ビジネスモデルがITをどの程度活用しているかを含む。)(A51項からA59項参照)②産業、規制等の外部要因(A60項からA64項参照)③企業の業績を評価するために企業内外で使用される測定指標(A65項からA71項参照)(2)適用される財務報告の枠組み並びに企業の会計方針及び会計方針の変更がある場合にはその理由(A72項からA73項参照)(3) (1)及び(2)で理解した内容に基づき、適用される財務報告の枠組みに従って財務諸表を作成する過程で、固有リスク要因がどのように及びどの程度、アサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼすか(A74項からA78項参照)。
19
監査人は、企業の会計方針が適切であるか、及び適用される財務報告の枠組みに準拠しているかどうかを評価しなければならない。
ア.統制環境
20
監査人は、リスク評価手続を通じて得た以下の理解や評価により、財務諸表の作成に影響を及ぼす統制環境を理解しなければならない(A87項からA88項参照)。(1)以下に関する一連の内部統制、プロセス及び企業構造の理解(A89項からA90項参照)①企業環境に対する経営者の監視責任がどのように遂行されているか。例えば、企業文化の醸成や、誠実性及び倫理観に対する経営者の姿勢など②監査役等が経営者と分離されている場合における、監査役等の独立性と監査役等による企業の内部統制システムの監視状況③権限と責任の付与の状況④どのように、有能な人材を採用し、育成し、良好な雇用関係を維持しているか。⑤内部統制システムの目的を遂行する上での役割をどのように各構成員に認識させているか。(2)以下の事項の評価(A91項からA96項参照)①経営者は、取締役等による監督及び監査役等による監視の下で、誠実性と倫理的な行動を尊重する企業文化を醸成し維持しているかどうか。②企業の事業内容と複雑性を考慮した場合、統制環境が内部統制システムの他の構成要素に適切な基礎を提供しているかどうか。③統制環境の不備によって、企業の内部統制システムの他の構成要素が損なわれていないかどうか。
イ.企業のリスク評価プロセス
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監査人は、リスク評価手続を通じて得た以下の理解や評価により、財務諸表の作成に影響を及ぼす企業のリスク評価プロセスを理解しなければならない。(1)以下の事項に関する企業のプロセスの理解(A97項からA98項参照)①財務報告に影響を及ぼす事業上のリスクの識別(A56項参照)②発生可能性を含む当該事業上のリスクの重要度の評価③当該事業上のリスクへの対処(2)企業の事業内容と複雑性を考慮した場合、企業のリスク評価プロセスが、企業の状況に対して適切かどうかの評価(A99項からA101項参照)
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監査人は、経営者が識別していない重要な虚偽表示リスクを識別した場合、以下の事項を実施しなければならない。(1)監査人は、当該リスクが企業のリスク評価プロセスにおいて本来識別されなければならないリスクであるかどうかを判断し、本来識別されなければならないリスクである場合には、なぜ企業のリスク評価プロセスが当該リスクを識別できなかったのかを理解する。(2)第21項(2)における監査人の評価を検討する。
ウ.内部統制システムを監視する企業のプロセス
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監査人は、リスク評価手続を通じて得た以下の理解と評価により、財務諸表の作成に影響を及ぼす内部統制システムを監視する企業のプロセスを理解しなければならない(A102項からA103項)。(1)以下の事項に対応する企業のプロセスの理解①内部統制の有効性を監視し、内部統制の不備を識別・是正するための日常的及び独立的評価(A104項からA105項)②企業の内部監査機能(その責任及び活動内容を含む。)(A106項参照)(2)内部統制システムを監視する企業のプロセスにおいて利用される情報源の理解と、その情報が監視目的に照らし十分に信頼できると経営者が判断している理由の理解(A107項からA108項参照)(3)企業の事業内容と複雑性を考慮した場合、内部統制システムを監視する企業のプロセスが、企業の状況に対して適切であるかどうかの評価(A109項からA110項参照)
ア.情報システムと伝達
24
監査人は、リスク評価手続を通じて得た以下の理解や評価により、財務諸表の作成に関する企業の情報システムと伝達を理解しなければならない(A119項参照)。(1)重要な取引種類、勘定残高又は注記事項に関する企業の情報処理活動の理解。企業の情報処理活動には、処理されるデータ及び情報、情報処理活動に使用される経営資源、並びに情報処理活動について定めた方針が含まれ、以下の事項を理解する(A120項からA131項参照)。①以下を含む、企業の情報システムにおける情報の流れア.取引の開始から、それに関する情報の記録、処理、必要に応じた修正、総勘定元帳への取り込み、財務諸表での報告に至るまでの流れイ.取引以外の事象や状況に関する情報が把握され、処理され、財務諸表において開示されるまでの流れ②会計記録、特定の勘定及び情報システムにおける情報の流れに関連する他の裏付けとなる記録③注記事項を含む、財務諸表を作成するプロセス④上記①から③に関連するIT環境を含む企業の経営資源(2)情報システム及び内部統制システムのその他の構成要素において、財務諸表の作成に係る重要な事項及び報告責任について企業がどのように内外に伝達しているかの理解(A132項からA133項参照)。これには以下の事項を含む。①企業構成員の間での伝達(財務報告の役割と責任の伝達を含む。)②経営者と取締役会や監査役等との間の伝達③規制当局等の外部への伝達(3)企業の情報システムと伝達が、適用される財務報告の枠組みに従った財務諸表の作成を適切に支援しているかどうかの評価(A134項参照)
イ.統制活動
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監査人は、リスク評価手続を通じて実施する以下の識別及び評価により、統制活動を理解しなければならない(A135項からA145項参照)。(1)統制活動のうち、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに対応する以下の内部統制の識別①特別な検討を必要とするリスクに対応する内部統制(A146項からA147項参照)②非経常的な取引や通例でない取引の仕訳、又は修正仕訳といった非定型的な仕訳を含む、仕訳入力に関する内部統制(A148項からA149項参照)③実証手続の種類、時期及び範囲を決定するに当たり、監査人が運用評価手続の実施を計画している内部統制。これには、実証手続のみでは、十分かつ適切な監査証拠を入手できないリスクに対応する内部統制が含まれる(A150項からA152項参照)。④アサーション・レベルのリスクに関して第12項の目的を達成するために、監査人が職業的専門家としての判断に基づいて評価することが適切であると考えるその他の内部統制(A153項参照)(2) (1)で識別された内部統制について、ITの利用から生じるリスクの影響を受けるITアプリケーション及び関連するその他のIT環境の識別(A154項からA160項参照)(3) (2)で識別されたITアプリケーション及び関連するその他のIT環境について、以下の識別(A161項からA162項参照)①ITの利用から生じるリスク②ITの利用から生じるリスクに対応するIT全般統制(4) (1)及び(3)②で識別された個々の内部統制の評価(A163項からA169項参照)①当該内部統制が、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに効果的に対応するようにデザインされているか、又は他の内部統制の運用を支援するよう効果的にデザインされているかの評価②企業の担当者への質問に追加して他の手続を実施することによる、当該内部統制が業務に適用されているかの判断《③企業の内部統制システムにおける内部統制の不備》
26
企業の内部統制システムの各構成要素の評価に基づき、監査人は、内部統制の不備が識別されたかどうかを判断しなければならない(A170項からA171項参照)。
(1)重要な虚偽表示リスクの識別
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監査人は、以下の二つのレベルで重要な虚偽表示リスクを識別しなければならない(A174項からA179項参照)。(1)財務諸表全体レベル(A180項からA186項参照)(2)アサーション・レベル(A187項参照)
28
監査人は、関連するアサーションとそれに関連する重要な取引種類、勘定残高又は注記事項を決定しなければならない(A188項からA190項参照)。
(2)財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクの評価
29
監査人は識別した財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクについて、当該リスクを評価し、以下を実施しなければならない(A180項からA186項参照)。(1)当該リスクが、アサーション・レベルのリスクの評価に影響を及ぼすかどうかの判断(2)当該リスクが、財務諸表に対して及ぼす広範な影響の内容とその程度の評価《(3)アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの評価》
①固有リスクの評価(A191項からA202項参照)
30
識別したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクについて、監査人は虚偽表示の発生可能性と影響の度合いを評価することにより、固有リスクを評価しなければならない。その際、監査人は、以下の事項を考慮しなければならない。(1)固有リスク要因が、どのように、そしてどの程度、関連するアサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響するのか。(2)財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクが、どのように、そしてどの程度、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに関する固有リスクの評価に影響するのか(A201項及びA202項参照)。
31
監査人は、評価した重要な虚偽表示リスクが特別な検討を必要とするリスクであるかどうかを決定しなければならない(A203項からA206項参照)。
32
監査人は、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクについて、実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手することができないリスクかどうかを判断しなければならない(A207項からA210項参照)。
②統制リスクの評価
33
監査人が内部統制の運用状況の有効性を評価する場合は、統制リスクを評価しなければならない。監査人が内部統制の運用状況の有効性を評価しない場合は、重要な虚偽表示リスクと固有リスクは同じ評価となる(A211項からA214項参照)。
(4)リスク評価手続から得られた監査証拠の評価
34
監査人は、リスク評価手続から得られた監査証拠が、重要な虚偽表示リスクの識別及び評価のための適切な基礎を提供しているかどうかを評価しなければならない。適切な基礎を提供していないと評価する場合、監査人は、適切な基礎を提供する監査証拠が得られるまで、追加的なリスク評価手続を実施しなければならない。監査人は、重要な虚偽表示リスクを識別し評価するに当たり、経営者のアサーションに対し裏付けとなるか矛盾するかを問わず、リスク評価手続から得た全ての監査証拠を考慮に入れなければならない(A215項からA217項参照)。
(5)関連するアサーションを識別していない(重要な虚偽表示リスクを識別していない)が重要性のある取引種類、勘定残高又は注記事項
35
関連するアサーションを識別していないが重要性のある取引種類、勘定残高又は注記事項に重要な虚偽表示リスクがないとした監査人の評価が、引き続き適切であるかどうかを評価しなければならない(A218項からA220項参照)。
(6)リスク評価の修正
36
監査人は、当初の重要な虚偽表示リスクの識別又は評価の基礎となった監査証拠と矛盾する新たな情報を入手した場合には、リスクの識別及び評価を修正しなければならない(A221項参照。監査基準報告書230「監査調書」第7項から第10項並びにA6項及びA7項参照)。
4.監査調書
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監査人は、以下の事項を監査調書に記載しなければならない(A222項からA226項参照)。(1)監査チーム内の討議(第16項参照)及び重要な結論(2)企業及び企業環境並びに適用される財務報告の枠組み(第18項参照)、統制環境(第20項参照)、企業のリスク評価プロセス(第21項参照)、内部統制システムを監視する企業のプロセス(第23項参照)及び情報システムと伝達(第24項参照)について、監査人が理解した主な内容、理解に当たって利用した情報の情報源、及び実施したリスク評価手続(3)識別した内部統制のデザインの評価、及び内部統制が業務に適用されているかどうかの判断(第25項参照)(4)財務諸表全体レベル及びアサーション・レベルにおいて識別し評価した重要な虚偽表示リスク(特別な検討を必要とするリスク及び実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できないリスクを含む。)及び重要な判断の根拠《Ⅲ適用指針》
(1)アサーション(第11項(4)参照)
A1
アサーションの区分は、重要な虚偽表示リスクの識別、評価及び対応において、発生する可能性のある虚偽表示の種類を考慮する際に監査人が利用する。このアサーションの区分の例は、A178項に記載されている。アサーションは、特定の事項を確認するため又は他の監査証拠を裏付けるために監査基準報告書580「経営者確認書」において要求されている確認事項とは異なる。
(2)関連するアサーション(第11項(5)参照)
A2
重要な虚偽表示リスクは、複数のアサーションに関係する場合があり、その場合には当該リスクが関係するアサーションは全て「関連するアサーション」である。重要な虚偽表示リスクが識別されなかったアサーションは、「関連するアサーション」ではない。
(3)固有リスク要因(第11項(6)参照)
付録2では、固有リスク要因の理解に関するより詳細な考慮事項を示している。
A3
固有リスク要因は、定性的又は定量的な要因であり、アサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼす。適用される財務報告の枠組みで要求される情報の作成に関する定性的な固有リスク要因には、以下が含まれる。・複雑性・主観性・変化・不確実性・経営者の偏向又はその他の不正リスク要因が固有リスクに影響を及ぼす場合における虚偽表示の生じやすさ
A4
取引種類、勘定残高又は注記事項に係るアサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼすその他の固有リスク要因には、以下の事項を含むことがある。・取引種類、勘定残高若しくは注記事項の量的又は質的な重要度・取引種類や勘定残高を通じて処理される項目若しくは注記事項に反映される項目の量又は項目の構成内容の多様性《(4)情報処理統制》(第11項(9)参照)
A5
情報のインテグリティに対するリスクは、企業の情報システムにおける情報の流れ、記録及び報告に係るプロセスを規定する企業の情報に関する方針が有効に適用されないことに影響を受ける。情報処理統制は、企業の情報に関する方針が有効に適用されるための処理又は手続である。情報処理統制は、自動化されている場合(すなわち、ITアプリケーションに組み込まれている。)と手作業の場合(例えば、インプット又はアウトプットに係る内部統制)があり、他の情報処理統制やIT全般統制を含む他の内部統制に依拠することがある。
(5)特別な検討を必要とするリスク(第11項(10)参照)
A6
特別な検討を必要とするリスクにおける固有リスクの重要度とは相対的なものであり、その検討においては監査人の判断を伴う。固有リスク要因がどのように、そしてどの程度、虚偽表示の発生可能性と虚偽表示が生じた場合の影響の度合いの組合せに影響を及ぼすかという観点で固有リスクの重要度を検討する。
(6)内部統制(第11項(11)参照)
A7
内部統制は、企業の内部統制システムの構成要素に組み込まれている。
A8
方針は、企業構成員の行為を通じて実現されるが、方針と相反する企業構成員の行為を抑制することによっても実現される。
A9
手続は、正式な文書によって規定されている場合もあれば、経営者や監査役等によって伝達されることもある。また、強制されてはいないが、企業文化によって当然のこととされた行為からもたらされる場合もある。手続は、企業が利用するITアプリケーションや企業のIT環境の他の側面(データベース、オペレーティング・システム、ネットワーク等)による処理を通じて実行される場合もある。
A10
内部統制には、直接的な内部統制と間接的な内部統制がある。直接的な内部統制は、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに対応するのに十分な精度を有した内部統制であり、間接的な内部統制は、直接的な内部統制を支援する内部統制である。
2.リスク評価手続とこれに関連する活動(第12項から第17項参照)
A11
識別され評価される重要な虚偽表示リスクには、不正と誤謬の両方のリスクを含み、いずれも本報告書の対象としている。しかしながら、不正は特に重要であることから、監査基準報告書240に、不正による重要な虚偽表示リスクの識別、評価及び対応手続の立案に利用する情報を入手するためのリスク評価手続とこれに関連する活動に関する更なる要求事項と適用指針を記載している(監基報240第15項から第26項参照)。加えて、以下の監査基準報告書では、特定の事項又は状況に関する重要な虚偽表示リスクの識別及び評価のための、更なる要求事項と適用指針を提供している。・監査基準報告書540「会計上の見積りの監査」・監査基準報告書550「関連当事者」・監査基準報告書570「継続企業」・監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」
A12
職業的懐疑心は、リスク評価手続の実施により入手した監査証拠の批判的な評価に必要であり、監査証拠が認識したリスク評価を裏付ける方向に偏っていないか、又は監査証拠が認識したリスク評価と矛盾していないかについて、監査人が常に注意を払うのに役立つ。職業的懐疑心は、職業的専門家としての判断を行う際に監査人が保持すべき姿勢であり、その後の監査人の行動の基礎となるものである。監査人は、リスク評価に関する適切な基礎を提供するに足る監査証拠を入手しているかについて、職業的専門家としての判断を適用する。
A13
監査人が職業的懐疑心を保持する場面には、例えば、以下がある。・情報の矛盾や、記録や証憑書類の信頼性について、疑念を抱く。・経営者及び監査役等から入手した質問への回答やその他の情報を検討する。・不正又は誤謬による虚偽表示の可能性を示す状況に注意を払う。・入手した監査証拠が、企業の事業内容及び状況に照らして、監査人による重要な虚偽表示リスクの識別及び評価を裏付けるものであるかどうかを検討する。
(1)監査証拠を偏りのない方法で入手することが重要である理由(第12項参照)
A14
監査人は、重要な虚偽表示リスクの識別及び評価に役立つ監査証拠を偏りのない方法で入手するようにリスク評価手続を立案し実施することで、矛盾が疑われる情報を識別することがある。そして、矛盾が疑われる情報を識別した場合には、重要な虚偽表示リスクの識別及び評価において職業的専門家としての懐疑心を保持することになる。
(2)監査証拠の情報源(第12項参照)
A15
リスク評価手続を立案し実施する上で、入手する監査証拠が偏らないように、企業の内外の複数の情報源から証拠を入手する場合があるが、監査人は、監査証拠を入手し得る全ての情報源を識別するために、網羅的な調査を行うことは要求されていない。リスク評価手続のための情報源には、A34項及びA35項の他の情報源からの情報に加えて、例えば、以下が含まれる。•経営者、監査役等及びその他の主要な企業構成員(例えば、内部監査人)とのコミュニケーション•規制当局等の特定の外部者(情報を直接入手したか間接的に入手したかを問わない。)•企業に関する公開情報。例えば、企業が発行したプレスリリース、アナリスト若しくは投資家グループ向けの説明資料、アナリスト・レポート又は取引活動に関する情報監査人は、情報源に関わりなく、監査基準報告書500「監査証拠」に従って、監査証拠として利用する情報の適合性と信頼性を考慮する(監基報500第6項参照)。
(3)適用の柔軟性(第12項参照)
A16
リスク評価手続の種類及び範囲は、企業及び企業の状況(例えば、企業の方針と手続が明文化されている程度及びプロセスとシステムが確立されている程度)により異なる。監査人は本報告書の要求事項を満たすために実施すべきリスク評価手続の種類及び範囲を、職業的専門家としての判断に基づいて決定する。
A17
企業の方針と手続が明文化されている程度及び業務プロセスと内部統制システムが確立されている程度は、企業によって異なるが、監査人は、第18項、第20項、第21項、第23項、第24項及び第25項に従って、企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業の内部統制システムを理解することが求められている。例複雑でない企業等、特にオーナーが経営する企業では、業務プロセスと内部統制システム(例えば、リスク評価プロセスや内部統制システムを監視するプロセス)が確立されていない場合、又は業務プロセスや内部統制システムは確立されているが、それらが十分に文書化されていない若しくは業務プロセスや内部統制システムが一貫性をもって実施されていない場合がある。このような場合においても、監査人は、観察と質問によってリスク評価手続を実施できることがある。その他の企業、特により複雑な企業では、方針と手続が定められ十分に文書化されていることが想定され、監査人は、リスク評価手続を実施する際に、当該文書を利用することがある。
A18
初年度監査において実施するリスク評価手続の種類及び範囲は、継続監査における手続よりも広範となる可能性がある。継続監査においては、監査人は、前期以降に生じた変化に重点を置くことがある。
(4)リスク評価手続の種類(第13項参照)
A19
監査基準報告書500は、リスク評価手続及びリスク対応手続から監査証拠を入手する際に実施する監査手続の種類を記載している(監基報500のA14項からA17項及びA21項からA25項参照)。監査手続の種類、時期及び範囲は、ある会計データとその他の証拠が電子媒体のみであるか、又はある時点においてのみ利用可能であるかどうかによって影響を受ける(監基報500のA12項参照)。監査人は、効率的である場合には、リスク評価手続を、実証手続又は運用評価手続と同時に実施することがある。また、重要な虚偽表示リスクの識別及び評価を裏付ける監査証拠が、アサーション・レベルの虚偽表示の発見又は内部統制の運用状況の有効性の評価を裏付ける監査証拠にもなる場合がある。
A20
監査人は、企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業の内部統制システム(第18項から第25項参照)の理解の過程において、第13項に記載している全てのリスク評価手続の実施を要求されているが、理解すべき項目のそれぞれに対して、全てのリスク評価手続の実施が求められているわけではない。また、重要な虚偽表示リスクの識別において有用な情報が入手できる場合には、その他の手続を実施することがあり、例えば、顧問弁護士や監督当局又は企業が利用した鑑定や評価の専門家に対し質問することがある。
自動化されたツール及び技法(第13項参照)
A21
分析、再計算、再実施、整合性チェックが可能な自動化されたツールと技法を利用することで、監査人は、大量のデータ(総勘定元帳、補助元帳又はその他の業務上のデータ)に対してリスク評価手続を実施する場合がある。
①経営者及びその他の企業構成員に対し質問する理由
A22
監査人は、リスクの識別及び評価、並びにリスク対応手続の立案のための適切な基礎として役立つ情報を、経営者及び財務報告の責任者に対する質問を通じて入手することがある。
A23
経営者及び財務報告の責任者、並びにその他の適切な企業構成員及び異なる階層の従業員に対する質問を通じて、重要な虚偽表示リスクの識別及び評価に関する異なる見方を入手することがある。例・監査役等への質問は、経営者による財務諸表の作成に対する監査役等による監視の程度を監査人が理解するのに役立つ。監査基準報告書260「監査役等とのコミュニケーション」では、監査人が監査役等から情報を入手する上での、双方向のコミュニケーションの重要性について記載している(監基報260第4項(2)参照)。・複雑な取引又は通例でない取引の開始、処理若しくは記録に責任を有する従業員への質問は、このような取引に適用する会計方針の選択及び適用の適切性を評価するのに役立つ。・法務部門への質問は、訴訟、法令の遵守、不正又は不正の疑いについての認識、製品保証、瑕疵担保責任、共同支配企業などの業務提携形態、契約条項等の情報を提供する。・マーケティング又は営業担当者への質問は、販売戦略、販売動向又は顧客との販売契約の変更についての情報を提供する。・リスク管理に従事する者への質問は、財務報告に影響を及ぼす可能性がある事業運営上又は規制上のリスクについての情報を提供する。・ITの担当者への質問は、情報システムの変更、情報システムの不具合や内部統制の逸脱等の情報システムに関連するリスクについての情報を提供する。
②内部監査人に対する質問(企業が内部監査機能を有している場合)
付録4では、企業の内部監査機能を理解するための考慮事項を記載している。
③内部監査人に対し質問する理由(企業が内部監査機能を有している場合)
A24
企業が内部監査機能を有している場合、内部監査機能の活動に従事する適切な者に対する質問は、監査人が、リスクを識別し評価する際に、企業及び企業環境並びに企業の内部統制システムを理解するのに役立つ。
①リスク評価手続として分析的手続を実施する理由
A25
分析的手続は、監査上留意すべき他の関連情報との矛盾、通例でない取引又は事象、金額、比率及び傾向を識別するのに有益である。識別された通例でない又は予期せぬ関係は、監査人が重要な虚偽表示リスク、特に不正による重要な虚偽表示リスクを識別するのに役立つことがある。
A26
リスク評価手続として実施する分析的手続によって、気付いていなかった企業の状況を識別したり、変化などの固有リスク要因がどのようにアサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼすのかについて理解することがあり、それゆえ、分析的手続は重要な虚偽表示リスクを識別し評価するのに役立つ。
②分析的手続の種類
A27
リスク評価手続として以下の分析的手続を実施することがある。・売上高と売場面積や販売数量の関係などの財務情報と非財務情報の両方を用いた分析的手続・総括的に集約された情報を用いた分析的手続。ただし、このような分析的手続の結果は、重要な虚偽表示が存在するか否かについての兆候を示しているにすぎない。例多くの企業(ビジネスモデル及びプロセスが複雑でない企業、並びに情報システムが複雑でない企業を含む。)の監査において、監査人は、前期末残高と四半期末残高又は月次残高との増減比較を実施することで、潜在的にリスクが高い領域を識別することがある。
A28
本報告書は、監査人によるリスク評価手続としての分析的手続の利用を扱っている。監査基準報告書520「分析的手続」は、監査人による実証手続としての分析的手続(以下「分析的実証手続」という。)の利用及び監査の最終段階の分析的手続の実施に関する監査人の責任を扱っている。したがって、リスク評価手続として実施する分析的手続は、監査基準報告書520の要求事項に従って実施する必要はないが、監査基準報告書520の要求事項と適用指針は、監査人がリスク評価手続の一環として分析的手続を実施する際の有益な指針となることがある。
③自動化されたツール及び技法
A29
分析的手続は、多くのツール又は技法を利用して実施することが可能で、ツール又は技法は自動化されている場合がある。データに対して自動化されたツール又は技法を用いて分析することをデータアナリティクスということがある。例監査人は、スプレッドシートを利用して実績と予算を比較することもあれば、一方で、より具体的なリスク評価手続が必要となる取引種類、勘定残高又は注記事項を識別するために、より高度な手続として、企業の情報システムからデータを抽出し可視化技法を用いて当該データを詳しく分析することもある。
①リスク評価手続として観察及び記録や文書の閲覧を実施する理由
A30
監査人は、観察及び記録や文書の閲覧により、経営者等に対する質問の回答を裏付けたり、又は否定したりすることもあれば、企業及び企業環境についての情報を入手することもある。
②適用の柔軟性
A31
方針若しくは手続が文書化されていない場合、又は企業が正式に確立された内部統制を有していない場合であっても、監査人は、内部統制の実施状況の観察又は内部統制の実施状況に関する記録や文書の閲覧を通じて、重要な虚偽表示リスクの識別と評価を裏付ける一定の監査証拠を入手することができる場合がある。例・監査人は、棚卸資産の実地棚卸に関する内部統制が企業によって文書化されていない場合であっても、実地棚卸を直接観察することにより、当該内部統制を理解する場合がある。・監査人は、職務の分離の状況について観察できる場合がある。・監査人は、パスワードの入力について観察できる場合がある。
③リスク評価手続としての観察及び記録や文書の閲覧
A32
リスク評価手続には、例えば、以下の事項の観察又は記録や文書の閲覧がある。・企業活動の観察・内部文書(事業計画書や予算書等)、関連する記録及び内部統制マニュアルの閲覧・経営者によって作成された四半期財務情報等や取締役会等の議事録の閲覧・企業の施設や工場設備の視察・業界誌や経済誌、アナリスト、銀行や格付機関の報告書、政府刊行物のような外部の情報源から得た情報、又は企業の業績に関するその他の外部文書の閲覧(A70項に記載されている文書等)・経営者、取締役会又は監査役等の姿勢及び行為の観察《④自動化されたツール及び技法》
A33
自動化されたツール又は技法が、観察又は文書の閲覧のために利用されることもある。例えば、特定の資産について、ドローンといった遠隔監視ツールが利用されることがある。
①監査人が他の情報源からの情報を考慮する理由
A34
他の情報源から入手した情報が、以下の事項に関する情報や知見を提供する場合には、重要な虚偽表示リスクの識別及び評価に役立つ。・企業の事業内容及び企業の事業上のリスク並びに過年度からの変化・経営者及び監査役等の誠実性と倫理観。これは、監査人による統制環境の理解にも関係することがある。・《②適用される財務報告の枠組み及び企業の事業内容と状況に応じた当該枠組みの適用その他の関連する情報源》
A35
その他の関連する情報源には、以下が含まれる。・監査基準報告書220「監査業務における品質管理」に従った、監査契約の新規の締結及び更新に関する監査人の手続並びに到達した結論(監基報220第22項から第24項参照)・監査責任者が企業に対して実施した監査以外の業務。監査責任者は、企業に対して監査以外の業務を実施した際に、監査に関連する知識(企業及び企業環境に関する知識を含む。)を得ることがある。このような業務には、合意された手続業務やその他の監査又は保証業務(法令で追加的に要求される報告事項に対応するための業務を含む。)が含まれる。
ア.過年度の監査から得られた情報が、当年度の監査にとって重要である理由
A36
監査人は、企業での過去の経験と過年度の監査で実施した監査手続から、リスク評価手続の種類及び範囲並びに重要な虚偽表示リスクの識別及び評価に関する監査人の判断に関連する情報を入手することがある。
イ.過年度の監査から得られた情報の種類
A37
監査人は、企業での過去の経験と過年度の監査で実施した監査手続から、以下のような情報を入手することがある。・過去の虚偽表示及びそれらが適時に修正されたかどうか。・企業及び企業環境並びに企業の内部統制システム(不備を含む。)・過年度からの企業又は事業運営の重大な変化・例えば、その複雑性のため、監査人が必要な監査手続を実施することが困難であった取引、事象又は勘定残高(関連する注記事項を含む。)
A38
監査人が、当年度の監査において、監査人の企業での過去の経験と過年度の監査で実施した監査手続から得られた情報を利用しようとする場合には、その情報が当年度においても依然として適合性と信頼性を有しているかどうかについて判断することが求められる。企業の事業内容若しくは状況が変化した場合、又は新たな情報を入手した場合、過年度において得られた情報は、当年度の監査においてもはや適合性又は信頼性を有していない可能性がある。監査人は、変化が当該情報の適合性又は信頼性に影響を及ぼしているか否かを判断するために、質問及びその他の適切な監査手続、例えば、関連する内部統制システムのウォークスルーを実施することがある。過年度において得られた情報にもはや依拠できない場合には、監査人は、状況に応じた適切な追加的手続の実施を検討することになる。
①適用される財務報告の枠組みの適用状況及び財務諸表の重要な虚偽表示の生じやすさについて監査チーム内の討議が要求される理由
A39
適用される財務報告の枠組みの適用状況及び財務諸表の重要な虚偽表示の生じやすさについて監査チーム内で討議を行うことによって、以下が可能になる。・監査責任者を含む、経験豊富な監査チームメンバーの企業に関する知識と知見を共有すること。情報の共有は、全ての監査チームメンバーの理解を深める。・企業が直面している事業上のリスクや固有リスク要因が取引種類、勘定残高及び注記事項に係るアサーションにおける虚偽表示の生じやすさにどのように影響を及ぼす可能性があるか、並びに不正又は誤謬による重要な虚偽表示が財務諸表のどこにどのように行われる可能性があるかについて意見を交換する。・担当する特定の領域において、財務諸表の重要な虚偽表示が生じやすいかどうかをより良く理解すること、並びに、実施する監査手続の結果が、実施するリスク対応手続の種類、時期及び範囲の決定を含む監査の他の局面にどのように影響を及ぼすことがあるかについて理解すること。特に、討議は、監査チームメンバーが、企業の事業内容と状況に関する各メンバーの理解に基づいて矛盾する情報を詳細に検討するのに役立つ。・監査の過程を通じて入手した重要な虚偽表示リスクの評価、又はリスク対応手続に影響を及ぼすことがある新しい情報を伝達し共有する。監査基準報告書240は、監査チーム内の討議において、不正がどのように発生するのかも含め、不正による重要な虚偽表示が財務諸表のどこにどのように行われる可能性があるのかに特に重点を置くことを求めている(監基報240第14項参照)。
A40
職業的懐疑心は、監査証拠を批判的に評価するために必要であり、妥協のない率直な監査チーム内の討議は、継続監査においても、重要な虚偽表示リスクの識別と評価の改善につながることがある。また、監査チーム内の討議の結果、職業的専門家としての懐疑心を保持することが特に重要となる監査の特定の領域を識別し、当該領域に関連する監査手続を実施するのに適切な技能を有する経験豊富な監査チームメンバーを関与させることができるようになる。
A41
グループ監査のように、大規模な監査チームによって業務が行われる場合、監査チーム内の討議に全てのメンバーが参加することは必ずしも必要ではなく、実務的でもない。また、監査チームの全てのメンバーに討議の結論の全てを知らせることも必ずしも必要ではない。監査責任者は、適切と考える場合には、特定の技能又は知識を有するメンバーや構成単位で実施される作業の責任者を含む監査チームの主要メンバーと討議を行うが、その一方で、監査チームメンバーにそれぞれ必要と考えられる情報の範囲を考慮に入れて、監査チームの主要メンバーにその他の監査チームメンバーとの討議を委ねることがある。監査責任者が同意した監査チーム内の討議に関する計画は、有意義である。
②適用される財務報告の枠組みにおける注記事項に関する討議
A42
監査チーム内の討議の一環として、適用される財務報告の枠組みにおいて要求される注記事項を検討することは、適用される財務報告の枠組みが簡潔な注記事項のみを要求している場合でも、注記事項に関連する重要な虚偽表示リスクを監査の初期段階において識別するのに役立つ。監査チームが討議する可能性がある事項には、以下のものが含まれる。・新たな重要な注記事項又は重要な注記事項の変更をもたらす可能性がある、適用される財務報告の枠組みの改正・新たな重要な注記事項又は重要な注記事項の変更をもたらす可能性がある、企業環境、事業活動又は財務状況の変化(例えば、監査対象期間における重要な企業結合)・過去に十分かつ適切な監査証拠を入手することが困難であった注記事項・複雑な事項に関する注記事項(例えば、注記事項の要否及びその詳細さについて経営者の重要な判断を伴うものを含む。)
3.企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業の内部統制システムの理解(第18項から第26項参照)
付録1から6は、企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業の内部統制システムを理解するためのより詳細な考慮事項を記載している。
(1)本報告書で要求されている理解(第18項から第26項参照)
A43
企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業の内部統制システムの理解は、情報の収集、更新及び分析の累積的かつ反復的なプロセスであり、監査期間全体を通じて継続する。したがって、新たな情報を入手することで、監査人のリスク評価の認識が変化する場合がある。
A44
企業及び企業環境、並びに適用される財務報告の枠組みを理解することは、監査人が、重要な取引種類、勘定残高又は注記事項を暫定的に識別することに役立つ。監査人は、当該重要な取引種類、勘定残高又は注記事項に基づき、理解する企業の情報システムの範囲を決定する。
(2)企業及び企業環境並びに適用される財務報告の枠組みの理解が必要となる理由(第18項及び第19項参照)
A45
企業及び企業環境並びに適用される財務報告の枠組みの理解は、監査人が、企業に関連する事象や状況を理解するのに役立ち、また、適用される財務報告の枠組みに従った財務諸表の作成において、固有リスク要因がどのように及びどの程度アサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼすのかを特定するのに役立つ。また、企業及び企業環境並びに適用される財務報告の枠組みの理解は、監査人が重要な虚偽表示リスクを識別し評価する際の判断の枠組みとなり、例えば、以下の事項について監査人が計画する際、及び監査の過程を通じて職業的専門家としての判断を行い職業的懐疑心を保持する際に役立つ。・本報告書又は他の関連する監査基準報告書に従った、財務諸表の重要な虚偽表示リスク(例えば、監査基準報告書240に従った不正リスクや監査基準報告書540に従った会計上の見積りに関するリスク)の識別及び評価・監査基準報告書250「財務諸表監査における法令の検討」に従った、財務諸表に重要な影響を及ぼすことがある法令への違反の識別に資する手続の実施(監基報250第14項参照)・監査基準報告書700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」に従った、財務諸表が適正に表示されているかどうかの評価(監基報700第13項(5)参照)・監査基準報告書320「監査の計画及び実施における重要性」に従った、重要性の基準値又は手続実施上の重要性の決定(監基報320第9項及び第10項参照)・会計方針の選択及び適用の適切性、並びに財務諸表の開示の妥当性についての検討
A46
企業及び企業環境並びに適用される財務報告の枠組みの理解により、監査人は、例えば以下の局面において、どのようにリスク対応手続を計画し実施すればよいかについて判断することができる。・監査基準報告書520に従った分析的実証手続を実施する際に使用する監査人の推定値の算定(監基報520第4項参照)・監査基準報告書330に従った十分かつ適切な監査証拠を入手するためのリスク対応手続の立案と実施・入手した監査証拠の十分性と適切性の評価(例えば、経営者が使用した仮定、又は経営者による口頭、書面及び電磁的記録による陳述に関連した監査証拠の評価)
適用の柔軟性
A47
企業及び企業環境並びに適用される財務報告の枠組みの理解の内容と程度は、監査人の職業的専門家としての判断事項であり、以下を含む企業の事業内容及び状況によって企業ごとに異なる。・IT環境を含む、企業の規模及び複雑性・企業に関する監査人の過去の経験・企業の内部統制システム及び業務プロセスの内容(企業として正式に確立しているかどうかを含む。)・文書化されている事項及びその文書の形態
A48
企業及び企業環境並びに適用される財務報告の枠組みを理解するための監査人のリスク評価手続は、複雑でない企業の監査と比べ、複雑な企業の監査ではより広範囲となる場合がある。ただし、監査人に求められる理解の程度は、経営者の理解の程度よりも低いものとなる。
A49
一部の財務報告の枠組みでは、小規模企業に対して、財務諸表の注記事項の簡素化が容認されている。しかしながら、これは、企業及び企業環境並びに当該企業に適用される財務報告の枠組みを理解する監査人の責任を軽減するものではない。
A50
企業のITの利用状況及びIT環境の変更の内容と程度によっては、企業及び企業環境並びに適用される財務報告の枠組みを理解するために、より専門的な知識が必要となる場合がある。
ア.企業の組織構造と所有構造
A51
企業の組織構造及び所有構造を理解することにより、監査人は次のような事項を理解できることがある。・企業の組織構造の複雑性例企業は、単一の事業体である場合もあれば、複数の所在地に子会社、事業部又はその他の事業単位を有する企業集団の場合もある。さらに、法的な企業又はその他の事業単位と、事業運営上の企業又はその他の事業単位とが一致しない場合もある。企業グループの複雑な組織構造は、重要な虚偽表示リスクを生じさせる論点につながることが多い。このような論点には、のれん、共同支配企業、投資又は特別目的事業体が適切に会計処理されているかどうか、及び財務諸表に適切に注記されているかどうかが含まれる。・所有構造及び所有者とその他の者との関係(関連当事者を含む。)。関連当事者との取引が適切に識別され、記録され、財務諸表に適切に注記されていることを確かめる際に、所有構造及び所有者とその他の者との関係についての理解が役立つ。・所有者、監査役等及び経営者の区別例複雑でない企業において、企業の所有者が経営に関与している場合があり、その場合は、所有とガバナンスと経営の区別がほとんどないか、又は全くない。一方で、多くの上場企業と同様に、経営者、企業の所有者及び監査役等の間に明確な区別がある場合もある。・企業のIT環境の構造と複雑性例・多様な事業において多くのレガシーシステムが使用され、それらのシステムが十分に統合されていないため、結果として複雑なIT環境となっている。・IT環境の一部について、内外のサービスプロバイダを利用している(例えば、IT環境のホスティングを第三者に外部委託したり、又はグループ内のITプロセスを集約管理するためにシェアード・サービス・センターを利用したりする。)。
自動化されたツール及び技法
A52
監査人は、情報システムを理解するための監査手続の一環として、自動化されたツール及び技法を利用することにより取引及び処理の流れを理解することがある。手続の結果、監査人は、企業の組織構造や企業の取引相手(例えば、仕入先、顧客、関連当事者)に関する情報を入手することがある。
監査人がガバナンスを理解する理由
A53
企業のガバナンスを理解することは、監査人が、企業が内部統制システムを適切に監視できているかを理解するのに役立つ。理解の結果、内部統制の不備を識別することがあり、このような不備が、企業の財務諸表における重要な虚偽表示リスクの生じやすさが高まっていることを示している場合がある。
企業のガバナンスの理解
A54
監査人が企業のガバナンスについて理解する際に考慮することがある事項には、以下が含まれる。・監査役等のいずれかが企業の経営に関与しているかどうか。・業務執行に関与しない役員による会議体の有無。有る場合には業務執行を担当する者からの分離状況・監査役等が、企業の機関における法的に不可欠な地位を占めているか。・機関の設置状況に応じた監査役等の責任・財務諸表の承認を含む、財務報告の監視における監査役等の責任《ウ.企業のビジネスモデル》付録1では、企業及びそのビジネスモデルを理解するための追加的な考慮事項、並びに特別目的事業体の監査のための追加的な考慮事項を記載している。
監査人が企業のビジネスモデルを理解する理由
A55
企業の目的、戦略及びビジネスモデルを理解することにより、監査人が企業戦略の観点から企業を理解し、企業がどのような事業上のリスクに直面し対処しているかを理解することができる。事業上のリスクの多くは財務諸表に影響を与えるため、財務諸表に影響を与える事業上のリスクを理解することは、監査人が重要な虚偽表示リスクを識別するのに役立つ。例企業のビジネスモデルは、以下のように様々な形でITの活用に依拠している。・企業は、実店舗において靴を販売しており、先進的な在庫管理システムやPOSシステムを使って靴の販売を記録している。・企業は、靴をオンラインで販売しており、ウェブサイト上での受注を含め、全ての販売取引処理がIT環境で実施されている。両企業とも靴の販売をしているが、ビジネスモデルが大きく異なるため、事業上のリスクも大きく異なる。
企業のビジネスモデルの理解
A56
監査人は、ビジネスモデルの全ての側面を理解する必要はない。事業上のリスクは、財務諸表の重要な虚偽表示リスクを含み、これよりも広義のリスクである。全ての事業上のリスクが必ずしも重要な虚偽表示リスクとなるわけではないため、監査人は全ての事業上のリスクを理解し識別する責任を負うものではない。
A57
重要な虚偽表示リスクの生じやすさを高める事業上のリスクは、以下の事項から生じることがある。・不適切な企業目標や戦略、戦略の効果的でない実行又は変化や複雑性・変化に対応する必要性を認識しないことも事業上のリスクとなることがあり、例えば、以下の事項により発生することがある。-新製品又はサービスの開発に失敗すること。-新製品又はサービスの開発に成功したとしても、市場で販売する段階で、市場がいまだ十分に成熟していないため販売が伸び悩むこと。-・製品やサービスの欠陥により法的責任が生じ、又は評判に傷がつくこと。経営者に対するインセンティブやプレッシャーは、意図的であるか否かを問わず経営者の偏向を招く可能性があり、よって、経営者による重要な仮定の合理性や将来の予測に影響を与える可能性がある。
A58
企業のビジネスモデル、企業目的及び戦略並びに財務諸表の重要な虚偽表示リスクとなる可能性のある関連する事業上のリスクを理解する際に、監査人が検討する事項には、例えば、以下が含まれる。・産業の発展(産業変化に対処できる人材や経験が企業にないこと。)・新しい製品やサービス(製造物責任の増加)・事業の拡大(需要を正確に予測できないこと。)・新しい会計基準(不完全又は不適切な導入)・法的な要求事項(増加する法的リスク)・現在又は将来の資金需要(見込まれる需要に対応できないために生じる財務損失)・ITの利用(業務と財務報告の双方に影響を及ぼす新しいITシステムの導入)・戦略の導入の影響(特に新たな会計上の対応が必要となるような影響)
A59
通常、経営者は事業上のリスクを識別し、これに対応するためのアプローチを策定する。このようなリスク評価プロセスは、企業の内部統制システムの一部であり、第21項及びA97項からA101項で記載している。
ア.産業
A60
産業に関連する外部要因には、競争的な環境、仕入先や顧客との関係、技術開発等の産業の状況を含んでいる。監査人の考慮事項には、例えば、以下の事項が含まれる。・市場と競争(需要、供給及び価格競争を含む。)・循環的又は季節的な変動・企業の製品に関連する生産技術・エネルギーの供給と価格
A61
企業が属する産業によっては、事業の性質及び規制等の程度により、特定の重要な虚偽表示リスクが生じることがある。例建設業における長期工事契約には、重要な虚偽表示リスクを発生させる収益及び費用の見積りが含まれていることがある。このような場合には、必要な知識と経験を有するメンバーを監査チームに含めることが重要である(監基報220第25項から第28項参照)。
イ.規制
A62
規制に関連する外部要因には、規制環境、特に適用される財務報告の枠組み、法的及び政治的な環境、並びにその変更を含んでいる。監査人の考慮事項には、例えば、以下の事項がある。・規制産業に対する規制の枠組み(例えば、関連する開示要求事項を含む、金融機関に対する健全性規制)・企業の事業運営に著しく影響を与える法令(例えば、雇用や就労関連の法令及び規則)・税に関する法令・企業の事業に影響を与える政策(例えば、外国為替管理等の金融政策、財政政策、政府の助成金制度のような財務的インセンティブ及び関税や通商政策)・産業と企業の事業に影響を与える環境規制
A63
監査基準報告書250には、企業及び企業が属する産業に対して適用される法令に関連する特定の要求事項が含まれている(監基報250第12項参照)。
ウ.その他の外部要因
A64
監査人が検討する企業に影響を及ぼすその他の外部要因には、例えば、以下の事項がある。・一般的な経済情勢・金利又は資金調達の容易さ・インフレーション又は通貨価値の改定《③企業の業績を評価するために経営者が使用する測定指標》(第18項(1)③参照)
ア.経営者が使用する業績の測定指標を監査人が理解する理由
A65
企業の業績の測定指標を理解することは、それが企業の内外のいずれで使用されているかにかかわらず、業績目標の達成に対するプレッシャーが企業に生じているかどうかを検討するのに役立つ。このようなプレッシャーは、経営者の偏向や不正による虚偽表示の生じやすさを高めるような行動の動機となることがある。例えば、業績の改善策を講じる動機付けとなることもあるが、財務諸表の意図的な虚偽表示を行う動機となることもある(不正リスクに関連する要求事項と適用指針については監基報240を参照)。
A66
業績の測定指標は、関連する財務諸表上の重要な虚偽表示リスクの発生可能性を監査人に示すことがある。例えば、同業他社との比較によって企業の異常な急成長や異常な収益率に気が付くことがある。
イ.経営者が使用する業績の測定指標
A67
経営者及び企業内外の者は、通常、重要とみなした指標を測定して検討する。経営者が業績を評価して行動を取るために一定の主要指標(一般に入手可能な場合もあれば、そうでない場合もある。)に依拠していることが、経営者への質問により明らかになる場合がある。この場合、監査人は、企業が経営管理のために使用している情報を検討することによって、関連する業績の測定指標(社内的なものもあれば、対外的なものもある。)を識別する場合がある。また、質問により、経営者が業績を測定し又は検討していないことが明らかになった場合には、虚偽表示が発見されず修正されないリスクが高まることがある。
A68
業績を評価するために使用される主要な指標には、以下のような事項を含む。・主要な業績指標(財務及び非財務)、主要比率、趨勢及び業務運営上の統計数値・業績の期間比較分析・予算、予測、差異分析、セグメント情報及び事業部又は他の組織レベルでの業績報告・従業員の業績評価とインセンティブ報酬に関する方針・競合企業との業績比較《ウ.適用の柔軟性》(第18項(1)③参照)
A69
企業の業績の測定指標を理解するために行われる手続は、企業の規模又は複雑性並びに企業経営に対する所有者又は監査役等の関与によって異なる。例・一部の複雑でない企業については、財務制限条項などの銀行借入条件が業績又は財政状態に関連する特定の指標(例えば、運転資本の金額)と関連付けられていることがある。銀行取引に使用されている業績の測定指標を理解することは、重要な虚偽表示リスクの生じやすさが高まっている領域の識別に役立つことがある。・保険業や銀行業などの事業や環境がより複雑な一部の企業については、規制上の要求事項(自己資本比率や流動性比率の最低水準のような比率規制)に照らして、業績や財政状態を測定することがある。これらの業績の測定指標を監査人が理解することは、重要な虚偽表示リスクの生じやすさが高まっている領域の識別に役立つことがある。
エ.その他の考慮事項
A70
特に財務情報が外部に公表されている企業については、企業の外部者によって当該企業の業績の検討と分析が行われることがある。また、監査人は、以下のような情報源からの公表情報を検討して、事業内容を更に理解し、矛盾する情報に気付くことがある。・アナリストや格付機関・ニュース及びソーシャルメディアを含むその他のメディア・税務当局・規制当局・労働組合・金融機関このような財務情報は、被監査会社から入手できることも多い。
A71
業績の測定と検討の目的は、内部統制システムの監視活動(A102項からA110項参照)の目的と重複することがあるが、以下のとおり同じものではない。・業績の測定と検討は、業績が経営者(又は第三者)の設定した目標に沿っているかどうかに着目している。・一方で、内部統制システムの監視活動は、経営者による業績の測定と検討に関連する内部統制を含む内部統制の有効性の監視に関するものである。しかし、業績の測定と検討に用いられる指標は、経営者が内部統制の不備を識別する情報を提供する場合もある。
ア.適用される財務報告の枠組み及び企業の会計方針の理解
A72
企業に適用される財務報告の枠組みを理解し、適用される財務報告の枠組みが企業及び企業環境に照らしてどのように適用されているかを理解する際に、監査人は以下の事項を考慮することがある。・適用される財務報告の枠組みに関する財務報告の実務-会計基準と、重要な取引種類、勘定残高又は注記事項を含む業界特有の実務(例えば、銀行にとっての融資と投資、製薬業にとっての研究開発)-収益認識-関連する信用損失を含む、金融商品の会計処理-外貨建資産及び負債並びに取引-議論のある又は新たな領域における取引を含む、通例でない又は複雑な取引の会計処理(例えば、暗号資産の会計処理)・企業の会計方針の選択及び適用(会計方針の変更及びその理由を含む。)に関する理解-重要かつ通例でない取引の認識、測定、表示及び開示方法-確立された指針等がない、議論のある又は新たな領域における重要な会計方針への影響-会計方針の変更が必要となるかもしれない、適用される財務報告の枠組みや税制などの環境の変化-企業に新たに適用される会計基準及び法令、並びに適用時期及び適用方法
A73
企業及び企業環境について理解することは、企業の財務報告に及ぼす変化(例えば、前期以前からの変更)を監査人が想定するのに役立つことがある。例当期中に重要な企業結合があった場合、当該企業結合に関連して取引種類、勘定残高及び注記事項の変更が想定される。また、当期中に企業及び企業環境に重要な変更がなければ、前期に得られた企業の財務報告に関する監査人の理解が、依然として適切と確認できる場合がある。
イ.固有リスク要因がどのようにアサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼすか(第18項(3)参照)
付録2は、重要な虚偽表示リスクを生じさせる可能性のある事象や状況の例を、固有リスク要因によって分類したものである。
ウ.企業及び企業環境並びに適用される財務報告の枠組みを理解する際に、監査人が固有リスク要因を理解する理由
A74
企業及び企業環境並びに適用される財務報告の枠組みを理解することは、取引種類、勘定残高又は注記事項に係るアサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼすような特徴のある事象又は状況を識別するのに役立つ。これらの特徴は、固有リスク要因である。固有リスク要因は、虚偽表示の発生可能性又は発生した場合の虚偽表示の影響の度合いに関連することで、アサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼす可能性がある。固有リスク要因がどのように及びどの程度、アサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼすのかを理解することは、以下に役立つことがある。・第27項(2)に従ってアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを識別する際の、虚偽表示の発生可能性と影響の度合いの監査人の予備的な理解・第30項(1)に従って固有リスクを評価する際の、起こり得る虚偽表示の発生可能性と影響の度合いの監査人の評価したがって、固有リスク要因を理解することは、監査人が監査基準報告書330に基づくリスク対応手続を立案し実施するのに役立つことにもなる。
A75
監査人によるアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの識別及び固有リスクの評価は、他のリスク評価手続やリスク対応手続の実施の際に又は監査基準報告書における他の要求事項に準拠する際に監査人が入手した監査証拠の影響を受けることもある(A83項、A91項、A99項、A109項、A112項及びA139項参照)。
エ.取引種類、勘定残高又は注記事項に対する固有リスク要因の影響
A76
複雑性又は主観性から生じる取引種類、勘定残高又は注記事項における虚偽表示の生じやすさの程度は、多くの場合、状況の変化又は不確実性の影響をどの程度受けるかに密接に関係している。例企業がある仮定に基づく会計上の見積りを行っており、その仮定の選択において重要な判断を伴う場合、会計上の見積りの測定は主観性と不確実性の両方の影響を受ける可能性が高くなる。
A77
複雑性又は主観性に起因して、取引種類、勘定残高又は注記事項の虚偽表示の生じやすさが高いほど、監査人が職業的懐疑心を保持する必要度は高まる。さらに、ある取引種類、勘定残高又は注記事項に、複雑性、主観性、変化又は不確実性に起因して虚偽表示が生じやすい場合には、これらの固有リスク要因は意図的であるかどうかにかかわらず経営者の偏向が存在する機会を発生させ、経営者の偏向による虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼす可能性がある。監査人による重要な虚偽表示リスクの識別やアサーション・レベルの固有リスクの評価は、固有リスク要因の間の相互関係にも影響を受ける。
A78
経営者の偏向による虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼす可能性のある事象や状況は、その他の不正リスク要因による虚偽表示の生じやすさにも影響を及ぼす可能性がある。したがって、これは監査基準報告書240第23項の不正リスク要因の検討に関連する情報となる可能性があり、監査人は、実施したその他のリスク評価手続とこれに関連する活動により入手した情報が、一つ又は複数の不正リスク要因の存在を示しているかどうかを検討しなければならない。
(4)企業の内部統制システムの理解(第20項から第26項参照)
付録3は、企業の内部統制システムの内容及び内部統制の固有の限界について記載している。また、監査基準報告書における内部統制システムの構成要素についても説明している。
A79
第20項から第26項に記載している、内部統制システムの各構成要素の理解と評価の双方を目的として実施するリスク評価手続を通じて、監査人は、企業の内部統制システムを理解する。
A80
本報告書における企業の内部統制システムの構成要素は、必ずしも、企業がどのように内部統制システムを整備及び運用しているのか又はある内部統制がどの構成要素に分類されるかを表しているわけではない。内部統制システムの様々な側面を説明するために、企業が異なる用語や枠組みを用いることがある。また、監査人も、本報告書に記載されている全ての構成要素の内容が網羅されている場合は、内部統制の様々な側面や監査への影響を検討するために、本報告書に記載したもの以外の異なった用語や枠組みを使用することも可能である。
適用の柔軟性
A81
企業の内部統制システムの整備及び運用方法は、企業の規模及び複雑性によって異なる。例えば、複雑でない企業では、内部統制の目的を達成するために、非公式な方法やより簡素な内部統制の手続を用いられることがある。
内部統制システムの構成要素におけるIT
付録5は、企業の内部統制システムの構成要素におけるITの利用を理解する際のより詳細な指針を提供している。
A82
監査の総括的な目的及び範囲は、企業の業務を運営する環境が、ほとんど自動化されていないか、完全に自動化されているか、又は部分的に自動化されているか(すなわち、手作業による内部統制及び自動化された内部統制、並びにその他のITに係る経営資源が企業の内部統制システムで利用されている状況)によって、異なるものではない。
内部統制システムの構成要素の理解
A83
内部統制のデザインの有効性の評価、及びそれらの内部統制が業務へ適用されているかどうかの評価に当たり(A163項からA169項参照)、内部統制システムの各構成要素についての監査人の理解は、企業がどのように事業上のリスクを識別し、どのように対応しているかについての予備的な理解となる。また、内部統制システムの各構成要素についての監査人の理解は、重要な虚偽表示リスクについての監査人の識別及び評価に影響を与えることがあり(A75項参照)、内部統制の運用状況の有効性の評価の計画など、監査人がリスク対応手続を立案し実施するのに役立つ。例えば、企業の統制環境、リスク評価プロセス及び内部統制システムを監視するプロセスに対する監査人の理解は、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクの識別及び評価に影響を与える可能性が高く、また、企業の情報システムと伝達及び企業の統制活動に対する監査人の理解は、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの識別及び評価に影響を与える可能性が高い。
①統制環境、企業のリスク評価プロセス及び内部統制システムを監視する企業のプロセス(第20項から第23項参照)
A84
統制環境、企業のリスク評価プロセス及び内部統制システムを監視する企業のプロセスにおける内部統制は、主に間接的な内部統制である。すなわち、アサーション・レベルの虚偽表示を防止、発見又は修正するのに十分な精度の内部統制ではないが、他の内部統制を支援することで、虚偽表示が適時に発見又は防止される可能性に間接的な影響を与えることがある内部統制である。ただし、統制環境、企業のリスク評価プロセス及び内部統制システムを監視する企業のプロセスにおける内部統制にも、直接的な内部統制が含まれる場合がある。
ア.統制環境、企業のリスク評価プロセス及び内部統制システムを監視する企業のプロセスを理解しなければならない理由
A85
統制環境は、内部統制システムの他の構成要素に全般的な基礎を提供する。統制環境は、虚偽表示を直接的に防止又は発見し修正するものではないが、内部統制システムの他の構成要素における内部統制の有効性に影響を及ぼす。同様に、企業のリスク評価プロセス及び内部統制システムを監視する企業のプロセスは、内部統制システム全体を支援するようにデザインされる。
A86
統制環境、企業のリスク評価プロセス及び内部統制システムを監視する企業のプロセスは企業の内部統制システムの基礎となるものであるため、その運用における不備は財務諸表の作成に広範な影響を及ぼす可能性がある。したがって、これらの構成要素に対する監査人の理解及び評価は、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクの監査人による識別及び評価に影響を与え、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの識別及び評価にも影響を与える可能性がある。財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクは、監査基準報告書330で説明されているように、監査人のリスク対応手続の種類、時期及び範囲への影響を含め、全般的な対応の立案に影響を及ぼす(監基報330のA1項からA3項参照)。
適用の柔軟性
A87
複雑でない企業の統制環境は、複雑な企業における統制環境とは異なることが多い。例えば、複雑でない企業における取締役会や監査役等には、独立性を有する社外の者が含まれていないことがあり、また企業を単独で所有するオーナー経営者(企業の所有者であり、かつ、日々の事業運営に関与している者)が直接ガバナンスの役割を担っている場合がある。企業の複雑性によって、企業の統制環境に関する幾つかの考慮事項は、関連性が低いか該当しない場合がある。
A88
また、特に経営者と従業員との間の意思疎通が正式な形で行われないことが多い複雑でない企業では、統制環境の各要素についての監査証拠が文書化された形で入手できない場合があるが、その状況においても監査証拠が適合性と信頼性を有していることがある。例・複雑でない企業の組織構造は簡素となる傾向にあり、財務報告に関する役割を担う従業員が少数の場合がある。・オーナー経営者が直接ガバナンスの役割を担っている場合、監査人は、取締役会や監査役等の独立性は考慮する事項に該当しないと判断する場合がある。・複雑でない企業では、文書化された行動規範はないが、その代わりに口頭による伝達や経営者による実践を通じて、誠実性と倫理的行動の重要性を重視する企業文化を醸成していることがある。その場合、経営者又はオーナー経営者の態度、姿勢及び行動が、複雑でない企業の統制環境の監査人の理解にとって特に重要である。
統制環境の理解(第20項(1)参照)
A89
統制環境の理解に関連する監査証拠は、質問と聴取した内容を裏付ける文書の閲覧や観察などのその他のリスク評価手続とを組み合わせて実施することにより、入手される場合がある。
A90
経営者が誠実性及び倫理観に対する姿勢をどの程度示しているかを検討するに当たり、監査人は、経営者及び従業員への質問、並びに外部の情報源から得た情報の考慮を通じて、次の事項を理解する場合がある。・企業経営に対する考え方や倫理的行動についての見解を経営者がどのように従業員に伝達しているか。・経営者が正式な行動規範を策定し、実際にその規範に準拠して行動しているか。
監査人が統制環境を評価する理由
A91
統制環境は内部統制システムの他の構成要素の基礎となっていることから、以下について評価することは、監査人が内部統制システムの他の構成要素における潜在的な問題を識別するのに役立つ。・誠実性と倫理観に対する企業の方針が、企業内にいかに伝達され、誠実で倫理的な行動が企業内に定着しているか。・統制環境は、内部統制システムの他の構成要素に適切な基礎を提供しているか。・統制環境の不備によって、内部統制システムの他の構成要素が損なわれていないか。また、この評価は、監査人が、企業が直面するリスクを理解し、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスク及びアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを識別し評価するのに役立つことがある(A75項参照)。
統制環境に対する監査人の評価
A92
監査人は、第20項(1)に従って得た理解に基づき、統制環境を評価する。
A93
特定の個人が企業を支配し、大きな裁量を行使している場合、その個人の行動や態度は、企業の文化に広範な影響を及ぼし、統制環境にも広範な影響を及ぼすことがある。その影響は、肯定的にも否定的にもなり得る。例個人が事業経営に直接関与することは、企業の成長及びその他の目標の達成を可能とし、内部統制システムの有効性に大きく貢献する可能性がある。その一方で、情報や権限が集中することで、経営者が内部統制を無効化し、虚偽表示の生じやすさが高まることがある。
A94
監査人は、取締役会や監査役等で、独立性を有する者の関与も考慮し、上級経営者の経営理念及び経営方針が統制環境の各構成要素に与える影響を検討することがある。
A95
統制環境は内部統制システムの適切な基礎を提供し、不正リスクの軽減に役立つことがあるが、適切な統制環境は必ずしも不正に対する有効な抑止とはならない。例必要な能力のある財務、会計及びIT担当者を雇用する人事方針や手続は、財務情報の処理における誤謬のリスクを軽減することがあるとしても、利益を過大に計上しようとするような上級経営者による内部統制の無効化リスクを必ずしも軽減するものではない。
A96
企業のITの利用に関する統制環境の監査人による評価には、以下のような事項を含む場合がある。・ITに対するガバナンスは、企業の事業内容と複雑性、及びITの利用によって可能となる事業運営の内容に見合ったものであるか。これには、企業におけるIT環境の複雑性又は成熟度、及び財務報告のために利用するITアプリケーションへの依存度を考慮する。・ITに関する意思決定組織及び経営資源(例えば、カスタマイズがされていないか限定的な市販ソフトウェアを使用している場合も含め、企業が適切なIT環境の維持・更新に必要な投資をしているか、又は適切な技能を有する十分な人員を雇用しているか。)
企業のリスク評価プロセスの理解(第21項(1)参照)
A97
A56項に記載のとおり、全ての事業上のリスクが重要な虚偽表示リスクとなるわけではない。経営者及び監査役等が、財務諸表の作成に影響を及ぼす事業上のリスクをどのように識別し、当該リスクへの対処をどのように決定したかを理解するに当たり、監査人は、経営者又は必要に応じて監査役等について以下の事項を検討する場合がある。・企業の目的に関連するリスクの識別と評価が可能となるよう、企業の目的をどのように詳細かつ明確に特定したか。・企業の目的の達成を妨げるリスクをどのように識別したか。また、識別したリスクの管理方法を決定するためにリスクをどのように分析したか。・企業の目的の達成を妨げるリスクを検討する際に、不正の可能性をどのように検討したか(監基報240第19項参照)。
A98
監査人は、識別した事業上のリスクが企業の財務諸表の作成及び内部統制システムのその他の側面に及ぼす影響を考慮することがある。
企業のリスク評価プロセスが適切であるかどうかを監査人が評価する理由
A99
企業のリスク評価プロセスを評価することは、企業が発生可能性のあるリスクをどの領域で識別し、当該リスクにどのように対処したのかを理解するのに役立つことがある。また、企業がどのように事業上のリスクを識別し、評価し、対処しているかについて評価することは、企業が直面しているリスクが識別され、評価され、企業の事業内容や複雑性に応じて適切に対処されているかを理解するのに役立つ。また、当該評価は、監査人が財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスク及びアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを識別し評価するのに役立つ場合もある(A75項参照)。
企業のリスク評価プロセスが適切であるかどうかの評価(第21項(2)参照)
A100
企業のリスク評価プロセスの適切性に関する監査人の評価は、第21項(1)に従って得た理解に基づく。
適用の柔軟性
A101
企業の事業内容及び複雑性を考慮した場合、企業のリスク評価プロセスが、企業の状況に対して適切かどうかは、監査人の職業的専門家としての判断によることとなる。例一部の複雑でない企業、特にオーナー経営の企業では、経営者が事業に直接関与することにより、リスク評価が適切に実施されることがある(例えば、経営者は、新たに発生した事業上のリスクを識別するために、市場における競合企業の活動及びその他の状況変化の定期的な監視に時間を費やすことがある。)。このような企業のリスク評価の証跡は、正式に文書化されていない場合が多いが、経営者とのディスカッションにより経営者がリスク評価手続を実施していることが明らかになることがある。
適用の柔軟性
A102
複雑でない企業、特にオーナー経営の企業において、経営者又はオーナー経営者が事業に直接関与し、他に監視活動がないため、監査人が内部統制システムを監視する企業のプロセスを理解する場合、経営者又はオーナー経営者がどのように事業に直接関与しているかに着目することが多い。例オーナー経営者は、月次請求書の誤りについて顧客からクレームを受けることにより、顧客からの入金の起票のタイミングの問題点を認識することがある。
A103
内部統制システムを監視する企業の正式なプロセスが存在しない場合は、内部統制システムを監視する企業のプロセスを理解するために、企業が虚偽表示を防止又は発見できるようにデザインした管理会計の情報の定期的なレビューを理解することがある。
内部統制システムを監視する企業のプロセスの理解(第23項(1)参照)
A104
内部統制システムを監視する企業のプロセスを理解する際に監査人が考慮する事項には、例えば、以下が含まれる。・監視活動のデザイン(例えば、定期的な監視か日常的な監視か。)・監視活動の実施状況及び頻度・内部統制が有効に運用されているかを判断するために適時に実施される監視活動の結果の評価・識別された不備は、是正措置を講じる責任者に適時に報告され、適切な是正措置によって対処されているか。
A105
監査人は、内部統制システムを監視する企業のプロセスが、ITの利用を伴う情報処理統制にどのように対応しているかを考慮することがある。これには、例えば、以下の事項がある。・-複雑なIT環境を監視する以下の内部統制情報処理統制のデザインが引き続き有効であるかを評価し、適宜、状況の変化に応じて当該内部統制を修正する。-・情報処理統制の運用状況の有効性を評価する。自動化された情報処理統制により職務の分離が確保されている場合、そこで適用されている承認を監視する内部統制・財務報告の自動化に関連する誤りや内部統制の不備がどのように識別され対処されているかを監視する内部統制《企業の内部監査機能の理解》(第23項(1)②参照)付録4では、企業の内部監査機能を理解するためのより詳細な考慮事項を記載している。
A106
内部監査に従事する適切な者への質問は、監査人が内部監査機能の責任を理解するのに役立つ。内部監査機能の責任が企業の財務報告に関連していると監査人が判断する場合、監査人は、監査対象期間の内部監査計画の査閲や、内部監査に従事する適切な者に対する追加的な質問により、内部監査人が実施した又は実施する予定の活動について理解を深めることがある。また、内部監査機能の理解は、監査人の質問から得た情報と併せて、監査人が行う重要な虚偽表示リスクの識別及び評価に直接関連する情報をもたらす場合がある。内部監査機能に対する監査人の予備的な理解に基づき、監査人が実施する監査手続の種類若しくは時期を変更するか又は範囲を縮小するために内部監査人の作業を利用する予定である場合、監査基準報告書610「内部監査人の作業の利用」が適用される。
情報源の理解(第23項(2)参照)
A107
経営者による監視活動では、顧客からの苦情や規制当局からの改善勧告等、問題点を指摘し、改善の必要のある点を示唆することがある外部者からの情報を利用することがある。
内部統制システムの監視において利用される情報源を理解しなければならない理由
A108
情報が目的に適合していて信頼できるかどうかを含め、内部統制システムを監視する際に企業が利用する情報源について監査人が理解することは、内部統制システムを監視する企業のプロセスが適切であるかどうかに関して監査人が評価することにも役立つ。経営者が何らかの根拠に基づくことなく監視活動に使用する情報が目的に適合していて信頼できるとみなしている場合には、情報に誤りが存在していることがあり、これにより経営者は誤った結論を導き出す可能性がある。
内部統制システムを監視する企業のプロセスが適切であるかどうかを監査人が評価する理由
A109
内部統制の有効性を監視するための企業の日常的監視活動と独立的評価の方法について監査人が評価することは、企業の内部統制システムの監視活動以外の構成要素が存在し機能しているかどうか、すなわち、内部統制システムの他の構成要素を理解するのに役立つ。また、この監査人の評価は、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスク及びアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを監査人が識別し評価するのに役立つ(A75項参照)。
内部統制システムを監視する企業のプロセスが適切かどうかの評価(第23項(3)参照)
A110
内部統制システムを監視する企業のプロセスの適切性に関する監査人の評価は、第23項(1)及び(2)に従って得た理解に基づく。
②情報システムと伝達及び統制活動(第24項及び第25項参照)
A111
情報システムと伝達及び統制活動における内部統制は、主に直接的な内部統制である。すなわち、アサーション・レベルの虚偽表示を防止、発見又は修正するのに十分な精度の内部統制である。
ア.情報システムと伝達及び統制活動における内部統制を監査人が理解しなければならない理由
A112
財務諸表の作成に関連する取引の流れやその他の情報処理活動を含めた企業の方針を理解し、内部統制システムの構成要素である情報システムと伝達が財務諸表の作成を適切に支援しているかどうかを評価することは、監査人がアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを識別し評価することに役立つ。また、この理解と評価の結果、監査契約の新規の締結及び更新の過程において入手した情報から想定された内部統制システムと、監査手続の結果とが整合していない場合には、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクを識別する場合もある(A75項参照)。
A113
監査人は、統制活動における個々の内部統制を識別し、デザインを評価し、実際に適用されているかどうかを評価することが求められている。この識別と評価は、特定のリスクへの経営者の対処方針の理解を可能とし、監査基準報告書330において要求されるリスク対応手続の立案及び実施に関する決定に役立つ。監査人が、識別した内部統制の運用状況の有効性の評価を計画していない場合であっても、特定のリスクに対する経営者の対処方針の理解は、関連する重要な虚偽表示リスクに対応する実証手続の種類、時期及び範囲の立案に役立つ。
イ.情報システムと伝達及び統制活動に対する監査人による反復的な理解と評価
A114
A44項の記載にあるとおり、企業及び企業環境並びに適用される財務報告の枠組みを理解することで、監査人は、重要な取引種類、勘定残高又は注記事項を暫定的に識別する場合がある。監査人は、第24項(1)に従って情報システムと伝達を理解する際に、暫定的に識別した重要な取引種類、勘定残高又は注記事項に基づいて、企業の情報処理活動の理解の範囲を決定する場合がある。
A115
情報システムに対する監査人の理解には、重要な取引種類、勘定残高又は注記事項に関連する情報の流れやその他の情報処理活動を定めた企業の方針の理解が含まれる。当該理解及び情報システムに対する評価から得られた理解により、暫定的に識別した重要な取引種類、勘定残高又は注記事項に対する監査人の評価が影響を受ける場合がある(A114項参照)。
A116
監査人は、重要な取引種類、勘定残高又は注記事項に関連する、企業の情報システムにおける情報の流れを理解する際に、第25項(1)に記載されている統制活動における内部統制を識別する場合がある。統制活動における内部統制のうち、監査人がはじめに着目し識別し評価する内部統制は、仕訳入力に関する内部統制と、実証手続の種類、時期及び範囲を立案するために運用評価手続の実施を計画している内部統制となることがある。
A117
固有リスクに対する監査人の評価は、統制活動における内部統制の識別にも影響を与える場合がある。例えば、特別な検討を必要とするリスクに関連する内部統制は、第30項に従って監査人がアサーション・レベルの固有リスクを評価した後でのみ識別可能となる場合がある。また、監査人が(第32項に従って)実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手することができないと判断したリスクに対応する内部統制についても、監査人による固有リスクの評価が実施された後でのみ識別可能となる場合がある。
A118
監査人によるアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの識別と評価は、監査人が実施する次の事項の影響を受ける。・情報システムと伝達における企業の情報処理活動に関する方針の理解・統制活動における内部統制の識別及び評価《ウ.情報システムと伝達の理解》(第24項参照)付録3の第15項から第19項は、情報システムと伝達に関するより詳細な考慮事項を記載している。
適用の柔軟性
A119
複雑でない企業の情報システム及び関連する業務プロセスは、大規模企業のそれと比べて精緻でなく、IT環境も複雑でないことが多いが、情報システムの役割は同様に重要である。経営者が直接関与する複雑でない企業では、広範囲にわたる会計手続の記述、詳細な会計記録又は文書による方針を必要としない場合がある。したがって、複雑でない企業の監査においては、情報システムに関連する内容の理解に多くの工数をかける必要がなく、理解するために実施する手続は、観察や文書の閲覧よりも質問の割合が多くなる場合がある。しかしながら、関連する情報システムを理解することは、監査基準報告書330に従ったリスク対応手続を立案する上で変わらず必要であり、重要な虚偽表示リスクを識別し評価するのに役立つことがある(A75項参照)。
情報システムの理解(第24項(1)参照)
A120
企業の内部統制システムには、企業の報告目的(財務報告の信頼性を確保する目的を含む。)に関する側面が含まれるが、財務報告に関連する場合には、企業の事業経営の有効性と効率性を高める目的や事業経営に係る法令の遵守を促す目的に関する側面も含まれる場合がある。監査人による情報システムの理解の一環として、企業がどのように取引を開始し情報を把握しているかの理解に加え、財務諸表の作成に関連している場合には、事業経営の有効性と効率性を高める目的や事業経営に係る法令の遵守を促す目的に対処するためにデザインされた企業の内部統制(企業の方針)に関しても理解することが必要になる場合がある。また、高度に統合された情報システムを有している企業においては、財務報告の信頼性を確保する目的、事業経営の有効性と効率性を高める目的及び事業経営に係る法令の遵守を促す目的並びにその組合せを同時に達成できるように内部統制がデザインされている場合がある。
A121
企業の情報システムの理解には、企業の情報処理活動で利用される経営資源についての理解も含まれる。監査人が、情報システムの完全性に関するリスクを理解する上で必要となる人的資源の情報には、以下が含まれる。・業務の担当者の能力・適切な人材が存在しているか。・適切な職務分離が行われているか。
A122
重要な取引種類、勘定残高又は注記事項に関連する情報の流れを定めた情報システムと伝達における方針を理解する際に監査人が考慮する事項には、以下が含まれる。(1)処理すべき取引、その他の事象及び状況に関するデータ又は情報(2)当該データ又は情報のインテグリティ(すなわち、取引及びその他の情報(データ)の網羅性、正確性、正当性)を維持するための情報処理(3)情報処理プロセスにおける情報処理、担当者及びその他の経営資源
A123
企業の業務プロセス(取引がどのようにその中で発生するかを含む。)の理解は、監査人が企業の状況に応じて情報システムを理解することに役立つ。
A124
監査人が情報システムを理解する方法は様々であり、次の方法が含まれる。・取引の開始から、記録、処理及び報告に至るまでの手続、又は企業の財務報告プロセスについての担当者への質問・企業の情報システムの方針、マニュアル又はその他の文書の閲覧・担当者による方針又は手続の実施の観察・情報システムにおいて、取引の開始から財務諸表に反映されるまでを追跡すること(すなわち、ウォークスルーの実施)。
自動化されたツール及び技法
A125
監査人は、取引の会計記録を保存している企業の情報システムのデータベースに直接アクセスするために、又は、データベースからデータをダウンロードするために、自動化された技法を使用する場合がある。監査人は、この情報に対して自動化されたツール又は技法を用いることで、特定の取引又は取引の母集団全体に係る仕訳入力又は他の電子的な記録を追跡し、会計記録の開始から総勘定元帳への転記に至るまでの情報システム内の取引の流れについての監査人の理解を確認することがある。取引を網羅的に又は広範囲に分析することにより、通常の処理又は想定される処理から逸脱した取引が識別され、結果として、重要な虚偽表示リスクが識別されることがある。
総勘定元帳や補助元帳以外から入手した情報
A126
財務諸表には総勘定元帳や補助元帳以外から入手した情報が注記される場合がある。監査人が考慮する財務諸表の注記と関連する情報には、例えば、以下のものがある。・リース契約に関する情報・企業のリスク管理システムにより作成された情報・経営者が利用する専門家が作成した公正価値(時価を含む。)に関する情報・会計上の見積りに使用されたモデル等に用いられる情報。これには、以下のようなモデル等で使用された基礎データ及び仮定が含まれる。-資産の耐用年数に影響を及ぼす可能性のある社内で立てた仮定-企業の影響が及ばない要因により変動するデータ(例えば、金利)・経営者が代替的な仮定を検討したことを示す感応度分析に関する情報・企業の納税申告や税務に関連する情報・継続企業の前提に関する経営者の評価を裏付けるために実施された分析から得られた情報。例えば、継続企業の前提に重要な不確実性が認められた場合、又は重要な疑義を生じさせるような事象若しくは状況が識別されているが、継続企業の前提に重要な不確実性が認められない場合に適用される財務報告の枠組みに基づいて財務諸表に注記される情報(監基報570第18項及び第19項参照)
A127
企業の財務諸表における特定の金額又は注記事項(例えば、信用リスク、流動性リスク及び市場リスク)は、企業のリスク管理システムから得られる情報に基づく場合がある。しかしながら、監査人はリスク管理システムの全てを理解することまでは求められておらず、どこまで理解する必要があるかを決めるのは職業的専門家としての判断による。
情報システムに関連するIT環境を監査人が理解する理由
A128
企業がITアプリケーションや関連するその他のIT環境を利用することによりITの利用から生じるリスクが高まる場合があるため、情報システムに対する監査人の理解には、企業の情報システムにおける取引の流れや情報処理に関連するIT環境が含まれる。
A129
企業のビジネスモデルや当該ビジネスモデルがITをどの程度活用しているかを理解することにより、情報システムにおいて利用が想定されるITの内容と利用の程度についての有用な情報が得られる場合がある。
企業によるITの利用状況の理解
A130
監査人は、IT環境を理解する際に、情報システムにおける取引の流れや情報処理に関連する特定のITアプリケーション及びその他のIT環境を識別し、その内容や数を理解することに重点を置く場合がある。ITアプリケーションのプログラム変更、又は、取引や情報を処理又は保存するデータベース上でのデータの直接修正により、取引の流れ又は情報システム内の情報が変更されることがある。
A131
監査人は、重要な取引種類、勘定残高又は注記事項に関連する、企業の情報システムにおける情報の流れを理解するのと同時に、関連するITアプリケーション及びそれを支援するITインフラストラクチャーを識別することがある。
適用の柔軟性
A132
大規模で複雑な企業においては、企業の伝達を理解する際に監査人が考慮する情報は、財務報告の規定やマニュアルから入手することができる場合がある。
A133
複雑でない企業においては、責任の階層が少なく、経営者の目が行き届くことから、伝達が組織化されていない場合がある(例えば、正式なマニュアルが作成されていない。)。企業の規模にかかわらず、自由闊達な雰囲気や風土は、例外事項の報告とこれに対する行動を自然と促す。
関連する情報システムが、財務諸表の作成を支援しているかどうかの評価(第24項(3)参照)
A134
企業の情報システムと伝達が、財務諸表の作成を適切に支援しているかどうかに関する監査人の評価は、第24項(1)及び(2)に従って得た理解に基づいて行われる。
統制活動における内部統制
付録3の第20項及び第21項は、統制活動に関するより詳細な考慮事項を記載している。
A135
統制活動には、企業の内部統制システムの統制活動以外の構成要素に含まれる方針(それ自体が内部統制である。)が適切に適用されるようにデザインされた内部統制が含まれる。統制活動における内部統制には直接的な内部統制と間接的な内部統制がある。例年次の実地棚卸において、担当者が棚卸資産を適切にカウントし、記録するための内部統制を企業は確立することがある。このような内部統制は、棚卸資産勘定残高の実在性と網羅性のアサーションに関する重要な虚偽表示リスクと直接的に関連している。
A136
統制活動における内部統制の識別と評価において、監査人は情報処理統制に重点を置く。情報処理統制は、情報のインテグリティ(すなわち、取引及びその他の情報(データ)の網羅性、正確性、正当性)のリスクに直接対応する、企業の情報システムにおける情報処理に適用される内部統制である。しかしながら、監査人は、重要な取引種類、勘定残高又は注記事項に関する取引の流れやその他の情報処理活動を定めた企業の方針に関連する全ての情報処理統制を識別し、評価することは求められていない。
A137
統制環境、企業のリスク評価プロセス、又は内部統制システムを監視する企業のプロセスにおいて、第25項に従って識別される内部統制が、直接的な内部統制である場合もある。内部統制と虚偽表示リスクとの関係が間接的であればあるほど、関連する虚偽表示の防止及び発見・修正において内部統制が効果的でない可能性がある。例通常、販売担当マネージャーによる特定の店舗の販売活動の要約情報のレビューと、収益の網羅性のアサーションに関する重要な虚偽表示リスクの関係は間接的であり、出荷に関する文書と請求書を照合する等の虚偽表示リスクに直接対応する内部統制と比べ、当該虚偽表示リスクに対し十分に効果的でない可能性がある。
A138
IT全般統制は、有効な情報処理統制の継続的な運用を支援するため、第25項は、ITの利用から生じるリスクの影響を受けるITアプリケーション及び関連するその他のIT環境について、監査人にIT全般統制を識別し評価することを要求している。通常、IT全般統制だけでは、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに対応できない。
A139
監査人が第25項に従って、識別し、デザインを評価し、また業務に適用されているかどうかを判断することが要求される内部統制は以下である。・実証手続の種類、時期及び範囲を決定するに当たり、監査人が運用評価手続の実施を計画している内部統制。このような内部統制の評価は、監査基準報告書330に準拠した運用評価手続を監査人が立案するための基礎を提供する。この内部統制には、実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できないリスクに対応する内部統制が含まれる。・特別な検討を必要とするリスクに対応する内部統制及び仕訳入力に関する内部統制。これらの内部統制の識別及び評価は、重要な虚偽表示リスクの追加的な識別を含め(A83項参照)、重要な虚偽表示リスクに関する監査人の理解に影響を及ぼすこともある。また、この理解は、評価した重要な虚偽表示リスクに対応する実証手続の種類、時期及び範囲を決定するための基礎も提供する。・アサーション・レベルのリスクに関して第12項の目的を達成するために、監査人が職業的専門家としての判断に基づいて評価することが適切であると考えるその他の内部統制
A140
第25項(1)の項目に該当する場合には、統制活動における内部統制を識別しなければならない。しかしながら、複数の内部統制が同一の目的を達成する場合には、その目的に関連する全ての内部統制を識別する必要はない。
統制活動における内部統制の種類(第25項参照)
A141
統制活動における内部統制の例としては、承認、調整、検証(エディット・チェック、バリデーション・チェック又は自動計算など)、職務の分離、物理的又は論理的なアクセス権管理に関する内部統制(資産の保全に対処するものを含む。)が挙げられる。
A142
適用される財務報告の枠組みに従った注記事項が作成されないことに関する重要な虚偽表示リスクにも対応する統制活動における内部統制が、経営者によって確立されている場合もある。そのような内部統制は、財務諸表に含まれる情報で、総勘定元帳と補助元帳以外から入手される情報と関連することがある。
A143
自動化された内部統制か手作業による内部統制かにかかわらず、内部統制には様々な目的があり、組織の様々な階層で適用されることがある。
適用の柔軟性(第25項参照)
A144
複雑でない企業の統制活動における内部統制は、大規模企業の内部統制と同様である場合も多いが、運用形態は異なる場合もある。また、複雑でない企業では、より多くの内部統制が経営者によって直接実施される場合もある。例顧客への信用枠の付与や重要な購買の承認を経営者が単独で行うことは、重要性のある勘定残高や取引に関して強力な内部統制となる場合がある。
A145
従業員の少ない複雑でない企業において職務の分離を確立することは、現実的ではない場合があるが、オーナー経営の企業では、オーナー経営者は、直接的な関与を通じて、大規模企業に比べより効果的に監督することが可能な場合があり、限られた職務の分離を補完することがある。しかしながら、監査基準報告書240のA25項に記載されているとおり、一人の経営者による支配は、経営者による内部統制の無効化の機会があるので潜在的な内部統制の不備となることもある。
特別な検討を必要とするリスクに対応する内部統制(第25項(1)①参照)
A146
特別な検討を必要とするリスクに対応する内部統制の運用評価手続の実施を計画しているか否かにかかわらず、当該リスクへの経営者の対処方針について得た理解は、監査基準報告書330で要求されている特別な検討を必要とするリスクに対応する実証手続の立案と実施の基礎を提供することがある(監基報330第20項参照)。重要な非定型的事象又は判断に依存している事項に関連するリスクは、定型的な内部統制では対応できない場合が多いが、経営者はこのようなリスクへの別の対処を行っている場合がある。したがって、非定型的事象又は判断に依存している事項により生じる特別な検討を必要とするリスクに対応するための内部統制について企業がデザインし業務に適用しているかどうかの監査人の理解には、経営者が当該リスクに対処しているかどうか、又は経営者がどのように対処しているかが含まれることがある。経営者による対処には、以下のような事項がある。・上級経営者や専門家による、仮定の検討などの内部統制・会計上の見積りに関する文書化された手順・取締役会による承認例重要な訴訟の通知の受領等の非定型的事象が生じた場合の企業の対処には、法務部や顧問弁護士等の適切な専門家の意見の聴取、潜在的な影響の評価、財務諸表上にどのように開示すべきかの検討が含まれる。
A147
監査基準報告書240は、不正による重要な虚偽表示リスク(これは特別な検討を必要とするリスクとして扱われる。)に関連する内部統制を理解することを求めており、また経営者が不正を防止し発見するために整備及び運用している内部統制を理解することが重要であるとしている(監基報240第26項及びA30項参照)。
仕訳入力に関する内部統制(第25項(1)②参照)
A148
企業が取引処理に関連する情報を総勘定元帳に記録する方法は、定型的か否か、自動化されているか否かにかかわらず、通常、仕訳入力を伴うため、仕訳入力に関する内部統制は、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに対応し、全ての監査において識別されることが想定される内部統制である。その他の内部統制を識別する範囲は、企業の性質や監査人が計画しているリスク対応手続の方針により異なる。例複雑でない企業の監査において、企業の情報システムは複雑ではなく、監査人は内部統制への依拠を予定しないことがある。また、監査人が内部統制のデザインを評価し、当該統制が業務に適用されていることを判断することが求められる特別な検討を必要とするリスク又はその他の重要な虚偽表示リスクを識別しないこともある。監査人は、このような監査では、仕訳入力に関する企業の内部統制以外に識別すべき内部統制は存在しないと判断することがある。
自動化されたツール及び技法
A149
手作業中心の帳簿体系では、非定型的な仕訳入力は、元帳、仕訳帳、証憑書類等の閲覧により識別できる場合がある。自動化された手続により帳簿が作成され、財務諸表の作成が行われている場合には、このような仕訳入力は、電子的情報のみで存在するため、自動化された技法の利用により容易に識別できる場合がある。例複雑でない企業の監査においては、監査人が全ての仕訳をスプレッドシートに出力することができる場合がある。この場合、金額、作成者若しくは査閲者、貸借対照表又は損益計算書上で総額表示になっているだけの仕訳といったフィルターを適用したり、仕訳の総勘定元帳への転記日の一覧を閲覧することで、監査人は、仕訳入力に関連して識別されたリスクへの対応を立案することが可能となる。
監査人が運用評価手続の実施を計画している内部統制(第25項(1)③参照)
A150
監査人は、実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できないアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクが存在するかどうかを判断する。アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクについて、実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合には、監査基準報告書330に準拠して、重要な虚偽表示リスクに対応した内部統制の運用評価手続を立案し実施することが要求されるため(監基報330第7項(2)参照)、当該リスクに対応する内部統制を識別し評価することが求められる。
A151
その他の場合でも、監査人が内部統制の運用状況の有効性を考慮して監査基準報告書330に従って実証手続の種類、時期及び範囲を決定する場合、監査基準報告書330は監査人に内部統制の運用評価手続を立案し実施することを要求しているため(監基報330第7項(1)参照)、その内部統制を識別し評価することが求められる。例監査人は、以下の内部統制の運用評価手続の実施を計画することがある。・定型的な取引に対する内部統制。大量の同種類の取引に対する内部統制の運用状況の有効性を評価することは、より効果的又は効率的である。・企業が作成した情報の網羅性と正確性に対する内部統制(例えば、システムにより生成された情報に関する内部統制)。企業が作成した情報の信頼性を判断するために、リスク対応手続の立案と実施において、当該内部統制の運用評価手続の実施を計画する場合がある。・事業経営の有効性と効率性を高める目的や事業経営に係る法令の遵守を促す目的に関連する内部統制。これらの内部統制が、監査人が監査手続を実施する際に評価又は利用するデータに関連する場合には、当該内部統制の運用評価手続の実施を計画する場合がある。
A152
財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクが識別された場合、監査人の内部統制の運用評価手続に影響する可能性がある。例えば、統制環境に関連して不備が識別された場合、直接的な内部統制の運用状況の有効性に対する全般的な想定に影響を及ぼすことがある。
監査人が評価することが適切であると考えるその他の内部統制(第25項(1)④参照)
A153
識別し、デザインを評価し、業務に適用されているかを判断することが適切と考えるその他の内部統制には、以下の内部統制が含まれる。・特別な検討を必要とするリスクとは判断されていないものの、固有リスクが相対的に高いと評価されたリスクに対応する内部統制・総勘定元帳と明細の調整に関する内部統制・受託会社を利用している場合の、企業の相補的な内部統制《ITアプリケーション及び関連するその他のIT環境、ITの利用から生じるリスク並びにIT全般統制の識別》(第25項(2)及び(3)参照)付録5には、ITアプリケーション及び関連するその他のIT環境の特徴の例示並びにITの利用から生じるリスクの対象となるITアプリケーション及び関連するその他のIT環境の識別における特徴に関する指針が含まれている。
監査人が、識別されたITアプリケーション及び関連するその他のIT環境に関して、ITの利用から生じるリスク及びIT全般統制を識別する理由
A154
ITの利用から生じるリスク及び当該リスクに対応するために企業が適用するIT全般統制の理解は、以下の事項に影響を及ぼす可能性がある。・アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに対応する内部統制の運用評価手続を実施するか否かについての監査人の判断例ITの利用から生じるリスクに対応するためのIT全般統制が、有効にデザインされていない又は適切に業務に適用されていない場合(例えば、内部統制がITアプリケーションに対し未承認のプログラム変更や未承認のアクセスを適切に防止又は発見しない場合)がある。この場合、当該IT全般統制の影響を受けるITアプリケーションの自動化された情報処理統制に依拠するという監査人の判断に影響を及ぼすことがある。・監査人によるアサーション・レベルの統制リスクの評価例情報処理統制の継続的で有効な運用は、情報処理統制に対する未承認のプログラム変更を防止又は発見するIT全般統制(すなわち、関連するITアプリケーションに対するプログラム変更の内部統制)の有効性に依存する場合がある。この場合、想定されるIT全般統制の有効性(又はその欠如)が、監査人の統制リスクの評価に影響を及ぼすことがある。例えば、IT全般統制が有効ではないと想定される場合又は監査人にIT全般統制の運用評価手続を実施する計画がない場合、情報処理統制の統制リスクの評価が高まることがある。・ITアプリケーションによって生成された企業が作成した情報に対する監査計画例監査証拠として利用する企業が作成した情報が企業のITアプリケーションによって生成されている場合、監査人は、システムが生成したレポートに対する内部統制を評価する場合がある。この内部統制の評価には、不適切若しくは未承認のプログラム変更又はレポート上でのデータの直接変更のリスクに対応するIT全般統制の識別や評価を含む。・監査人によるアサーション・レベルの固有リスクの評価例適用される財務報告の枠組みの新たな要求事項や改訂された要求事項に対応するために、ITアプリケーションに重要な又は広範なプログラム変更が行われる場合がある。これは、新たな要求事項が複雑で、財務諸表に重要な影響を及ぼすことを示唆している。こうした大幅なプログラムやデータの変更が行われる場合、ITアプリケーションがITの利用から生じるリスクの影響を受ける可能性が高い。・リスク対応手続の立案例監査人は、情報処理統制がIT全般統制に依存している場合、IT全般統制の運用評価手続の実施を決定する場合がある。一方、同じ状況において、監査人がIT全般統制の運用状況の有効性を評価しない場合又はIT全般統制が有効ではないと想定する場合には、ITの利用から生じるリスクは実証手続の立案により対応することになる。しかしながら、当該リスクが実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できないリスクに関連している場合は、ITの利用から生じるリスクに対応することができない。そのような場合、監査人は、監査意見に及ぼす影響を判断することが必要となる場合がある。
ITの利用から生じるリスクの影響を受けるITアプリケーションの識別
A155
情報システムに関連するITアプリケーションについて、特定のITプロセス及びIT全般統制の内容と複雑性を理解することは、情報システムにおける情報のインテグリティ(すなわち、取引及びその他の情報(データ)の網羅性、正確性、正当性)を適切に達成し維持するために企業が依拠するITアプリケーションを特定するのに役立つ。このようなITアプリケーションは、ITの利用から生じるリスクの影響を受けやすい。
A156
ITの利用から生じるリスクの影響を受けるITアプリケーションを特定する際には、監査人が識別した内部統制がITの利用を伴うか又はITに依拠する場合があるため、識別した内部統制を考慮する。監査人は、識別した内部統制のうち、経営者が依拠している自動化された情報処理統制に関連するITアプリケーションに着目する。これには、実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できないリスクに対応する内部統制が含まれる。また、監査人は、重要な取引種類、勘定残高又は注記事項に関連する情報システムにおいて、情報がどのように保存及び処理されるか、並びに経営者がその情報のインテグリティ(すなわち、取引及びその他の情報(データ)の網羅性、正確性、正当性)を維持するためにIT全般統制に依拠しているか否かについても考慮する。
A157
識別した内部統制は、システムにより生成された情報に依拠する場合があり、その情報を生成するITアプリケーションはITの利用から生じるリスクの影響を受けることがある。監査人は、システムにより生成された情報に対する内部統制に依拠せず、その情報のインプットとアウトプットを直接検証することを計画する場合もある。この場合、監査人は関連するITアプリケーションを、ITの利用から生じるリスクの影響を受けるITアプリケーションとして識別しない場合がある。
適用の柔軟性
A158
IT全般統制をどの程度業務に適用しているかの理解を含め、ITプロセスに対する監査人の理解の範囲は、企業及びIT環境の性質及び状況、並びに監査人が識別した内部統制の内容及び範囲により異なる。ITの利用から生じるリスクの影響を受けるITアプリケーションの数も、これらの要因により異なる。例・市販のソフトウェアを使用し、プログラム変更を行うためのソースコードへのアクセス権を持たない企業は、ソフトウェアの環境設定(例えば、勘定科目体系、レポートのパラメータや閾値の設定)を行うプロセスや手続を有していても、プログラム変更のプロセスは有していないと考えられる。また、企業は、アプリケーションへのアクセス権を管理するプロセス又は手続を有する場合もある(例えば、市販のソフトウェアへの管理者権限を有する個人を限定する。)。このような状況では、企業が正式なIT全般統制を必要とする可能性は低い。・これに対して、大規模企業はITへの依存度が高く、IT環境には複数のITアプリケーションが含まれ、またIT環境を管理するためのITプロセスが複雑であり(例えば、プログラムの変更管理及びアクセス権の管理のための専属のIT部門が存在する。)、企業がITプロセスに対する正式なIT全般統制を業務に適用している。・経営者が取引の処理やデータの維持について自動化された情報処理統制やIT全般統制を適用していない場合で、監査人が自動化された情報処理統制やその他の情報処理統制(又はIT全般統制に依拠する内部統制)を識別していない場合には、監査人は、企業がITを利用して生成した情報を直接検証することを計画し、ITの利用から生じるリスクの影響を受けるITアプリケーションを識別しない場合がある。・経営者がデータの処理及び維持にITアプリケーションを利用しており、データの量に重要性があって、自動化された情報処理統制の実行のために経営者がITアプリケーションに依拠している場合には、ITアプリケーションはITの利用から生じるリスクの影響を受ける可能性が高い。
A159
企業のIT環境が複雑になるほど、ITアプリケーション及び関連するその他のIT環境の識別、ITの利用から生じるリスクの決定、並びにIT全般統制の識別においてITの専門的なスキルを有するチームメンバーの関与の必要性が高まる。複雑なIT環境については、このような専門家の関与は不可欠であり、広範な関与が必要となる可能性が高い。
ITの利用から生じるリスクの影響を受けるその他のIT環境の識別
A160
ITの利用から生じるリスクの影響を受ける可能性のあるその他のIT環境には、ネットワーク、オペレーティング・システム、データベースが含まれる。また、状況によってITアプリケーション間のインターフェースが含まれる場合もある。ITの利用から生じるリスクの影響を受けるITアプリケーションを監査人が識別していない場合は、通常、その他のIT環境も識別されない。一方、その他のIT環境は、ITアプリケーションを支援し、ITアプリケーションと相互作用があるため、監査人が、ITの利用から生じるリスクの影響を受けるITアプリケーションを識別した場合は、関連するその他のIT環境(例えば、データベース、オペレーティング・システム、ネットワーク)も、識別される可能性が高い。
ITの利用から生じるリスクとIT全般統制の識別(第25項(3)参照)
付録6は、IT全般統制を理解するための考慮事項を記載している。
A161
監査人は、ITの利用から生じるリスクを識別する際に、識別されたITアプリケーション又はその他のIT環境の内容及びこれらがITの利用から生じるリスクの影響を受ける理由を考慮することがある。監査人は、識別されたITアプリケーション又はその他のIT環境について、主に、未承認のアクセス、未承認のプログラム変更、不適切なデータ変更に関連するリスクを識別することがある(例えば、データベースへ直接アクセスすることによるか、情報を操作するツールを用いることによりデータが不適切に変更されるリスク)。
A162
ITの利用から生じるリスクの程度及び内容は、識別されたITアプリケーション及び関連するその他のIT環境の内容及び特徴により異なる。企業がIT環境の一部について外部又は内部のサービスプロバイダを利用する場合(例えば、IT環境のホスティングを第三者に委託する場合又はグループ内のITプロセスの集中管理のためにシェアード・サービス・センターを利用する場合)は、関連するITリスクが生じる可能性がある。ITの利用から生じるリスクは、サイバーセキュリティに関連して識別されることもある。自動化された情報処理統制の数又は複雑性が増すほどITの利用から生じるリスクが高まる可能性は大きくなり、取引の適切な処理又は取引の基礎となる情報のインテグリティ(すなわち、情報(データ)の網羅性、正確性、正当性)の適切な維持のために、経営者が関連する内部統制に依拠する程度が高いほど、ITの利用から生じるリスクも高まる可能性が大きくなる。
統制活動において識別された内部統制のデザインの評価及び業務への適用の判断(第25項(4)参照)
A163
識別された内部統制のデザインの評価は、内部統制が単独で又は他の内部統制との組合せで、重要な虚偽表示を有効に防止又は発見・是正できるかどうか(すなわち、内部統制の目的)を検討することを含む。
A164
監査人は、内部統制が存在し、実際に企業が利用していることを確認することで、識別された内部統制が業務に適用されているかどうかを判断する。デザインが有効でない内部統制について、業務への適用を評価することは、監査上意義がないので、内部統制のデザインが最初に検討される。デザインが不適切な内部統制は、内部統制の不備となることがある。
A165
統制活動において識別された内部統制のデザインと業務への適用についての監査証拠を入手するためのリスク評価手続には、以下の事項を含むことがある。・企業の担当者への質問・特定の内部統制の適用状況の観察・文書や報告書の閲覧質問のみでは、内部統制のデザインと業務への適用についてのリスク評価手続の目的には十分ではない。
A166
過年度の監査や当期のリスク評価手続により、特別な検討を必要とするリスクに対応する内部統制を経営者が有効にデザインしていない又は業務に適用していないと想定する場合がある。このような場合には、第25項(4)の要求事項に対応するために実施する手続は、その内部統制が有効にデザインされていない又は業務に適用されていないことを結論付けるための手続となる場合がある。手続の結果、内部統制が新たにデザインされていたり、業務に適用されていることが判明した場合、監査人は新たにデザイン又は業務に適用された内部統制に対して第25項(2)から(4)の手続を実施する必要がある。
A167
有効にデザインされ業務に適用されている内部統制について、内部統制の運用状況の有効性を考慮して実証手続を立案するために、その内部統制の運用評価手続を実施することが適切と結論付ける場合がある。これに対して、内部統制が有効にデザインされていない又は業務に適用されていない場合は、運用評価手続を実施しても意義がない。内部統制の運用評価手続を実施する場合、その内部統制が重要な虚偽表示リスクに対応する程度を認識することは、監査人のアサーション・レベルの統制リスクの評価において必要である。
A168
統制活動において識別された内部統制のデザインを評価し、業務への適用を判断することだけでは、運用評価手続としては十分ではない。しかしながら、自動化された内部統制の運用状況の有効性の評価については、その運用評価手続を直接実施する代わりに、自動化された内部統制の一貫した運用を支援するIT全般統制を識別し運用評価手続を実施することを計画する場合がある。手作業による内部統制が一定時点において業務に適用されているという監査証拠を入手したとしても、監査対象期間の他の時点で内部統制が有効に運用されていたという監査証拠とはならない。間接的な内部統制を含む、内部統制の運用評価手続については、監査基準報告書330に詳細に記載されている(監基報330第7項から第10項参照)。
A169
識別された内部統制の運用評価手続を実施しない場合であっても、監査人のその内部統制に対する理解は、重要な虚偽表示リスクに対応する実証手続の種類、時期及び範囲の立案に役立つことがある。例このようなリスク評価手続の結果が、監査サンプリングを立案する際に、母集団において起こり得る内部統制の逸脱を監査人が検討する上での基礎を提供する場合がある。
(5)企業の内部統制システムにおける内部統制の不備(第26項参照)
A170
監査人は、企業の内部統制システムの各構成要素の評価を実施する際に(第20項(2)、第21項(2)、第23項(3)、第24項(3)及び第25項(4)参照)、ある構成要素における企業の特定の方針が企業の性質及び状況にとって適切ではないと判断することがある。このような判断は、監査人が内部統制の不備を識別するのに役立つ兆候となり得る。監査人は、内部統制の不備を識別した場合、その不備が監査基準報告書330に従ったリスク対応手続の立案に与える影響を検討する。
A171
監査人が内部統制の不備を識別した場合、監査基準報告書265「内部統制の不備に関するコミュニケーション」は、内部統制の不備が、単独で又は複数組み合わさって重要な不備となるかどうかの判断を要求している(監基報265第7項参照)。不備が内部統制の重要な不備となるかどうかの判断は、職業的専門家としての判断事項である(監基報265のA6項及びA8項参照)。例内部統制の重要な不備の存在を示唆する状況には、以下の事項が含まれる。・重要かどうかを問わず、上級経営者が関与する不正が識別されたこと。・内部監査において指摘された不備の報告と伝達に関連する不適切な内部プロセスが識別されたこと。・経営者が、過去に伝達された不備を適時に是正していないこと。・経営者が、特別な検討を必要とするリスクに対応していないこと。例えば、特別な検討を必要とするリスクに対する内部統制を業務に適用していないこと。・過去に公表した財務諸表の修正再表示又は訂正報告書の提出《4.重要な虚偽表示リスクの識別と評価》(第27項から第36項参照)
(1)監査人が重要な虚偽表示リスクを識別し評価する理由
A172
監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手するために必要なリスク対応手続の種類、時期及び範囲を決定するため、重要な虚偽表示リスクを識別し評価する。十分かつ適切な監査証拠によって、監査人は、監査リスクを許容可能な低い水準に抑えた上で、財務諸表に対する意見を表明できる。
A173
リスク評価手続を実施して入手した情報は、重要な虚偽表示リスクの識別と評価の基礎となる監査証拠として使用される。例えば、統制活動において識別した内部統制のデザインを評価し、当該内部統制が業務に適用されているかどうかを判断する際に入手した監査証拠は、リスク評価を裏付ける監査証拠として使用される。リスク評価手続を実施して入手した監査証拠は、監査人が監査基準報告書330に従って、評価した財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクに応じて、全般的な対応を立案し、また、評価したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに応じて、実施するリスク対応手続の種類、時期及び範囲を立案し実施するための基礎にもなる。
(2)重要な虚偽表示リスクの識別(第27項参照)
A174
重要な虚偽表示リスクの識別は、関連する内部統制を考慮する前に実施され(すなわち、固有リスク)、発生する可能性と発生した場合に重要となる可能性が合理的にあり得る虚偽表示に関する監査人の予備的な検討に基づいている(監基報200のA12-4項参照)。
A175
重要な虚偽表示リスクを識別することは、監査人が関連するアサーションを決定するための基礎も提供し、監査人が重要な取引種類、勘定残高又は注記事項を決定する際に役立つ。
①監査人がアサーションを利用する理由
A176
監査人は、重要な虚偽表示リスクを識別し評価する際に、発生する可能性のある虚偽表示の種類を検討するためにアサーションを利用する。監査人が重要な虚偽表示リスクを識別したアサーションは、関連するアサーションとなる。
②アサーションの利用
A177
監査人は、重要な虚偽表示リスクを識別し評価する際に、A178項(1)及び(2)のアサーションの区分をそのまま利用することもあれば、同項の全てを検討した上で、同項と異なる組合せや表現を利用することもある。例えば、監査人は、ある局面においては、(1)取引種類と会計事象及び関連する注記事項に係るアサーションと(2)期末の勘定残高及び関連する注記事項に係るアサーションを組み合わせて、一つのアサーションとして設定することがある。
A178
発生する可能性のある虚偽表示を考慮する際に監査人が利用するアサーションは、以下の区分に分類されることがある。(1)監査対象期間の取引種類と会計事象及び関連する注記事項に係るアサーション①発生記録又は注記された取引や会計事象が発生し、当該取引や会計事象が企業に関係していること。②網羅性記録すべき取引や会計事象が全て記録されていること、及び財務諸表に含まれるべき注記事項が全て含まれていること。③正確性記録された取引や会計事象に関する金額や他のデータが正確に記録されていること、及び関連する注記事項に含まれる金額の測定及び記述が適切であること。④期間帰属取引や会計事象が正しい会計期間に記録されていること。⑤分類の妥当性取引や会計事象が適切な勘定科目に記録されていること。⑥表示及び注記取引及び会計事象が適切に集計又は細分化され、明瞭に記述されていること、並びに適用される財務報告の枠組みに照らして、関連する注記事項が目的適合性を有し、理解しやすいこと。(2)期末の勘定残高及び関連する注記事項に係るアサーション①実在性資産、負債及び純資産が実際に存在すること。②権利と義務企業は資産の権利を保有又は支配していること。また、負債は企業の義務であること。③網羅性記録すべき資産、負債及び純資産が全て記録されていること、並びに財務諸表に含まれるべき注記事項が全て含まれていること。④正確性、評価と期間配分資産、負債及び純資産が適切な金額で財務諸表に計上され、評価の結果又は期間配分調整が適切に記録されていること、並びに関連する注記事項に含まれる金額の測定及び記述が適切であること。⑤分類の妥当性資産、負債及び純資産が適切な勘定科目に記録されていること。⑥表示及び注記資産、負債及び純資産が適切に集計又は細分化され、明瞭に記述されていること、並びに適用される財務報告の枠組みに照らして、関連する注記事項が目的適合性を有し、理解しやすいこと。
A179
A178項(1)及び(2)に記載されているアサーションは、状況に応じて、取引種類、会計事象又は勘定残高に直接関連しない注記事項において発生する可能性のある様々な種類の潜在的な虚偽表示を考慮する際に利用されることがある。例これらの注記事項には、例えば、金融商品から生じるリスクについて、リスクに対するエクスポージャー及び当該リスクがどのように生じるのか、リスク管理の目的、方針及び手続、並びにリスクを測定するために用いている方法等に関して、適用される財務報告の枠組みにより要求される注記事項が含まれる。
①監査人が財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクを識別し評価する理由
A180
監査人は、重要な虚偽表示リスクが財務諸表に広範な影響を及ぼすことで、監査基準報告書330に従った全般的な対応(監基報330第4項参照)が必要となるかどうかを判断するために、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクを識別する。
A181
財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクは、個々のアサーションにも影響を与えることがあり、当該リスクを識別することは、監査人がアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを評価し、リスク対応手続を立案する際にも役立つことがある。
②財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクの識別と評価
A182
財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクは、財務諸表全体に広く関わりがあり、アサーションの多くに潜在的に影響を及ぼす。当該リスクは、アサーション・レベル、すなわち、取引種類、勘定残高及び注記事項における特定のアサーションと必ずしも結び付けられるものではない。むしろ、経営者による内部統制の無効化リスクのように、アサーション・レベルにおける重要な虚偽表示リスクを広範に高めることがある状況を意味する。識別したリスクが財務諸表全体に広く関わりがあるかどうかに関する監査人の評価は、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクの評価に役立つ。また、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクが潜在的に多くのアサーションに影響を及ぼす場合には、監査人によるアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの識別と評価に影響を及ぼすことがある。例企業が、営業損失や流動性の問題に直面しており、実行が不確かな資金調達に依存している状況においては、監査人は継続企業を前提とした会計処理が財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクを生じさせると判断することがある。この場合、継続企業を前提としない会計処理が必要となることがあり、このことが全てのアサーションに広く影響を及ぼすことがある。
A183
監査人による財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクの識別と評価は、内部統制システム、特に統制環境、企業のリスク評価プロセス及び内部統制システムを監視する企業のプロセスの理解並びに以下の事項の影響を受ける。・第20項(2)、第21項(2)、第23項(3)及び第24項(3)において要求される事項に関連する評価の結果・第26項に従って識別された内部統制の不備特に、財務諸表全体レベルのリスクは、統制環境の不備又は経済状況の悪化などの外部の事象や状況から生じることがある。
A184
不正による重要な虚偽表示リスクは、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクに関する監査人の検討に特に関連することがある。例運転資金を確保するための融資先との追加借入協議に企業の財務諸表が使用されることを、経営者に対する質問により理解している。この場合、監査人は、固有リスクに影響を及ぼす不正リスク要因が、虚偽表示の発生可能性を高めていると判断することがある(すなわち、資金調達が確実に行われるように、資産及び収益の過大計上や負債及び費用の過小計上等の不正な財務報告のリスクが高まる。)。
A185
統制環境及び内部統制システムのその他の構成要素の理解や評価の結果、監査意見の基礎となる監査証拠の入手可能性に疑義が生じることや、適用される法令の下で可能であれば契約の解除を判断することがある。例・企業の統制環境を評価した結果、経営者の不正な財務報告のリスクにより監査を実施できないと監査人が結論付けるほどの、経営者の誠実性について深刻な懸念を抱くことがある。・企業の情報システムと伝達を評価した結果、IT環境の重大な変化について経営者及び取締役会又は監査役等による監視がほとんど行われておらず、その管理が不十分であったと監査人が判断し、企業の会計記録の状態や信頼性に重大な懸念があると結論付ける。そのような状況では、監査人は、財務諸表に対する無限定適正意見の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手できないと判断することがある。
A186
監査基準報告書705「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見」には、監査人が限定意見を表明すること又は意見を表明しないことが必要かどうかを判断する際の、また、適用される法令の下で可能であれば、契約の解除を判断する際の要求事項と適用指針が記載されている。
(5)アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスク(第27項(2)参照)
付録2は、重要な虚偽表示を生じさせる可能性を示唆する事象や状況の例を、固有リスク要因の観点から記載したものである。
A187
財務諸表に広く関わりがない重要な虚偽表示リスクは、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクである。
ア.関連するアサーション並びに重要な取引種類、勘定残高又は注記事項を決定する理由
A188
第24項(1)に従って監査人が理解すべき企業の情報システムの範囲は、関連するアサーション並びに重要な取引種類、勘定残高又は注記事項の決定に基づく。また、当該理解は、重要な虚偽表示リスクを識別し評価する際に役立つことがある。
イ.自動化されたツール及び技法
A189
監査人は、重要な取引種類、勘定残高又は注記事項を識別するために、自動化されたツールと技法を利用する場合がある。例・取引の性質、情報源、金額及び量を理解するために、自動化されたツールや技法を利用して取引の母集団全体を分析することがある。例えば、監査人は、自動化されたツールと技法を利用することにより、期末においては残高がゼロとなる勘定が、期中では多くの相殺取引と仕訳で構成されており、当該勘定残高又は取引種類が重要であると識別することがある(例えば、給与決済勘定)。また、この給与決済勘定が、経営者(及びその他の従業員)に対する他の目的での支払いにも使用されている場合には、当該支払いが関連当事者取引として重要な注記事項となる可能性がある。・監査人は、収益に関する取引の母集団全体の流れを分析することにより、以前には識別されていなかった重要な取引種類をより容易に識別できることがある。
ウ.重要な注記事項となり得る注記事項
A190
重要な注記事項には、関連するアサーションが存在する定量的及び定性的な注記事項の双方が含まれる。関連するアサーションが存在するため、監査人が重要な注記事項であると考える定性的な注記事項は、例えば、以下の事項がある。・財政状態の悪化時における、企業の流動性や借入に係る財務制限条項・減損損失を認識することとなった事象又は状況・見積りの不確実性の主な原因(将来事象に関する仮定を含む。)・適用される財務報告の枠組みにより注記が要求される会計方針の変更の内容及び他の関連する注記事項(例えば、未適用の新しい財務報告の基準が企業の財政状態や経営成績に重要な影響を及ぼすことが予想される場合)・株式に基づく報酬契約(費用として認識した金額等の算定方法に関する情報や関連する他の注記事項を含む。)・関連当事者及び関連当事者取引・会計上の見積りに関連する感応度分析(計上又は注記された金額の測定の不確実性を利用者が理解するために記載された、企業の評価技法に使用されている仮定の変更の影響に関する注記事項を含む。)
監査人が虚偽表示の発生可能性と影響の度合いを評価する理由
A191
固有リスクは、虚偽表示の発生可能性と虚偽表示が生じた場合の影響の度合いの組合せの重要度に応じて評価され、当該評価はリスク対応手続の立案に役立つため、監査人は、重要な虚偽表示リスクの発生可能性と影響の度合いを評価する。
A192
識別した重要な虚偽表示リスクにおける固有リスクを評価することは、監査人が特別な検討を必要とするリスクを決定する際にも役立つ。なお、監査基準報告書330及びその他の監査基準報告書において、特別な検討を必要とするリスクへの個別の対応が要求されている。
A193
固有リスク要因は、識別したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクについて、虚偽表示の発生可能性と影響の度合いに関する監査人の評価に影響を及ぼす。取引種類、勘定残高又は注記事項の重要な虚偽表示の生じやすさの程度が高いほど、固有リスクの評価は高くなる傾向がある。固有リスク要因がアサーションの虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼす程度を考慮することは、監査人がアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクにおける固有リスクを適切に評価し、当該リスクに対してより的確な対応手続を立案するのに役立つ。
A194
監査人は、固有リスクの評価において、虚偽表示の発生可能性と影響の度合いの組合せの重要度を職業的専門家としての判断に基づいて決定する。
A195
特定のアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに関連する固有リスクが、低リスクから高リスクの間のいずれに該当するかは判断による。この固有リスクの評価の判断は、企業の事業活動、規模及び複雑性に応じて異なり、また、虚偽表示の発生可能性と影響の度合いの評価及び固有リスク要因が考慮される。
A196
監査人は、虚偽表示の発生可能性を検討する際に、固有リスク要因を考慮する。
A197
監査人は、虚偽表示の影響の度合いを検討する際に、起こり得る虚偽表示の定性的及び定量的な側面を考慮する(すなわち、取引種類、勘定残高又は注記事項に関するアサーションにおける虚偽表示を、規模、内容又は状況と照らし重要であると判断することがある。)。
A198
監査人は、起こり得る虚偽表示の発生可能性と影響の度合いの組合せの重要度により、固有リスクの評価を決定する。虚偽表示の発生可能性と影響の度合いの組合せの重要度が高いほど固有リスクの評価は高くなり、低いほど固有リスクの評価は低くなる。
A199
固有リスクの程度は、発生可能性と影響の度合いの組合せに基づく。発生可能性と影響の度合いの両方が高いと評価された場合にのみ固有リスクが高いと評価されるわけではない。発生可能性と影響の度合いの組合せは様々であり、例えば、虚偽表示の発生可能性は低くても、影響の度合いが非常に大きいと想定される場合には、固有リスクは高いと評価されることがある。
A200
重要な虚偽表示リスクに対応する方針を適切に策定するために、重要な虚偽表示リスクにおける固有リスクの評価に基づき、重要な虚偽表示リスクを分類することがある。この分類方法は様々であるが、識別したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに対するリスク対応手続の立案と実施が、固有リスクの評価とその評価理由に適切に対応していることが重要である。
財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクがアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに及ぼす影響(第30項(2)参照)
A201
監査人は、識別したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの評価において、複数の重要な虚偽表示リスクが財務諸表全体により広く関連し、多くのアサーションに潜在的に影響を及ぼすと結論付けることがある。この場合、監査人は、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクを新たに識別することがある。
A202
重要な虚偽表示リスクが多くのアサーションに広く影響を及ぼすことで財務諸表全体レベルのリスクとして識別され、また特定のアサーションと関連付けられる状況においては、監査人はアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクにおける固有リスクを評価する際に、当該財務諸表全体レベルのリスクを考慮することが求められる。
特別な検討を必要とするリスクを決定する理由及び監査への影響
A203
監査人は、特別な検討を必要とするリスクを決定することで、固有リスクが最も高い領域に存在すると評価したリスクにより重点を置くことができ、以下の事項を含む要求された特定の対応を実施することができる。・第25項(1)①では、特別な検討を必要とするリスクに対応する内部統制を識別し、第25項(4)では、当該内部統制が効果的にデザインされ、業務に適用されているかどうかを評価することを要求している。・監査基準報告書330は、特別な検討を必要とするリスクに対応する内部統制の運用評価手続は、当年度の監査において実施すること(監査人が当該内部統制の運用状況の有効性に依拠する場合)、及び識別した特別な検討を必要とするリスクに個別に対応する実証手続を計画し実施することを要求している(監基報330第14項及び第20項参照)。・監査基準報告書330は、評価した重要な虚偽表示リスクの程度が高いほど、より確かな心証が得られる監査証拠を入手することを要求している(監基報330、第6項(2)参照)。・監査基準報告書260は、監査人が識別した特別な検討を必要とするリスクについて監査役等とのコミュニケーションを要求している(監基報260第15項参照)。・監査基準報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」は、監査上の主要な検討事項となる可能性のある、監査人が特に注意を払った事項を決定する際には、特別な検討を必要とするリスクを考慮することを要求している(監基報701第8項参照)。・監査責任者が、監査の実施中の適切な段階で適時に監査調書を査閲することによって、監査報告書日以前に、特別な検討を必要とするリスクを含む重要な事項を監査責任者が納得した上で適時に解決することが可能となる(監基報220第32項及びA87項からA89項参照)。・監査基準報告書600は、グループ財務諸表における重要な虚偽表示リスクが高いと評価された領域又は特別な検討を必要とするリスクについて、実施するリスク対応手続を構成単位の監査人が決定している場合、グループ監査人がそのリスク対応手続の立案及び実施の適切性を評価することを要求している(監基報600第42項参照)。
特別な検討を必要とするリスクの決定
A204
監査人は、特別な検討を必要とするリスクを決定する際に、まず固有リスクが高いと評価した重要な虚偽表示リスクを特定し、どのリスクが最も高い領域に近いリスクであるかを検討するための基礎とすることがある。リスクが最も高い領域に近いかどうかは企業によって異なり、また、企業にとって必ずしも毎期同じではなく、リスクを評価した企業の事業内容と状況によって異なる。
A205
評価した重要な虚偽表示リスクのうち、どのリスクが最も高い領域に存在し特別な検討を必要とするリスクとなるかの決定は、職業的専門家としての判断による(当該リスクが、他の監査基準報告書で要求される事項に従って、特別な検討を必要とするリスクとして取り扱うこととされた重要な虚偽表示リスクである場合を除く。)。監査基準報告書240は、不正による重要な虚偽表示リスクの識別と評価に関して詳細な要求事項と適用指針を記載している(監基報240第24項から第26項参照)。例・小売業者であるスーパーマーケットの現金は、流用されるリスクにより、起こり得る虚偽表示の発生可能性が高いと通常判断されるが、その影響の度合いは、店舗で扱われる現金の量が少ないため一般的に極めて低い。発生可能性と影響の度合いの組合せを考慮すると、現金の実在性が特別な検討を必要とするリスクとなる可能性は低い。・企業が、ある事業セグメントの売却の交渉を行っている場合、監査人は、のれんの減損に及ぼす影響を検討し、主観性、不確実性、経営者の偏向の生じやすさ又はその他の不正リスク要因といった固有リスク要因の影響により、起こり得る虚偽表示の発生可能性と影響の度合いが高いと判断することがある。この場合、のれんの減損が特別な検討を必要とするリスクと判断されることがある。
A206
監査人は、固有リスクを評価する際に、固有リスク要因が及ぼす影響も考慮する。固有リスク要因の影響が低いほど、固有リスクは低く評価されることが多い。固有リスクが高く、特別な検討を必要とするリスクであると判断することがある重要な虚偽表示リスクは、以下の事項から生じることがある。・複数の会計処理が認められる取引で、その選択に主観性が伴う取引・不確実性が高い又は複雑なモデルの会計上の見積り・勘定残高を記録するためのデータ収集と処理の複雑性・複雑な計算を伴う勘定残高や定量的な注記事項・異なる解釈をもたらす可能性がある会計基準・会計処理の変更を伴う企業の事業の変化(例えば、企業結合)
実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できないリスクを識別する理由
A207
重要な虚偽表示リスクの性質及び当該リスクに対応する統制活動の内容によっては、内部統制の運用評価手続を実施しなければ十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合がある。そのため、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに対応するための監査基準報告書330に従ったリスク対応手続を立案し、実施するためには、実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できないリスクを識別することが必要となる。
A208
監査人は、監査基準報告書330に従って、実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できないリスクに対応する内部統制の運用評価手続を立案し実施することが要求されるため(監基報330第7項参照)、第25項(1)③は、当該リスクに対応する内部統制を識別することを要求している。
実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できないリスクの決定
A209
定型的な取引が、ほとんど又は全く手作業を介在させずに高度に自動処理されている場合には、実証手続のみを実施することで関連するリスクに対応することが不可能なことがある。また、ITアプリケーションを高度に統合した情報システムのように、企業の膨大な情報が、電子的な方法によってのみ開始、記録、処理、報告されるような状況において、監査人は実証手続のみを実施することでは関連するリスクに対応することができないと考えることがある。これらの状況では、利用可能な監査証拠は電子媒体のみでしか存在しないことがあり、その十分性と適切性は、一般に、正確性と網羅性に対する内部統制の有効性に依存している。また、適切な内部統制が有効に運用されていない場合には、情報の不適切な開始又は変換が発生しても発見されない可能性が増大することがある。例携帯電話事業を営む企業の収益については、音声通話やデータ通信が観察可能な形の証拠で存在しないため、一般に、実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手することはできない。代わりに、音声通話の開始と終了やデータ通信量が正確に把握され(例えば、通話時間やダウンロードの量)、当該企業の請求システムに正確に記録されていると判断するために、通常、内部統制の運用評価手続を十分に実施する。
A210
監査基準報告書540は、会計上の見積りについて、実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できないリスクに関するより詳細な指針を提供している(監基報540のA87項からA89項参照)。会計上の見積りに関連し、自動処理だけでなく、複雑なモデルが使用される場合には、実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できないことがある。
イ.統制リスクの評価(第33項参照)
A211
監査人が内部統制の運用状況の有効性を評価する場合は、内部統制が有効に運用されていることを想定しており、当該想定は統制リスクの評価の基礎となる。内部統制の運用状況の有効性に関する想定は、統制活動において識別された内部統制のデザインの評価と業務への適用の判断に基づいている。監査人は、監査基準報告書330に従って内部統制の運用評価手続を実施することで、内部統制の運用状況の有効性に関する想定を裏付けることができる。内部統制が想定と異なり有効に運用されていない場合、監査人は第36項に従って統制リスクの評価を修正することになる。
A212
監査人による統制リスクの評価は、監査の手法に応じて様々な方法で実施され、また様々な方法で表現されることがある。
A213
監査人が内部統制の運用評価手続を実施する場合、内部統制が有効に運用されているという監査人の想定を裏付けるために、内部統制の組合せの評価が必要となることがある。監査人は、直接的な内部統制と間接的な内部統制(IT全般統制を含む。)の両方を評価する場合、内部統制を組み合わせた効果を考慮して統制リスクを評価する。運用評価手続の対象となる内部統制が、評価した固有リスクに十分に対応していない場合、監査リスクを許容可能な低い水準に抑えるため、その影響を判断しリスク対応手続を立案する。
A214
監査人は、自動化された情報処理統制の運用評価手続を実施する場合、ITの利用から生じるリスクに対応し、自動化された情報処理統制が監査対象期間を通じて有効に運用されているという基礎を得るために、当該自動化された情報処理統制の継続的な運用を支援するIT全般統制の運用評価手続も実施することがある。関連するIT全般統制が有効ではないと想定される場合は、アサーション・レベルの統制リスクの評価に影響を及ぼすことがあり、監査人はITの利用から生じるリスクに対応するための実証手続をリスク対応手続に含めることが必要となる場合がある。監査基準報告書330は、こうした状況において監査人が実施する手続に関してより詳細な指針を提供している(監基報330のA28項及びA29項参照)。
①監査人がリスク評価手続から得られた監査証拠を評価する理由
A215
リスク評価手続の実施から得られた監査証拠は、重要な虚偽表示リスクを識別し評価するための基礎を提供する。これにより、監査人は、監査基準報告書330に従って、評価したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに応じたリスク対応手続の種類、時期及び範囲を立案することとなる。リスク評価手続から得られた監査証拠は、不正か誤謬かを問わず、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクとアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを識別し評価するための基礎となる。
②監査証拠の評価
A216
リスク評価手続から得られる監査証拠は、経営者のアサーションを裏付ける情報と矛盾する情報の両方から構成される(監基報500のA1項参照)。
③職業的懐疑心
A217
監査人は、リスク評価手続から得られた監査証拠を評価する際に、企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業の内部統制システムに関して、重要な虚偽表示リスクを識別できるほど十分に理解したかどうか、また重要な虚偽表示リスクを示唆する矛盾する証拠が存在するかどうかを考慮する。
(7)関連するアサーションを識別していない(重要な虚偽表示リスクを識別していない)が重要性のある取引種類、勘定残高又は注記事項(第35項参照)
A218
監査基準報告書320で説明されているように、取引種類、勘定残高及び注記事項における重要な虚偽表示リスクを識別し評価する際には、重要性及び監査リスクを考慮する(監基報320のA1項参照)。監査人による重要性の決定は、職業的専門家としての判断事項であり、財務諸表の利用者が有する財務情報に対するニーズについての監査人の認識によって影響を受ける(監基報320第4項参照)。本報告書及び監査基準報告書330の第17項の目的において、重要性のある取引種類、勘定残高又は注記事項とは、これらに関する情報を省略したり、誤った表示をしたり、又は不明瞭に記載することで、当該財務諸表の利用者の経済的意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる場合をいう。
A219
「重要な取引種類、勘定残高又は注記事項」ではないが、「関連するアサーションは識別していないが重要性のある取引種類、勘定残高又は注記事項」となる場合がある。例企業は、監査人が重要な虚偽表示リスクを識別していない役員報酬について開示することがあるが、監査人は、A218項の考慮事項に基づいて、この注記を重要性のある注記と判断することがある。
A220
関連するアサーションを識別していないが重要性のある取引種類、勘定残高又は注記事項に対応するための監査手続は、監査基準報告書330の第17項に記載されている。本報告書第28項の要求事項に従って決定した重要な取引種類、勘定残高又は注記事項は、監査基準報告書330第17項の目的においては重要性のある取引種類、勘定残高又は注記事項でもあるため、実証手続を実施する。
(8)リスク評価の修正(第36項参照)
A221
監査人は、監査期間中に、当初のリスク評価の基礎となった情報と大きく異なる新しい又はその他の情報に気付くことがある。例監査人は、企業のリスク評価において、内部統制が有効に運用されていると想定していたにもかかわらず、運用評価手続の実施により、監査期間中の内部統制が有効に運用されていないという監査証拠を入手することがある。同様に、実証手続を実施した結果、監査人は、そのリスク評価時に想定したよりも大きな金額又は多数の虚偽表示を発見する場合もある。こうした状況においては、当初のリスク評価結果は企業の実態を適切に反映しておらず、立案したリスク対応手続では重要な虚偽表示を発見するのに有効ではない可能性がある。なお、監査基準報告書330第15項及び第16項は、内部統制の運用評価手続に関するより詳細な指針を提供している。
5.監査調書(第37項参照)
A222
継続監査においては、特定の監査調書は、翌期へ繰り越され、企業の事業やプロセスの変化を反映するため必要に応じて更新される場合がある。
A223
監査人の職業的専門家としての懐疑心を文書化する方法は一つではないが、監査調書が、監査人が職業的専門家としての懐疑心を行使したという証拠を提供することがあると監査基準報告書230は記載している(監基報230のA7項参照)。例えば、リスク評価手続から得られた監査証拠に、アサーションを裏付ける証拠と矛盾する証拠が含まれている場合には、監査人がどのように当該監査証拠を評価したのかを監査調書に含める(監査証拠が、監査人による重要な虚偽表示リスクの識別と評価のための適切な基礎を提供しているかどうかを評価する際に行われた、職業的専門家としての判断を含む。)。本報告書の他の要求事項において、監査人が職業的専門家としての懐疑心を保持したという証拠を監査調書が提供することがある事項には、例えば、以下が含まれる。・第12項は、リスクの存在の裏付けとなるであろう監査証拠を入手する方向に偏らないように、又は矛盾するであろう監査証拠を除外する方向に偏らないよう、リスク評価手続を立案し実施することを監査人に要求している。・第16項は、適用される財務報告の枠組みの適用状況及び財務諸表に重要な虚偽表示が行われる可能性について、監査責任者と監査チームの主要メンバーによる討議を要求している。・第18項(2)及び第19項は、企業の会計方針の変更がある場合にはその理由を理解すること、並びに企業の会計方針が適切であるか及び適用される財務報告の枠組みに従っているかを評価することを監査人に要求している。・第20項(2)、第21項(2)、第22項(2)、第23項(3)、第24項(3)、第25項(4)及び第26項は、監査人が得た理解に基づいて、企業の内部統制システムの構成要素が、企業の事業内容と複雑性を考慮した場合、企業の状況に対して適切かどうかを評価すること、及び内部統制の不備が識別されたかどうかを判断することを要求している。・第34項は、経営者のアサーションに対し裏付けとなるか矛盾するかを問わず、リスク評価手続から得た全ての監査証拠を考慮に入れること、並びにリスク評価手続から得られた監査証拠が、重要な虚偽表示リスクの識別及び評価のための適切な基礎を提供しているかどうかを評価することを要求している。・第35項は、関連するアサーションを識別していないが重要性のある取引種類、勘定残高又は注記事項に重要な虚偽表示リスクがないとした監査人の評価が、引き続き適切であるかどうかを評価することを要求している。
適用の柔軟性
A224
第37項で要求される事項を監査調書に記載する方法は、監査人が職業的専門家としての判断に基づき決定する。
A225
重要な判断を裏付けるためには、経験豊富な監査人が、以前に当該監査に関与していなくとも、実施した監査手続の種類、時期及び範囲を理解できるように、より詳細な監査調書の記載が必要となることがある。
A226
複雑でない企業の監査における監査調書は、様式と範囲が単純で、かつ比較的簡潔なものとなる場合がある。監査調書の様式と範囲は、企業とその内部統制システムの性質、規模及び複雑性、並びに企業から入手可能な情報及び監査の過程で使用される監査の手法と技法によって異なる。企業や企業に関連する事項について、監査人が理解した全ての事項を監査調書に記載する必要はない。監査人が理解した事項のうち監査調書に記載する主なものとしては、監査人が重要な虚偽表示リスクを評価するための基礎とした事項などがある(監基報230第7項参照)。ただし、監査人は、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを識別し評価する際に考慮した全ての固有リスク要因を、監査調書に記載することを要求されているわけではない。例複雑でない企業の監査の場合は、監査の基本的な方針と詳細な監査計画の監査調書を一体として文書化することがある(監査基準報告書300「監査計画」第6項、第8項及びA11項参照)。同様に、例えば、リスク評価の結果は、別個の監査調書に文書化することもあれば、リスク対応手続の監査調書の一部として文書化することもある(監基報330第27項参照)。