監基報500
監査基準報告書500「監査証拠」
出典:日本公認会計士協会『監査基準報告書500「監査証拠」』最終改正 2023年1月12日公式ページ:JICPA 監査実務指針等の一覧 ↗本文(要求事項・適用指針)を収録。付録(文例・表)と「適用」の節は載せていません。本文は公式の文書から取り出し、一字一句照合しています(2026-10-19 取得)。出題された9か所に線を引いています。
1.本報告書の範囲
1
本報告書は、財務諸表監査における監査証拠の構成内容について説明するとともに、意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手できるように監査手続を立案し実施することに関する実務上の指針を提供するものである。
2
本報告書は、監査の過程で入手した全ての監査証拠に適用される。その他の監査基準報告書等では、監査の特定の側面(例えば、監査基準報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」)、ある特定の事項に関して入手すべき監査証拠(例えば、監査基準報告書570「継続企業」)、監査証拠を入手するための特定の手続(例えば、監査基準報告書520「分析的手続」)、又は十分かつ適切な監査証拠が入手されたかどうかの評価(監査基準報告書200「財務諸表監査における総括的な目的」及び同330「評価したリスクに対応する監査人の手続」)に関する実務上の指針を提供している。
2.本報告書の目的
3
本報告書における監査人の目的は、監査人が、結論を導き、意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手できるように監査手続を立案し実施することである。
3.定義
4
本報告書における用語の定義は、以下のとおりとする。(1)「会計記録」-企業が作成した取引や会計事象の記録とその裏付けとなる記録をいう。取引を認識した記録(起票)とその裏付けとなる記録(例えば、小切手、電信送金票、請求書、契約書等)や、総勘定元帳、補助元帳、仕訳帳、仕訳帳に記帳されない財務諸表に対するその他の修正、及び原価配分・計算・調整・開示を裏付けるワークシートやスプレッドシートなどの記録が含まれる。(2)「監査証拠」-監査人が意見表明の基礎となる個々の結論を導くために利用する情報をいう。監査証拠は、財務諸表の基礎となる会計記録に含まれる情報及びその他の情報源から入手した情報からなる。(3)「外部情報源」-以下のいずれかに該当する、幅広い利用者の使用に適する情報を提供する外部の個人又は組織をいう(A1-1項からA1-3項参照)。・企業が財務諸表の作成に当たって使用する情報・監査証拠として監査人が入手する情報ただし、外部の個人又は組織が以下のいずれかとして情報を提供する場合、当該情報源に関しては、外部情報源とはみなされない。・経営者の利用する専門家・受託会社(監査基準報告書402「業務を委託している企業の監査上の考慮事項」第7項参照)・監査人の利用する専門家(監査基準報告書620「専門家の業務の利用」第5項参照)(4)「(監査証拠の)十分性」-監査証拠での量的尺度をいう。必要とされる監査証拠の量は、評価した重要な虚偽表示リスクの程度及び監査証拠の質によって影響を受ける。(5)「(監査証拠の)適切性」-監査証拠の質的尺度をいう。すなわち、意見表明の基礎となる監査証拠の適合性と証明力をいう。(6)「経営者の利用する専門家」-企業が財務諸表を作成するに当たって、会計又は監査以外の分野において専門知識を有する個人又は組織の業務を利用する場合の当該専門知識を有する個人又は組織をいう。
1.十分かつ適切な監査証拠
5
監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手するために、個々の状況において適切な監査手続を立案し実施しなければならない(A1項からA25項参照)。
2.監査証拠として利用する情報
6
監査人は、監査手続を立案し実施する場合には、監査証拠として利用する情報(外部情報源から入手する情報を含む。)の適合性と信頼性を考慮しなければならない(A26項からA33-8項参照)。
7
監査人は、監査証拠として利用する情報が経営者の利用する専門家の業務により作成されている場合には、監査人の目的に照らして当該専門家の業務の重要性を考慮して、必要な範囲で以下の手続を実施しなければならない(A34項からA36項参照)。(1)経営者の利用する専門家の適性、能力及び客観性を評価すること(A37項からA43項参照)。(2)経営者の利用する専門家の業務を理解すること(A44項からA47項参照)。(3)経営者の利用する専門家の業務について、監査証拠としての適切性を関連するアサーションに照らして評価すること(A48項参照)。
8
監査人は、企業が作成した情報を利用する場合には、当該情報が監査人の目的に照らして十分に信頼性を有しているかどうかを評価しなければならない。これには、個々の状況において必要な以下の事項が含まれる。(1)企業が作成した情報の正確性及び網羅性に関する監査証拠を入手すること(A49項及びA50項参照)。(2)企業が作成した情報が監査人の目的に照らして十分に正確かつ詳細であるかどうかを評価すること(A51項参照)。
3.監査手続の対象項目の抽出
9
監査人は、内部統制の運用評価手続及び詳細テストを立案する際には、監査手続の対象項目について監査手続の目的に適う有効な抽出方法を決定しなければならない(A52項からA56項参照)。
4.監査証拠における矛盾又は証明力に関する疑義
10
監査人は、以下のいずれかの場合、問題を解消するためにどのような監査手続の変更又は追加が必要であるかを判断し、監査の他の側面に与える当該事項の影響があればその影響を考慮しなければならない(A57項参照)。(1)ある情報源から入手した監査証拠が他の情報源から入手した監査証拠と矛盾する場合(2)監査人が監査証拠として利用する情報の信頼性に関して疑義を抱く場合《Ⅲ適用指針》
1.外部情報源
A1-1
外部情報源には、プライシング・サービス・ベンダー、政府機関、中央銀行又は広く認知された証券取引所などが含まれる。外部情報源から入手できる情報の例としては、以下が挙げられる。・価格及び価格算定に関連する情報・マクロ経済情報(失業率及び経済成長率の実績及び予測など)又は国勢調査に関する情報・信用履歴に関する情報・業界特有の情報(採掘産業で用いられる埋立費用の指標又はエンターテイメント産業の広告収入を決定するために使用される視聴率等の情報など)・生命保険及び年金分野において負債を決定するために使用される生命表
A1-2
外部の個人又は組織が、情報を無償で公開したり、幅広い利用者に対価を得て提供したりする場合、このような情報は幅広い利用者の使用に適している可能性が高く、また特定の情報利用者による影響を受ける可能性が低い。当該情報が幅広い利用者の使用に適しているかどうかを検討する際に判断を求められることがあるが、この判断に当たっては、企業の外部情報源に対する影響力を考慮する。
A1-3
外部の個人又は組織は、提供する情報について、外部情報源となるか、又は以下のいずれかとなる。・経営者の利用する専門家・受託会社・監査人の利用する専門家
A1-4
しかし、外部の個人又は組織は、ある情報については経営者の利用する専門家となり、別の情報については外部情報源となることがある。状況によって、ある情報について、それを提供する外部の個人又は組織が経営者の利用する専門家となるのか、外部情報源となるのかを決定するために、職業的専門家としての判断が必要となることもあれば、明確に区分できる場合もある。例えば以下のとおりである。・外部の個人又は組織が、幅広い利用者向けに地域別情報などの不動産価格に関する情報を提供する場合、外部情報源となることがある。一方、同一の外部組織が、企業の不動産について、企業固有の事情や状況を反映させて不動産価格の評価を行う場合、経営者又は監査人の利用する専門家となることがある。・保険数理の団体の中には、広く一般に使われる目的で生命表を公開するものがある。この生命表を企業が利用した場合、生命表を公開した団体は、一般的に外部情報源と考えられる。一方、同一の保険数理の団体が、企業の年金制度の年金債務の算定のために、企業固有の状況を反映させた情報を提供する場合、当該団体は、経営者の利用する専門家となることがある。・外部の個人又は組織が、観察可能な市場が存在しない有価証券の公正価値を見積るためのモデルの適用に関する専門知識を有していることがある。このような個人又は組織が、その専門知識を使用して企業のために有価証券の公正価値を見積り、見積価格が財務諸表の作成に利用された場合、当該個人又は組織は、見積価格に関して経営者が利用する専門家となる可能性が高い。一方、同一の個人又は組織が、広く一般に使用される目的で取引価格や価格に関する情報を提供したのみであり、企業が独自の会計上の見積りにおいて当該情報を利用した場合、情報を提供した個人又は組織は、当該情報に関して外部情報源となる可能性が高い。・外部の個人又は組織が、幅広い利用者に向けて、ある業界におけるリスク又は状況に関する情報を提供することがある。例えば、国際財務報告基準(IFRS)第7号「金融商品:開示」に準拠して開示を行う場合など、企業のリスクに関する開示にこのような情報が利用される場合、当該情報は一般的に外部情報源から入手されたものと考えられる。一方、同種の情報であるが、企業からの委託を受け、企業の状況を反映させたリスクに関する情報が作成された場合、情報を作成し提供した個人又は組織は、経営者が利用する専門家となる可能性が高い。・外部の個人又は組織が、自らの専門知識を利用して、幅広い利用者に向けて現在及び将来の市場動向に関する情報を提供することがある。企業が、会計上の見積りにおける仮定を決定する際にこのような情報を利用する場合、利用される情報は外部情報源から入手されたと考えられる可能性が高い。一方、同種の情報が、企業からの委託を受け、企業固有の事実及び状況に関連する現在及び将来の市場動向に関する情報として作成された場合、情報を提供した個人又は組織は、経営者が利用する専門家となる可能性が高い。
2.十分かつ適切な監査証拠(第5項参照)
A1-5
監査証拠は、監査意見及び監査報告書を裏付けるために必要である。監査証拠は、累積的な性質のものであり、主として監査の過程で実施した監査手続から入手する。しかしながら、監査証拠は、過年度の監査において入手した情報(監査基準報告書315第15項に記載のとおり、監査人が、その情報が当年度の監査における監査証拠として適合性と信頼性を依然として有しているかについて評価した場合)又は監査契約の新規の締結及び更新において入手した情報など、その他の情報源から入手した情報も含むことがある。さらに、企業の会計記録及びその他の企業内部の情報源は監査証拠として重要な情報源である。また、監査証拠として利用する情報は、経営者の利用する専門家の業務により作成されたり、又は外部情報源から入手されたりすることがある。監査証拠は、アサーションを裏付ける情報と矛盾する情報の両方から構成される。さらに、情報がないことそれ自体が監査証拠となる場合(例えば、依頼した陳述を経営者が拒んだ場合)がある。
A2
監査意見の形成における監査人の作業のほとんどは、監査証拠を入手し評価することからなる。監査証拠を入手する監査手続には、質問に加え、閲覧、観察、確認、再計算、再実施及び分析的手続があり、多くの場合はそれらを組み合わせて実施する。質問は、重要な監査証拠を提供することがあり、虚偽表示の証拠を提供する可能性もあるが、通常、質問のみでは、アサーション・レベルの重要な虚偽表示がないこと又は内部統制の運用状況の有効性について十分な監査証拠を提供しない。
A3
監査基準報告書200第5項において説明されているように、合理的な保証は、監査人が、監査リスク(監査人が、財務諸表の重要な虚偽表示を看過して誤った意見を形成する可能性)を許容可能な低い水準に抑えるために、十分かつ適切な監査証拠を入手した場合に得られる。
A4
監査証拠の十分性と適切性は、相互に関連する。十分性は監査証拠の量的尺度である。必要な監査証拠の量は、監査人が評価した虚偽表示リスクの程度によって影響を受け(評価したリスクの程度が高いほど、より多くの監査証拠が要求される。)、また、監査証拠の質によって影響を受ける(質が高いほど、より少ない監査証拠で済む。)。しかしながら、数多くの監査証拠を入手したとしても、監査証拠の質の低さを補完しないことがある。
A5
適切性は監査証拠の質的尺度である。すなわち、意見表明の基礎となる監査証拠の適合性と証明力である。監査証拠の証明力は、情報源及び種類により影響を受け、入手する状況により異なる。
A6
監査基準報告書330第25項は、監査人が十分かつ適切な監査証拠を入手したかどうかを判断することを要求している。監査リスクを許容可能な低い水準に抑え、意見表明の基礎となる結論を導くための十分かつ適切な監査証拠を入手したかどうかは、職業的専門家としての判断に係る事項である。監査基準報告書200は、監査人が十分かつ適切な監査証拠が入手されたかどうかについて職業的専門家としての判断を行う場合に関連する要因となる、監査手続の種類、財務報告の適時性及び費用と便益の比較衡量などの事項について記載している。
(1)監査証拠の情報源
A7
監査証拠には、会計記録をテストすることによって入手するものがある。例えば、分析や検討、財務報告の作成プロセスで実施されている手続の再実施、及び複数の用途に利用される同一情報の照合・調整がある。監査人は、そのような監査手続の実施を通じて、会計記録が相互に整合しており、財務諸表と合致していると判断することがある。
A8
複数の情報源から入手した監査証拠に矛盾がない場合又は異なる種類の監査証拠が相互に矛盾しない場合には、通常、個々に検討された監査証拠に比べ、より確かな心証が得られる。例えば、企業から独立した情報源から入手した情報が、会計記録の中に存在する証拠、議事録又は経営者による陳述など企業内部で生成された監査証拠を裏付けている場合、監査人はより確かな心証を得ることがある。
A9
監査人が監査証拠として利用する、企業から独立した情報源からの情報としては、第三者に対する確認並びにアナリストのレポート及び同業他社とのデータ比較(ベンチマーク用のデータ)などの外部情報源から入手された情報を含むことがある。
(2)監査証拠入手のための監査手続
A10
監査基準報告書315及び同330が要求し詳細に説明しているように、意見表明の基礎となる監査証拠は以下の手続を実施することによって入手する。(1)リスク評価手続(2)以下により構成されるリスク対応手続①監査基準報告書等で要求される場合、又は監査人がその実施を選択した場合に実施する内部統制の運用評価手続②詳細テスト及び分析的実証手続を含む、実証手続
A11
以下のA14項からA25項で記載されている監査手続は、監査人がそれらを適用する状況に応じて、リスク評価手続、内部統制の運用評価手続、又は実証手続として用いられることがある。監査基準報告書330のA34項で説明しているように、過年度の監査で入手した監査証拠は、監査人がその継続的な適合性を確かめる監査手続を実施した場合には、適切な監査証拠となることがある。
A12
実施する監査手続の種類及び時期は、ある会計データとその他の情報が電子媒体のみであるか、又はある時点若しくはある期間においてのみ利用可能であるかどうかによって影響を受ける。例えば、注文書及び請求書のような原始文書は、企業が電子商取引を利用している場合には、電子媒体でのみ存在していることがあり、また、企業が保存や照合を容易にするために画像処理システムを使用している場合には、画像読取り後に破棄されていることもある。
A13
ある種の電子情報は、ファイルが上書き保存されバックアップ・ファイルがない場合には、所定の期間が経過した後では再現することができない。したがって、監査人は、企業のデータ保存方針によっては、監査のために情報の保存を要請するか、又は情報が利用可能なときに監査手続を実施する必要がある。
閲覧及び実査
A14
記録や文書の閲覧は、紙媒体、電子媒体又はその他の媒体による企業内外の記録や文書を確かめる監査手続であり、また、実査は資産の現物を実際に確かめる監査手続である。記録や文書の性質や情報源によって、さらに、企業内部の記録や文書の場合にはそれらの作成に係る内部統制の有効性によって、監査人が記録や文書の閲覧により入手する監査証拠の証明力は異なる。運用評価手続として実施する記録や文書の閲覧の例として、承認の有無を確かめることがある。
A15
文書には、株券や債券など、資産の実在性を直接に示す監査証拠を提供するものがある。そのような文書の閲覧からは、必ずしも、所有権又は評価に関する監査証拠を入手できるわけではない。さらに、契約書の閲覧により、収益認識についての会計方針の適用に関する監査証拠が得られることがある。
A16
有形資産の実査からは、資産の実在性に関する証明力のある監査証拠を入手できるが、必ずしも資産に係る権利と義務又は評価に関する監査証拠を入手できるわけではない。個々の棚卸資産の実査は、実施されている棚卸手続の観察とともに立会において併せて実施されることがある。
観察
A17
観察は、他の者が実施するプロセスや手続を確かめる手続であり、例えば、企業の従業員が実施する棚卸資産の実地棚卸状況や内部統制の実施状況を監査人が観察する手続である。観察により、プロセス又は手続の実施に関する監査証拠を入手できるが、観察を行った時点に関する監査証拠に限定され、また、プロセスや手続の実施は観察されているという事実により影響を受けることがある。棚卸資産の実地棚卸状況の観察に関する詳細な指針については、監査基準報告書501「特定項目の監査証拠」に記載されている。
確認
A18
確認は、紙媒体、電子媒体又はその他の媒体により、監査人が確認先である第三者から文書による回答を直接入手する監査手続である。確認手続は、勘定残高とその明細に関連するアサーションに対して適合することが多い。しかしながら、確認は勘定残高のみに限定する必要はない。例えば、監査人は、契約条件や企業が第三者と行った取引について確認を行うことがある。また、契約が変更されたかどうか、変更された場合には、その内容について問い合わせることがある。確認手続は、一定の条件が付いていないこと、例えば、収益認識に影響する付帯契約がないことに関する監査証拠の入手にも利用される。より詳細な指針については、監査基準報告書505「確認」に記載している。
再計算
A19
再計算は、記録や文書の計算の正確性を監査人自らが計算し確かめる監査手続である。再計算は、手作業によって又はITを用いて実施する。
再実施
A20
再実施は、企業が内部統制の一環として実施している手続又は内部統制を監査人が自ら実施することによって確かめる手続である。
分析的手続
A21
分析的手続は、監査人が財務データ相互間又は財務データ以外のデータと財務データとの間に存在すると推定される関係を分析・検討することによって、財務情報を評価する監査手続である。また、分析的手続には、他の関連情報と矛盾する、又は監査人の推定値と大きく乖離する変動や関係の調査も含まれる。より詳細な指針については、監査基準報告書520「分析的手続」に記載している。
質問
A22
質問は、監査人が財務又は財務以外の分野に精通している企業内外の関係者に情報を求める監査手続である。質問は、質問以外の監査手続と組み合わせて監査の全過程で利用される。質問は、公式な書面又は電磁的記録による質問から非公式な口頭による質問まで様々である。質問に対する回答を評価することは、質問のプロセスの不可欠な部分である。
A23
質問に対する回答から、監査人は、新たな情報又は既に入手していた監査証拠を裏付ける情報を入手することがある。また、質問に対する回答から、監査人は既に入手した情報とは大きく異なる情報、例えば、経営者による内部統制の無効化の可能性に関する情報を入手することがある。質問に対する回答によっては、監査人は実施する手続を修正することや、監査手続を追加して実施することが必要となる。
A24
質問を通じて入手した監査証拠を裏付けることは特に重要であるが、経営者の意思に関連した質問の場合には、経営者の意思を裏付ける利用可能な情報は限定されていることがある。このような場合、経営者がその意思を実行に移した過去の実績、特定の行動方針の選択に関して経営者が説明した理由、及び特定の行動方針を遂行するための経営者の能力を理解することにより、質問により入手した証拠を裏付ける関連情報を入手できることがある。
A25
監査人は、口頭による質問への回答を確認するために、経営者から書面又は電磁的記録による陳述を入手する必要があるかどうかを検討することがある。より詳細な指針については、監査基準報告書580「経営者確認書」に記載している。
(1)適合性及び信頼性(第6項参照)
A26
A1-5項に記載のとおり、監査証拠は、主として監査の過程で実施した監査手続から入手するものであるが、他の情報源から入手することもある。例えば、過年度の監査、監査契約の新規の締結及び更新、法令又は職業倫理に関する規定(例えば、企業の法令違反に関するもの)による特定の追加の責任を遵守することから情報を入手することがある。全ての監査証拠の質は、監査証拠の基礎となる情報の適合性と信頼性により影響される。
適合性
A27
適合性は、監査手続の目的、及び適切な場合には検討中のアサーションとの論理的な関連性又は影響を扱う。監査証拠として利用する情報の適合性は、手続の目的によって影響される。例えば、監査手続の目的が買掛金の実在性又は評価の妥当性に関して過大計上の有無を確かめることである場合、帳簿に計上された買掛金を検討することが目的に適合する監査手続となることがある。一方、買掛金の網羅性に関して過小計上の有無を確かめる場合、帳簿に計上された買掛金の検討は目的に適合しておらず、期末日後の支払、未払の請求書、仕入先の支払通知書、不一致がある検収報告書などの情報の検討が目的に適合することがある。
A28
あるアサーションに適合する監査証拠を提供する監査手続は、他のアサーションに適合する監査証拠を提供しないことがある。例えば、期末日後の売掛金の回収に関連した文書の閲覧は、売掛金の期末日における実在性と評価の妥当性に関する監査証拠を提供するが、売掛金の期間帰属の適切性については必ずしも監査証拠を提供しない。同様に、あるアサーション(例えば、棚卸資産の実在性)に関する監査証拠を入手することは、他のアサーション(例えば、棚卸資産の評価の妥当性)に関する監査証拠を入手することの代替とはならない。一方、複数の情報源から入手した監査証拠や異なる種類の監査証拠が、同一のアサーションに適合する監査証拠を提供することも多い。
A29
運用評価手続は、アサーション・レベルの重要な虚偽表示を防止又は発見・是正する内部統制の運用状況の有効性を評価するように立案される。運用評価手続は、適合する監査証拠を入手するために、内部統制の適切な運用を示す状況(特徴又は属性)や逸脱を示す状況を識別できるように立案される。監査人は、こうした内部統制の運用や逸脱を示す状況の有無を確かめて、運用評価手続を実施する。
A30
実証手続は、アサーション・レベルの重要な虚偽表示を発見するために立案される。実証手続は、詳細テストと分析的実証手続で構成される。実証手続は、関連するアサーションにおいて虚偽表示となる状況を識別するという手続の目的に適合するように立案される。
信頼性
A31
監査証拠として利用する情報の信頼性ひいては監査証拠自体の証明力は、情報源及び情報の種類、並びに関連する場合には情報の作成と管理に関する内部統制を含む情報を入手する状況によって影響される。したがって、様々な種類の監査証拠の証明力については一般化することはできるが、重要な例外が存在する。監査証拠として利用する情報が企業の外部から得られる場合であっても、入手する状況によって情報の信頼性に影響する。例えば、企業から独立した情報源から入手した監査証拠であっても、その情報源が十分な知識を有していない個人又は組織である場合、又は経営者の利用する専門家が客観性を欠いている場合には、信頼できないことがある。監査証拠の証明力は、例外はあるものの、一般的には以下のとおりである。・監査証拠の証明力は、企業から独立した情報源から入手した場合には、より強くなる。・企業内部で作成される監査証拠の証明力は、情報の作成と管理に関する内部統制等、関連する内部統制が有効な場合には、より強くなる。・監査人が直接入手した監査証拠(例えば、内部統制の運用について観察により入手した監査証拠)は、間接的に又は推論に基づいて入手する監査証拠(例えば、内部統制の運用について質問により入手した証拠)よりも、証明力が強い。・監査証拠は、紙媒体、電子媒体又はその他の媒体にかかわらず、文書化されたものの方が、口頭で得たものよりも、証明力が強い(例えば、議事録は、会議の後の口頭による議事説明よりも証明力が強い)。・原本によって提供された監査証拠は、コピーやファックス、フィルム化、デジタル化その他の方法で電子媒体に変換された文書によって提供された監査証拠よりも、証明力が強い。原本以外の文書の信頼性は、その作成と管理に関する内部統制に依存することがある。
A32
監査基準報告書520第4項は、実証手続としての分析的手続を立案する際に利用するデータの信頼性についての指針を提供している。
A33-1
監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」第12項は、文書及び記録や証憑書類が真正ではない、又は、後から変更されているが監査人に開示されていないと疑われる状況を扱っている。
A33-2
監査基準報告書250では、以下に関する詳細な指針を記載している(監基報250第9項参照)。・企業の違法行為又はその疑いに関する法令又は職業倫理に関する規定による追加の責任の遵守(これにより監査人は、監査に関連する詳細な情報を入手することがある。)・当該違法行為が監査の他の局面に及ぼす影響の評価《外部情報源》
A33-3
監査人は外部情報源から入手された情報を監査証拠として使用する場合、企業が財務諸表の作成に当たって使用した情報か監査人が入手した情報かにかかわらず、第6項に従って当該情報の適合性と信頼性を検討しなければならない。このような検討には、監査基準報告書330「評価したリスクに対応する監査人の手続」及び該当する場合、監査基準報告書540「会計上の見積りの監査」に従って、リスク対応手続を立案し、実施する過程で入手した外部情報源に関する監査証拠又は外部情報源による情報作成に関する監査証拠の検討が含まれることがある。
A33-4
経営者又は該当する場合には経営者が利用する専門家が、なぜ外部情報源を利用しているのか及びどのように情報の適合性と信頼性(情報の正確性及び網羅性を含む。)を検討したのかを理解することが、監査人による当該情報の適合性と信頼性の検討に役立つことがある。
A33-5
外部情報源から入手した情報の適合性及び信頼性(情報の正確性及び網羅性を含む。)を検討する際に、以下の要因が重要となることがある。なお、以下の要因には、経営者が財務諸表の作成に当該情報を使用した場合又は監査人が当該情報を入手した場合のいずれか一方のみに関連する場合があることに留意する。・外部情報源の性質と信用度(例えば、業界情報を広く一般に提供することを法律上義務付けられている中央銀行や政府の統計機関は、特定の情報についての最も信用のおける情報源となる可能性が高い。)・企業が外部情報源との関係を通じて、入手した情報に対して影響を及ぼすことができる能力・入手した情報に関する外部情報源の能力及び評判(情報源が、信頼できる情報を定期的に提供している実績があるかどうかに関する監査人の職業的専門家としての判断を含む。)・外部情報源が提供する情報の信頼性に関する監査人の過去の経験・当該情報が経営者又は監査人によって使用されたのと同様の目的で利用されている場合に、外部情報源が提供する情報の適合性や信頼性が一般利用者に幅広く受け入れられている事実・企業が入手し、使用した情報の適合性及び信頼性を確かめるための内部統制の有無・外部情報源は、市場の情報を総括的に集約しているのみなのか、それとも市場取引そのものにも直接関与しているのか。・当該情報が、使用されている方法に照らしてその情報を使用することが適切であるか否か、また、該当する場合、適用される財務報告の枠組みを考慮して作成されたか否か。・使用された情報と矛盾する可能性のある代替的な情報・入手した情報に関する免責条項又はその他の制限の内容及び範囲・当該情報の作成に用いられた見積手法、見積手法の適用方法(該当する場合、モデルがどのように用いられたかを含む。)、及び見積手法に係る内部統制に関する情報・利用可能な場合、入手した情報を作成する過程で外部情報源が使用した仮定及びデータの適切性を検討するための関連情報
A33-6
監査人が検討する内容及び範囲の決定にあたっては、外部情報の使用が関連するアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの評価、重要な虚偽表示リスクと評価した根拠に外部情報の使用が関連する程度、及び外部情報源から入手した情報が信頼できない可能性(例えば、情報が信頼できる情報源から提供されたものであるかどうかなど)を考慮する。A33-3項に記載の検討事項に基づいて、監査人は、監査基準報告書315に従い、内部統制を含む企業及び企業環境について更なる理解が必要であると判断することがある。また、監査基準報告書330第5項及び該当する場合には監査基準報告書540第29項に従い、外部情報源からの情報の使用に関する重要な虚偽表示リスクに対応するためにリスク対応手続が必要であると判断することがある。このようなリスク対応手続には、例えば以下が含まれる。・外部情報源から得た情報と、別の独立した情報源から得た情報との比較の実施・経営者が利用する外部情報源を検討する場合、外部情報源から入手した情報の信頼性を検討するための内部統制についての理解及び該当する場合は運用評価手続の実施・外部情報源における内部統制の識別、理解及び該当する場合は運用評価手続の実施を目的として、外部情報源のプロセス、技法及び仮定を理解するために外部情報源から情報を入手する手続の実施
A33-7
中央銀行や政府のみがインフレ率に関する情報を提供している場合や一般に認知された唯一の業界団体からの情報のように情報提供者が一つしかない場合がある。このような場合、監査人は、情報源の性質と信頼性、外部情報が関連する重要な虚偽表示リスクの評価、及び重要な虚偽表示リスクと評価した根拠に外部情報の使用が関連する程度を考慮して、監査手続の種類と範囲を決定することがある。例えば、情報が信頼できる権威のある情報源から得たものである場合、情報源のウェブサイトや公開されている情報と使用されている外部情報を照合するなど、監査人のリスク対応手続の範囲は限定的となることがある。一方、情報源が信頼できないと評価された場合、監査人は、より広範な手続が適切であると判断することがある。また、比較可能な代替の独立した情報源が存在しない場合、十分かつ適切な監査証拠を入手するために、外部情報源から情報を入手するための監査手続の実施が適切かどうかを検討することがある。
A33-8
監査人が外部情報源からの情報について適合性及び信頼性を検討するための十分な根拠を入手しておらず、代替手続を実施しても十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合、監査範囲の制約となることがある。監査範囲の制約は、監査基準報告書705「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見」第12項の要求事項に従い評価する。
(2)経営者の利用する専門家が作成した情報の信頼性(第7項参照)
A34
企業の財務諸表の作成には、保険数理計算、評価、技術データなど、会計又は監査以外の分野における専門知識が必要なことがある。企業は、財務諸表を作成する目的で必要な専門知識を得るために、このような分野の専門家を雇用し、又はこのような分野の専門家に依頼することにより業務に従事させることがある。
A35
監査証拠として利用する情報が経営者の利用する専門家の業務により作成された場合、第7項の規定が適用される。例えば、観察可能な市場が存在しない有価証券の公正価値の評価モデルの適用において、個人又は組織が専門知識を有していることがある。企業の財務諸表の作成に用いる見積りを算定するに当たって個人又は組織の専門知識を用いる場合、当該個人又は組織は経営者の利用する専門家となり第7項が適用される。一方、企業が独自の見積方法において、個人又は組織により提供される取引に関する価格データを使用しているだけの場合、当該情報を監査証拠として利用するならば第6項が適用され、当該情報は外部情報源から入手したものであるため、データを提供している個人又は組織は経営者の利用する専門家には該当しない。
A36
第7項で記載されている要求事項に関連して、実施する監査手続の種類、時期及び範囲は、例えば、以下の事項に影響される。・経営者の利用する専門家が関係する事項の性質と複雑性・対象となる事項における重要な虚偽表示リスク・監査証拠の代替的な情報源の利用可能性・経営者の利用する専門家の業務の内容、範囲及び目的・経営者の利用する専門家は企業に雇用されているか、又は企業の依頼により業務に従事し関連するサービスを提供しているか。・経営者の利用する専門家の業務に対して、経営者が支配又は影響を及ぼすことが可能な程度・経営者の利用する専門家が、関連する専門的な業務実施基準、又は他の職業的専門家としての規定や業界の規定に従っているかどうか。・経営者の利用する専門家の業務に対して適用される企業の内部統制の性質と範囲・経営者の利用する専門家の専門分野に対する監査人の知識と経験・当該専門家の業務に関する監査人の過去の経験《経営者の利用する専門家の適性、能力及び客観性》(第7項(1)参照)
A37
適性は、経営者の利用する専門家の専門知識の内容と水準に関係している。能力は、経営者の利用する専門家が個々の状況においてその適性を発揮できるかどうかに関係している。能力に影響を与える要因には、例えば、所在地、時間や要員の利用可能性を含むことがある。客観性は、経営者の利用する専門家の職業的専門家としての判断又は経営判断に対して、中立性の欠如、利益相反の有無又はその他の事項が与える潜在的影響に関係している。経営者の利用する専門家の適性、能力及び客観性、並びに専門家の業務に関する企業内の内部統制は、経営者の利用する専門家が作成する情報の信頼性に影響を与える重要な要因となる。
A38
経営者の利用する専門家の適性、能力及び客観性に関する情報は、以下のような様々な情報源によってもたらされることがある。・当該専門家が以前に提供した業務を監査人が利用した経験・当該専門家との協議・当該専門家の業務に精通している者との協議・当該専門家の資格、専門家団体又は業界団体への加入状況、開業免許等についての情報・当該専門家が公表した論文又は著作物・経営者の利用する専門家が作成した情報に関して十分かつ適切な監査証拠を入手するために、監査人の利用する専門家が関係する場合には当該専門家
A39
経営者の利用する専門家の適性、能力及び客観性の評価に関連する事項には、専門家の業務が専門的な業務実施基準又は他の職業的専門家としての規定や業界の規定(例えば、専門家団体又は業界団体の倫理規則及びその他会員が遵守すべき規定、資格認定団体による認定基準、又は法令が課す規定)に従っているかどうかを評価することが含まれる。
A40
上記の他に経営者の利用する専門家の評価に際して考慮する事項には、以下の事項が含まれる。・専門家の業務を利用しようとしている事項に対する、専門家の特定領域における能力を含む、当該専門家の適性の適合性(例えば、保険数理人によっては、損害保険を専門に扱ってはいるが、年金数理計算に関しては限られた専門知識しか持っていないことがある。)・会計上要求される事項に関する専門家の適性(例えば、適用される財務報告の枠組みに準拠している仮定と方法、及び利用している場合はモデルに関連する知識)・当初の評価の再検討の必要性(予期しない出来事、状況の変化、又は監査手続の結果入手した監査証拠により、監査が進行するにつれて、専門家の適性、能力及び客観性に関する当初の評価を再検討する必要があることを示唆しているかどうか。)
A41
様々な状況(例えば、自己利益、擁護、馴れ合い、自己レビュー及び不当なプレッシャーという阻害要因)によって、専門家の客観性が阻害されることがある。阻害要因はセーフガードによって軽減されることがあり、セーフガードは、外的仕組み(例えば、経営者の利用する専門家の所属する専門家団体、法律、又は規制)又は経営者の利用する専門家の業務環境(例えば、品質管理の方針及び手続)によって、設定されることがある。
A42
セーフガードによって経営者の利用する専門家の客観性に対する阻害要因の全てが除去できないが、専門家が企業に雇用されている場合よりも企業の依頼により業務に従事している場合の方が、阻害要因(例えば、不当なプレッシャーなど)の程度が低いことがあり、また、セーフガード(例えば、品質管理の方針及び手続)の有効性が高いことがある。企業の従業員であることによって生じる客観性に対する阻害要因は常に存在するため、企業に雇用されている専門家は、通常、当該企業の他の従業員に比べて高い客観性を有しているとみなすことはできない。
A43
企業の依頼により業務に従事している専門家の客観性を評価する場合、当該専門家の客観性に対する阻害要因となり得る利害関係や、客観性に対する阻害要因を軽減するセーフガードとして当該専門家に適用される職業的専門家の規定等について経営者及び当該専門家と協議することや、そのようなセーフガードが十分であるかを評価することが適切なことがある。阻害要因となり得る利害関係には以下のものを含むことがある。・経済的利害関係・事業上及び個人的な関係・他のサービスの提供《経営者の利用する専門家の業務についての理解》(第7項(2)参照)
A44
経営者の利用する専門家の業務についての理解には、専門分野に対する理解が含まれる。専門分野に対する理解は、監査人が経営者の利用する専門家の業務を評価する専門知識を有しているかどうか、又は監査人の利用する専門家を雇用又は依頼により業務に従事させる必要があるかどうかを判断する際に得られることがある。
A45
経営者の利用する専門家の専門分野に関し、監査人が理解する必要のある事項には、以下のものを含むことがある。・専門家の専門分野が監査に関連する特定領域を含むかどうか。・職業的専門家としての基準等及び法令等が適用されているかどうか。・どのような仮定及び方法が経営者の利用する専門家によって採用されているか、及びそれらの仮定及び方法が専門家の専門分野において一般に認められており、財務報告目的にとって適切であるかどうか。・専門家が使用する内外のデータ又は情報の性質
A46
経営者が専門家に依頼して業務に従事させている場合、通常、企業と当該専門家との間で、契約書やその他の合意文書が取り交わされている。経営者の利用する専門家の業務を理解する際に当該契約を検討することは、監査人が、監査人の目的に照らして、以下の事項の適切性を判断することに役立つことがある。・専門家の業務の内容、範囲及び目的・経営者及び専門家のそれぞれの役割と責任・専門家が提出する報告書の様式を含め、経営者と専門家との間のコミュニケーションの内容、時期及び範囲
A47
経営者の利用する専門家が企業により雇用されている場合、業務内容を記載した契約書に相当する文書が存在する可能性は少ない。監査人が必要とする理解を得るには、専門家及び経営者に対する質問が最適な方法となることがある。
経営者の利用する専門家の業務の適切性の評価(第7項(3)参照)
A48
関連するアサーションについての監査証拠として、経営者の利用する専門家の業務の適切性を評価するに当たって、例えば、以下の事項を検討する。・専門家の指摘事項又は結論の適合性や合理性、他の監査証拠との整合性、及びそれらが財務諸表に適切に反映されていること。・専門家の業務に重要な仮定及び方法が採用されている場合には、それらの仮定及び方法の適合性と合理性・専門家の業務に基礎データが多用されている場合には、当該基礎データの目的適合性、網羅性及び正確性・専門家の業務に外部情報源から入手した情報が使用されている場合には、当該情報の適合性及び信頼性《(3)監査人が利用する企業が作成した情報》(第8項(1)から(2)参照)
A49
監査人が証明力の強い監査証拠を入手するためには、監査手続に利用する企業が作成した情報の正確性及び網羅性が十分である必要がある。例えば、標準価格を販売数量の記録に適用して実施する収益に対する監査手続の有効性は、当該標準価格情報と販売数量データの正確性に依存する。同様に、監査人が、ある一定の属性(例えば、承認の有無)に関して、ある母集団(例えば、支払取引)をテストしようとする場合、テスト対象の項目を抽出した母集団が網羅的でない場合には、テスト結果は証明力が弱いものとなる。
A50
情報の正確性及び網羅性についての監査証拠を入手するための監査手続が当該情報を利用した監査手続と不可分である場合、情報の正確性及び網羅性についての監査証拠は、当該情報を利用した監査手続の実施と同時に入手されることがある。その他の状況では、監査人は、情報の作成と管理に関する内部統制の運用評価手続を実施することによって、当該情報の正確性及び網羅性についての監査証拠を入手することもある。しかしながら、ある状況では、監査人は追加的な監査手続が必要であると判断することもある。
A51
また、監査人は、企業が作成した情報を監査の目的のために利用しようとする場合がある。例えば、監査人は、企業が実施した業績の測定を分析的手続のために利用したり、又は内部監査報告書のように、統制活動を監視するために企業が作成した情報を利用しようとすることがある。そのような場合、入手した監査証拠の適切性は、その情報が監査人の目的に照らして、十分に正確かつ詳細であるかどうかにより影響を受ける。例えば、経営者が利用した業績の測定は、重要な虚偽表示を発見するには十分に正確ではないことがある。
監査手続の対象項目の抽出(第9項参照)
A52
有効な監査手続は、入手済み又は入手予定の他の監査証拠と合わせて、監査手続の目的を十分に満たす適切な監査証拠を提供する。監査手続の対象項目の抽出に当たって、第6項は監査人が監査証拠として利用する情報の適合性と信頼性について判断することを要求している。一方、監査手続の対象となる項目を抽出するに当たっては、他の側面(十分性)も重要な検討事項である。監査人が利用可能な、監査手続の対象項目の抽出方法には、以下のものがある。(1)精査(100%の検討)(2)特定項目抽出による試査(3)監査サンプリングによる試査これらの方法のうちどの方法又はどのような組合せが適切かどうかは、特定の状況によって異なるが、例えば、アサーションに関連する重要な虚偽表示リスクやそれぞれの方法の実行可能性と効率性などによる。
(4)精査
A53
監査人は、取引種類又は勘定残高を構成している項目の母集団全体(又は当該母集団における階層)を検討することが最も適切であると判断することがある。精査は、内部統制の運用評価手続には通常適用しない。しかしながら、詳細テストにおいては、用いられることがある。精査は、例えば、以下のいずれかの場合に適切であることがある。・母集団が少数の金額的に大きい項目から構成されている場合・特別な検討を必要とするリスクが存在する場合で、他の方法では十分かつ適切な監査証拠を入手することができない場合・情報システムによって自動的に行われる反復的な性質の計算等、精査が費用対効果の高い方法である場合《(5)特定項目抽出による試査》
A54
監査人は、母集団から特定項目を抽出することを決定することがある。この決定をするに当たって、監査人は、企業の理解、評価した重要な虚偽表示リスク、及びテストする母集団の特性などを考慮する。監査人の判断による特定項目の抽出は、ノンサンプリングリスクを伴う。抽出される特定項目には、以下のものを含むことがある。・高額の項目又は他の特性を示す項目監査人は、高額の項目、又は他の特性を示す項目(例えば、疑いのある項目、通例でない項目、特にリスクが高い項目、又は過去に誤謬の発生した項目)を、母集団の中から特定項目として抽出することを決定することがある。・一定金額以上の全ての項目監査人は、取引種類又は勘定残高の合計金額の大きな割合を検討するため、一定金額を超える項目を試査することを決定することがある。・情報を入手するための項目監査人は、企業の特徴又は取引の性質などの情報を入手するために、項目を検討することがある。
A55
取引種類又は勘定残高から特定項目を抽出する試査は、監査証拠を入手する効率的な方法ではあるが、それは監査サンプリングによる試査には該当しない。この方法によって抽出した項目に対して実施した監査手続の結果からは、母集団全体にわたる一定の特性を推定することはできない。したがって、特定項目抽出による試査は、母集団の中から抽出されない母集団の残余部分に関する監査証拠を提供しない。
(6)監査サンプリングによる試査
A56
監査サンプリングによる試査は、監査基準報告書530「監査サンプリング」により、母集団からその一部の項目を抽出してテストすることによって、母集団全体に関する結論を導き出すことができるように立案する。
4.監査証拠における矛盾又は証明力に関する疑義(第10項参照)
A57
一つの情報源から入手した監査証拠が別の情報源から入手した監査証拠と矛盾する場合など、複数の情報源から監査証拠を入手することや、異なる種類の監査証拠を入手することにより、個々の監査証拠の証明力が低いことが示唆されていることがある。例えば、経営者、内部監査人若しくはその他の者への質問に対する回答が相互に矛盾している場合、又は経営者への質問に対する回答を裏付けるために実施した監査役等への質問に対する回答が経営者の回答と矛盾している場合がある。監査基準報告書230「監査調書」第10項には、監査人が重要な事項に関する最終的な結論と矛盾する情報を識別した場合における文書化に関する要求事項が記載されている。