監基報330
監査基準報告書330「評価したリスクに対応する監査人の手続」
出典:日本公認会計士協会『監査基準報告書330「評価したリスクに対応する監査人の手続」』最終改正 2022年10月13日公式ページ:JICPA 監査実務指針等の一覧 ↗本文(要求事項・適用指針)を収録。付録(文例・表)と「適用」の節は載せていません。本文は公式の文書から取り出し、一字一句照合しています(2026-10-19 取得)。出題された4か所に線を引いています。
1.本報告書の範囲
1
本報告書は、監査基準報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」に従い識別し評価した重要な虚偽表示リスクに対応した、監査人の運用評価手続と実証手続の立案及び実施に関する実務上の指針を提供するものである。
2.本報告書の目的
2
本報告書における監査人の目的は、評価した重要な虚偽表示リスクへの適切な対応を立案し実施することによって、このリスクについての十分かつ適切な監査証拠を入手することである。
3.定義
3
本報告書における用語の定義は、以下のとおりとする。(1)「運用評価手続」-アサーション・レベルの重要な虚偽表示を防止又は発見・是正する内部統制について、その運用状況の有効性を評価するために立案し実施する監査手続をいう。(2)「実証手続」-アサーション・レベルの重要な虚偽表示を看過しないよう立案し実施する監査手続をいい、以下の二つの手続で構成される。①詳細テスト(取引種類、勘定残高及び注記事項に関して実施する。)②分析的実証手続(3)「リスク対応手続」-監査リスクを許容可能な低い水準に抑えるために、識別し評価したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに対応して、立案し実施する監査手続をいう。リスク対応手続は、運用評価手続と実証手続で構成する。
1.全般的な対応
4
監査人は、評価した財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクに応じて、全般的な対応を立案し実施しなければならない(A1項からA3項参照)。
2.評価したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに対応する監査人の手続
5
監査人は、評価したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに応じて、実施するリスク対応手続の種類、時期及び範囲を立案し実施しなければならない(A4項からA8項及びA41項からA51項参照)。
6
監査人は、リスク対応手続の立案に当たって、以下を実施しなければならない。(1)重要な取引種類、勘定残高又は注記事項について、評価したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの根拠を、以下の事項を含めて考慮すること(A9項からA17項参照)。①重要な取引種類、勘定残高又は注記事項に係る特性に起因する虚偽表示の発生可能性及び影響の度合い(固有リスク)②重要な虚偽表示リスクに対応する内部統制を勘案しているか(統制リスク)。すなわち、実証手続の種類、時期及び範囲の決定において、内部統制の運用評価手続の実施を計画しているか。この場合には、内部統制の運用状況が有効であるかどうかを判断するための監査証拠を入手することが必要である。(2)評価した重要な虚偽表示リスクの程度が高いほど、より確かな心証が得られる監査証拠を入手すること(A18項参照)。
(1)運用評価手続
7
監査人は、以下のいずれかの場合には、内部統制の運用状況の有効性に関して、十分かつ適切な監査証拠を入手する運用評価手続を立案し実施しなければならない(A19項からA23項参照)。(1)アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを評価した際に、内部統制が有効に運用されていると想定する場合(すなわち、実証手続の種類、時期及び範囲の決定において、内部統制の運用評価手続の実施を計画している場合)(2)実証手続のみでは、アサーション・レベルで十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合
8
監査人は、運用評価手続の立案と実施に当たって、有効に運用されている内部統制への依拠の程度が高いほど、より確かな心証が得られる監査証拠を入手しなければならない(A24項参照)。
運用評価手続の種類と範囲
9
監査人は、運用評価手続の立案と実施に当たって、以下を実施しなければならない。(1)内部統制の運用状況の有効性に関する監査証拠を入手するために、質問とその他の監査手続を組み合わせて実施する(A25項からA28-2項参照)。①監査対象期間において内部統制がどのように運用されていたか。②その運用は一貫していたか。③誰が又はどのような方法で運用していたか。(2) (1)に従って内部統制の運用評価手続を実施していない範囲においても、運用評価手続の対象となる内部統制が他の内部統制(間接的な内部統制)に依存しているかどうか、依存している場合にはこれら間接的な内部統制の運用状況の有効性を裏付ける監査証拠を入手する必要があるかどうかを判断する(A29項からA30項参照)。
運用評価手続の実施の時期
10
監査人は、内部統制への依拠を予定している場合には、依拠に関する適切な基礎を入手するために、第11項及び第14項に留意して、特定の時点で又は期間に対して、運用評価手続を実施しなければならない(A31項参照)。
期中で入手した監査証拠の利用
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監査人は、期中で内部統制の運用状況の有効性に関する監査証拠を入手する場合、以下の手続を実施しなければならない。(1)運用評価手続を実施した後の当該内部統制の重要な変更についての監査証拠を入手する。(2)期末日までの残余期間に対してどのような追加的な監査証拠を入手すべきかを決定する(A32項からA33項参照)。
過年度の監査で入手した監査証拠の利用
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監査人は、過年度の監査で入手した内部統制の運用状況の有効性に関する監査証拠を利用することが適切かどうかを決定する場合、又は適切であると判断して運用評価手続のインターバルを決定する場合、以下の事項を考慮しなければならない(A34項参照)。(1)統制環境、内部統制システムを監視する企業のプロセス、企業のリスク評価プロセス等を含む企業の内部統制システムのその他の構成要素の有効性(2)内部統制が手作業によるか、自動化されているか等の内部統制の特性に起因するリスク(3)IT全般統制の有効性(4)内部統制の有効性及びその運用(例えば、過年度の監査で特定した内部統制の逸脱の内容及び件数、内部統制の運用に著しい影響を及ぼす人事異動があったかどうか。)(5)環境の変化に対応した内部統制の変更の必要性(必要な内部統制の変更が行われていないことによりリスクが生じているかどうか。)(6)重要な虚偽表示リスクと内部統制への依拠の程度
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監査人は、過年度の監査で入手した内部統制の運用状況の有効性に関する監査証拠を利用する場合、当該内部統制の重要な変更が過年度の監査終了後に発生しているかどうかについての監査証拠を入手し、過年度の監査から引き継ぐ監査証拠の適合性と信頼性を確認しなければならない。監査人は、この監査証拠を、当該内部統制についての理解を確かめるため、質問に観察又は記録や文書の閲覧を組み合わせて実施して入手しなければならない。さらに、以下の事項に留意する。(1)過年度の監査から引き継ぐ監査証拠の適合性に影響する変更があった場合には、当年度の監査で内部統制の運用評価手続を実施しなければならないこと(A35項参照)。(2)このような変更がない場合でも、少なくとも3年に1回は内部統制の運用評価手続を実施しなければならないこと。なお、毎期の監査において内部統制の一部について運用評価手続を実施しなければならず、依拠する全ての内部統制の運用評価手続をある年度で実施し、その後2年間運用評価手続を実施しないとすることはできない(A36項からA38項参照)。
特別な検討を必要とするリスクに対する内部統制
14
監査人は、特別な検討を必要とするリスクに対する内部統制に依拠しようとする場合には、当年度の監査において、これに関連する内部統制の運用評価手続を実施しなければならない。
内部統制の運用状況の有効性の評価
15
監査人は、依拠しようとする内部統制の運用状況の有効性の評価において、実証手続によって発見された虚偽表示が、内部統制が有効に運用されていないことを示唆しているかどうかを評価しなければならない。なお、実証手続によって虚偽表示が発見されていないことは、検討対象となっているアサーションに関連する内部統制が有効であることの監査証拠とはならないことに留意する(A39項参照)。
16
監査人は、依拠しようとする内部統制からの逸脱を発見した場合には、逸脱が生じた原因及びその潜在的な影響を理解するために質問を実施し、以下の事項について判断しなければならない(A40項参照)。(1)実施した運用評価手続は内部統制への依拠に関する適切な基礎を提供するかどうか。(2)追加的な運用評価手続が必要かどうか。(3)重要な虚偽表示リスクに対応する実証手続が必要かどうか。
(2)実証手続
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監査人は、関連するアサーションを識別していない(重要な虚偽表示リスクを識別していない)が重要性のある取引種類、勘定残高又は注記事項に対する実証手続を立案し実施しなければならない。なお、評価した重要な虚偽表示リスクの程度にかかわらず、重要な取引種類、勘定残高又は注記事項に対しても、実証手続を立案し実施しなければならない(A41項からA46項参照)。
18
監査人は、確認手続を実証手続として実施すべきかどうかを考慮しなければならない(A47項からA50項参照)。
財務諸表作成プロセスに関連する実証手続
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監査人は、財務諸表作成プロセスに関連する実証手続に、以下の手続を含めなければならない。(1)注記事項を含む財務諸表に記載されている情報(総勘定元帳や補助元帳以外から入手した情報を含む。)とその基礎となる会計記録との一致又は調整内容を確かめること。(2)財務諸表作成プロセスにおける重要な仕訳及びその他の修正を確かめること(A51項参照)。
特別な検討を必要とするリスクに対応する実証手続
20
監査人は、評価したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクが特別な検討を必要とするリスクであると判断した場合、そのリスクに個別に対応する実証手続を実施しなければならない。監査人は、特別な検討を必要とするリスクに対して実証手続のみを実施する場合、詳細テストを含めなければならない(A52項参照)。
実証手続の実施の時期
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監査人は、期末日前を基準日として実証手続を実施する場合には、期末日前を基準日として実施した実証手続の結果を期末日まで更新して利用するための合理的な根拠とするため、残余期間について以下のいずれかの手続を実施しなければならない(A53項からA56項参照)。(1)運用評価手続と組み合わせて、実証手続を実施すること。(2)監査人が十分と判断する場合、実証手続のみを実施すること。
22
監査人は、期中に、重要な虚偽表示リスクを評価するときに予期しなかった虚偽表示を発見した場合には、関連するリスク評価並びに残余期間に対して計画された実証手続の種類、時期及び範囲を変更する必要があるかどうかを評価しなければならない(A57項参照)。
3.財務諸表の表示及び注記事項の妥当性
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監査人は、財務諸表の全体的な表示が、適用される財務報告の枠組みに準拠しているかどうかを評価する監査手続を実施しなければならない。この評価を行う上で、監査人は、財務諸表が以下の事項を適切に反映して表示されているかどうかを検討しなければならない(A58項参照)。・財務情報並びにその基礎となる取引、事象及び状況の分類及び記述・財務諸表の表示、構成及び内容《4.入手した監査証拠の十分性及び適切性の評価》
24
監査人は、実施した監査手続及び入手した監査証拠に基づいて、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに関する評価が依然として適切であるかどうかを監査の最終段階において判断しなければならない(A59項からA60項参照)。
25
監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手したかどうかを結論付けなければならない。監査人は、監査意見の形成において、監査証拠が財務諸表におけるアサーションを裏付けるかどうかにかかわらず全ての関連する監査証拠を考慮しなければならない(A61項参照)。
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監査人は、ある取引種類、勘定残高又は注記事項に係る関連するアサーションについて十分かつ適切な監査証拠を入手していない場合には、監査証拠の追加の入手に努めなければならない。監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合には、限定意見を表明するか、又は意見を表明してはならない。
5.監査調書
27
監査人は、以下の事項を監査調書に記載しなければならない(A62項参照。監査基準報告書230「監査調書」第7項から第10項及びA6項参照)。(1)財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクに応じた全般的な対応、及び実施したリスク対応手続の種類、時期及び範囲(2)アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクと実施したリスク対応手続との関連性(3)監査手続の結果(当該結果の記載のみでは結論が明確でない場合は、結論も含めて記載することを含む。)
28
監査人は、過年度の監査で入手した内部統制の運用状況の有効性についての監査証拠を利用する場合には、過年度の監査で運用評価手続を実施した内部統制に依拠できるか否かについての結論を監査調書に記載しなければならない。
29
監査人は、注記事項を含む財務諸表に記載されている情報(総勘定元帳や補助元帳以外から入手した情報を含む。)とその基礎となる会計記録との一致又は調整内容を確かめた結果を監査調書に記載しなければならない。
1.全般的な対応(第4項参照)
A1
評価した財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクに応じた全般的な対応には、例えば、以下が含まれる。・監査チームメンバーが職業的懐疑心を保持すること。・豊富な経験を有する又は特定分野における専門的な知識や技能を持つ監査チームメンバーの配置、専門家の利用・監査チームメンバーに対する指示、監督及び監査調書の査閲の内容、時期及び範囲の変更・実施するリスク対応手続の選択に当たっての企業が想定しない要素の組込み・監査基準報告書300「監査計画」により要求される監査の基本的な方針又は計画された監査手続の変更。これには、以下に関する変更を含む場合がある。-監査基準報告書320「監査の計画及び実施における重要性」に従った手続実施上の重要性の決定-内部統制の運用状況の有効性を評価する監査人の計画。特に統制環境又は企業の監視活動における不備が識別された場合には、内部統制の運用状況の有効性に依拠するためにはより広範な監査証拠が必要となる。-実証手続の種類、時期及び範囲。例えば、重要な虚偽表示リスクが高いと評価した場合には、期末日又は期末日近くで実証手続を行うことが適切である場合がある。
A2
監査人の統制環境の理解は、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクの評価と、それに関する監査人の全般的な対応に影響を及ぼす。統制環境が有効である場合には、監査人の内部統制への依拠の程度及び企業の内部で作成された情報の監査証拠としての証明力が高くなるため、例えば、監査手続を実施する基準日を期末日ではなく期末日前にすることができる。しかしながら、統制環境に不備がある場合には、反対に監査人は、例えば、以下のように対応することがある。・基準日を期末日前ではなく期末日として、より多くの監査手続を実施すること。・実証手続によってより多くの監査証拠を入手すること。・監査対象とする事業所等の範囲を拡大すること。
A3
これらの統制環境に関する考慮は、監査人の監査アプローチの選択、例えば、実証手続を中心とした監査アプローチ又は運用評価手続と実証手続を組み合わせる監査アプローチを採用するかの判断に重要な影響を及ぼす。
(1)実施するリスク対応手続の種類、時期及び範囲(第5項参照)
A4
識別したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの評価は、監査人がリスク対応手続の立案及び実施に関する適切な監査アプローチを考慮する際の基礎を提供する。例えば、監査人は以下のように判断することがある。(1)特定のアサーションに対して、運用評価手続を実施するだけで、評価した重要な虚偽表示リスクに有効に対応することが可能である。(2)特定のアサーションに対して、実証手続のみを実施することが適切であると判断し、重要な虚偽表示リスクの評価の過程で内部統制の影響を考慮しない。これは、監査人が実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できないリスクを識別していないため、内部統制の運用評価手続を必要としない場合が含まれる。その際には、監査人は内部統制の運用評価手続の実施を計画せずに実施する実証手続の種類、時期及び範囲を決定する。(3)運用評価手続と実証手続を組み合わせる監査アプローチが有効である。監査人は、重要な虚偽表示リスクの評価が許容可能な低い水準を下回っている場合には、リスク対応手続を立案し実施する必要はない。しかしながら、第17項で要求されるように、監査人は、関連するアサーションを識別していないが重要性のある取引種類、勘定残高又は注記事項に対する実証手続を立案し実施する。また、選択した監査アプローチ及び評価した重要な虚偽表示リスクの程度にかかわらず、重要な取引種類、勘定残高又は注記事項に対しても、実証手続を立案し実施しなければならない。
A5
監査手続の種類は、その目的(すなわち、運用評価手続又は実証手続)と手法(すなわち、閲覧、観察、質問、確認、再計算、再実施又は分析的手続)に関係している。評価したリスクへの対応という点では、監査手続の種類が最も重要である。
A6
監査手続の実施の時期は、いつ監査手続を実施するか、又は監査証拠を入手する期間若しくは時点に関係している。
A7
監査手続の範囲は、例えば、サンプル数や内部統制の観察回数等、監査手続を実施する量に関係している。
A8
評価したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに応じた、リスク対応手続の種類、時期及び範囲を立案して実施することにより、リスク評価とリスク対応手続との間に明瞭な関連性が構築されることとなる。
手続の種類
A9
監査基準報告書315第30項及び第33項では、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに関する監査人の評価は、固有リスクと統制リスクの評価によって行われることが求められている。監査人は、固有リスク要因が、どのように、そしてどの程度、関連するアサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響するのかを考慮して虚偽表示の発生可能性と影響の度合いを評価することにより、固有リスクを評価する。監査人が評価した重要な虚偽表示リスクとその評価理由は、実施する監査手続の手法とこれらの組合せの両方に影響することがある。例えば、評価したリスクが高い場合、監査人は、記録や文書の閲覧に加えて、契約条件の網羅性を相手方に確認することがある。さらに、実施する監査手続によって、アサーションとの関連の度合いが異なることがある。例えば、収益の網羅性というアサーションにおいて評価された重要な虚偽表示リスクには運用評価手続が最も対応する場合があるが、収益の発生というアサーションにおいて評価された重要な虚偽表示リスクには実証手続が最も対応することがある。
A10
リスク評価の根拠は、監査手続の種類の決定に関連している。例えば、取引の特性から内部統制を考慮しなくても重要な虚偽表示リスクの程度が低いという評価のもとに、分析的実証手続だけで十分かつ適切な監査証拠を入手できると判断する場合もある。一方、監査人が内部統制の運用状況の有効性を評価することを計画しているため、重要な虚偽表示リスクを低いと評価し、その評価をもとに実証手続を立案する場合には、第7項(1)に従って、内部統制が有効に運用されているかどうかを確かめるために運用評価手続を実施する。この状況には、例えば、適切に定型化された複雑でない取引種類が企業の情報システムによって規定どおりに処理、管理される場合が該当することがある。
実施の時期
A11
監査人は、期末日前か期末日を基準日として、運用評価手続又は実証手続を実施する。監査人は、重要な虚偽表示リスクの程度が高いほど、実証手続を期末日により近い時期又は期末日を基準日として実施すること、又は事前の通知なしに若しくは容易に予測できない時期に監査手続を実施することを決定することがある(例えば、予告せずに事業所に往査して監査手続を実施する。)。これは、特に不正リスクへの対応を検討する場合に適合する。例えば、監査人は、意図的な虚偽表示又は利益操作が行われるリスクを識別した場合には、期末日前の結論を期末日まで更新して利用するために実施する監査手続は有効でないと結論付けることがある。
A12
監査人は期末日前を基準日として監査手続を実施することで、重要な検討事項を監査の初期の段階で認識し、経営者とともに検討事項を解決すること、又は検討事項に対する有効な監査アプローチを採用することが可能となることがある。
A13
ただし、例えば、以下のような監査手続は、期末日以後のみに実施可能である。・財務諸表及び注記事項に記載されている情報(総勘定元帳や補助元帳以外から入手した情報を含む。)とその基礎となる会計記録との一致又は調整内容を確かめる手続・財務諸表の作成過程で行われる修正を検討する手続・期末日において、企業が不適切な販売契約を締結するリスクや、期末日までに完結しない取引に関するリスクに対応して実施する監査手続
A14
監査人が監査手続の実施の時期を検討する際に考慮する要因には、例えば、以下の事項がある。・統制環境・必要な情報が入手可能な時期(例えば、電子ファイルが後で上書処理される場合や観察対象の手続がある時点においてのみ実施される場合)・虚偽表示リスクの内容(例えば、売上契約を事後的に偽造して予算達成のため収益を過大計上する可能性がある場合、監査人は期末日時点で利用可能な契約書の検討を望むことがある。)・監査証拠が関連する期間又は時点・財務諸表、特に貸借対照表、損益計算書、包括利益計算書、株主資本等変動計算書又はキャッシュ・フロー計算書に計上された金額についての詳細な説明を提供する注記事項の作成時期《手続の範囲》
A15
監査人の判断が必要な監査手続の範囲は、重要性、評価したリスク、及び監査人が得ようとする保証水準を考慮した後に決定される。一つの目的に対応するために監査手続を組み合わせて実施する場合には、それぞれの手続の範囲は別々に検討される。通常、重要な虚偽表示リスクの程度が高くなるほど監査手続の範囲は拡大する。例えば、評価した不正による重要な虚偽表示リスクに対応するためには、サンプル数の増加や、より詳細なレベルでの分析的実証手続の実施が適切なことがある。ただし、監査手続の範囲を拡大することは監査手続自体が特定のリスクに適合している場合にのみ有効である。
A16
コンピュータ利用監査技法(CAAT)を用いることにより、電子的な取引ファイルと勘定ファイルに対するより広範な手続の実施が可能となるため、例えば、不正による重要な虚偽表示リスクへの対応において、監査人がテスト範囲の変更を決定する場合に有用であることがある。CAATは、重要な電子的ファイルからのサンプルの抽出、特性に基づいた取引のソート、又は項目抽出を行わずに母集団全体の検討に利用できる。
小規模企業に特有の考慮事項
A17
小規模企業の場合、監査人が識別できる十分な内部統制がないことや、内部統制の文書化の程度が限られていることがある。このような場合には、監査人は、リスク対応手続として、主に実証手続を実施することがより効率的となることがある。しかし、稀ではあるが、内部統制や内部統制システムの構成要素の欠如により、十分かつ適切な監査証拠の入手が不可能となる場合もある。
リスクの程度が高いと評価した場合(第6項(2)参照)
A18
監査人は、重要な虚偽表示リスクの程度が高いと評価し、より確かな心証が得られる監査証拠を入手する場合には、監査証拠の量を増やすことや、より適合性が高く、より証明力の強い監査証拠を入手することがある。例えば、第三者からの証拠の入手に重点を置き、又は異なる複数の情報源から補強する証拠を入手する。
運用評価手続の立案と実施(第7項参照)
A19
関連するアサーションの重要な虚偽表示を防止又は発見・是正するために適切にデザインされていると監査人が判断する内部統制に対してのみ、監査人は運用評価手続を計画する。異なる内部統制が監査対象期間の異なる時期に適用される場合、各々の内部統制は別々に検討される。
A20
運用評価手続は、内部統制のデザインと業務への適用を理解し評価することとは異なるが、同一種類の監査手続が利用される。したがって、監査人は、内部統制のデザインと業務への適用を理解し評価すると同時に、内部統制の運用評価手続を実施することが効率的であると判断することもある。
A21
リスク評価手続は、運用評価手続として特に立案されていなくても、内部統制の運用状況の有効性に関する監査証拠を提供し、結果として運用評価手続となる場合がある。このようなリスク評価手続には、例えば、以下のような手続を含む。・経営者等に対する予算管理についての質問・経営者が月次で実施する経費の予算実績分析についての観察・予算と実績の差異に関する調査報告書の閲覧これらの監査手続によって、企業の予算管理方針及びそれが業務に適用されているかどうかについての情報とともに、経費の分類に関する重要な虚偽表示の防止又は発見に係る予算管理の運用状況の有効性に関する監査証拠も入手できる。
A22
さらに、監査人は、同一の取引に対して詳細テストと同時に実施する運用評価手続を立案する場合もある。運用評価手続の目的は詳細テストの目的とは異なるが、二つの目的は、同一取引に対する詳細テストと運用評価手続の実施を通じて同時に達成されることがあり、これは二重目的テストと呼ばれている。例えば、監査人は、請求書の承認の有無を判断するため、及び取引に関する実証手続による監査証拠を入手するために、請求書を検討する手続を立案し、その結果を評価することがある。二重目的テストは、それぞれのテストの目的を別々に考慮して、立案され、評価される。
A23
監査基準報告書315に記載しているように、ある場合に監査人は、アサーション・レベルにおいて、実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手することができないと判断することがある(監基報315第32項参照)。例えば、企業がITを利用して業務を行っており、取引に関連する文書がITシステム外では作成、保存されていない場合である。このような場合には、第7項(2)に記載しているとおり、監査人には、実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できないリスクに対応する内部統制の運用評価手続の実施が要求される。
監査証拠と依拠の程度(第8項参照)
A24
運用評価手続を主な監査手続とする監査アプローチを採用する場合において、特に実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手することができない又は実務的でないときには、監査人は、内部統制の運用状況の有効性についてより高い保証水準を得ようとすることがある。
質問と組み合わせたその他の監査手続(第9項(1)参照)
A25
質問だけでは内部統制の運用評価手続としては十分でないことから、その他の監査手続を組み合わせて実施する。その場合、観察は観察を実施する時点だけに関連するものであるから、質問と観察を実施するよりも、記録や文書の閲覧又は再実施を組み合わせて質問を実施する方が、より確かな心証を得られる監査証拠を入手することができる。
A26
内部統制の特性が、内部統制の有効性に関する監査証拠を入手するために必要な監査手続に影響を及ぼす。例えば、運用状況の有効性に関する証跡が文書で残されている場合には、監査人は、運用状況の有効性に関する監査証拠を入手するため当該文書を閲覧する。一方、内部統制の運用状況の有効性に関する証跡となる文書が利用可能でない場合もある。例えば、権限と責任の付与のような統制環境の一部の要素、又は自動化された内部統制といった、内部統制の一部については、運用に関する証跡は文書で存在しないこともある。このような場合、運用状況の有効性に関する監査証拠は、質問と観察又はCAATを用いる等のその他の監査手続を組み合わせて実施することにより入手されることがある。
運用評価手続の範囲
A27
内部統制の運用状況の有効性について、より確かな心証が得られる監査証拠が必要と判断する場合には、運用評価手続の範囲の拡大が適切なことがある。運用評価手続の範囲を決定するに当たっては、内部統制への依拠の程度と同様に、以下の事項を考慮することがある。・依拠する期間における内部統制の実施頻度・監査対象期間のうち監査人が有効に運用されている内部統制に依拠する期間・内部統制の予想逸脱率・アサーション・レベルでの内部統制の運用状況の有効性について入手された監査証拠の適合性及び証明力・アサーションに関連した別の内部統制について実施した運用評価手続から入手した監査証拠の程度監査基準報告書530「監査サンプリング」では、テストの範囲に関する詳細な指針を記載している。
A28
ITを利用した処理は一貫して行われることから、自動化された内部統制に対する運用評価手続の範囲を拡大させる必要がない場合もある。自動化された内部統制は、ITアプリケーション(ITアプリケーションによって利用されているテーブル、ファイル、マスターデータ等を含む。)の変更がなければ、一貫して継続的に機能する。監査人は、内部統制が当初導入されたとき又はその後のある時点で、自動化された内部統制が意図したように機能していると判断した場合、その内部統制が継続して有効に機能しているかどうかを判断するための手続の実施を考慮することがある。このような検討には、例えば、ITアプリケーションに関連するIT全般統制の評価が含まれる。
A28-2
同様に、監査人は、企業のデータのインテグリティ(すなわち、データの網羅性、正確性、正当性)又は企業のシステムが生成したレポートの網羅性と正確性に関連する重要な虚偽表示リスクに対応する運用評価手続を実施したり、実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できない重要な虚偽表示リスクに対応するために運用評価手続を実施したりする場合がある。この運用評価手続に、第9項(1)の事項に対応するIT全般統制の評価が含まれている場合、監査人は、第9項(1)の事項に関する監査証拠を入手するために、追加の手続を行う必要のないことがある。
A28-3
監査人は、IT全般統制に不備があると判断した場合、評価した重要な虚偽表示リスクに対応するための監査人の追加手続の立案の基礎を得るために、監査基準報告書315第25項(3)①に従って識別されたITの利用から生じるリスクの内容を考慮する場合がある。この追加手続は、以下の事項の判断に対応することがある。・ITの利用から生じるリスクが発生したかどうか。例えば、利用者がITアプリケーションに承認なしにアクセスできるが、アクセスを追跡するシステムログにアクセスできない又は変更できない場合、監査人はシステムログを査閲して、その利用者が期中にITアプリケーションにアクセスしていなかったという監査証拠を入手することがある。・ITの利用から生じるリスクに対し代替的な若しくは同等のIT全般統制又は他の内部統制があるかどうか。その場合、監査人は(まだ識別していない場合は)当該内部統制を識別し、そのデザインを評価し、業務に適用されていることを確かめ、運用評価手続を実施することがある。例えば、ユーザー・アクセスに関連するIT全般統制に不備がある場合に、IT管理者がエンド・ユーザーのアクセスレポートを適時にレビューするという代替的な内部統制を有していることがある。自動化された内部統制がITの利用から生じるリスクに対応している例として、IT全般統制の不備の影響が及んでいる可能性のある情報について、外部の情報源(銀行明細等)又はIT全般統制の不備の影響を受けない内部の情報源(別個のITアプリケーション又はデータソース等)と照合することができる場合がある。
間接的な内部統制の運用評価(第9項(2)参照)
A29
ある状況では、間接的な内部統制(例えば、IT全般統制)の運用状況の有効性を裏付ける監査証拠の入手が必要であることがある。A28項からA28-3項で説明されているように、自動化された内部統制の運用状況の有効性又はシステムから生成されたレポートを含む企業の財務報告で使用される情報のインテグリティ(すなわち、情報(データ)の網羅性、正確性、正当性)の維持を支援することから、IT全般統制が監査基準報告書315に従って識別されていることがある。第9項(2)の要求事項は、第9項(1)の事項に対応するために監査人が既に特定の間接的な内部統制を評価している可能性があることを示している。
A30
削除《運用評価手続の実施の時期》
依拠を予定する期間(第10項参照)
A31
期末日に実施する実地棚卸に係る内部統制を評価する場合のように、一時点だけに関係する監査証拠が監査人の目的を十分に満たすことがある。一方、監査人が一定期間ある内部統制に依拠しようとする場合には、対象とする期間において内部統制が有効に運用されていることに関する監査証拠を入手できる運用評価手続が適切である。このような運用評価手続には、内部統制システムを監視する企業のプロセスの運用評価手続を含むことがある。
期中で入手した監査証拠の利用(第11項(2)参照)
A32
期末日までの残余期間に運用されていた内部統制について、どのような追加的な監査証拠を入手するかの決定に関連する要因には、以下の事項を含む。・評価したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの程度・運用評価手続を実施した内部統制及び運用評価手続を実施した後の当該内部統制の重要な変更(変更には情報システム、プロセス及び担当者の変更を含む。)・内部統制の運用状況の有効性について入手した監査証拠の程度・残余期間の長さ・監査人が内部統制に依拠することにより削減しようとする実証手続の範囲・統制環境
A33
例えば、残余期間に関する運用評価手続の実施、又は企業の内部統制に対する監視活動の運用評価手続の実施によって、追加的な監査証拠を入手することがある。
過年度の監査で入手した監査証拠の利用(第12項参照)
A34
ある状況では、監査人が過年度の監査において入手した監査証拠について継続的な適合性と信頼性を確かめるための監査手続を実施する場合に、これが当年度の監査証拠となることがある。例えば、過年度の監査で自動化された内部統制が意図したように機能していると判断していた場合に、監査人は経営者に対する質問、及びどの内部統制が変更されたかを示すログの閲覧によって、その内部統制の運用状況の継続的な有効性に影響を及ぼす変更が、自動化された内部統制になされたかどうかの監査証拠を入手することがある。これらの変更に関する監査証拠の検討は、当年度において入手する予定の内部統制の運用状況の有効性に関する監査証拠の増減の裏付けとなることがある。
過年度の監査から内部統制に変更があった場合(第13項(1)参照)
A35
内部統制の変更は、過年度の監査で入手した監査証拠に継続して依拠する根拠がなくなる等、監査証拠の適合性と信頼性に影響することがある。例えば、情報システムで新しいレポートの作成を可能にする変更は、過年度の監査で入手した監査証拠の適合性にはほとんど影響しないが、データの累積又は計算の方法を変更する場合には影響がある。
過年度の監査から内部統制に変更がない場合(第13項(2)参照)
A36
以下のいずれにも該当する内部統制について、過年度の監査で入手した監査証拠に依拠するかどうかは、監査人の職業的専門家としての判断による。(1)最後に運用評価手続を実施した後から変更されていない。(2)特別な検討を必要とするリスクに関連しない。さらに、これらの内部統制の運用評価手続のインターバルも職業的専門家としての判断によるが、第13項(2)に記載しているとおり、少なくとも3年に1回の実施が必要である。
A37
一般的に、重要な虚偽表示リスクの程度が高いほど、又は内部統制に対する依拠の程度が高いほど、運用評価手続を実施しない期間があるとしても、運用評価手続のインターバルは短くなる可能性が高い。内部統制の運用評価手続のインターバルを短くする要因、又は過年度の監査において入手した監査証拠に全く依拠できなくなる要因には、以下の事項が含まれる。・統制環境の不備・内部統制システムを監視する企業のプロセスにおける不備・内部統制の重要な部分の手作業による実施・内部統制の運用状況に重要な影響を及ぼす人事異動・内部統制の変更の必要性を示す環境の変化・IT全般統制の不備
A38
監査人が、過年度の監査において入手した監査証拠に依拠しようとする内部統制が多数存在する場合には、これらの内部統制の幾つかを各年度の監査において運用評価手続を実施することによって、統制環境の継続的な有効性を補強する情報が得られる。この情報は、過年度の監査において入手した監査証拠への依拠が適切かどうかについての監査人の決定に役立つ。
内部統制の運用状況の有効性の評価(第15項から第16項参照)
A39
監査人の手続によって発見された重要な虚偽表示が、内部統制の重要な不備の存在を強く示唆する。
A40
内部統制が有効に運用されているということは、内部統制からの逸脱が全くないことを意味しているわけではない。内部統制からの逸脱は、主要な担当者の交代、取引量の重要な季節的変動及び過失などの要因によって生じることがある。特に、予想した内部統制の逸脱率と比較した場合、実際の内部統制の逸脱率によっては、監査人が評価したアサーション・レベルのリスクを軽減するための内部統制に依拠できないことを示すことがある。
(3)実証手続(第5項及び第17項参照)
A41
監査人は、関連するアサーションを識別していないが重要性のある取引種類、勘定残高又は注記事項について、実証手続を立案し実施することが第17項で要求されている。重要な取引種類、勘定残高又は注記事項については、第5項により評価したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに対応したリスク対応手続の立案と実施が監査人に要求されているため、既に実証手続が実施されている可能性がある。したがって、実証手続は、以下の場合に、第17項に従って立案し実施することが要求される。・第5項に従って立案され実施される、重要な取引種類、勘定残高又は注記事項に関するリスク対応手続が実証手続を含んでいない場合・監査基準報告書315第35項に従って、取引種類、勘定残高又は注記事項が、関連するアサーションを識別していないが重要性があると判断された場合・この要求事項は、監査人のリスク評価が判断に基づくものであり重要な虚偽表示リスクの全てを識別していない場合があること、及び内部統制には経営者による内部統制の無効化を含む固有の限界があることといった事実を反映している。
A41-2
関連するアサーションを識別していないが重要性のある取引種類、勘定残高又は注記事項における全てのアサーションについて実証手続が要求されているわけではない。むしろ、実施すべき実証手続の立案において、仮に虚偽表示が発生した場合に当該虚偽表示が重要である合理的な可能性があると判断したアサーションを考慮し、それに対して実施すべき手続の適切な種類、時期及び範囲を決定することがある。
実証手続の種類と範囲
A42
監査人は、状況に応じて、以下のいずれの事項に該当するかを判断することがある。・監査リスクを許容可能な低い水準に抑えるためには、分析的実証手続の実施だけで十分であること(例えば、監査人によるリスクの評価が、運用評価手続によって入手した監査証拠によって裏付けられている場合)。・詳細テストのみの実施が適切であること。・分析的実証手続と詳細テストの組合せが評価したリスクに最も対応していること。
A43
分析的実証手続は、一般的に、取引量が多く予測可能な取引に対して適用される。監査基準報告書520「分析的手続」には、監査における分析的手続の適用についての要求される事項と指針が記載されている。
A44
リスク評価とアサーションの種類は、詳細テストの立案に関連している。例えば、実在性又は発生というアサーションに関係する詳細テストには、財務諸表に計上されている項目からの抽出及び関連する監査証拠の入手を伴うことがある。一方、網羅性というアサーションに関係する詳細テストには、関連する財務諸表に計上されるべき項目からの抽出及びこれらが財務諸表に含まれているかどうかの検討を伴うことがある。
A45
重要な虚偽表示リスクの評価では監査人が運用状況の有効性の評価を計画している内部統制が考慮されているため、運用評価手続の結果が意図したとおりでない場合、実証手続の範囲を拡大する必要が生じることがある。しかし、監査手続の範囲の拡大は、その監査手続自体が特定のリスクに適合している場合のみ適切である。
A46
詳細テストの立案に当たって、通常、テストの範囲はサンプル数によって表される。しかし、その他の選択可能な項目の抽出方法(例えば、特定項目の抽出)の利用がより有効であるかどうかを含め、サンプル数以外のその他の事項も関連している(監基報530第9項参照)。
確認手続の必要性についての検討(第18項参照)
A47
確認手続は、勘定残高とその明細に関連するアサーションに対応する場合に適合することが多いが、これらの項目に限定する必要はない。例えば、監査人は、企業と第三者との間の合意、契約又は取引に係る条件について確認を行うことがある。また、確認手続は、一定の条件が付されていないことに関する監査証拠の入手のために実施されることもある。例えば、確認依頼が企業の収益の期間帰属の適切性に関連する付帯契約がないという確認を具体的に要求することがある。評価した重要な虚偽表示リスクに対応した監査証拠を入手するために確認手続を実施する状況には、以下が含まれる。・金融機関との取引や残高に関する情報・売掛金及び回収条件等・第三者に保管されている棚卸資産・保護預け又は担保として弁護士や金融機関に保管されている不動産権利証書・保護預け又は担保提供、受渡し未了等、他に保管されている有価証券・借入金、返済条件及び財務制限条項の内容・買掛金及び支払条件等
A48
確認により、特定のアサーションに適合する監査証拠が入手できることがあるが、他のアサーションに対しては適合性の低い監査証拠しか入手できないことがある。例えば、売掛金に対する確認により入手した監査証拠は、実在性には適合するが、回収可能性には必ずしも適合しない。
A49
監査人は、ある目的のために実施する確認手続により、他の事項についての監査証拠も入手できると判断することがある。例えば、銀行に対する確認依頼は、預金等の勘定残高以外の財務諸表項目のアサーションに関連する情報の依頼を含むことが多い。そのような考慮は、確認手続を実施するかどうかについての監査人の判断に影響を及ぼすことがある。
A50
確認手続を実証手続として実施するかどうかを判断するに当たり、監査人は、例えば、以下の事項を考慮する。・対象となる事項についての確認回答者の知識。回答は、確認対象となる情報について必要な知識を有する者により行われる場合に、より信頼性がある。・想定される確認回答者の回答する能力又は協力度合い。例えば、確認回答者は以下のような場合がある。-確認依頼に回答する立場にないと考える。-回答には、費用と時間がかかり過ぎると考える。-回答を行うことにより法的責任が生じる可能性を懸念する。-取引を異なる通貨により記録している。-確認依頼への回答は、日常業務の中で重要な業務とは認識されていない。上記の状況においては、確認回答者は回答を行わなかったり、非公式な方法で回答を行ったり、又は回答への依拠を制限しようとすることがある。・想定される確認回答者の客観性。確認回答者が企業の関連当事者である場合、確認依頼への回答は信頼性が低いことがある。
財務諸表作成プロセスに関連する実証手続(第19項(2)参照)
A51
財務諸表作成プロセスに関する監査人の実証手続の種類及び範囲は、企業の財務報告プロセスの性質及び複雑性並びにこれに関連する重要な虚偽表示リスクの程度によって異なる。
特別な検討を必要とするリスクに対応する実証手続(第20項参照)
A52
監査人は、特別な検討を必要とするリスクであると監査人が判断したリスクに個別に対応する実証手続を実施することが第20項で要求されている。監査人が確認回答者から直接受領する確認により入手した監査証拠は、監査人が不正か誤謬かを問わず、重要な虚偽表示リスクに対応するために要求される証明力の強い監査証拠となることがある。例えば、経営者に利益目標の達成のプレッシャーがかかっていると監査人が識別した場合には、売上契約の条件に反して収益を認識すること又は出荷前に納品書を発行することによって、売上を過大計上するリスクが存在していることがある。これらの場合には、監査人は、例えば、売上債権残高だけでなく、日付、返品条件及び引渡条件を含めた販売契約の詳細を確認することがある。さらに、販売契約及び出荷条件の変更について、経理以外の部門に質問し、確認を補完することが有効な場合もある。
実証手続の実施の時期(第21項から第22項参照)
A53
過年度の実証手続によって入手した監査証拠は、当年度においては、ほとんど又は全く監査証拠とならない。しかし、例えば、全く変更が生じていない証券化スキームに関係して、前年度の監査において入手した法的意見書は、当年度において監査証拠として適合する場合がある。このような場合には、その監査証拠及び関係する事項に基本的な変更がなく、当年度においてその継続的な適合性を確かめるための監査手続が実施されているときには、前年度の監査証拠の利用が適切なことがある。
期中で入手した監査証拠の利用(第21項参照)
A54
監査人は、状況に応じて、期中において実証手続を実施すること、及び残余期間について異常と思われる金額を識別し、当該異常な金額について調査し、さらに、残余期間について分析的実証手続又は詳細テストを実施するために、期末日現在の残高と期中における対応する残高を比較、調整することが有効であると判断することがある。
A55
実証手続を、期末日前を基準日として実施し、残余期間に対して追加手続を実施しない場合には、監査人が期末日に存在する虚偽表示を発見できないリスクは高まる。このリスクは、残余期間が長いほど高まる。以下のような要因が、期末日前を基準日として、実証手続を実施するかどうかに影響を及ぼすことがある。・統制環境及びその他の内部統制・監査人の手続実施日における、その手続に必要な情報の利用可能性・実証手続の目的・評価した重要な虚偽表示リスク・取引種類又は勘定残高の特性及び関連するアサーション・期末日に存在する可能性がある虚偽表示を発見できないリスクを抑えるために、残余期間に係る実証手続又は運用評価手続との組合せで実施する実証手続の実施可能性
A56
以下の要因が、残余期間に対して分析的実証手続を実施するかどうかに関して、影響を及ぼすことがある。・期末日現在の特定の取引種類又は勘定残高に関し、その金額、相対的な重要性及び構成内容が合理的に予測できるかどうか。・企業が実施する期末日前の取引種類又は勘定残高に関する分析及び修正並びに期間帰属に関する手続が適切かどうか。・情報システムから、以下の事項の検討に必要な期末日現在の残高及び残余期間における取引に関する十分な情報が得られるかどうか。(1)重要な通例でない取引又は仕訳(期末日及び期末日近くの取引及び仕訳を含む。)(2)重要な変動又は予想に反して発生しなかった変動のその他の原因(3)取引種類又は勘定残高の構成内容の変化《期中に虚偽表示を発見した場合》(第22項参照)
A57
予想しない虚偽表示を期中に発見した結果、監査人が、残余期間に対して計画していた実証手続の種類、時期及び範囲を変更する必要があると結論付ける場合、そのような変更には、期中に実施した手続の期末日における範囲の拡大又は再実施が含まれることがある。
3.表示及び注記事項の妥当性(第23項参照)
A58
財務諸表の表示、配置及び内容の適切性の評価には、例えば、適用される財務報告の枠組みで要求される用語が使用されているか、十分詳細な情報が提供されているか、項目の集計及び細分化並びにその根拠の説明の検討が含まれる。
4.入手した監査証拠の十分性及び適切性の評価(第24項から第26項参照)
A59
財務諸表監査は、累積的かつ反復的なプロセスである。そのため、監査人は、立案した監査手続を実施するに従い、入手した監査証拠により他の立案した監査手続の種類、時期及び範囲を変更することがある。また、監査人は、リスク評価の基礎となった情報と著しく異なる情報に気付くこともある。例えば、以下のような場合である。・実証手続によって虚偽表示を発見した場合、その程度によっては、リスク評価に係る判断を変更することがある。また、内部統制の重要な不備を示すこともある。・会計記録の矛盾、証拠の矛盾又は紛失に気付くことがある。・財務諸表の全般的な結論を形成するための分析的手続によって、それまで認識していなかった重要な虚偽表示リスクに気付く場合がある。これらの場合には、監査人は、再評価した重要な虚偽表示リスク及び重要な取引種類、勘定残高又は注記事項と関連するアサーションへの影響に基づき、立案した監査手続の再検討が必要となることがある。リスク評価の修正については、監査基準報告書315に詳細な指針を記載している(監基報315第36項参照)。
A60
監査人は、発見した不正又は誤謬が単発的なものと推定することはできない。したがって、虚偽表示の発見が、評価した重要な虚偽表示リスクに、どのように影響を及ぼすかの検討は、リスク評価が依然として適切であるかどうかの判断に際して重要である。
A61
監査人の十分かつ適切な監査証拠に係る判断は、以下のような要因によって影響を受ける。・アサーションにおける潜在的な虚偽表示の重要性、及び当該虚偽表示が、個別に又は他の虚偽表示と合計したときに、財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性・経営者のリスクへの対処及びリスクに対応する内部統制の有効性・過年度の監査において発見した同様の虚偽表示・実施した監査手続の結果(監査手続により不正又は誤謬の事実が識別されたかどうかを含む。)・入手可能な情報の情報源及び信頼性・監査証拠により形成された心証の程度・企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業の内部統制システムの理解《5.監査調書》(第27項参照)
A62
監査調書の様式及び範囲は職業的専門家としての判断に係る事項であり、企業とその内部統制システムの性質、規模及び複雑性並びに企業からの情報の利用可能性及び監査の手法と技法の影響を受ける。