監基報320
監査基準報告書320「監査の計画及び実施における重要性」
出典:日本公認会計士協会『監査基準報告書320「監査の計画及び実施における重要性」』最終改正 2023年1月12日公式ページ:JICPA 監査実務指針等の一覧 ↗本文(要求事項・適用指針)を収録。付録(文例・表)と「適用」の節は載せていません。本文は公式の文書から取り出し、一字一句照合しています(2026-10-19 取得)。出題された7か所に線を引いています。
1.本報告書の範囲
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本報告書は、財務諸表監査の計画及び実施における重要性の概念の適用に関する実務上の指針を提供するものである。監査基準報告書450「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」では、識別した虚偽表示が監査に与える影響や、未修正の虚偽表示が財務諸表に与える影響を評価する際、重要性がどのように適用されるかに関する実務上の指針を提供している。
2.監査における重要性
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財務諸表の作成と表示における重要性の概念については、一般的には、以下のように考えられている。・脱漏を含む虚偽表示は、個別に又は集計すると、当該財務諸表の利用者の経済的意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる場合に、重要性があると判断される。・重要性の判断は、それぞれの状況を考慮して行われ、虚偽表示の金額又は内容による影響を受ける。・ある事項に関する重要性の判断は、財務諸表の一般的な利用者が有する財務情報に対する共通のニーズを勘案して行われる。財務情報の利用者には様々なニーズがあるものの、ごく限られた特定の利用者にしか影響を及ぼさないであろう事項に関する虚偽表示は考慮されない。
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財務諸表監査の計画及び実施において監査人は第2項に示した重要性の概念に基づき重要性を決定することとなる。
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監査人の重要性の決定は、職業的専門家としての判断事項であり、財務諸表の利用者が有する財務情報に対するニーズについての監査人の認識によって影響を受ける。監査人は、通常、財務諸表の利用者として以下を想定している。(1)事業活動、経済活動及び会計に関する合理的な知識を有し、真摯に財務諸表上の情報を検討する意思を有している。(2)財務諸表が重要性を考慮して作成、表示及び監査されることを理解している。(3)見積り、判断及び将来事象の考慮に基づく金額の測定には、不確実性が伴うものであることを認識している。(4)財務諸表上の情報を基礎に、合理的な経済的意思決定を行う。
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監査人は、監査を計画及び実施する際に重要性の概念を適用する。また、識別した虚偽表示が監査に与える影響や、未修正の虚偽表示が財務諸表に与える影響及び監査意見の形成に与える影響を評価する際にも、重要性の概念を適用する(A1項参照)。
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監査人は、監査計画の策定に際して、重要と考える虚偽表示について判断を行うが、この判断は、以下の事項を実施するための基礎となる。(1)リスク評価手続の種類、時期及び範囲の決定(2)重要な虚偽表示リスクの識別と評価(3)リスク対応手続の種類、時期及び範囲の決定監査計画の策定時に決定する重要性の基準値は、全ての未修正の虚偽表示が、いかなる場合においても、個別に又は集計しても重要性がないと評価できる金額として設定する必要はない。一方、監査の過程で識別した虚偽表示の評価の際には、監査人は、虚偽表示が重要性の基準値を下回っていたとしても、状況によっては当該虚偽表示に重要性があると評価することがある。すなわち、監査計画の策定時においては質的な内容のみにより重要となり得る全ての虚偽表示を発見するための監査手続を立案するのは実務的とはいえない。しかし、財務諸表の注記事項に関する潜在的な虚偽表示の性質については、重要な虚偽表示リスクに対応する監査手続の立案に当たって考慮する(監査基準報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」のA190項及びA218項参照)。さらに、監査人は、全ての未修正の虚偽表示が財務諸表に与える影響を評価する際、金額だけでなく、内容や、虚偽表示が生じた特有の状況についても考慮する(A2項参照。監基報450のA20項参照)。
3.本報告書の目的
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本報告書における監査人の目的は、監査の計画及び実施において重要性の概念を適切に適用することである。
4.定義
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本報告書における用語の定義は、以下のとおりとする。(1)「重要性の基準値」-監査計画の策定時に決定した、財務諸表全体において重要であると判断する虚偽表示の金額(監査計画の策定後改訂した金額を含む。)をいう。(2)「特定の取引種類、勘定残高又は注記事項に対する重要性の基準値」-企業の特定の状況において、特定の取引種類、勘定残高又は注記事項に関する虚偽表示が重要性の基準値を下回る場合でも、財務諸表の利用者が財務諸表に基づいて行う経済的意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる特定の取引種類、勘定残高又は注記事項がある場合に、当該特定の取引種類、勘定残高又は注記事項について適用する重要性の基準値をいう。(3)「手続実施上の重要性」-合算リスクを適切な低い水準に抑えるために、監査人が重要性の基準値より低い金額として設定する金額をいう。この手続実施上の重要性は、複数設定される場合がある。なお、特定の取引種類、勘定残高又は注記事項に対する重要性の基準値に対して設定した手続実施上の重要性を含む。(4)「合算リスク」-未修正の虚偽表示及び未発見の虚偽表示の合計が、財務諸表全体としての重要性の基準値を上回る可能性をいう。
1.監査計画の策定時における重要性の基準値と手続実施上の重要性の決定
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監査人は、監査の基本的な方針を策定する際、重要性の基準値を決定しなければならない。企業の特定の状況において、特定の取引種類、勘定残高又は注記事項に関する虚偽表示が、重要性の基準値を下回る場合でも、財務諸表の利用者が財務諸表に基づいて行う経済的意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる場合に限り、監査人は、当該特定の取引種類、勘定残高又は注記事項について適用される重要性の基準値も決定しなければならない(A3項からA9項参照)。
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監査人は、重要な虚偽表示リスクを評価し、リスク対応手続の種類、時期及び範囲を決定するために、手続実施上の重要性を決定しなければならない(A10項参照)。
2.監査の進捗に伴う改訂
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監査人は、監査の実施過程において、当初決定した重要性の基準値を改訂すべき情報を認識した場合には、重要性の基準値を改訂しなければならない。なお、特定の取引種類、勘定残高又は注記事項に対する重要性の基準値を設定している場合には同様の検討が必要である(A11項参照)。
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監査人は、重要性の基準値(設定している場合は、特定の取引種類、勘定残高又は注記事項に対する重要性の基準値)について、当初決定した金額よりも小さくすることが適切であると決定した場合には、手続実施上の重要性を改訂する必要があるか、さらに、リスク対応手続の種類、時期及び範囲が適切であるか判断しなければならない。
3.監査調書
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監査人は、以下の重要性の金額及びその決定に際して考慮した要因を監査調書に記載しなければならない(監査基準報告書230「監査調書」第7項から第10項及びA6項参照)。(1)重要性の基準値(第8項(1)参照)(2)設定している場合、特定の取引種類、勘定残高又は注記事項に対する重要性の基準値(第8項(2)参照)(3)手続実施上の重要性(第8項(3)参照)(4)監査の進捗に伴う上記の項目の改訂(第11項及び第12項参照)
1.重要性と監査リスク(第5項参照)
A1
財務諸表監査の実施における監査人の全般的な目的は、不正か誤謬かを問わず、財務諸表に全体として重要な虚偽表示がないということについての合理的な保証を得ることによって、財務諸表が、すべての重要な点において、適用される財務報告の枠組みに準拠して作成されているかどうかに関して、監査人が意見表明することである。また、監査人が発見した事項については、監査基準報告書に従って経営者及び監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会(以下「監査役等」という。)に必要な報告を行う(監査基準報告書200「財務諸表監査における総括的な目的」第10項参照)。合理的な保証は、財務諸表の重要な虚偽表示を看過して誤った意見を形成する可能性、すなわち監査リスクを許容可能な低い水準に抑える十分かつ適切な監査証拠を入手することにより得られる(監基報200第16項参照)。監査リスクは、重要な虚偽表示リスクと発見リスクの二つから構成される(監基報200第12項(5)参照)。重要性と監査リスクは、監査の過程を通じて考慮されるが、特に以下の場合に考慮される。(1)重要な虚偽表示リスクを識別し評価する場合(監基報315参照)(2)リスク対応手続の種類、時期及び範囲を決定する場合(監査基準報告書330「評価したリスクに対応する監査人の手続」参照)(3)未修正の虚偽表示が財務諸表に与える影響及び監査報告書における意見形成に与える影響を評価する場合(監基報450及び監査基準報告書700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」参照)
2.監査における重要性(第6項参照)
A2
重要な虚偽表示リスクの識別及び評価を行う際、監査人は、職業的専門家としての判断に基づき、重要な虚偽表示となり得る取引種類、勘定残高及び注記事項(定性的な注記を含む。)を識別する。一般的には、虚偽表示は、財務諸表利用者の経済的意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる場合に重要性があると判断される。定性的な注記事項が重要であるかどうかを判断する際に、監査人が考慮する要因には、例えば以下がある。・監査対象期間における企業の状況(例えば、期間内に、企業が重要な合併や買収を行っている場合)・適用される財務報告の枠組み及びその改正(例えば、企業にとって重要な定性的な注記事項が新たに求められる場合)・企業の事業活動等に起因して、財務諸表利用者にとって重要となる定性的な注記事項(例えば、金融機関においては、流動性リスクの注記が財務諸表利用者にとって重要である場合)
(1)財務諸表全体に対する重要性の決定における指標の利用(第9項参照)
A3
重要性の決定には、職業的専門家としての判断を伴う。監査人は、通常、重要性の基準値を決定する際に、最初に指標を選択し、その指標に対して特定の割合を適用する。適切な指標の識別に影響を与える要因には、以下が含まれる。・財務諸表の構成要素(例えば、資産、負債、純資産、収益、費用)・当該企業の財務諸表の利用者が特に注目する傾向にある項目の有無(例えば、業績評価のため、財務諸表の利用者が利益、収益又は純資産に注目する傾向がある。)・企業のライフサイクルの特性及び企業が属する産業や経済環境・企業の所有構造と資金調達の方法(例えば、企業が主に借入で資金調達している場合、財務諸表の利用者は、企業の利益よりも資産の状況を重視することがある。)・選択した指標の相対的な安定性
A4
企業の状況に応じた適切な指標の例示としては、公表財務諸表で表示されている税引前利益、売上高、売上総利益及び費用合計などの損益項目、株主資本合計又は純資産がある。営利を目的とする企業では、税引前利益が使用されることが多い。業績が不安定な状況等においては、売上総利益や売上高などの他の指標がより適切な場合がある。
A5
選択した指標に関連する財務データには、通常、過年度や期中の実績又は財政状態、当年度の予算又は見込みがあるが、それらに対して企業の状況の重要な変化(例えば、重要な事業買収など)や企業が属する産業や経済の環境変化に応じて修正した数値も含まれる。例えば、ある企業に対する重要性の基準値が、税引前利益を基礎として決定されている場合、当該利益に異常な項目があれば、監査人は、過年度の数値を参考として正常な税引前利益を算定し、重要性の基準値を決定することがより適切であると判断する場合がある。
A6
監査人は、重要性の基準値を、報告対象とする財務諸表に基づいて算定する。新規設立企業や決算期変更のように、12か月ではない会計期間について財務諸表が作成されている場合、重要性の基準値は、当該会計期間に対して作成される財務諸表に基づいて算定する。
A7
選択した指標に適用する割合の決定は、職業的専門家としての判断を伴うものである。例えば、監査人は、製造業を営む営利を目的とする企業において税引前利益を指標とする場合には5%が適切であると考えることがあるが、状況によっては、これとは異なる割合が適切であると判断することもある。また、選択する指標に適用する割合も指標の性質により異なり、売上高に適用する割合は、通常、税引前利益に適用する割合よりも小さい。
(2)特定の取引種類、勘定残高又は注記事項に対する重要性の基準値(第9項参照)
A8
重要性の基準値を下回る虚偽表示であっても、財務諸表の利用者が財務諸表に基づいて行う経済的意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる特定の取引種類、勘定残高又は注記事項がまれに存在する。そのような特定の取引種類、勘定残高又は注記事項の存在を示す要因には、以下が含まれる。(1)法令又は適用される財務報告の枠組みの要請により行われる特定の項目の測定又は財務諸表の注記事項が財務諸表の利用者の期待に影響を与えているかどうか(例えば、関連当事者との取引、取締役及び監査役等の報酬、高い見積りの不確実性を伴う公正価値の測定について行われる感応度分析が該当する場合がある。)。(2)企業が属する産業に関する主要な注記事項があるかどうか(例えば、製薬会社の研究開発費が該当する場合がある。)。(3)財務諸表において別個に注記されている企業の事業に関する特定の情報に注目が集まっているかどうか(例えば、セグメント又は重要な企業結合に関する注記事項が該当する場合がある。)。
A9
特定の状況において、上記のような取引種類、勘定残高又は注記事項が存在するかどうかを検討する際、監査人は、経営者及び監査役等が意識している事項についての理解が有益と判断することがある。
(3)手続実施上の重要性(第10項参照)
A10
個別に重要な虚偽表示を発見することのみを意図した監査計画を策定すると、個別には重要ではないが集計すると重要な虚偽表示となる場合があること、さらに、未発見の虚偽表示が存在する可能性があることを考慮していないことになる。監査人は、合算リスクを適切な低い水準に抑えるために、手続実施上の重要性を財務諸表全体に対する重要性よりも低い金額として設定する。なお、これは、定義で示したとおり、複数設定する場合がある。同様に、特定の取引種類、勘定残高又は注記事項に関する手続実施上の重要性は、当該特定の取引種類、勘定残高又は注記事項項目に関する未修正の虚偽表示と未発見の虚偽表示の合計が、当該特定の取引種類、勘定残高又は注記事項に対する重要性の基準値を上回る可能性を、適切な低い水準に抑えるために設定する。手続実施上の重要性は、単純で機械的な計算により決定されるものではなく、その決定には職業的専門家としての判断を伴う。手続実施上の重要性の決定は、リスク評価手続の実施過程で更新された監査人の企業に対する理解、過年度の監査で識別された虚偽表示の内容と程度及び当年度の虚偽表示に関する監査人の予想によって影響を受ける。
4.監査の進捗に伴う改訂(第11項参照)
A11
監査の実施過程において、企業再編等の状況の変化、新たな情報又はリスク対応手続の実施の結果更新された企業及び事業活動に関する理解によって、監査人は、重要性の基準値(設定している場合、特定の取引種類、勘定残高、注記事項に対する重要性の基準値)を改訂することが必要と判断する場合がある。例えば、監査の実施過程において、企業の実績が、重要性の基準値を当初決定する際に使用した年度の業績予測と大幅に乖離する可能性が高まった場合には、監査人は重要性の基準値を改訂する。