監基報530
監査基準報告書530「監査サンプリング」
出典:日本公認会計士協会『監査基準報告書530「監査サンプリング」』最終改正 2022年10月13日公式ページ:JICPA 監査実務指針等の一覧 ↗本文(要求事項・適用指針)を収録。付録(文例・表)と「適用」の節は載せていません。本文は公式の文書から取り出し、一字一句照合しています(2026-10-19 取得)。出題された2か所に線を引いています。
1.本報告書の範囲
1
本報告書は、監査人が監査手続の実施において監査サンプリングを利用する場合に適用する。本報告書は、監査サンプリングを立案してサンプルを抽出し、内部統制の運用評価手続と詳細テストを実施し、抽出したサンプルのテスト結果を評価する場合の監査人による統計的サンプリング及び非統計的サンプリングの利用に関する実務上の指針を提供するものである。
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監査基準報告書500「監査証拠」は、意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手できるように、監査手続を立案し実施することに関する実務上の指針を提供している。当該報告書は、監査手続の対象項目の抽出方法に関する指針を提供しており、監査サンプリングはその一つの方法である。したがって、本報告書は、監査サンプリングについて監査基準報告書500と併せて適用する。
2.本報告書の目的
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本報告書における監査人の目的は、監査人が監査サンプリングを利用する場合に、抽出したサンプルから母集団全体に関する結論を導き出せるように合理的な基礎を得ることである。
3.定義
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本報告書における用語の定義は、以下のとおりとする。(1)「監査サンプリング」又は「サンプリング」-監査人が監査対象となった母集団全体に関する結論を導き出すための合理的な基礎を得るため、母集団内の全てのサンプリング単位に抽出の機会が与えられるような方法で、母集団内の100%未満の項目に監査手続を適用することをいう。(2)「サンプリングリスク」-抽出したサンプルから導き出された監査人の結論が、母集団を構成する全ての項目に同じ監査手続を実施した場合の結論と異なるリスクをいう。サンプリングリスクは、次のような2種類の誤った結論をもたらす可能性がある。①運用評価手続において、内部統制が実際の状態よりも有効であるとする結論、又は、詳細テストにおいて、実際に存在している重要な虚偽表示を存在していないとする結論。このような誤った結論は、監査の有効性に影響を与え、誤った監査意見を形成する可能性が高いため、監査人は、とりわけ、この結論に関心をもつ。②運用評価手続において、内部統制が実際の状態よりも有効でないとする結論、又は、詳細テストにおいて、実際に存在していない重要な虚偽表示を存在しているとする結論。このような誤った結論は、通常、当初の結論が正しくなかったことを確かめるための追加の作業が必要となるため、監査の効率性に影響を与える。(3)「ノンサンプリングリスク」-監査人が、サンプリングリスクに関連しない他の理由によって、誤った結論を導くリスクをいう。(A1項参照)(4)「統計的サンプリング」-以下の特性を持ったサンプリング手法をいう。①サンプル項目の無作為抽出②サンプリングリスクの測定を含めサンプルのテスト結果を評価するに当たっての確率論の利用①及び②の特性を持たないサンプリング手法は、非統計的サンプリングとみなされる。(5)「母集団」-監査人がサンプルを抽出し、結論を導き出そうとする項目全体をいう。(6)「階層化」-母集団を類似した特性(多くの場合、金額)を持ったサンプリング単位の集団である幾つかの下位母集団に分けるプロセスをいう。(7)「サンプリング単位」-母集団を構成する個々の項目をいう(A2項参照)。(8)「許容逸脱率」-母集団における実際の逸脱率が一定の率を上回らないような適切な保証水準を得るために、監査人が設定した所定の内部統制の逸脱率をいう。(9)「許容虚偽表示額」-母集団内の実際の虚偽表示額が一定の金額を上回らないような適切な保証水準を得るために、監査人が設定した金額をいう(A3項参照)。(10)「例外的事象」-抽出したサンプルに対して実施した手続の結果、特定した母集団を明らかに代表していない虚偽表示又は内部統制の逸脱をいう。
1.監査サンプリングの立案、サンプル数及びテスト対象項目の抽出
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監査人は、監査サンプリングを立案する場合、監査手続の目的と、サンプルを抽出する母集団の特性を考慮しなければならない(A4項からA9項参照)。
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監査人は、サンプリングリスクを許容可能な低い水準に抑えるために、十分なサンプル数を決定しなければならない(A10項及びA11項参照)。
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監査人は、母集団内の全てのサンプリング単位に抽出の機会が与えられるような方法で、サンプルを抽出しなければならない(A12項及びA13項参照)。
2.監査手続の実施
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監査人は、抽出した各サンプルに対して、目的に照らして適切な監査手続を実施しなければならない。
9
監査人は、抽出したサンプルが監査手続の適用対象として適当でない場合、代わりのサンプルを抽出して手続を実施しなければならない(A14項参照)。
10
監査人は、抽出したサンプルに立案した監査手続又は適切な代替手続を実施できない場合、当該サンプルを、運用評価手続においては内部統制の逸脱として、詳細テストにおいては虚偽表示として扱わなければならない(A15項及びA16項参照)。
3.内部統制の逸脱と虚偽表示の内容と原因
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監査人は、識別した全ての内部統制の逸脱又は虚偽表示の内容と原因を調査して、それらが監査手続の目的と監査の他の領域に及ぼす影響を評価しなければならない(A17項参照)。
12
監査人は、サンプルについて発見した虚偽表示又は内部統制の逸脱が例外的事象であると考える極めて稀な状況においては、その判断に当たり相当に高い心証を得なければならない。監査人は、この心証を得るために、その虚偽表示又は内部統制の逸脱が残りの母集団に影響を及ぼさないという、十分かつ適切な監査証拠を入手するための追加的な監査手続を実施しなければならない。
4.虚偽表示額の推定
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監査人は、詳細テストにおいて、サンプルで発見した虚偽表示額から母集団全体の虚偽表示額を推定しなければならない(A18項からA20項参照)。
5.監査サンプリングの結果の評価
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監査人は、以下を評価しなければならない。(1)サンプルのテスト結果(A21項及びA22項参照)(2)監査サンプリングの利用により、母集団に関する結論について合理的な基礎を得たかどうか(A23項参照)。
(1)ノンサンプリングリスク(第4項(3)参照)
A1
ノンサンプリングリスクには、例えば、不適切な監査手続の適用、又は監査証拠の誤った解釈により、虚偽表示又は内部統制の逸脱を識別できないことが含まれる。
(2)サンプリング単位(第4項(7)参照)
A2
サンプリング単位は、金額単位のほか、例えば、預金入金票に記載されている小切手、銀行取引明細書の入金取引、顧客に対する請求書、貸付先などの金額単位以外の場合もある。
(3)許容虚偽表示額(第4項(9)参照)
A3
監査人は、監査サンプリングを立案する場合、個別には重要でない虚偽表示が集計すると財務諸表に重要な虚偽表示となるリスクと未発見の虚偽表示の可能性を考慮して、許容虚偽表示額を決定する。許容虚偽表示額は、監査サンプリングに、監査基準報告書320「監査の計画及び実施における重要性」で定義されている手続実施上の重要性を適用したものである(監基報320第8項参照)。許容虚偽表示額は、手続実施上の重要性と同額か、それより少額となる場合がある。
(1)監査サンプリングの立案(第5項参照)
A4
監査サンプリングにおいては、監査人は、母集団から抽出したサンプルの特性に関する監査証拠を入手して評価することにより、当該母集団に関する結論を形成する。監査サンプリングには、非統計的サンプリングと統計的サンプリングがある。
A5
監査人は、監査サンプリングの立案に当たって、特定の達成すべき目的と、その目的を達成するための監査手続の最適な組合せを考慮する。監査人は、入手すべき監査証拠の性質と、当該監査証拠に関連する可能性のある内部統制の逸脱若しくは虚偽表示の発生の状況又はその他の特徴について考慮して、想定される内部統制の逸脱又は虚偽表示の定義を明確にするとともに適切な母集団を設定する。監査基準報告書500で求められているとおり、監査サンプリングを実施する場合、監査人は、サンプルを抽出する母集団の網羅性に関する監査証拠を入手するための監査手続を実施する。
A6
第5項で要求している監査手続の目的の考慮には、監査手続の目的に関連する状況のみを網羅的に内部統制の逸脱の評価又は虚偽表示の推定の対象にするために、何が内部統制の逸脱又は虚偽表示になるかを明確に理解することが含まれる。例えば、売掛金の実在性を確かめるための確認手続においては、確認基準日前に行われた顧客の支払を会社が確認基準日直後に入金処理した場合、確認先から残高がゼロの回答を得たとしても、これを虚偽表示とみなさない。また、得意先勘定間の転記誤りがあったとしても、売掛金の残高合計に影響を与えない。したがって、当該転記誤りが不正リスクの評価又は貸倒引当金の妥当性等の他の領域に重要な影響を及ぼすことがあるとしても、売掛金の実在性を確かめる監査手続に係るサンプルのテスト結果の評価においては、虚偽表示と考えることは適切でない。
A7
監査人は、母集団の特性を考慮するに当たり、内部統制の運用評価手続において、内部統制の理解に基づいて、又は母集団から少数の項目を抽出して実施した検討結果に基づいて、内部統制からの逸脱率を予想し(以下、「予想逸脱率」という。)決定する。これは、監査サンプリングを立案し、サンプル数を決定するために行われる。例えば、監査人は、予想逸脱率が受け入れられないほど高い場合、通常、運用評価手続を実施しない。同様に、詳細テストにおいては、監査人は、母集団に含まれる虚偽表示額を予想し(以下、「予想虚偽表示額」という。)決定する。予想虚偽表示額が高い場合、詳細テストの実施時には、精査又はサンプル数の拡大が適切となることがある。
A8
監査人は、サンプルを抽出する母集団の特性を考慮するに当たり、階層化又は金額単位抽出法が適切であると判断することがある。階層化及び金額単位抽出法に関しては、付録1に記載されている。
A9
統計的サンプリング又は非統計的サンプリングのいずれの手法を用いるかは、監査人の判断により決定されるが、抽出されるサンプル数自体は、統計的サンプリング又は非統計的サンプリングの選択を決定付ける判断基準とはならない。
(2)サンプル数(第6項参照)
A10
監査人が許容できるサンプリングリスクは、必要とされるサンプル数に影響を与える。監査人が許容できるサンプリングリスクが低ければ低いほど、より多くのサンプル数が必要となる。
A11
サンプル数は、統計的手法を適用することによって、又は職業的専門家としての判断によって決定される。サンプル数の決定に影響を与える諸要因が、付録2と付録3に記載されている。これらの要因は、監査サンプリングを適用する状況が同様であれば、統計的サンプリング又は非統計的サンプリングのいずれであっても、サンプル数に同様の影響を与える。
(3)テスト対象項目の抽出(第7項参照)
A12
統計的サンプリングにおいては、各サンプリング単位が確率論に基づいて抽出の機会が与えられるような方法でサンプルが抽出される。非統計的サンプリングにおいては、サンプルの抽出に判断を用いる。サンプリングの目的は、サンプルが抽出される母集団について、監査人が結論を導き出すための合理的な基礎を得ることにあるので、監査人は、母集団の特性を表すサンプルを選ぶことにより、偏向が回避された代表的なサンプルを抽出することが重要である。
A13
主なサンプル抽出法には、無作為抽出法、系統的抽出法及び任意抽出法があり、これらの方法については、付録4に記載されている。
3.監査手続の実施(第8項から第10項参照)
A14
代わりのサンプルを抽出して手続を実施することが必要である場合の例としては、支払承認の証拠を入手するために実施するテストにおいて、書き損じ等のため無効にされた小切手が抽出される場合がある。監査人は、当該抽出した小切手が適切に無効処理されており、内部統制の逸脱にならないと判断した場合、適切に再抽出した代わりのサンプルを検討する。
A15
監査人が、立案した監査手続を抽出したサンプルに適用できない場合の例としては、当該サンプルに関連する証拠書類が紛失している場合がある。
A16
適切な代替手続の例としては、積極的確認の依頼に対する回答がない場合に、その後の入金状況の検討時に相手先と対象取引等についても確かめる場合がある。
4.内部統制の逸脱と虚偽表示の内容と原因(第11項参照)
A17
監査人は、識別した内部統制の逸脱と虚偽表示を分析するに当たり、その多くに、例えば、取引の種類、地域、製品種目又は期間に共通の特徴があることに気付く場合がある。そのような状況では、監査人は、母集団の中から共通の特徴をもつ項目を全て識別して、これらについて監査手続を拡大して実施することを決定する場合がある。さらに、そのような内部統制の逸脱又は虚偽表示は意図的であり、不正の可能性を示唆することもある。
5.虚偽表示額の推定(第13項参照)
A18
監査人は、虚偽表示の大きさに関する全体的な見解を得るために、母集団における虚偽表示額を推定することが必要であるが、この推定は、計上されるべき金額を確定するには十分でないことがある。
A19
虚偽表示が例外的事象であることが確かめられた場合、当該虚偽表示は、母集団における虚偽表示額の推定から除外されることがある。しかし、母集団を代表しない例外的な虚偽表示の影響については、それが訂正されなかった場合、推定された虚偽表示額とは別に考慮する必要がある。
A20
運用評価手続においては、サンプルの逸脱率が母集団全体に対する推定逸脱率とみなすことができるので、母集団全体に対する逸脱率について明確に推定する必要はない。監査基準報告書330「評価したリスクに対応する監査人の手続」は、監査人が依拠しようとする内部統制の逸脱を発見した場合の指針を提供している(監基報330第16項参照)。
6.監査サンプリングの結果の評価(第14項参照)
A21
運用評価手続において、サンプルにおける予想を超えた高い逸脱率は、当初の評価を裏付ける追加の監査証拠が入手されない限り、評価した重要な虚偽表示リスクの程度をより高くすることにつながる可能性がある。詳細テストにおいて、サンプルにおける予想を超えた多額の虚偽表示は、重要な虚偽表示がないという追加の監査証拠を入手できない場合には、取引種類又は勘定残高に重要な虚偽表示があると監査人が判断する原因になることがある。
A22
詳細テストの場合、推定による虚偽表示に例外的な虚偽表示(該当ある場合)を加えた額が、母集団における虚偽表示に係る監査人の最善の見積りとなる。推定による虚偽表示に例外的な虚偽表示(該当ある場合)を加えた額が、許容虚偽表示額を上回っている場合には、テストされたサンプルは、母集団に関する結論に対して合理的な基礎を提供しない。推定による虚偽表示に例外的な虚偽表示を加えた額が許容虚偽表示額に近づくほど、母集団における実際の虚偽表示が許容虚偽表示額を上回る可能性は高くなる。また、推定による虚偽表示が、サンプル数の決定に用いられた予想虚偽表示額を上回った場合、監査人は、母集団における実際の虚偽表示が許容虚偽表示額を上回っているという受け入れられないサンプリングリスクが存在すると結論付けることがある。監査人は母集団の中の実際の虚偽表示が許容虚偽表示額を上回っているかどうかを評価する際に、他の監査手続の結果を考慮し、追加的な監査証拠の入手が必要な場合がある。
A23
監査人は、監査サンプリングによって、母集団に関する結論に対して合理的な基礎を得られなかったと判断した場合、例えば以下のように対応する。・経営者に対して、識別した虚偽表示及び他の虚偽表示が存在する可能性について調査を依頼し、全ての必要な修正を要請する。・合理的な基礎を得るために必要なリスク対応手続の種類、時期及び範囲を見直す。例えば、運用評価手続の場合、監査人は、サンプル数を増やしたり、代替的な内部統制をテストしたり、又は関連する実証手続を修正する。