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監基報540
会計上の見積りの監査
1.本報告書の範囲
1
2.会計上の見積りの性質
23
3.本報告書に関連する基本的な概念
456789
4.本報告書の目的
10
5.定義
11
1.リスク評価手続とこれに関連する活動
121314
2.重要な虚偽表示リスクの識別と評価
1516
3.評価した重要な虚偽表示リスクへの対応
171819
(1)監査報告書日までに発生した事象からの監査証拠の入手
20
(2)経営者がどのように会計上の見積りを行ったかの検討
2122
重要な仮定
23
データ
24
経営者による見積額の選択及び見積りの不確実性に関する注記事項
2526
(3)監査人の見積額又は許容範囲の設定
2728
(4)監査証拠に関するその他の検討事項
29
4.会計上の見積りに関する注記事項
30
5.経営者の偏向が存在する兆候
31
6.実施した監査手続に基づく総括的評価
3233
会計上の見積りが合理的であるか虚偽表示であるかの判断
3435
7.経営者確認書
36
8.監査役等、経営者又は他の関係する者とのコミュニケーション
37
9.監査調書
38
(1)会計上の見積りの例
A1A2
(3)仮定及びデータ
A3A4A5A6A7
(1)固有リスク要因(第4項参照)
A8A9A10
(3)職業的懐疑心(第8項参照)
A11
(4)「合理的」という概念(第9項及び第35項参照)
A12A13
(1)会計上の見積り(第11項(1)参照)
A14
(2)監査人の見積額又は監査人の許容範囲(第11項(2)参照)
A15
(3)見積りの不確実性(第11項(3)参照)
A16
(4)経営者の偏向(第11項(4)参照)
A17
(5)会計上の見積りの確定額(第11項(6)参照)
A18
(1)企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業の内部統制システムの理解(第12項参照)
A19
適用の柔軟性
A20A21A22
企業の取引及びその他の事象又は状況(第12項(1)参照)
A23A24A25
規制要因(第12項(3)参照)
A26
監査人が企業の財務諸表に含まれると予想する会計上の見積り及び関連する注記事項の内容(第12項(4)参照)
A27
監督及びガバナンスの性質及び範囲(第12項(5)参照)
A28A29A30A31
企業のリスク評価プロセス(第12項(7)参照)
A32A33A34A35
経営者による見積手法、仮定及びデータの識別(第12項(8)②ア参照)
A36A37
見積手法(第12項(8)②ア(ア)参照)
A38
モデル
A39
仮定(第12項(8)②ア(イ)参照)
A40A41A42
活発でない市場又は流動性が乏しい市場
A43
データ(第12項(8)②ア(ウ)参照)
A44A45A46A47A48A49
会計上の見積りに関する経営者のプロセスにおいて識別された内部統制(第12項(9)参照)
A50A51A52A53A54A55A56A57A58A59A60
(3)専門的技能又は知識(第14項参照)
A61A62A63
5.重要な虚偽表示リスクの識別と評価(第4項及び第15項参照)
A64A65A66A67A68A69A70A71
(1)見積りの不確実性(第15項(1)参照)
A72A73A74A75
複雑性が見積手法の選択及び適用に影響する程度
A76
複雑性がデータの選択及び適用に影響する程度
A77
主観性が、見積手法、仮定又はデータの選択及び適用に影響する程度
A78
(3)その他の固有リスク要因(第15項(2)参照)
A79
(4)特別な検討を必要とするリスク(第16項参照)
A80
(1)監査人のリスク対応手続(第17項参照)
A81
裏付けとなる又は矛盾する関連する監査証拠の入手
A82A83
適用の柔軟性
A84A85A86A87A88A89
(3)特別な検討を必要とするリスク(第19項参照)
A90A91A92A93
(5)経営者がどのように会計上の見積りを行ったかの検討(第21項参照)
A94
見積手法、重要な仮定又はデータの過年度からの変更(第22項(1)、第23項(1)及び第24項(1)参照)
A95A96
見積手法の選択(第22項(1)参照)
A97
複雑なモデル(第22項(4)参照)
A98A99A100
見積手法の適用において使用される重要な仮定及びデータの完全性の維持(第22項(5)参照)
A101
重要な仮定(第23項参照)
A102A103A104A105
データ(第24項(1)参照)
A106
データの適合性と信頼性(第24項(3)参照)
A107
複雑な法令上又は契約上の条件(第24項(4)参照)
A108
経営者による見積りの不確実性の理解及び対処(第25項(1)参照)
A109
経営者による見積額の選択及び見積りの不確実性に関する注記事項(第25項(2)参照)
A110A111A112A113A114
経営者が見積りの不確実性に関して適切に理解又は対処していない場合(第26項参照)
A115A116A117
(6)監査人の見積額又は監査人の許容範囲の設定(第27項及び第28項参照)
A118A119A120A121A122A123A124A125
(7)監査証拠に関するその他の検討事項(第29項参照)
A126
外部情報源
A127A128A129
経営者の利用する専門家
A130A131
受託会社
A132
7.経営者の偏向が存在する兆候(第31項参照)
A133A134A135A136
8.実施した監査手続に基づく総括的評価(第32項参照)
A137A138
会計上の見積りが合理的であるか虚偽表示であるかの判断(第8項及び第34項参照)
A139A140A141A142A143A144
9.経営者確認書(第36項参照)
A145A146A147A148
11.監査調書(第38項参照)
A149A150A151A152
監基報540

監査基準報告書540「会計上の見積りの監査」

出典:日本公認会計士協会『監査基準報告書540「会計上の見積りの監査」』最終改正 2024年9月26日公式ページ:JICPA 監査実務指針等の一覧 ↗本文(要求事項・適用指針)を収録。付録(文例・表)と「適用」の節は載せていません。本文は公式の文書から取り出し、一字一句照合しています(2026-10-19 取得)。出題された5か所に線を引いています。

1.本報告書の範囲

1
本報告書は、財務諸表監査における会計上の見積り及び関連する注記事項に関する実務上の指針を提供するものである。特に、本報告書は、監査基準報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」、同330「評価したリスクに対応する監査人の手続」、同450「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」、同500「監査証拠」等を会計上の見積り及び関連する注記事項に関してどのように適用すべきかについての指針を記載している。また、本報告書は、会計上の見積り及び関連する注記事項に係る虚偽表示の評価並びに経営者の偏向が存在する兆候に関する指針についても記載している。

2.会計上の見積りの性質

2
会計上の見積りには様々なものがあり、金額を直接観察できない場合に経営者により行われるものである。見積金額の測定は、経営者の知識又はデータに係る固有の限界の影響を受け、見積りの不確実性を伴う。このような限界は、金額の測定結果に主観性と幅を生じさせる。会計上の見積りのプロセスにおいて、仮定及びデータを用いた見積手法が選択及び適用され、経営者による判断が必要となり、測定が複雑になる場合がある。金額の測定に係る複雑性、主観性又はその他の固有リスク要因の程度は、虚偽表示が生じる可能性に影響を与える(A1項からA6項、付録1参照)。
3
本報告書は全ての会計上の見積りに適用されるが、見積りの不確実性の影響を受ける程度は、個々の会計上の見積りによって大きく異なる。本報告書により求められるリスク評価とリスク対応手続の種類、時期及び範囲は、見積りの不確実性及び関連する重要な虚偽表示リスクの評価により異なる。会計上の見積りの中には、その性質上、見積りの不確実性が非常に低く、見積りを行うに当たっての複雑性及び主観性も非常に低いものがある。そのような会計上の見積りについては、本報告書が求めるリスク評価手続及びリスク対応手続が広範になることはない。見積りの不確実性、複雑性又は主観性が非常に高い場合には、これらの手続も極めて広範なものとなる。本報告書には、見積りの不確実性、複雑性又は主観性の程度に応じて要求事項がどのように適用されるかに関する指針が含まれる(A7項参照)。

3.本報告書に関連する基本的な概念

4
監査基準報告書315第30項は、監査人に対し、識別したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクについて、固有リスクと統制リスクとに分けて評価することを求めている。監査基準報告書540において、特定の会計上の見積りの性質によっては、アサーションが重要な虚偽表示となる可能性は、見積りの不確実性、複雑性、主観性又はその他の固有リスク要因及びこれらの相互関係性の影響を受けることがある。また、監査基準報告書200「財務諸表監査における総括的な目的」A37項で説明されているとおり、一部のアサーション及び関連する取引種類、勘定残高及び注記事項の固有リスクは、他に比べて相対的に高いことがある。固有リスクは、固有リスク要因が虚偽表示の発生可能性又は影響の度合いに対して与える程度に基づき評価される。評価した固有リスクの程度は高いものから低いものまで様々であり、これを固有リスクの分布(境界線がなく無段階に連続的に変化する固有リスクの分布)と呼んでいる(A8項及びA9項、A65項及びA66項、付録1参照)。
5
本報告書は、監査人による会計上の見積りに関連する内部統制の評価が重要であるため、監査基準報告書315及び同330の関連する要求事項を参照している。本報告書は、以下を含め、内部統制に関する指針を提供している。・監査基準報告書315において要求されている内部統制の識別、そのデザイン及び業務への適用の評価・内部統制の運用評価手続の実施
6
監査基準報告書315は、監査人に対し、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを評価する際に、統制リスクと固有リスクとに分けて評価することを求めている。統制リスクを評価する場合、監査人は有効に運用されている内部統制への依拠を前提としてリスク対応手続を計画するかどうかについて考慮することになる。監査人が内部統制の運用評価手続を計画しない、又は運用状況の有効性に依拠しようとしない場合、重要な虚偽表示リスクと固有リスクは同じ評価となる(A10項参照)。
7
本報告書は、固有リスク要因の影響及び監査人による統制リスクの評価を考慮して、監査人のリスク対応手続(該当する場合、内部統制の運用評価手続を含む。)が、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの評価の根拠に対応している必要があることを重視している。
8
監査人の固有リスク要因の検討結果が、会計上の見積りに関する職業的懐疑心の保持に影響する。会計上の見積りの不確実性の程度がより高い場合、あるいは会計上の見積りが複雑性、主観性又はその他の固有リスク要因によって大きな影響を受ける場合には、職業的懐疑心の重要性が高まる。同様に、経営者の偏向又はその他の不正リスク要因が固有リスクに影響を及ぼす場合における虚偽表示が生じる可能性が高い場合においても、職業的懐疑心を保持することは重要である(A11項参照)。
9
監査人は、実施した監査手続と入手した監査証拠に基づき、適用される財務報告の枠組みに照らして会計上の見積り及び関連する注記事項が合理的であるか虚偽表示であるかを評価することが求められている(監査基準報告書700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」第13項(3)参照)。本報告書において、適用される財務報告の枠組みに照らして合理的であるとは、以下の事項を含め、適用される財務報告の枠組みにおいて要求される事項が適切に適用されていることを意味する(A12項及びA13項、A139項からA144項参照)。・会計上の見積りの実施(会計上の見積りの性質及び企業に関連する事実と状況に照らして、見積手法、仮定及びデータの選択を含む。)・経営者の見積額の選択・会計上の見積りに関する注記事項(どのように会計上の見積りが行われたのかに関する注記事項並びに見積りの不確実性の性質、程度及び原因の説明に関する注記事項を含む。)

4.本報告書の目的

10
本報告書における監査人の目的は、財務諸表における会計上の見積り及び関連する注記事項が適用される財務報告の枠組みに照らして合理的であるかどうかについて十分かつ適切な監査証拠を入手することである。

5.定義

11
本報告書における用語の定義は、以下のとおりとする。(1)「会計上の見積り」―適用される財務報告の枠組みに従って、金額の測定に見積りの不確実性を伴うものをいう(A14項参照)。(2)「監査人の見積額又は監査人の許容範囲」―経営者の見積額を評価するために、監査人が設定した金額又は金額の幅をいう(A15項参照)。(3)「見積りの不確実性」―正確に測定することができないという性質に影響される程度をいう(A16項、付録1参照)。(4)「経営者の偏向」―情報の作成における経営者の中立性の欠如をいう(A17項参照)。(5)「経営者の見積額」―財務諸表で会計上の見積りとして認識又は注記するために経営者が選択した金額をいう。(6)「会計上の見積りの確定額」―会計上の見積りに係る取引、事象又は状況が最終的に確定することによって生ずる実績金額をいう(A18項参照)。

1.リスク評価手続とこれに関連する活動

12
監査基準報告書315第18項から第26項により求められているとおり、企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業の内部統制システムを理解する際、監査人は、企業の会計上の見積りの性質に関連する以下の事項を理解しなければならない。この理解に当たって、監査人は、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスク及びアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを識別し評価するための適切な基礎を提供する監査証拠が得られるように、必要な範囲において手続を実施しなければならない(A19項からA22項参照)。企業及び企業環境並びに適用される財務報告の枠組みの理解(1)財務諸表における会計上の見積りの認識若しくは注記が必要となる、又はこれらに係る変更が生じる可能性のある、企業の取引及びその他の事象又は状況(A23項参照)(2)適用される財務報告の枠組みにおける、会計上の見積りに関連して要求される事項(認識要件、測定基礎並びに表示及び注記事項に関連して要求される事項を含む。)。また、固有リスク要因が、アサーションにおいて虚偽表示が生じる可能性にどのように影響を及ぼすかを含め、企業及び企業環境の状況に照らしてこれらの要求される事項がどのように適用されているか(A24項及びA25項参照)。(3)企業の会計上の見積りに関連する規制要因(金融機関等の場合には、健全性に関する監督機関が定めた規制の枠組みを含む(A26項参照)。)(4)上記(1)から(3)の事項に関する監査人の理解に基づき、監査人が企業の財務諸表に含まれると予想する会計上の見積りの性質及び関連する注記事項の内容(A27項参照)企業の内部統制システムの理解(5)会計上の見積りに関連する経営者の財務報告プロセスに対する、企業の監督及びガバナンスの性質及び範囲(A28項からA30項参照)(6)経営者が、専門家の利用を含め、会計上の見積りに関連する専門的技能又は知識の必要性をどのように識別し適用しているか(A31項参照)。(7)企業のリスク評価プロセスにおいて、会計上の見積りに関連するリスクがどのように識別され対処されているか(A32項及びA33項参照)。(8)以下の各事項を含む、会計上の見積りに関連する企業の情報システム①重要な取引種類、勘定残高又は注記事項となる会計上の見積り及び関連する注記事項に関する情報の企業の情報システムにおける流れ(A34項及びA35項参照)②そのような会計上の見積り及び関連する注記事項に関する以下の事項ア.経営者が適用される財務報告の枠組みに照らして、適切な見積手法、仮定又はデータ及びこれらに関する変更の必要性をどのように識別したか。これには以下を含む(A36項及びA37項参照)。(ア)モデルの使用を含め、使用する見積手法をどのように選択又はデザインしたか、及びそれらをどのように適用したか(A38項及びA39項参照)。(イ)代替的な仮定の検討を含め、使用する仮定をどのように選択したか、及び重要な仮定をどのように識別したか(A40項からA43項参照)。(ウ)使用するデータをどのように選択しているか(A44項参照)。イ.経営者が見積りの不確実性の程度をどのように理解したか。これには生じ得る測定結果の範囲の検討を含む(A45項参照)。ウ.経営者が見積りの不確実性にどのように対処しているか。これには財務諸表に計上される見積額と関連する注記事項をどのように選択したかを含む(A46項からA49項参照)。(9) (8)②に記載されている経営者の会計上の見積りを行うプロセスのうち、統制活動において識別された内部統制(A50項からA54項参照。監基報315第25項(1)①から④参照)(10)経営者は過年度の会計上の見積りの確定額をどのように検討し、検討結果にどのように対応しているか。
13
監査人は、当年度における重要な虚偽表示リスクの識別と評価に役立てるために、過年度の会計上の見積りの確定額又は該当する場合には再見積額について検討しなければならない。監査人は、検討の内容と範囲を決定する際、会計上の見積りの性質を考慮しなければならない。当該監査人の検討は、見積りの時点において利用可能であった情報に基づき適切に行われた、過年度における会計上の見積りの判断を問題とするものではない(A55項からA60項参照)。
14
会計上の見積りに関して、監査人は、リスク評価手続の実施、重要な虚偽表示リスクの識別及び評価、当該リスクに対応する監査手続の立案及び実施又は入手した監査証拠の評価に当たって、専門的な技能又は知識が監査チームに必要かどうかを決定しなければならない(A61項からA63項参照)。

2.重要な虚偽表示リスクの識別と評価

15
会計上の見積り及び関連する注記事項については、監査人は監査基準報告書315第30項及び第33項に従ってアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを識別し評価する(固有リスクと統制リスクを分けて評価することを含む。)際に、以下を考慮しなければならない(A64項からA71項参照)。(1)会計上の見積りが見積りの不確実性の影響を受ける程度(A72項からA75項参照)(2)以下の事項が複雑性、主観性又はその他の固有リスク要因の影響を受ける程度(A76項からA79項参照)①会計上の見積りを行う際に使用する見積手法、仮定及びデータの選択と適用②財務諸表に計上される経営者の見積額と関連する注記事項の選択
16
監査人は、第15項に従って識別し評価した重要な虚偽表示リスクが、特別な検討を必要とするリスクであるかどうかを判断しなければならない(監基報315第31項参照)。特別な検討を必要とするリスクであると判断した場合、監査人は、当該リスクに対応する内部統制を識別し(監基報315第25項(1)①参照)、また当該内部統制が効果的にデザインされているかどうかを評価し、それらが業務に適用されているかどうかを判断しなければならない(A80項参照。監基報315第25項(4)参照)。

3.評価した重要な虚偽表示リスクへの対応

17
監査基準報告書330で求められているとおり、監査人は、評価したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの評価の根拠を考慮し、当該リスクに対応するリスク対応手続を立案し実施しなければならない(監基報330第5項から第14項、第17項及び第20項参照)。このリスク対応手続には、以下のアプローチのうち、少なくとも一つを含めなければならない。(1)監査報告書日までに発生した事象からの監査証拠の入手(第20項参照)(2)経営者がどのように会計上の見積りを行ったかの検討(第21項から第26項参照)(3)監査人の見積額又は許容範囲の設定(第27項及び第28項参照)監査人は、リスク対応手続の立案に当たって、評価した重要な虚偽表示リスクが高いほど、より確かな心証が得られる監査証拠の入手が必要となることを考慮しなければならない(監基報330第6項(2)参照)。監査人はまた、経営者の見積りを裏付ける監査証拠の入手に偏ることなく、矛盾する監査証拠を排除しないようにリスク対応手続を立案し実施しなければならない(A81項からA84項参照)。
18
監査基準報告書330で求められているとおり、監査人は、以下のいずれかの場合には、内部統制の有効性に関して、十分かつ適切な監査証拠を入手する運用評価手続を立案し実施しなければならない(監基報330第7項参照)。(1)アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを評価した際に、内部統制が有効に運用されていると想定する場合(2)実証手続のみでは、アサーション・レベルで十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合このような場合、監査人は、会計上の見積りに関して、評価した重要な虚偽表示リスクの評価の根拠に対応する内部統制の運用評価手続を立案し実施しなければならない。監査人は、運用評価手続の立案と実施に当たって、有効に運用されている内部統制への依拠の程度が高いほど、より確かな心証が得られる監査証拠を入手しなければならない(A85項からA89項参照。監基報330第8項参照)。
19
会計上の見積りに関する特別な検討を必要とするリスクについて、監査人は、関連する内部統制に依拠しようとする場合には、当年度の監査におけるリスク対応手続に内部統制の運用評価手続を含めなければならない。監査人は、特別な検討を必要とするリスクに対して実証手続のみを実施する場合、詳細テストを含めなければならない(A90項参照。監基報330第14項及び第20項参照)。

(1)監査報告書日までに発生した事象からの監査証拠の入手

20
リスク対応手続として、監査報告書日までに発生した事象から監査証拠を入手している場合、監査人は、入手した監査証拠が会計上の見積りに関連する重要な虚偽表示リスクに対応する上で十分かつ適切であるかどうかを評価しなければならない。その際、測定日から当該事象までの期間における状況やその他の関連する条件の変化が、適用される財務報告の枠組みに照らして監査証拠の適合性に及ぼす影響を考慮しなければならない(A91項からA93項参照)。

(2)経営者がどのように会計上の見積りを行ったかの検討

21
監査人は、経営者がどのように会計上の見積りを行ったかを検討する場合、以下の事項に関連する重要な虚偽表示リスクについて十分かつ適切な監査証拠を入手するために、リスク対応手続として、第22項から第25項に従って立案し実施する手続を含めなければならない(A94項参照)。(1)経営者が会計上の見積りを行う際に使用した見積手法、重要な仮定及びデータの選択及び適用(2)経営者による見積額の選択方法及び見積りの不確実性に関する注記事項《見積手法》
22
見積手法に関するリスク対応手続は、以下の事項に対応するものでなければならない。(1)選択された見積手法が、適用される財務報告の枠組みに照らして適切であるかどうか、また、該当する場合には、過年度に使用された見積手法からの変更が適切であるかどうか(A95項及びA97項参照)。(2)見積手法の選択に関する判断が、経営者の偏向が存在する兆候を示していないかどうか(A96項参照)。(3)計算が見積手法に従って実施されており、正確であるかどうか。(4)見積手法の適用に際して複雑なモデルが使用されている状況にある場合、判断が整合的かどうか、また、以下が適切であるかどうか(A98項からA100項参照)。①モデルの設計が、適用される財務報告の枠組みにおける測定目的を満たし、その状況において適切であるか。また、過年度のモデルからの変更がある場合には、当該変更がその状況において適切であるか。②該当する場合、モデルのアウトプットに対する調整が、適用される財務報告の枠組みにおける測定目的と整合し、その状況において適切であるか。(5)見積手法の適用において、重要な仮定及びデータの完全性が維持されているかどうか(A101項参照)。

重要な仮定

23
重要な仮定に関するリスク対応手続は、以下の事項に対応するものでなければならない。(1)重要な仮定が、適用される財務報告の枠組みに照らして適切であるかどうか。また、過年度からの変更がある場合には、当該変更が適切であるかどうか(A95項、A102項及びA103項参照)。(2)重要な仮定の選択に関する判断が経営者の偏向が存在する兆候を示していないかどうか(A96項参照)。(3)監査人が監査の過程で得た知識に基づき、重要な仮定が相互に整合しており、他の会計上の見積り又は企業の事業活動における他の領域で使用した仮定と整合しているかどうか(A104項参照)。(4)該当する場合、経営者が特定の行動方針を実行する意思とその能力を有しているかどうか(A105項参照)。

データ

24
データに関するリスク対応手続は、以下の事項に対応するものでなければならない。(1)データが、適用される財務報告の枠組みに照らして適切であるかどうか。また、過年度からの変更がある場合には、当該変更が適切であるかどうか(A95項及びA106項参照)。(2)データの選択に関する判断が、経営者の偏向が存在する兆候を示していないかどうか(A96項参照)。(3)データが状況に応じた適合性と信頼性を有しているかどうか(A107項参照)。(4)契約条件に関するデータを含め、経営者がデータを適切に理解又は解釈しているかどうか(A108項参照)。

経営者による見積額の選択及び見積りの不確実性に関する注記事項

25
経営者による見積額の選択及び見積りの不確実性に関する注記事項についてのリスク対応手続は、適用される財務報告の枠組みに照らして、経営者が以下を適切に行っているかどうかに対応するものでなければならない。(1)見積りの不確実性の理解(A109項参照)(2)見積りの不確実性への対処。これは、適切な見積額の選択と見積りの不確実性に関する注記により行われる(A110項からA114項参照)。
26
監査人は、入手した監査証拠に基づき、経営者が見積りの不確実性に関して適切に理解又は対処していないと判断した場合、以下を実施しなければならない(A115項からA117項参照)。(1)経営者に対して、見積りの不確実性に関する理解又は対処を行うため、見積額の再検討又は見積りの不確実性に関する追加的な注記事項の検討を要請し、それに対する経営者の対応を第25項に従って評価する。(2)経営者が見積りの不確実性に十分に対処していないと判断した場合には、実施可能な範囲で、第27項及び第28項に従って監査人の見積額又は許容範囲を設定する。(3)内部統制に不備があるかどうかを評価し、不備がある場合には監査基準報告書265「内部統制の不備に関するコミュニケーション」に従ってコミュニケーションを行う。

(3)監査人の見積額又は許容範囲の設定

27
経営者による見積額及び見積りの不確実性に関する注記事項を評価するために監査人の見積額又は許容範囲を設定する場合(第26項(2)により見積額又は許容範囲の設定が求められる場合を含む。)、監査人は、リスク対応手続に、使用した見積手法、仮定及びデータが適用される財務報告の枠組みに照らして適切であるかどうかを評価する手続を含めなければならない。監査人は、使用する見積手法、仮定及びデータが経営者によるものであるか監査人自身によるものであるかにかかわらず、第22項から第24項に従ってリスク対応手続を立案し実施しなければならない(A118項からA123項参照)。
28
監査人は、監査人の許容範囲を設定する場合、以下を実施しなければならない。(1)十分かつ適切な監査証拠により裏付けられ、適用される財務報告の枠組みにおける測定目的及び他の要求事項に照らして合理的であると評価した金額のみが含まれるように許容範囲を決定すること(A124項及びA125項参照)。(2)見積りの不確実性の注記事項に関連する重要な虚偽表示リスクに対して、十分かつ適切な監査証拠を入手するためのリスク対応手続を立案し実施すること。

(4)監査証拠に関するその他の検討事項

29
監査人は、会計上の見積りに関する重要な虚偽表示リスクに対する監査証拠を入手する際には、監査証拠として使用する情報の情報源にかかわらず、監査基準報告書500を遵守しなければならない。経営者の利用する専門家の業務を監査人が利用する場合、当該専門家の業務について、監査証拠としての適切性を関連するアサーションに照らして評価する必要がある(監基報500第7項(3)参照)。本報告書の第20項から第28項は、この評価に役立つことがある。経営者の利用する専門家の業務の適切性を評価する際、リスク対応手続の種類、時期及び範囲は、監査人による当該専門家の適性、能力及び客観性に関する評価、専門家が実施する業務の内容についての監査人の理解、並びに専門家の専門分野に関する監査人の知識に影響を受ける(A126項からA132項参照)。

4.会計上の見積りに関する注記事項

30
監査人は、会計上の見積りに関する注記事項(第25項(2)及び第28項(2)に記載されている見積りの不確実性に関する注記事項を除く。)について、アサーション・レベルで評価した重要な虚偽表示リスクに関する十分かつ適切な監査証拠を入手するためのリスク対応手続を立案し実施しなければならない。

5.経営者の偏向が存在する兆候

31
監査人は、財務諸表に含まれる会計上の見積りに関する経営者の判断及び決定について、それらが個々には合理的であっても、経営者の偏向が存在する兆候を示していないかどうかを評価しなければならない。監査人は、経営者の偏向が存在する兆候を識別した場合、監査への影響を評価しなければならない。意図的に誤解を与えることを目的としているのであれば、そのような経営者の偏向は不正に該当する(A133項からA136項参照)。

6.実施した監査手続に基づく総括的評価

32
監査人は、会計上の見積りに関して監査基準報告書330第24項及び第25項を適用する際、実施した監査手続及び入手した監査証拠に基づき、以下を評価しなければならない(A137項及びA138項参照)。(1)経営者の偏向が存在する兆候が識別された場合を含め、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに関する評価が依然として適切であるかどうか。(2)財務諸表における会計上の見積りの認識、測定、表示及び注記事項に関する経営者の決定が、適用される財務報告の枠組みに準拠しているかどうか。(3)十分かつ適切な監査証拠を入手したかどうか。
33
監査人は、前項(3)の評価を行う際、裏付けとなるか矛盾するかにかかわらず、入手した全ての関連する監査証拠を考慮しなければならない(監基報500第10項)。十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合、監査人は、監査基準報告書705「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見」に従って、監査報告書における意見への影響を含め、監査への影響を評価しなければならない。

会計上の見積りが合理的であるか虚偽表示であるかの判断

34
監査人は、会計上の見積り及び関連する注記事項が、適用される財務報告の枠組みに照らして合理的であるか虚偽表示であるかを判断しなければならない。監査基準報告書450「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」A6項は、未修正の虚偽表示が財務諸表に及ぼす影響を監査人が評価するために、虚偽表示を確定した虚偽表示、判断による虚偽表示及び推定による虚偽表示に区分する際の指針を提供している(A12項、A13項及びA139項からA144項参照)。
35
監査人は、会計上の見積りに関連して、以下のいずれかについて評価しなければならない。(1)適正表示の枠組みの場合、当該枠組みにおいて具体的に要求されていないものであっても、財務諸表全体の適正表示を達成するために必要な注記事項が記載されているかどうか(監基報700第14項参照)。(2)準拠性の財務報告の枠組みの場合、財務諸表の利用者の誤解を招かないように必要な注記事項が記載されているかどうか(監基報700第19項参照)。

7.経営者確認書

36
監査人は、経営者に対し、会計上の見積りを行う際に使用された見積手法、重要な仮定及びデータ並びに関連する注記事項が、適用される財務報告の枠組みに準拠した認識、測定及び注記を達成する上で適切であるかどうかについて、経営者確認書に記載することを要請しなければならない(監基報580「経営者確認書」参照)。監査人は、使用された見積手法、仮定及びデータに関連するものを含め、特定の会計上の見積りに関する記載を要請する必要性についても検討しなければならない(A145項参照)。

8.監査役等、経営者又は他の関係する者とのコミュニケーション

37
監査基準報告書260「監査役等とのコミュニケーション」第16項(1)及び監査基準報告書265「内部統制の不備に関するコミュニケーション」第8項では、監査人が企業の会計実務の質的側面のうち重要なもの及び内部統制の重要な不備を含む特定の事項について、監査役若しくは監査役会、監査等委員会若しくは監査委員会(以下「監査役等」という。)又は経営者とのコミュニケーションを行うことを要求している。その際、監査人は、会計上の見積りに関してコミュニケーションを行うべき事項があれば検討し、重要な虚偽表示リスクの原因が見積りの不確実性に関するものかどうか、又は会計上の見積り及び関連する注記を行う上での複雑性、主観性若しくはその他の固有リスク要因の影響に関するものかどうかについて考慮しなければならない。さらに、監査人は、特定の事項に関し、規制当局又は金融機関等の健全性に関する監督機関等の他の関係する者とのコミュニケーションを行うことが法律又は規制によって求められる場合がある(A146項からA148項参照)。

9.監査調書

38
監査人は、以下の事項を監査調書に記載しなければならない(監基報230「監査調書」第7項から第10項、A6項、A7項及びA10項参照)(A149項からA152項参照)。(1)会計上の見積りに関連する企業の内部統制を含む、企業及び企業環境に関し監査人が理解した主な内容(2)固有リスク又は統制リスクのいずれかに関連する重要な虚偽表示リスクの評価の根拠を考慮した、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクと実施したリスク対応手続との関連性(監基報330第27項(2)参照)(3)経営者が見積りの不確実性を適切に理解し対処するための措置を講じていない場合の監査人の対応(4)(該当がある場合)会計上の見積りに関する経営者の偏向が存在する兆候及び第31項により求められる、監査への影響に関する監査人の評価(5)会計上の見積り及び関連する注記事項が、適用される財務報告の枠組みに照らして合理的であるか虚偽表示であるかの監査人の決定における重要な判断《Ⅲ適用指針》

(1)会計上の見積りの例

A1
取引種類、勘定残高及び注記事項に関連する会計上の見積りには、例えば以下がある。・滞留又は処分見込等の棚卸資産・固定資産の減価償却・インフラ資産の評価・金融商品の評価・係争中の訴訟の結果・貸倒引当金(予想信用損失引当金)・保険契約負債の評価・製品保証引当金・従業員の退職給付債務・株式に基づく報酬・のれん及び無形資産を含む、企業結合により取得した資産又は負債の公正価値・固定資産の減損・独立した事業当事者間で行われる金銭的対価を伴わない資産又は負債の交換取引・長期契約に関する収益認識《(2)見積手法》
A2
見積手法とは、要求される測定基礎に従って経営者が会計上の見積りを行うために使用する測定技法である。例えば、株式に基づく報酬に関連する会計上の見積りを行う場合、一般的には、ブラック-ショールズのオプション評価モデルを使用してコール・オプションの理論価格を決定する手法がある。見積手法はモデルと呼ばれることがあり、計算ツール又は計算プロセスを用いて適用される。また、見積手法には仮定及びデータの適用に伴い、仮定及びデータ間の関係性が考慮される。

(3)仮定及びデータ

A3
仮定には、金利や割引率の選択又は将来の状況や事象に関する見通し等について、入手可能な情報に基づく判断が伴う。経営者は、幅広い適切な代替案から仮定を選択できる。経営者の利用する専門家が作成又は識別する仮定は、会計上の見積りを作成する際に経営者によって使用される場合、経営者の仮定となる。
A4
本報告書において、データとは、直接観察することにより入手できる情報又は企業の外部から入手できる情報である。データを分析又は解釈することで得られた情報は、当該分析又は解釈の技法が十分に確立された理論に基づいており、経営者の判断の必要性が低い場合には派生データと呼ばれる。そうでない場合には、そのような情報は仮定となる。
A5
データには、例えば、以下のものがある。・市場取引において合意された価格・生産機械の稼働時間又は生産高・借入契約における契約金利、返済スケジュール、期間等、契約に含まれる価格又はその他の条件・外部情報源から入手した経済予測又は収益見通し等の将来の情報・補間法を使って先渡し金利に基づき決定した将来の金利(派生データ)
A6
データは、以下のような様々な情報源から得られる。・組織の内部又は外部で生成される情報・総勘定元帳若しくは補助元帳のシステム内又はそれ以外のシステムから入手される情報・契約書に記載された情報・法令又は規制に関わる公表物に含まれる情報《(4)適用の柔軟性》(第3項参照)
A7
本報告書の要求事項の適用の柔軟性に関する指針は、A20項からA22項、A63項、A67項及びA84項に記載されている。

(1)固有リスク要因(第4項参照)

A8
固有リスク要因とは、関連する内部統制が存在しないとの仮定の上で、不正か誤謬かを問わず、取引種類、勘定残高又は注記事項に係るアサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼす事象又は状況の特徴をいう(監基報315第11項(6)参照)。付録1には、会計上の見積りの実施及び財務諸表の表示における固有リスク要因の性質及びこれらの要因の相互関係について詳細な説明が記載されている。
A9
アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを評価する際に、監査人は、見積りの不確実性、複雑性及び主観性に加えて、監査基準報告書315に記載の固有リスク要因(見積りの不確実性、複雑性及び主観性以外)が、どの程度、会計上の見積りに関するアサーションにおいて虚偽表示が生じる可能性に影響を及ぼすかも考慮する(監基報315第30項参照)。このような追加的な固有リスク要因には以下の事項が含まれる。・関連する財務諸表項目の性質若しくは状況の変化、又は会計上の見積りを行うために使用される方法、仮定若しくはデータの変更が必要となる適用される財務報告の枠組みの改正・会計上の見積りを行う際に経営者の偏向又は固有リスクに影響を与える他の不正リスク要因による虚偽表示が生じる可能性・見積りの不確実性以外の不確実性《(2)統制リスク》(第6項参照)
A10
監査人が、監査基準報告書315に従って、アサーション・レベルの統制リスクを評価する際には、内部統制の運用状況の有効性を評価する計画をしているか否かを考慮する。内部統制の運用状況の有効性を評価するか否かの検討に際して、内部統制が有効にデザインされ、業務に適用されているという監査人の評価は、内部統制が有効に運用されているであろうという想定を裏付ける。

(3)職業的懐疑心(第8項参照)

A11
監査人による職業的懐疑心の発揮については、A60項、A95項、A96項、A137項及びA139項で例示されている。また、A152項には、監査人が職業的懐疑心を保持していたことを文書化する場合の指針及び本報告書における具体的な要求事項が記載されている。A152項に記載された事項は、文書化により職業的懐疑心を保持していたことを示す証拠となり得る場合を例示したものである。

(4)「合理的」という概念(第9項及び第35項参照)

A12
適用される財務報告の枠組みに照らして、会計上の見積り及び関連する注記事項が合理的であるかどうかを監査人が検討する際のその他の検討事項には以下が含まれる。・会計上の見積りを行う際に使用されたデータ及び仮定が相互に整合しており、他の会計上の見積り又は企業の事業活動における他の領域で使用したデータ及び仮定と整合しているかどうか。・会計上の見積りにおいて、適用される財務報告の枠組みで求められる適切な情報が考慮されているか。
A13
第9項における「適切に適用されている」という用語は、適用される財務報告の枠組みに準拠しているだけでなく、その枠組みにおける測定基礎の目的に合致した判断が行われることを意味している。

(1)会計上の見積り(第11項(1)参照)

A14
会計上の見積りは、財務諸表において認識又は注記される取引種類又は勘定残高に関連する金額である。また、会計上の見積りには、注記事項に含まれる金額又は取引種類若しくは勘定残高に関する認識若しくは注記の判断を行う際に使用される金額が含まれる。

(2)監査人の見積額又は監査人の許容範囲(第11項(2)参照)

A15
監査人の見積額又は許容範囲は、会計上の見積りを直接評価するために使用されることもあれば(例えば、減損損失又は各種金融商品の公正価値)、間接的に評価するために使用されることもある(例えば、会計上の見積りの重要な仮定として使用される金額)。監査人は、金額によらないデータ項目又は仮定(例えば、資産の見積耐用年数)を評価する際にも、同様のアプローチを取ることがある。

(3)見積りの不確実性(第11項(3)参照)

A16
全ての会計上の見積りで、見積りの不確実性の程度が高くなるわけではない。例えば、一部の財務諸表項目では、活発な公開市場が存在し、その取引価格の信頼性が高く、かつ容易に利用可能なことがある。一方、評価方法やデータが明確であっても、見積りの不確実性が存在することもある。例えば、市場規模に比べて上場有価証券を大量に保有している場合や譲渡制限がある場合には、活発な公開市場において売買されている上場有価証券の相場価格について調整が必要となることがある。また、例えば、特定の市場における流動性が低い場合などの評価時点における経済環境が見積りの不確実性に影響を与えることがある。

(4)経営者の偏向(第11項(4)参照)

A17
財務報告の枠組みの多くは、中立性を重視し、偏向がないことを要求しているが、見積りの不確実性により、会計上の見積りの実施には主観性を伴う。主観性の存在が経営者による判断を必要とし、また、例えば、望ましい利益目標や自己資本比率を達成しようとする動機から、意図的であるか否かを問わず経営者の偏向の影響を受ける可能性をもたらす。会計上の見積りが経営者の偏向の影響を受ける可能性は、会計上の見積りを行う際に経営者の主観性に依存する程度が高いほど増加することになる。

(5)会計上の見積りの確定額(第11項(6)参照)

A18
会計上の見積りには、その性質上、本報告書に準拠して監査人が実施する遡及的検討などの手続に適合する確定額が存在しない場合がある。例えば、会計上の見積りが、一時点における市場参加者の認識に基づいて行われる場合である。対象となる資産や負債の価値についての市場参加者の認識は時間の経過と共に変化するため、資産の売却時又は負債の譲渡時に実現する価格は、報告日時点の会計上の見積りとは異なることがある。

(1)企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業の内部統制システムの理解(第12項参照)

A19
監査基準報告書315の第18項から第26項は、監査人が企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業の内部統制システムに関する一定の事項を理解することを求めている。本報告書の第12項は、監査基準報告書315における一般的な要求事項を基礎として、会計上の見積りに関連した事項を具体的に示している。

適用の柔軟性

A20
会計上の見積りに関連する、企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業の内部統制システムを理解するためのリスク評価手続の種類、時期及び範囲は、第12項に記載されている個々の事項の状況によって様々である。例えば、会計上の見積りが必要となる取引又は事象若しくは状況がほとんどない場合や、適用される財務報告の要求事項が複雑でない場合、関連する規制要因が存在しない場合がある。さらに、会計上の見積りにおいて重要な判断の必要が無い場合や、会計上の見積りを行うプロセスが複雑でない場合がある。そのような状況では、会計上の見積りは、見積りの不確実性、複雑性、主観性又はその他の固有リスク要因の影響をそれほど受けない可能性があり、統制活動における内部統制がほとんど識別されない場合がある。この場合、監査人のリスクの識別及びリスク評価手続は簡略なものとなり、主に、会計上の見積りを行う際の経営者のプロセスの単純なウォークスルー(そのプロセスにおいて識別された内部統制が効果的にデザインされているかを評価する、及び内部統制が業務に適用されているかを判断する場合を含む。)のような、財務諸表に関する適切な責任を有する経営者への質問により、リスク評価を実施できることがある。
A21
反対に、会計上の見積りに経営者の重要な判断が必要な場合や、会計上の見積りを行う際のプロセスが複雑で、複雑なモデルを使用する場合がある。また、企業は高度な情報システム及び会計上の見積りに関する広範な内部統制を有している場合がある。そのような状況では、会計上の見積りは、見積りの不確実性、複雑性、主観性又はその他の固有リスク要因の影響を大きく受ける可能性がある。そのような場合、監査人のリスク評価手続の種類又は時期は、前項の状況における監査人のリスク評価手続の種類又は時期と異なり、より広範なものとなる。
A22
単純な事業のみを営む企業(これには、多くの小規模企業が含まれる。)については、以下の考慮事項が関連することがある。・事業活動が単純であったり、見積りの不確実性が低いため、会計上の見積りに関連するプロセスが複雑でないことがある。・会計上の見積りが総勘定元帳又は補助元帳外で算定されたり、会計上の見積りに関する内部統制が限定的であったり、オーナー経営者が決定に重要な影響を及ぼしたりする場合がある。監査人が重要な虚偽表示リスクを識別する際、及び経営者の偏向のリスクを検討する際に、会計上の見積りにおけるオーナー経営者の役割を考慮しなければならない場合がある。

企業の取引及びその他の事象又は状況(第12項(1)参照)

A23
会計上の見積りが新たに必要となるか、又は会計上の見積りの変更が生じる可能性のある状況の変化には、例えば以下が含まれる。・新たな種類の取引の開始・取引条件の変更・新たな事象又は状況の発生《適用される財務報告の枠組みにおいて要求される事項》(第12項(2)参照)
A24
監査人は、適用される財務報告の枠組みにおいて要求される事項の理解に基づき、経営者が会計上の見積りに関連して適用される財務報告の枠組みにおいて要求される事項をどのように適用したか、また、要求事項が適切に適用されたかどうかの監査人の判断について、経営者及び適切な場合には監査役等と討議することとなる。この理解は、監査人が、重要な会計実務について、適用される財務報告の枠組みの下で受入可能であるが、企業の特定の状況においては最適なものではないと考える場合の監査役等への説明に有用である(監基報260第16項(1)参照)。
A25
適用される財務報告の枠組みにおいて要求される事項を理解するに当たり、監査人は、適用される財務報告の枠組みに関して、例えば以下の点を理解する。・会計上の見積りの認識要件又は測定方法を規定しているかどうか。・公正価値での測定を許容又は要求する特定の要件を明記しているかどうか。・会計上の見積りに関連する判断、仮定又はそれ以外の見積りの不確実性の要因等の注記事項を明示的に要求又は推奨しているかどうか。また、監査人は適用される財務報告の枠組みの改正により、会計上の見積りに関する企業の会計方針の変更が必要となるかどうかを理解する。

規制要因(第12項(3)参照)

A26
会計上の見積りに関連する規制要因がある場合にそれを理解することは、適用される規制の枠組み(例えば、銀行や保険会社の健全性に関する監督機関が定めた規制の枠組み)を監査人が識別する際に役立つことがある。また、規制の枠組みについて以下の事項を理解する際にも役立つ場合がある。・会計上の見積りの認識要件や測定方法を規定しているかどうか、又はこれらに関する指針を提供しているかどうか。・適用される財務報告の枠組みの要求事項に加えて、注記事項を明記しているかどうか、又はこれに関する指針を提供しているかどうか。・規制の要求を満たすために経営者の偏向が生じる可能性のある領域を示唆しているかどうか。・適用される財務報告の枠組みの要求事項と整合しない規制上の要求があるかどうか。それがある場合、重要な虚偽表示リスクを示唆する可能性がある。例えば、規制当局によっては、貸倒引当金(予想信用損失引当金)の最低水準について、適用される財務報告の枠組みの要求を超える水準を設定しようとすることがある。

監査人が企業の財務諸表に含まれると予想する会計上の見積り及び関連する注記事項の内容(第12項(4)参照)

A27
監査人が企業の財務諸表に含まれると予想する会計上の見積り及び関連する注記事項の内容を理解することは、関連する可能性のある会計上の見積りの測定基礎並びに注記事項の内容及び範囲の理解に役立つ。監査人は、この理解に基づき、経営者が会計上の見積りを行う方法について経営者と討議することとなる。

監督及びガバナンスの性質及び範囲(第12項(5)参照)

A28
会計上の見積りを行う経営者のプロセスに対する企業の監督及びガバナンスの性質及び範囲を監査人が理解することは、監査基準報告書315第20項(1)の適用において要求される監査人の評価にとって重要となることがある。・経営者は、取締役会による監督及び監査役等による監査(以下「取締役会及び監査役等による監視」という。)の下で、誠実性と倫理的な行動を尊重する企業文化を醸成し維持しているかどうか。・統制環境は、企業の事業活動と複雑性に応じて、内部統制システムの他の構成要素に適切な基礎を提供しているかどうか。・統制環境の不備によって、企業の内部統制システムの他の構成要素が損なわれていないかどうか。
A29
監査人は、取締役会及び監査役等に関して以下を理解することがある。・会計上の見積りを行う方法又はモデルの特徴及び会計上の見積りに関連するリスク(例えば、使用した見積手法やITに関連するリスク)を理解する技能又は知識があるか。・経営者が適用される財務報告の枠組みに従って会計上の見積りを行ったかどうかを理解するための技能と知識があるか。・経営者から独立しており、経営者がどのように会計上の見積りを行ったかを適時に評価するために必要な情報と、経営者の行動が不十分又は不適切と思われる際に経営者に異議を唱える権限を有しているか。・モデルの使用を含む会計上の見積りを行うための経営者のプロセスを監視しているか。・経営者による監視活動を監督しているか。これには、会計上の見積りに関する内部統制の整備状況又は運用状況における不備を発見して是正するためにデザインされた監督及び検討の手続が含まれることがある。
A30
取締役会及び監査役等による監視を理解することは、以下のような会計上の見積りが存在する場合に重要であることがある。・主観性が高く経営者の判断が求められる会計上の見積り・不確実性が高い会計上の見積り・ITの広範な使用、大量のデータ若しくは複数の情報源の使用又は相互に複雑に関連する仮定の使用等により複雑性のある会計上の見積り・見積手法、仮定又はデータについて過年度から変更されている、又は変更が必要となる会計上の見積り・重要な仮定に基づく会計上の見積り《経営者による専門家の利用を含む、経営者の専門的技能又は知識の適用》(第12項(6)参照)
A31
監査人は、以下の状況によって経営者が専門家の関与を必要とする可能性が高まるかどうかを検討する場合がある(監基報500第7項参照)。・見積りを要する事項の性質が専門的である。例えば、採掘産業における鉱物や石油等の埋蔵量の測定や、複雑な契約条件を適用して算出した評価額が会計上の見積りに影響する場合・適用される財務報告の枠組みで要求されるモデルの性質が複雑である。例えば、レベル3の公正価値の測定が該当する。・会計上の見積りを要する状況、取引、又は事象の性質が通例でない、又は頻度が低い。

企業のリスク評価プロセス(第12項(7)参照)

A32
会計上の見積りに関するリスクが、企業のリスク評価プロセスによってどのように識別され対処されているかを理解することは、監査人が以下の事項を検討する際に役立つことがある。・適用される財務報告の枠組みにおける、会計上の見積りに関連して、要求される事項の改正・会計上の見積りに関連している、又は使用されたデータの信頼性に影響を及ぼす可能性がある、情報源の利用可能性又は性質の変化・企業の情報システム又はIT環境の変更・主要な担当者の変更
A33
監査人は、会計上の見積りを行う際に経営者の偏向又は不正による虚偽表示が生じる可能性を経営者がどのように識別し対処しているかを理解するに当たって、例えば以下を検討する場合がある。・経営者が会計上の見積りを行う際に使用する見積手法、仮定及びデータの選択と適用に特段の注意を払っているかどうか、注意を払っている場合にはその方法・経営者が過去の業績若しくは予算又はその他の要因と比較して、想定していない又は矛盾する業績を示す可能性のある主要な業績指標を監視しているかどうか、監視している場合にはその方法・経営者が偏向をもたらす可能性のある金銭的誘因又はその他の誘因を識別しているかどうか、識別している場合にはどのように識別しているか。・経営者が会計上の見積りを行う際に使用する見積手法、重要な仮定又はデータの変更の必要性を監視しているかどうか、監視している場合にはその方法・経営者が会計上の見積りを行う際に使用するモデルを適切に監視しているかどうか、監視している場合にはその方法・経営者が会計上の見積りを行う際の重要な判断の根拠の文書化又は第三者による検討を要求しているかどうか、要求している場合にはその方法《会計上の見積りに関連する企業の情報システム》(第12項(8)①参照)
A34
第12項(8)に記載されている重要な取引種類、事象及び状況については、監査基準報告書315第24項(1)で説明されている。監査人は、会計上の見積りに関連する企業の情報システムを理解する際に、以下を検討する場合がある。・会計上の見積りが定型的かつ経常的な取引の記録から生じるものであるか、又は非経常的若しくは通例でない取引から生じるものであるかどうか。・情報システムが会計上の見積り及び関連する注記事項の網羅性にどのように対応しているか。特に、負債に関する会計上の見積りにどのように対応しているか。
A35
監査人は、監査の過程で、経営者が識別できなかった会計上の見積り及び関連する注記事項が必要となる取引種類、事象又は状況を識別することがある。監査基準報告書315は、監査人が、企業のリスク評価プロセスに対する監査人の評価への影響の検討を含め、経営者が識別していない重要な虚偽表示リスクを識別した場合の指針を提供している(監基報315第22項参照)。

経営者による見積手法、仮定及びデータの識別(第12項(8)②ア参照)

A36
経営者が会計上の見積りを行う方法を変更した場合、監査人の検討事項には、例えば以下が含まれる。・新たな見積りの方法がより適切であるかどうか。・新たな見積りの方法が企業に影響を与える環境や状況の変化、又は適用される財務報告の枠組みにおいて要求される事項の改正や規制環境の変化に対応するものであるかどうか。・その他、変更についての正当な理由があるかどうか。
A37
経営者が会計上の見積りを行う方法を変更しなかった場合、監査人の検討事項には、現在の環境又は状況に照らして、従来の見積手法、仮定及びデータを継続して使用することが適切であるかどうかが含まれる。

見積手法(第12項(8)②ア(ア)参照)

A38
適用される財務報告の枠組みが会計上の見積りを行う際に使用すべき見積手法を規定していることがある。しかしながら、多くの場合、適用される財務報告の枠組みでは、特定の見積手法を規定していないか、又は測定基礎(付録1の第3項参照)を定めた上で、複数の代替的な見積手法が許容されているか、又はそのような代替的な見積手法を適用する状況を規定していることがある。

モデル

A39
経営者は、会計上の見積りを行うために使用するモデルに対応した内部統制を整備している場合がある。これは、自社で開発したモデルであるか、外部で開発されたモデルであるかにかかわらない。予想信用損失モデルやレベル3のインプットを使用した公正価値モデルなど、モデル自体の複雑性又は主観性が高い場合、そのような複雑性又は主観性に対処する内部統制は、監査に関連するものとして識別される可能性が高い。モデルに関連する複雑性が存在する場合、データの完全性に関する内部統制も、監査基準報告書315に従って識別される可能性が高い。モデル及び関連する識別された内部統制を理解する際に、監査人が検討することが適切な要因には以下がある。・経営者がモデルの適合性と正確性をどのように決定しているか。・モデルの妥当性の確認又はバックテスト。これには、モデルの使用前における妥当性の確認や、引続き使用することが適切かどうかを判断するための定期的な妥当性の再確認が含まれる。企業によるモデルの妥当性の確認には、例えば、以下の評価が含まれる。-モデルの理論的な健全性-モデルの数学的な完全性-モデルに使用されるデータの正確性及び網羅性並びにデータ及び仮定の適切性・市場又はその他の状況の変化に対し、モデルがどのように適時かつ適切に変更又は調整されているか。また、モデルに関する適切な変更管理の方針が存在するか。・特定の産業においてオーバーレイと呼ばれる調整がモデルのアウトプットに対して行われているかどうか。また、そのような調整が、適用される財務報告の枠組みにおいて要求される事項に準拠し、調整が行われた状況において適切であるかどうか。調整が適切でない場合、その調整は経営者の偏向の兆候である可能性がある。・モデルに関して適切に文書化されているかどうか。これには、モデルの想定される適用、限界、主要なパラメーター、必要なデータと仮定、モデルの妥当性に関して行われた確認の結果、アウトプットに対して行われた調整の性質と根拠が含まれる。

仮定(第12項(8)②ア(イ)参照)

A40
監査人は、経営者が会計上の見積りに使用する仮定をどのように選択したかを理解する際に、例えば以下を検討する場合がある。・経営者による仮定の選択の根拠及び当該選択を裏付ける文書。なお、適用される財務報告の枠組みが仮定の選択の際に使用すべき要件や指針を提供していることがある。・選択した仮定の目的適合性と網羅性を経営者がどのように評価しているか。・使用した複数の仮定の間の整合性又は他の会計上の見積りに使用した仮定若しくは企業の事業活動の他の領域で使用した仮定との整合性を経営者がどのように判断しているか。また、以下のその他の事項との整合性を経営者がどのように判断しているか。-経営者による影響が及ぶ事項(例えば、資産の耐用年数の見積りに影響を与える可能性のある保守計画に関する仮定)。それらの事項が企業の事業計画及び外的環境と整合しているかどうかの判断を含む。-経営者による影響が及ばない事項(例えば、利子率、死亡率、潜在的な司法上又は規制上の措置に関する仮定)・適用される財務報告の枠組みにおいて要求される仮定の注記に関する事項
A41
公正価値に関する会計上の見積りの仮定は、以下のように、データの情報源と仮定を裏付ける判断の根拠によって様々なものがある。(1)企業から独立した情報源から入手した市場データに基づいて設定する仮定で、市場参加者が資産又は負債を価格設定する際に使用するであろう仮定を反映したもの(2)その状況において利用可能な最善のデータに基づいて設定する仮定で、市場参加者が資産又は負債を価格設定する際に使用するであろう仮定に関して企業自身の判断を反映したものなお、実務上、(1)と(2)の区別は必ずしも明確でない場合がある。これらは、データの情報源及び仮定を裏付ける判断の根拠の理解に応じて区別される。経営者が、使用する仮定を様々な市場参加者が使用する複数の仮定から選択することが必要な場合もある。
A42
会計上の見積りを行う際に使用する仮定に関する変数が合理的な範囲で変化することによって、会計上の見積りの測定に重要な影響を与える場合、本報告書では、当該仮定を重要な仮定として扱う。会計上の見積りを行う際に使用する一つ又は複数の仮定によって測定額がどの程度異なるのかを示す際には、感応度分析が役立つことがある。

活発でない市場又は流動性が乏しい市場

A43
市場が活発でない又は流動性が乏しい状況にある場合、経営者による仮定の選択方法についての監査人の理解には、例えば、以下が含まれる。・経営者が見積手法の適用に関する適切な方針を有しているか。これにはモデルの修正や適切となる新たなモデルの開発が含まれる。・経営者が必要に応じてモデルを緊急に修正又は開発する(適切となる評価技法の選択を含む。)ために必要な技能又は知識を備えた人員を有しているか。・経営者が会計上の見積りに伴う不確実性を考慮して、感応度分析などにより見積りの範囲を決定するための人員を有しているか。・市況の悪化などがある場合に、経営者が企業の事業、企業環境及び関連する事業上のリスクへの影響や企業の会計上の見積りへの影響を評価する手段を有しているか。・経営者が特定の外部情報源からの価格データ及びその適合性がどのように変化しているかを適切に理解しているか。

データ(第12項(8)②ア(ウ)参照)

A44
経営者が会計上の見積りの根拠となるデータをどのように選択しているかを理解する際に、監査人が検討する事項には、例えば以下がある。・データの性質及び情報源(外部の情報源から入手した情報を含む。)・経営者によるデータの適切性の評価方法・データの正確性と網羅性・使用するデータと過年度に使用したデータとの整合性・大量のデータを扱う場合を含むデータの入手と処理に使用するITアプリケーション又は関連するその他のIT環境の複雑性・データの入手、転送及び処理の方法・データの完全性を維持する方法《経営者による見積りの不確実性の理解と対処》(第12項(8)②イ、ウ参照)
A45
監査人は、経営者が見積りの不確実性の程度を理解しているか、また、どのように理解しているかについて、例えば以下を検討する。・経営者が適用される財務報告の枠組みに照らして適切な代替的な見積手法、重要な仮定又はデータを識別しているかどうか。識別している場合にはどのように識別しているか。・経営者が代替的な測定結果を検討しているかどうか。検討している場合にはその方法。これには、例えば、会計上の見積りに関する重要な仮定又はデータの変更の影響を判断するための感応度分析の実施などが含まれる。
A46
適用される財務報告の枠組みにおいて、合理的に生じ得る測定結果から経営者の見積額を選択する方法が規定されていることがある。適切な見積額として、合理的に生じ得る測定結果から適切に選択することとしている場合もあれば、そのような測定結果の範囲においてどのような値が最も適合しているかを規定している場合もある。
A47
例えば、公正価値の見積りに関して、国際財務報告基準(IFRS)第13号「公正価値測定」では、公正価値の測定に複数の評価技法を使用する場合には、それらの結果の評価を、それぞれが示す価値の範囲の合理性を考慮して行うことが求められ、公正価値は、その範囲の中から、その状況において公正価値を最もよく表す一点であると説明されている(IFRS第13号第63項参照)。また、適用される財務報告の枠組みにおいて、以下の測定値の使用が規定されている場合がある。・合理的に生じ得る測定結果の確率加重平均・最も発生の可能性の高い測定値・発生しない可能性よりも発生する可能性の方が高い測定値
A48
適用される財務報告の枠組みにおいて、会計上の見積りに関する注記事項又は注記を記載する目的(開示目的)を定めていることがある。また、企業によっては追加的な情報の注記を選択することもある。これらの注記事項や開示目的には、例えば、以下を扱っている場合がある。・使用された見積手法(適用したモデル及びその選択の根拠を含む。)・モデルから得られた情報又は財務諸表で認識若しくは注記された見積りの決定に使用された他の計算から得られた情報。モデルに使用された以下のような仮定と基礎データに関する情報を含む。-企業内部で設定された仮定-企業による影響が及ばない金利等のデータ・見積手法の前年度からの変更の影響・見積りの不確実性の要因・公正価値情報・経営者が代替的な仮定を検討したことを示す、財務モデルから導き出された感応度分析に関する情報
A49
適用される財務報告の枠組みが、例えば、以下のような見積りの不確実性に関する特定の注記事項の記載を要求していることがある。・翌年度以降の資産及び負債の帳簿価額に重要な修正を生じさせる可能性が高くなる、又はそのような修正が大きくなる、将来についての仮定及び見積りの不確実性の他の主要な要因に関する注記事項。そのような注記は、「見積りの不確実性の主な要因」や「重要な会計上の見積り」などの表現で記述され、困難で、主観的又は複雑な経営者の判断が必要となる会計上の見積りに関連する場合がある。このような経営者の判断は、より主観的で複雑になるため、資産と負債の帳簿価額に重要な修正が結果的に生じる可能性は、見積りの不確実性の将来の解消に影響するデータ及び仮定の数とともに、増大することがある。注記される情報には、例えば、以下の事項が含まれる。-仮定又は見積りの不確実性に関する他の要因の内容-使用された見積手法及び仮定に対する帳簿価額の感応度。感応度の根拠を含む。-影響を受ける資産及び負債の帳簿価額に関する、予想される不確実性の解消及び合理的に生じ得る結果の範囲-不確実性が解消されずに残存している場合、そのような資産及び負債に関する過去の仮定に対する変更の説明・生じ得る結果の範囲及びその範囲の決定に使用された仮定に関する注記事項・以下を含む、特定の情報の注記事項-公正価値に関する会計上の見積りが、企業の財政状態及び経営成績に与える重要度に関する情報の注記事項-活発でない市場又は流動性が乏しい市場に関する注記事項・定性的な情報の注記事項(例えば、リスク及びその内容、リスク管理に関する企業の目的、方針及び手続、リスクの測定に使用した方法並びにこれらの前年度からの変更)・定量的な情報の注記事項(例えば、企業の主要な経営者に内部的に提供されている情報に基づいて、企業がリスク(信用リスク、流動性リスク及び市場リスクを含む。)に晒されている程度)

会計上の見積りに関する経営者のプロセスにおいて識別された内部統制(第12項(9)参照)

A50
第12項(8)②に記載の経営者のプロセスにおいて、統制活動における内部統制を識別し、デザイン及び業務に適用されているかどうかを評価する必要性は、監査人の判断による。監査人は、第12項(8)②の全ての側面に関連する内部統制を識別することが求められているわけではない。
A51
監査人は、内部統制を識別し、そのデザインを評価し、また業務に適用されているかどうかを判断する上で、以下の事項を検討する場合がある。・経営者が会計上の見積りに使用するデータの適切性を決定する方法。これには、経営者が外部情報源を使用している場合や総勘定元帳と補助元帳以外のデータを使用している場合を含む。・適切な階層の経営者による会計上の見積り(仮定又はデータを含む。)の査閲及び承認。適切な場合には取締役会及び監査役等による査閲及び承認。・会計上の見積りを行う担当者と見積り対象の取引を行う担当者との間の職務の分離。これには、企業及びその商品・サービスの性質を考慮して適切に責任の付与がなされているかどうかという点も含む。例えば、金融機関における職務の分離には、金融商品の公正価値の見積り及び検証の責任を担う営業部門から独立した部門の存在が含まれる。・内部統制のデザインの有効性。一般に、重要な虚偽表示を有効に防止又は発見・是正するために主観性及び見積りの不確実性に対処する内部統制をデザインすることは、複雑性に対処する内部統制をデザインするよりも経営者にとって困難な場合がある。主観性及び見積りの不確実性に対処する内部統制では手作業による情報処理統制が必要とされることがあるが、手作業による情報処理統制は経営者によって回避、無視又は無効化されやすいため、自動化された情報処理統制よりも信頼性が劣ることがある。複雑性に対処する内部統制のデザインの有効性は、複雑性の原因や性質によって異なることがある。例えば、定型的な見積手法やデータの完全性に関する有効な内部統制をデザインすることは、比較的容易な場合がある。
A52
経営者が会計上の見積りを行う際にITを広範囲に利用する場合、統制活動において識別された内部統制には、IT全般統制と情報処理統制が含まれる可能性が高い。このような内部統制には、例えば、以下に関連するリスクに対応するものが含まれる。・ITアプリケーション又はその他のIT環境が大量のデータを処理する能力を備えており、適切に構成されているか。・見積手法の適用における複雑な計算。複雑な取引の処理に複数のITアプリケーションが必要とされる場合、それらのITアプリケーション間の調整が定期的に行われているか(特に、それらのITアプリケーションが自動インターフェース機能を備えていない場合、又は手作業が介在する場合)。・モデルのデザインと調整が定期的に評価されているか。・企業内部の記録又は外部の情報源から、会計上の見積りに必要なデータが網羅的かつ正確に抽出されているか。・会計上の見積りに使用されるデータが企業の情報システムを通じ、網羅的かつ正確に処理されているか、データの変更が適切に行われているか、データの完全性とセキュリティが維持されているか。・外部の情報源が使用される場合には、データが適切に処理又は記録されているか。・経営者が、承認されたバージョンのモデルについて証跡を明確に残し、当該モデルに対する承認されていないアクセスや修正を防止するため、モデルへのアクセス、変更及び維持に関する内部統制を整備・運用しているかどうか。・会計上の見積りに関連する情報の総勘定元帳への転記に関して適切な内部統制が存在するかどうか。関連する仕訳に関する適切な内部統制を含む。
A53
銀行業や保険業などの一部の業種では、ガバナンスという用語を、監査基準報告書315に記載されている統制環境、内部統制システムを監視する企業のプロセス及びその他の内部統制システムの構成要素における活動を表すために使用することがある(監基報315付録3参照)。
A54
企業が内部監査機能を有している場合、内部監査人の作業は、監査人が以下の事項を理解する上で特に有益となることがある。・経営者が使用する会計上の見積りの性質及び範囲・会計上の見積りを行う際に使用されるデータ、仮定及びモデルに関連するリスクに対処する内部統制のデザインと業務への適用・会計上の見積りに使用されるデータを生成する情報システム・会計上の見積りに関連する新たなリスクの識別、評価及び管理方法《(2)過年度の会計上の見積りの確定額又は再見積額の検討》(第13項参照)
A55
過年度の会計上の見積りが当年度に資産又は負債の移転又は実現により確定する、又は再見積りされる場合、その確定額又は再見積額の検討(遡及的な検討)は、重要な虚偽表示リスクを識別し評価するのに役立つ。監査人は、遡及的な検討を実施することにより、以下を入手することがある。・経営者の過年度の見積りプロセスの有効性に関する情報。監査人は、当該情報から経営者の当期の見積りプロセスの有効性の評価に関する監査証拠を入手することができる。・財務諸表における注記が求められる事項(変更理由など)に関する監査証拠・会計上の見積りの複雑性及び不確実性に関する情報・会計上の見積りが経営者の偏向の影響を受ける可能性がある又は偏向の兆候を示す情報。監査人の職業的懐疑心は、そのような状況を識別し、リスク対応手続の種類、時期及び範囲を決定するのに役立つ。
A56
監査人は、遡及的な検討により、当年度の重要な虚偽表示リスクの識別及び評価を裏付ける監査証拠を入手することがある。遡及的な検討は、前年度の財務諸表、又は複数の会計期間若しくは会計期間より短い期間(半期や四半期など)に関する会計上の見積りに対して実施されることがある。会計上の見積りの確定額が決まるまでに長期間を要するような場合には、複数の会計期間にわたる遡及的な検討が適切なことがある。
A57
監査基準報告書240は、重要な会計上の見積りに関連する経営者の判断と仮定に対して遡及的な検討を行うことを要求している(監基報240第31項(2)②参照)。実務上、この遡及的な検討は、監査人が本報告書に従いリスク評価手続として実施する過年度の会計上の見積りに関する検討と同時に実施されることがある。
A58
過年度における監査人の重要な虚偽表示リスクの評価に基づき、一つ又は複数の重要な虚偽表示リスクに関して固有リスクの程度が高いと評価された場合、監査人は、より詳細な遡及的な検討が必要であると判断することがある。例えば、監査人は、過年度の会計上の見積りを行う際に使用されたデータ及び重要な仮定の影響に特に注意を払うことがある。他方で、定型的かつ経常的な取引の記録から生じる会計上の見積りに対しては、リスク評価手続としての分析的手続の適用で十分と判断することがある。
A59
公正価値に関する会計上の見積り及びその他の会計上の見積りの測定目的は、測定時点の状況に基づき、一時点における価値を捉えることであるが、その価値は、企業が経営する事業環境が変化するにつれて著しく急速に変化することがある。このような場合、監査人は、重要な虚偽表示リスクの識別と評価に関連する情報を入手することを重視することがある。例えば、過年度の公正価値に関する会計上の見積りの確定額に影響を与えた市場参加者の仮定が変更となったことを理解しても、関連する目的に適った監査証拠を入手できないこともある。この場合、監査人は、仮定(キャッシュ・フロー予測等)の確定額及び経営者の過年度の見積りプロセスの有効性を理解することで、当年度の重要な虚偽表示リスクの識別と評価を裏付ける監査証拠を入手することがある。
A60
会計上の見積りの確定額と過年度の財務諸表における認識額との間に差異があったとしても、必ずしも過年度の財務諸表に虚偽表示があったことを示しているわけではない。しかしながら、当該差異が、過年度の財務諸表の確定時に利用可能な情報、又は適用される財務報告の枠組みに照らして入手及び考慮することが合理的に期待される情報を経営者が適切に使用しなかったことにより生じているような場合には、虚偽表示を示していることがある(監基報560第13項参照)。そのような差異がある場合、経営者が会計上の見積りを行う際に情報を考慮するプロセスに問題があると判断されることがある。その結果、監査人は、関連する内部統制を評価する計画を見直し、関連する統制リスクを再評価するか、又はより証明力の強い監査証拠を入手する必要があると判断することがある。多くの財務報告の枠組みは、虚偽表示となる会計上の見積りの変更と虚偽表示とならない変更との区別に関する指針及びそれぞれの場合に遵守すべき会計上の取扱いを含んでいる。

(3)専門的技能又は知識(第14項参照)

A61
監査チームに専門的技能又は知識が必要かどうかに関する監査人の決定に影響を与えることがある事項には、例えば、以下の事項がある(監査基準報告書220「監査業務における品質管理」第25項及び第26項及び同300「監査計画」第7項(5)参照)。・特定の事業又は産業における会計上の見積りの性質(例えば、鉱物資産、農業資産、複雑な金融商品、保険契約負債など)・見積りの不確実性の程度・使用された見積手法又はモデルの複雑性・適用される財務報告の枠組みにおける、会計上の見積りに関連する要求事項の複雑性(異なる解釈若しくは実務慣行の存在が知られている領域があるかどうか、又は会計上の見積りの作成方法に一貫性がない領域が存在するかどうかを含む。)・評価した重要な虚偽表示リスクに対応して監査人が立案した手続・適用される財務報告の枠組みが規定していない事項について判断する必要性・データと仮定の選択に必要な判断の程度・企業が会計上の見積りの作成において利用しているITの複雑性と利用範囲専門的技能及び知識を有する者の関与の内容、時期及び範囲は監査期間を通じて様々である。
A62
監査人が、会計又は監査以外の分野に関連する事項に必要となる専門的技能又は知識(例えば、評価に関する技能など)を保有していない場合、専門家の業務を利用することがある(監査基準報告書620「専門家の業務の利用」参照)。
A63
会計上の見積りの多くにおいて、専門的技能又は知識は必要とされない。例えば、滞留期間に応じて機械的に棚卸資産の評価額を計算しているケースでは専門的技能又は知識は必要とされない。しかしながら、銀行の予想信用損失や保険会社の保険契約負債などについては、監査人は、専門的技能又は知識が必要であると結論付ける可能性が高い。

5.重要な虚偽表示リスクの識別と評価(第4項及び第15項参照)

A64
会計上の見積りに関する重要な虚偽表示リスクをアサーション・レベルで識別し評価することは、財務諸表に計上されるものだけでなく注記されるものも含めた、全ての会計上の見積りにおいて重要である。
A65
監査基準報告書200のA39項に記載されているとおり、監査基準報告書では、通常、「重要な虚偽表示リスク」という用語が使用されており、固有リスクと統制リスクを分けて記載していないことが多い。しかしながら、監査基準報告書330に従ってアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスク(特別な検討を必要とするリスクを含む。)に対応するためのリスク対応手続を立案し実施する基礎を得るため、監査基準報告書315では、固有リスクと統制リスクを分けて評価することを求めている(監基報315第30項及び第33項参照)。
A66
監査基準報告書315第30項(1)においては、重要な虚偽表示リスクの識別及び固有リスクの評価では、アサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響する固有リスク要因、及びそれらの固有リスク要因がどのように影響するかを考慮することが監査人に求められる。監査人は固有リスク要因を考慮することで、以下を行うための情報を得ることがある。・虚偽表示の発生可能性と影響の度合いの評価(すなわち、固有リスクの分布においてどの水準で固有リスクが評価されるか)・アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの評価の根拠及び第18項に従い監査人のリスク対応手続がそれらの根拠に対応しているかの判断付録1では、固有リスク要因間の相互関係についてより詳しく説明している。
A67
監査人によるアサーション・レベルの固有リスクの評価の根拠は、例えば以下のように、見積りの不確実性、複雑性、主観性又はその他の固有リスク要因の一つ又は複数に起因することがある。(1)予想信用損失は直接的に観察することができず、複雑なモデルの利用が必要となることがあるため、予想信用損失の会計上の見積りは複雑になることが多い。モデルでは、過去データと様々な予測困難な企業特有のシナリオにおける将来変化に関する仮定を複雑に組み合わせて使用していることがある。また、予想信用損失に関する会計上の見積りは、高い見積りの不確実性、及び将来の事象又は状況に関する判断を行う際の著しい主観性の影響を受ける可能性も高い。同様のことが保険契約負債にも当てはまることがある。(2)多種多様な棚卸資産を有する企業の棚卸資産の評価減に関する会計上の見積りには、複雑なシステムとプロセスが必要となることがあるが、棚卸資産の性質によっては、主観性はほとんど生じず、見積りの不確実性も低いことがある。(3)その他、複雑ではないが、見積りの不確実性が高く、重要な判断を要する会計上の見積りもある。例えば、金額が訴訟の結果に左右される負債に関する会計上の見積りには、訴訟結果の一点のみにおいて重要な判断が必要である。
A68
固有リスク要因の適合性と重要性は、会計上の見積りによって様々である。固有リスク要因が単純な会計上の見積りに及ぼす影響が個別にも組み合わせても小さい場合、識別されるリスクの数は少なくなり、固有リスクの分布の中で固有リスクが最も低い領域に存在すると評価されることがある。
A69
反対に、固有リスク要因が複雑な会計上の見積りに及ぼす影響が個別に又は組み合わせて大きい場合、監査人は、固有リスクの分布の中で固有リスクの程度が最も高い水準と評価することがある。このような場合、監査人による固有リスク要因の影響の検討は、識別される重要な虚偽表示リスクの数及び内容、当該リスクの評価並びに評価したリスクに対応するために監査証拠により形成すべき心証の程度に直接影響する可能性が高い。また、このような会計上の見積りでは、監査人による職業的懐疑心を保持することがとりわけ重要になることがある。
A70
期末日後に発生した事象から、監査人によるアサーション・レベルでの重要な虚偽表示リスクの評価に関連する追加的な情報が得られることがある。例えば、会計上の見積りの確定額が監査中に明らかになる場合である。この場合、監査人は、会計上の見積りに関連して、固有リスク要因がアサーションにおいて虚偽表示の生じる可能性にどのように影響を及ぼすかに関わらず、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの当初の評価を再検討又は修正することがある(監基報315第36項参照)。期末日後に発生した事象は、第17項に従って会計上の見積りを検討するための監査人のアプローチの選択に影響することもある。例えば、特定の従業員の報酬にパーセンテージを乗じて計算する単純な未払賞与について、監査人は、会計上の見積りを行う際の複雑性又は主観性は比較的低いと結論付け、アサーション・レベルの固有リスクが固有リスクの分布の中で最も低い領域に存在すると評価することがある。期末日後の賞与の支払いが、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに対応する十分かつ適切な監査証拠となることがある。
A71
監査人による統制リスクの評価は、監査の手法に応じて異なる方法で実施される。統制リスクの評価結果は、定性的な区分(例えば、高い、中程度、低い、の区分)を使って表されることもあれば、識別されたリスクに対応する上で内部統制がどの程度有効であるかに関する監査人の想定、すなわち、計画している内部統制の運用状況の有効性への依拠度合により表されることもある。例えば、統制リスクが高いと評価した場合、監査人は内部統制の運用状況の有効性に依拠しないことがある。一方、統制リスクが高くないと評価した場合、監査人は内部統制の運用状況の有効性に依拠することがある。

(1)見積りの不確実性(第15項(1)参照)

A72
会計上の見積りについて見積りの不確実性が及ぼす影響の程度を考慮する際、監査人は、例えば、以下の事項を検討する。・-適用される財務報告の枠組みが以下を要求しているかどうか会計上の見積りを行うに当たり、見積りの不確実性が高くなる見積手法を使用すること。例えば、財務報告の枠組みによる観察不能なインプットの使用の要求-見積りの不確実性が高くなる仮定(例えば、予測期間が長い仮定、観察不能なデータに基づくために経営者が設定することが困難な仮定、又は相互に関連する様々な仮定)の使用-見積りの不確実性に関する注記事項・事業環境。企業が、(例えば、大幅な為替変動や市場の縮小により)混乱のおそれがある市場で活動しているような場合、会計上の見積りは容易に観察できないデータに基づいていることがある。・経営者が以下を行うことが可能かどうか(又は適用される財務報告の枠組みで許容される限りにおいて、実務上可能かどうか)。-取引時点で未確定であった事項の実現(例えば、将来の事象に影響される契約条件に基づいて支払われる額)又は将来の事象若しくは状況の発生及び影響(例えば、将来の貸倒れの額や保険金の確定額及び支払いの時期)について正確かつ信頼性のある予測をすること-現在の状態について正確かつ網羅的な情報(例えば、公正価値を見積もるための、期末日現在の市場参加者の観点を反映する評価属性に関する情報)を入手すること
A73
会計上の見積りは過小表示されている場合があるため、財務諸表に計上又は注記された会計上の見積りの金額の大きさ自体は、虚偽表示の可能性の指標とはならない。
A74
見積りの不確実性が高すぎるために、合理的な会計上の見積りを行うことができないことがある。このような状況においては、適用される財務報告の枠組みによって、財務諸表における当該会計上の見積りの認識又は公正価値での測定が禁止されることがあり、会計上の見積り及び不確実性の注記事項が要求されることもある。この場合、会計上の見積りが認識されるべきかどうか、又は公正価値で測定されるべきかどうかだけではなく、注記事項の合理性に関する重要な虚偽表示リスクが存在する可能性がある(A112項、A113項、A143項及びA144項参照)。
A75
状況によっては、会計上の見積りに関する見積りの不確実性により、継続企業の前提として存続する企業の能力に重要な疑義が生じることがある。監査基準報告書570「継続企業」には、そうした状況における、要求事項及び適用指針が記載されている。

複雑性が見積手法の選択及び適用に影響する程度

A76
会計上の見積りに使用する見積手法の選択及び適用について複雑性が及ぼす影響の程度を考慮する際、監査人は、例えば、以下の事項を検討することがある。・経営者の専門的技能又は知識の必要性。必要な場合、見積手法が複雑であり、会計上の見積りから重要な虚偽表示が生じる可能性が高いことを示唆することがある。また、経営者が自社でモデルを開発したもののモデルの開発経験が少ない場合、又は確立されていない方法若しくは特定の産業若しくは環境において一般的に使われていないモデルを使用する場合、重要な虚偽表示リスクが生じる可能性が高くなることがある。・適用される財務報告の枠組みが要求する測定基礎の内容。内容によっては、複数の情報源からの相互に関係する過去及び将来予測に関するデータ又は仮定を要する複雑な見積手法が必要となる場合がある。例えば、予想信用損失の見積りには、過去実績データ及び将来予測の仮定に基づいて、将来の返済及びその他のキャッシュ・フローに関する判断が必要となる場合がある。同様に、保険契約負債の評価に当たり、過去実績並びに現在及び将来予測の趨勢に基づき、将来の保険金の支払いに関する判断が必要となる場合がある。

複雑性がデータの選択及び適用に影響する程度

A77
会計上の見積りに使用するデータの選択及び適用に複雑性が及ぼす影響の程度を考慮する際、監査人は以下の事項を検討することがある。・情報源の適合性と信頼性を考慮してデータを入手するプロセスの複雑性。ある情報源から入手したデータは、別の情報源から入手したデータよりも信頼性が高い場合がある。また、外部から入手した情報の中には、秘密保持又は権利上の理由により、使用されている基礎データの入手先や、データの蓄積及び処理の方法など、データの信頼性の検討に関連する情報の全部又は一部が開示されないことがある。・データの完全性を維持することの複雑性。データが大量である、あるいは複数の情報源からデータを入手している場合、会計上の見積りを行う際に使用するデータの完全性を維持することに複雑性を伴うことがある。・複雑な契約条件を解釈する必要性。例えば、仕入先からのリベートに関するキャッシュ・インフロー又は顧客へのリベートに関するキャッシュ・アウトフローの決定は、極めて複雑な契約条件に基づいていることがあるため、理解又は解釈するためには特定の経験や能力が必要になることがある。

主観性が、見積手法、仮定又はデータの選択及び適用に影響する程度

A78
会計上の見積りに使用する見積手法、仮定又はデータの選択及び適用について主観性が及ぼす影響の程度を考慮する際、監査人は以下の事項を検討することがある。・見積手法において用いられる評価アプローチ、概念、技法及び要素が適用される財務報告の枠組みによって明示されていない程度・金額及び時期(予想期間の長さを含む)に関する不確実性。金額及び時期は、見積りの不確実性の原因となるものであり、見積額の選択において経営者の判断が必要となることから、経営者の偏向が発生する可能性が生じる。例えば、将来の仮定が含まれる会計上の見積りでは、主観性が高くなることがあり、経営者の偏向が生じることがある。

(3)その他の固有リスク要因(第15項(2)参照)

A79
会計上の見積りに伴う主観性の程度は、経営者の偏向又は固有リスクに影響を及ぼす他の不正リスク要因により虚偽表示の生じる可能性に影響を与える。例えば、主観性の程度が高い会計上の見積りの場合、経営者の偏向又は不正による虚偽表示の生じやすさはより高くなりやすく、結果的に生じ得る測定結果の範囲が広がることがある。経営者が、このような状況に照らして不適切な範囲から見積額を選択する又は意図的であるか否かを問わず経営者の偏向を不適切に反映した範囲から見積額を選択することにより、虚偽表示となることがある。継続監査の場合、過年度の監査の過程で識別された経営者の偏向の可能性を示す兆候は、当年度の計画とリスク評価手続に影響を及ぼすことがある。

(4)特別な検討を必要とするリスク(第16項参照)

A80
会計上の見積りが見積りの不確実性、複雑性、主観性又はその他の固有リスク要因の影響を受ける程度を考慮して固有リスクの評価を行うことは、識別及び評価された重要な虚偽表示リスクが特別な検討を必要とするリスクであるかどうかを監査人が判断する上で役立つ。

(1)監査人のリスク対応手続(第17項参照)

A81
リスク対応手続を立案して実施する際、監査人は第17項に記載されている三つのアプローチを個別に又は組み合わせて使用することがある。例えば、会計上の見積りに複数の仮定が使用されている場合、監査人はそれぞれの仮定に異なるアプローチを用いることがある。

裏付けとなる又は矛盾する関連する監査証拠の入手

A82
監査証拠は、アサーションを裏付ける情報と矛盾する情報の両方から構成される(監基報500のA1項参照)。これらを偏りなく入手するには、企業の内部及び外部の複数の情報源から証拠を入手することがある。しかしながら、監査人は監査証拠が含まれる全ての情報源を識別するために網羅的な調査を行うことは求められていない。
A83
監査基準報告書330は、評価した重要な虚偽表示リスクの程度が高いほど、より確かな心証が得られる監査証拠を入手することを監査人に求めている(監基報330第6項(2)及びA18項参照)。そのため、会計上の見積りに関する固有リスクが、固有リスクの分布の中で最も高い水準と評価された場合には、監査証拠の質及び量を検討することがより重要となることがある。

適用の柔軟性

A84
監査人のリスク対応手続の種類、時期及び範囲は、例えば、以下の影響を受ける。・評価された重要な虚偽表示リスク(監査証拠により形成すべき心証の程度及び監査人が会計上の見積りを監査する際に選択するアプローチに影響する。)。例えば、期末日直後に従業員に対して支払われる単純な未払賞与の場合、実在性又は評価のアサーションに関する重要な虚偽表示リスクは低いと評価されることがある。この場合、監査人が十分かつ適切な監査証拠を入手するには、監査報告書日までに発生した事象を評価する方が他のアプローチより実務的なことがある。・評価された重要な虚偽表示リスクの根拠《(2)監査人が有効に運用されている内部統制に依拠する予定である場合》(第18項参照)
A85
固有リスクが固有リスクの分布の中で高いと評価された場合(特別な検討を必要とするリスクと評価された場合を含む。)、内部統制の運用評価手続が適切なことがある。例えば、会計上の見積りが複雑性に高度に影響を受ける場合である。一方、会計上の見積りが主観性の影響を大きく受け、経営者による重要な判断が求められる場合には、内部統制の固有の限界により、監査人は内部統制の運用評価手続よりも実証手続に重点を置くことがある。
A86
監査人は、会計上の見積りに関する内部統制の運用評価手続の種類、時期及び範囲を決定する際に、以下の要素を検討する場合がある。・取引の種類、頻度及び量・内部統制のデザインの有効性(内部統制が、評価された固有リスクに対応するために適切にデザインされているかどうかを含む。)及びガバナンスの強度・全般的な統制目的及びプロセスに対する特定の内部統制の重要度(取引をサポートする情報システムの高度化の程度を含む。)・内部統制の監視活動及び識別された内部統制の不備・内部統制により対応することが想定されるリスクの内容。例えば、判断の行使に関する内部統制か基礎データに対する内部統制・統制活動に関与する者の能力・統制活動の実施頻度・統制活動の実施に係る証拠《実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合》
A87
金融業等の一部の業界では、経営者が事業を行うに当たって広範にITを利用している場合がある。その場合、実証手続のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手することができないような会計上の見積りに関するリスクが存在する可能性が高い。
A88
実証手続のみではアサーション・レベルで十分かつ適切な監査証拠を入手できないリスクが存在し得る状況には、以下が含まれる。・総勘定元帳及び補助元帳以外から入手した情報の開始、記録、処理又は報告に関するリスクを軽減するために内部統制が必要となる状況。・一つ又は複数のアサーションを裏付ける情報が電子的に開始、記録、処理又は報告される状況。取引若しくはデータの量が多い、又は複雑なモデルが使用されているため情報の正確性と網羅性の確保にITの広範な利用が必要となる状況がこれに該当する。金融機関等では、複雑な予想信用損失に係る引当金が必要となることがある。例えば、金融機関等では、予想信用損失に係る引当金を設定する際に使用されるデータは、大量の取引から生じる多数の少額な項目で構成されることがある。このような状況では、監査人は、予想信用損失に係る引当金を設定する際に使用したモデルに関する内部統制の運用評価手続を実施しなければ、十分かつ適切な監査証拠を入手できないと結論付けることがある。これらの場合、監査証拠の十分性と適切性は、情報の正確性と網羅性に関する内部統制の有効性に依存することがある。
A89
法令等により、監査人は、特定の企業(銀行や保険会社等)の財務諸表監査の一環として、内部統制に関連する追加手続の実施又は内部統制に対する保証の提供が求められることがある。このような状況やその他の類似する状況において、監査人は、目的適合性に影響し得る事後的な変化が発生していないかどうかを判断した上で、当該追加手続等を実施することにより入手した情報を監査証拠として使用できることがある。

(3)特別な検討を必要とするリスク(第19項参照)

A90
監査人は、監査基準報告書330第20項に従い、特別な検討を必要とするリスクに対して実証手続のみを実施する場合、詳細テストを含めなければならない。監査人は、各状況における職業的専門家としての判断に基づき、第17項に記載されている各アプローチに即して詳細テストを立案し実施する。会計上の見積りに関連する、特別な検討を必要とするリスクに対応する詳細テストには、例えば、以下の手続が含まれる。・条件や仮定を裏付けるための契約書の検証・モデルの数学的な正確性の再計算による確認・使用された仮定と、第三者が公表した情報等の根拠資料との照合《(4)監査報告書日までに発生した事象からの監査証拠の入手》(第20項参照)
A91
状況によっては、監査報告書日までに発生した事象から監査証拠を入手することで、重要な虚偽表示リスクに対応するための十分かつ適切な監査証拠を得られることがある。例えば、生産中止となった製品在庫が期末日後すぐに全て販売された場合は、期末日時点の正味売却価額の見積りに関する十分かつ適切な監査証拠を入手できることがある。また、場合によっては、第17項(2)又は(3)のアプローチと組み合わせて監査報告書日までに発生した事象から監査証拠を入手することが必要となることがある。
A92
一部の会計上の見積りについては、監査報告書日までに発生した事象から会計上の見積りに関する十分かつ適切な監査証拠が入手できないことがある。例えば、長期間にわたって会計上の見積りに関連する状況又は事象が生じる場合である。また、公正価値に関する会計上の見積りの場合、期末日後の情報は、期末日に存在する事象又は状況を反映していない可能性があるため、公正価値に関する会計上の見積りの測定に関連しないことがある。
A93
監査人は、特定の会計上の見積りについて監査報告書日までに発生した事象に関するアプローチを用いないと決定した場合においても、監査基準報告書560「後発事象」を遵守する必要がある。監査人は、期末日の翌日から監査報告書日までの間に発生し、財務諸表の修正又は財務諸表における開示が要求される全ての事象が、識別され、財務諸表に適切に反映されているかどうかについて、十分かつ適切な監査証拠を入手するために立案した監査手続を実施する必要がある(監基報560第5項及び第7項参照)。公正価値に関する会計上の見積り以外の多くの会計上の見積りの測定は、通常、将来の状況、取引又は事象の結果によって決まるので、監査基準報告書560に基づく監査人の作業と特に関連がある。

(5)経営者がどのように会計上の見積りを行ったかの検討(第21項参照)

A94
経営者がどのように会計上の見積りを行ったかを検討することは、例えば以下の場合に適切なアプローチとなることがある。・前年度の財務諸表に行われた同様の会計上の見積りについて監査人が検討した結果、経営者の当年度のプロセスが有効である可能性が高いことが示唆されている場合・会計上の見積りが、個別には重要でない均質な多数の項目で構成される場合・適用される財務報告の枠組みにおいて、経営者が会計上の見積りを行う方法が明示されている場合。例えば、予想信用損失に係る引当金がこれに該当することがある。・会計上の見積りが、定型的なデータ処理に基づいている場合経営者がどのように会計上の見積りを行ったかを検討することは、第17項の他のいずれのアプローチも実務的でない場合又は他のアプローチのいずれかと組み合わせる場合においても、適切なアプローチとなる可能性がある。

見積手法、重要な仮定又はデータの過年度からの変更(第22項(1)、第23項(1)及び第24項(1)参照)

A95
以下に該当する場合、監査人は経営者と協議を行い、使用された仮定の適切性について経営者の主張を批判的に検討することが必要な場合がある。・見積手法、重要な仮定又はデータの過年度からの変更が、新たな状況又は新たな情報に基づくものでない場合・重要な仮定が相互に整合しない場合、又は他の会計上の見積りに使用された仮定や企業の事業活動における他の領域で使用された関連する仮定と整合しない場合《経営者の偏向が存在する兆候》(第22項(2)、第23項(2)及び第24項(2)参照)
A96
監査人は、経営者の偏向が存在する兆候を識別した場合、経営者と協議を行い、使用された見積手法、仮定及びデータがその状況において適切で裏付けがあることを示す十分かつ適切な監査証拠を入手できているかどうかについて、再検討が必要となることがある。特定の会計上の見積りにおいて経営者の偏向が存在する兆候の例として、複数の異なる仮定について経営者の設定する範囲は適切であるが、最も都合の良い見積り額となるようにそれぞれの仮定の範囲から上限又は下限を選択している場合が挙げられる。

見積手法の選択(第22項(1)参照)

A97
監査人は、選択された見積手法が適用される財務報告の枠組みに照らして適切であるかどうか、また該当する場合には、過年度からの変更が適切であるかどうかについて以下を検討することがある。・経営者が見積手法を選択した根拠が適切であるかどうか。・会計上の見積りの性質、適用される財務報告の枠組みの要求事項、他の利用可能な評価に関する概念又は技法、法令等により要求される事項、事業、産業及び経営環境を踏まえ、見積手法がその状況において適切であるかどうか。・別の見積手法を使用した場合に見積りの結果が著しく異なると経営者が判断している場合、経営者はその差異の原因をどのように調査しているか。・見積手法の変更がある場合、新たな状況又は新たな情報に基づいているかどうか。もしこれらに基づいた変更ではない場合、その変更は合理的ではなく、適用される財務報告の枠組みに準拠していないことがある。恣意的な変更は、財務諸表の期間比較上の不整合を生じさせる結果、財務諸表における虚偽表示を生じさせる又は経営者の偏向が存在する兆候となることがある(A133項からA136項参照)。これらの事項は、適用される財務報告の枠組みが測定方法を規定していない場合、又は複数の見積手法を許容している場合に重要となる。

複雑なモデル(第22項(4)参照)

A98
モデル及び関連する見積手法は、以下の場合に複雑である可能性が高い。・見積手法の理解と適用(モデルの設計並びに適切なデータと仮定の選択及び使用を含む)に、専門的技能又は知識が必要な場合・データの利用可能性や観察可能性に制約がある、又はデータへのアクセスが制限されているために、モデルを使用する際に必要なデータを入手することが困難な場合・複数の評価属性、属性間の複数の関係性又は複数の反復計算によって、モデルに使用するデータと仮定の完全性(例えば、正確性、一貫性又は網羅性)を維持することが困難な場合
A99
経営者が複雑なモデルを使用している場合、監査人は、以下の事項を考慮することがある。・モデルを使用する前、又はモデルに変更があった場合、モデルの妥当性が確認されているかどうか。また、当該モデルがその使用目的に対して引き続き適切であるかが定期的に検討されているかどうか。企業がモデルの妥当性を確認するプロセスは、例えば以下の評価を含む。-モデルの理論的な健全性-モデルの数学的な完全性-モデルで用いられるデータと仮定の正確性及び網羅性-モデルの計算結果と実際の取引との比較・モデルの適切な変更管理の方針及び手続が存在するかどうか。・経営者がモデルを使用する際に適切な技能と知識を行使しているかどうか。これらの考慮事項は、複雑なモデルを使用しない見積手法に対しても有用なことがある。
A100
経営者は、適用される財務報告の枠組みに準拠するために、モデルの計算結果に調整を行うことがある。このような調整は、特定の産業においてオーバーレイと呼ばれる。公正価値に関する会計上の見積りでは、モデルの計算結果に調整を行う場合、市場参加者が類似の状況で使用するであろう仮定を反映しているかどうかを考慮することが適切な場合がある。

見積手法の適用において使用される重要な仮定及びデータの完全性の維持(第22項(5)参照)

A101
見積手法の適用における重要な仮定及びデータの完全性の維持は、情報処理の全ての段階にわたってデータと仮定の正確性と網羅性を維持することである。完全性が維持されなければ、データや仮定に関する情報が破損し、虚偽表示につながる可能性がある。この点に関して監査人が考慮する事項には、入力、保存、抽出、送信又は処理等の作業を通じて、データと仮定が、経営者の意図した変更を全て反映しており、かつ、意図しない変更を反映していないかどうかを検討することが含まれる。

重要な仮定(第23項参照)

A102
監査人は、重要な仮定が適用される財務報告の枠組みに照らして適切であるかどうか、また該当する場合には、過年度からの変更が適切であるかどうかについて以下を検討することがある。・経営者が仮定を選択した根拠・会計上の見積りの性質、適用される財務報告の枠組みの要求事項、事業、産業及び経営環境を踏まえ、仮定がその状況において適切であるかどうか。・仮定の選択に関する過年度からの変更がある場合、新たな状況又は新たな情報に基づいているかどうか。もしこれらに基づいた変更ではない場合、その変更は合理的ではなく、適用される財務報告の枠組みに準拠していないことがある。会計上の見積りにおける恣意的な変更は、財務諸表における重要な虚偽表示を生じさせる、又は経営者の偏向が存在する兆候となることがある(A133項からA136項参照)。
A103
経営者は、会計上の見積りの代替的な仮定又は結果を評価することがあり、これは、状況に応じて様々な方法を通じて行われることがある。経営者が取り得る方法の一つに感応度分析がある。感応度分析には、異なる仮定を使った場合に会計上の見積りの金額がどれだけ変動するかに係る判断が含まれることがある。公正価値で測定される会計上の見積りについても、異なる市場参加者が異なる仮定を使用することにより、ばらつきが生じることがある。経営者は、感応度分析により、「悲観的」シナリオや「楽観的」シナリオなどの複数の結果の範囲を想定することがある。
A104
監査の過程で得た知識を通じて、監査人は、企業の事業活動における他の領域で使用された仮定を理解することがある。例えば、事業の見通し、事業戦略に関する文書中の仮定及び将来キャッシュ・フローなどである。また、監査基準報告書315第14項(2)では、監査責任者が企業の監査以外の業務に関与している場合に、監査責任者はその業務から得られた情報が、重要な虚偽表示リスクの識別に関連するものかどうかを考慮することが求められている。監査以外の業務から得られた情報は、重要な仮定が互いに整合しているか、及び他の会計上の見積りで使用された仮定と整合しているかどうかを考慮する上でも有用なことがある。
A105
適用される財務報告の枠組みの要求事項に照らした重要な仮定の適切性は、特定の行動を実行する経営者の意思と能力に依存することがある。また、経営者は特定の資産や負債に関連した経営者の意思や計画を文書化することが多く、そのような文書化は適用される財務報告の枠組みにより要求されることもある。経営者の意思と能力に関して入手すべき監査証拠の内容と範囲は、職業的専門家としての判断によることとなるが、該当する場合、監査人の手続には以下の事項が含まれる。・表明された意思の実行に関する経営者の過去の実績の検討・計画書やその他の文書(該当する場合には、正式に承認された予算書、決裁書、議事録を含む)の閲覧・特定の行動の理由についての経営者への質問・期末日の翌日から監査報告書日までの間に発生している事象に関する検討・企業が置かれている経済環境に基づいた、企業が特定の行動を実行する能力(既存のコミットメントによる影響及び経営者の行動の実行可能性に影響を及ぼしうる法令上、規制上又は契約上の制限の影響を含む。)の評価・適用される財務報告の枠組みにおいて文書化に関する要求事項がある場合、経営者が当該要求事項を遵守しているかどうかの検討しかしながら、財務報告の枠組みによっては、会計上の見積りを行う際に経営者の意思や計画を考慮することを認めないことがある。公正価値に関する会計上の見積りの場合、市場参加者が使用する重要な仮定を反映することが要求されるため、経営者の意思や計画を考慮することが認められない場合が多い。

データ(第24項(1)参照)

A106
監査人は、選択されたデータが適用される財務報告の枠組みに照らして適切であるかどうか、また該当する場合には、過年度からの変更が適切であるかどうかについて以下を検討することがある。・経営者がデータを選択した根拠・会計上の見積りの性質、適用される財務報告の枠組みの要求事項、事業、産業及び経営環境を踏まえ、データがその状況において適切であるかどうか・過年度と比べて、選択されたデータ又はそのデータに含まれる項目若しくは情報源に変更がある場合、新たな状況又は新たな情報に基づいているかどうか。もしこれらに基づいた変更ではない場合、その変更は合理的ではなく、適用される財務報告の枠組みに準拠していないことがある。会計上の見積りにおける恣意的な変更は、財務諸表の期間比較上の不整合を生じさせる結果となり、財務諸表における虚偽表示を生じさせる又は経営者の偏向が存在する兆候となることがある(A133項からA136項参照)。

データの適合性と信頼性(第24項(3)参照)

A107
企業が作成した情報を使用する場合、監査基準報告書500は、その情報が監査人の目的に照らして十分に信頼性を有しているかどうか評価することを監査人に求めている。これには、個々の状況において必要な、当該情報の正確性及び網羅性に関する監査証拠を入手すること、並びに監査人の目的に照らして十分に正確かつ詳細な情報であるかどうかを評価することが含まれる(監基報500第8項参照)。

複雑な法令上又は契約上の条件(第24項(4)参照)

A108
会計上の見積りが複雑な法令上又は契約上の条件に基づいている場合、監査人は以下の手続を考慮することがある。・契約の理解又は解釈に専門的な技能又は知識が必要かどうかの検討・法令上又は契約上の条件に関する企業の法律専門家への質問・以下の実施を目的とした原契約の閲覧-取引又は合意の基礎となる事業目的の評価-契約条件が経営者の説明と整合しているかどうかの検討《経営者による見積額の選択及び見積りの不確実性に関する注記事項》

経営者による見積りの不確実性の理解及び対処(第25項(1)参照)

A109
監査人は、経営者が見積りの不確実性の理解と対処を適切に行っているかについて、以下を検討することがある。(1)経営者が見積りの不確実性の原因を識別し、測定結果がどの程度変動し得るか及びその結果として合理的に生じ得る測定結果の範囲を評価することにより、見積りの不確実性を理解しているかどうか。(2)経営者が測定プロセスにおける複雑性又は主観性が重要な虚偽表示リスクにどの程度影響するかを特定し、結果として生じる虚偽表示の可能性に対して以下を適用して対処しているかどうか。①会計上の見積りを行うための適切な技能と知識②専門的な判断(どの程度経営者の偏向の影響を受けやすいかを特定し対処するための判断を含む。)(3)経営者の見積額及び見積りの不確実性を説明する注記事項を適切に選択することで、経営者が見積りの不確実性に対処しているかどうか。

経営者による見積額の選択及び見積りの不確実性に関する注記事項(第25項(2)参照)

A110
経営者による見積額の選択及び見積りの不確実性に関する注記事項に関連する論点には、以下が含まれる。・使用された見積手法とデータは適切に選択されたものか(代替的な見積手法や代替的なデータの情報源が利用可能であった場合を含む。)。・使用された評価属性は適切かつ網羅的であるか。・使用された仮定は、合理的に生じ得る範囲の中から選択され、適合性及び信頼性のある適切なデータによって裏付けられているか。・使用されたデータは、適切であり、適合性及び信頼性があり、当該データの完全性が維持されているか。・計算は見積手法に従っており、数学的に正確であるか。・経営者の見積額は、合理的に生じ得る測定結果の中から適切に選択されているか。・関連する注記事項は、見積額を適切に記載しており、合理的に生じ得る測定結果がどの程度変動しうるかを含め、見積りプロセスの内容や制約を説明しているか。
A111
経営者の見積額の適切性に関連して、監査人は、以下の事項を考慮することがある。・適用される財務報告の枠組みの要求事項が、代替的な測定結果と仮定を考慮した上で見積額を使用するよう規定している、又は特定の測定方法を規定している場合、経営者は当該要求事項を遵守しているかどうか。・適用される財務報告の枠組みが、合理的に生じ得る測定結果の中からどのように見積額を選択するかを規定していない場合、経営者は適用される財務報告の枠組みの要求事項を考慮して判断を行っているかどうか。
A112
監査人は、見積りの不確実性についての注記事項に関連して、適用される財務報告の枠組みの要求事項を検討する。適用される財務報告の枠組みは、以下のような注記事項を求めることがある。・会計上の見積りの金額の記載、及び合理的に生じ得る測定結果がどの程度変動しうるかを含めた見積りの作成プロセスの内容と制約の説明。適用される財務報告の枠組みが、開示目的を達成するための追加的な注記事項を要求していることもある。・会計上の見積りに関する重要な会計方針。状況によっては、関連する会計方針には、財務諸表における会計上の見積りとその表示に適用される特定の会計原則、基礎、慣習、規制及び実務等が含まれることがある。・重要な判断(例えば、財務諸表で認識される額に最も重要な影響を及ぼす判断)及び重要な将来の仮定又は見積りの不確実性を生じさせるその他の要因また、一定の状況下では、適正表示を達成するため(準拠性の枠組みの場合には、財務諸表の利用者の誤解を招かないため)、財務報告の枠組みが明示的に要求しているもの以外にも追加的な注記事項が必要となることがある。
A113
会計上の見積りの不確実性の影響を受ける程度が大きいほど、重要な虚偽表示リスクが高いと評価される可能性が高まる。この場合、経営者の見積額及び見積りの不確実性に関連する注記事項が適用される財務報告の枠組みに照らして合理的であるか虚偽表示であるかを第34項に従って判断するため、より確かな心証を得られる監査証拠の入手が必要となる。
A114
会計上の見積りの不確実性及び関連する注記事項が、監査人が特に注意を払った事項である場合、監査上の主要な検討事項に該当する可能性がある(監査基準報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」参照)。

経営者が見積りの不確実性に関して適切に理解又は対処していない場合(第26項参照)

A115
監査人は、経営者が見積りの不確実性に関して適切に理解又は対処していないと判断した場合、経営者に対して、見積りの不確実性を理解するため、追加的に代替的な仮定の検討又は感応度分析の実施等を要請することがある。
A116
監査人の見積額又は許容範囲の設定が実務的に可能であるかどうかを検討する際、監査人は、独立性に関する要求事項に違反することなく見積額又は許容範囲を設定できるかどうかを考慮することが必要となることがある。当該要求事項には、経営者の責任を引き受けることを禁止する職業倫理に関する規定が含まれることがある。
A117
監査人は、経営者の対応を考慮した上で、監査人の見積額又は許容範囲の設定が実務的に困難であると判断した場合、第33項に従って、監査又は監査意見への影響を評価する必要がある。

(6)監査人の見積額又は監査人の許容範囲の設定(第27項及び第28項参照)

A118
経営者の見積額及び見積りの不確実性に関する注記事項を評価するために監査人の見積額又は許容範囲を設定することは、例えば、以下の状況において適切となることがある。・前年度の財務諸表に行われた同様の会計上の見積りに関する監査人の検討が、経営者の当年度のプロセスが有効でないことを示唆している場合・会計上の見積りを行う経営者のプロセスに関連する内部統制が、適切にデザインされていないか、又は適切に業務に適用されていない場合・期末日の翌日から監査報告書日までの間の事象又は取引が、経営者によって適切に考慮されておらず、そのような事象又は取引が経営者の見積額と矛盾していると考えられる場合・監査人の見積額又は許容範囲を設定する際に利用可能であり、適切な代替的な仮定又は関連データの情報源が存在する場合・経営者が、見積りの不確実性に関して適切に理解又は対処していない場合(第26項参照)
A119
見積額又は許容範囲を設定するかどうかという判断は、適用される財務報告の枠組みにより影響を受けることがある。適用される財務報告の枠組みが、代替的な測定結果や仮定を検討した後に使用すべき見積額を規定している場合や、特定の測定方法(例えば、発生確率で加重平均した割引現在価値の使用又は最も確率の高い測定結果の使用など)を規定している場合である。
A120
許容範囲ではなく監査人の見積額の設定を行うかどうかは、会計上の見積りの性質及びその状況における監査人の判断による。例えば、会計上の見積りの性質により、合理的に生じ得る測定結果の変動が小さいと予想されることがある。この場合、監査人の見積額を算定する方が効果的となることがある。これは、特により高い精度で見積額を算定できる場合に当てはまる。
A121
監査人は、例えば以下のような様々な方法で見積額又は許容範囲を設定することがある。・経営者が使用したモデルとは異なるモデルを使用する方法(例えば、特定の業種又は産業で一般的に使用されているモデルや、企業独自のモデル又は監査人の開発したモデル等)・経営者のモデルを使用するが、経営者が使用したものとは異なる、代替的な仮定又は情報源を利用する方法・監査人の独自の見積手法を使用し、経営者が使用したものとは異なる仮定を利用する方法・モデルの開発若しくは適用又は関連する仮定の提供に関する専門的な知識を持つ者を利用する方法・他の類似した状況、取引又は事象を考慮する方法(適切な場合には、類似した資産又は負債の市場を考慮する。)
A122
監査人は、会計上の見積りの一部分について見積額又は許容範囲を設定することもある(例えば、特定の仮定のみに対して設定する場合や会計上の見積りの特定の部分のみが重要な虚偽表示リスクを生じさせる場合)。
A123
監査人は、独自の見積手法、仮定又はデータを使用して見積額又は許容範囲を設定する場合、経営者の見積手法、仮定又はデータの適切性に関する証拠を入手することがある。例えば、監査人が経営者の見積額の合理性を評価するために、独自の仮定を使用して許容範囲を設定する場合、監査人は、会計上の見積りにおいて使用される重要な仮定を選択する経営者の判断に、経営者の偏向が存在する兆候を示していないかどうかについての見解を得ることがある。
A124
第28項(1)は、監査人に許容範囲には十分かつ適切な監査証拠により裏付けられた金額のみを含めることを求めている。しかし、許容範囲内で生じ得るそれぞれの測定結果を裏付ける監査証拠を個別に入手することを監査人に期待するものではない。むしろ、監査人は、許容範囲の上限と下限がその状況において合理的であると判断するための証拠を入手する可能性が高く、それにより、これらの間の金額も合理的であると判断する場合がある。
A125
監査人の許容範囲が重要性の基準値の数倍になることがある。特に、重要性の基準値が経営成績(例えば、税引前利益)に基づいて設定されており、その金額が資産又はその他の貸借対照表項目の金額と比較して相対的に小さい場合に起こり得る。このような状況は、会計上の見積りの不確実性自体が重要性の基準値の数倍である場合に生じることが多い。これは特定の種類の会計上の見積り又は保険業や銀行業といった特定の業種(見積りの不確実性が高く、適用される財務報告の枠組みによって特別な要求事項が設定されていることがある。)においてより一般的である。本報告書の要求事項に従って実施した手続及び入手した監査証拠に基づき、監査人は、重要性の基準値の数倍の許容範囲がその状況においては適切であると結論付けることがある。この場合、見積りの不確実性に関する注記事項の合理性についての監査人による評価がより重要となる。特に、見積りの不確実性の程度が高いことと生じ得る結果の範囲がその注記によって適切に伝わるかどうかという点が重要である。A139項からA144項には、このような状況に関連する追加的な検討事項が含まれている。

(7)監査証拠に関するその他の検討事項(第29項参照)

A126
会計上の見積りに関する重要な虚偽表示リスクについての監査証拠として使用される情報には、企業が作成したもの、経営者の利用する専門家の業務により作成されたもの及び外部情報源により提供されたものがある。

外部情報源

A127
監査基準報告書500のA31項において説明されているとおり、外部情報源から得た情報の信頼性は、情報源、情報の種類及び情報を入手する状況などの要因に影響される。これらの要因は、会計上の見積りを行うために使用された情報の信頼性を検討する際の監査人のリスク対応手続の種類及び範囲に影響することがある。例えば、以下のように影響を受ける。・市場データ、業界データ、価格又は価格決定に関するデータが、そのような情報を専門とする単一の外部情報源から入手された場合、監査人は、比較するための価格を代替的な独立した情報源から得ようとすることがある。・市場データ、業界データ、価格又は価格決定に関するデータが、複数の独立した外部情報源から入手され、それらの情報源の間で一定のコンセンサスが得られている場合、監査人が入手する必要のある個々の情報源からのデータの信頼性に関する証拠は、より少なくてよいことがある。・複数の情報源から入手された情報がそれぞれ異なる市場の見方を示す場合、監査人は市場の見方の相違の原因を理解しようとすることがある。そのような相違は、異なる見積手法、仮定又はデータの使用から生じる可能性がある。例えば、ある情報源は現在の価格を使用し、別の情報源は将来の価格を使用している場合がある。一方、市場の見方の相違が見積りの不確実性に関連する場合、第25項(2)において、監査人は、適用される財務報告の枠組みに照らして、財務諸表における見積りの不確実性を説明する注記事項が合理的であるかどうかについて、十分かつ適切な監査証拠を入手することが求められている。その場合には、適用された見積手法、仮定又はデータに関する情報を考慮する上で、職業的専門家としての判断も重要となる。・単一の外部情報源から入手した情報が、その情報源が独自に開発したモデルにより作成されている場合に関連する指針として監査基準報告書500のA33-7項がある。
A128
公正価値の会計上の見積りの場合、監査人は、外部情報源から入手した情報の適合性と信頼性に関する以下の事項を追加的に検討することがある。(1)公正価値が、対象の資産又は負債の取引又は活発な市場の相場に基づいているかどうか。(2)公正価値が、類似の資産又は負債の取引に基づいている場合、それらの取引がどのように識別され、類似していると考えられているか。(3)対象の資産若しくは負債又は類似の資産若しくは負債のいずれについても取引が存在しない場合、当該情報がどのように作成されたか。これには、作成され使用されたインプットが、当該資産又は負債の価格を決定する際に市場参加者が使用するであろう仮定を表しているかどうかが含まれる。(4)公正価値の測定がブローカー価格に基づいている場合、当該ブローカー価格について以下の事項を検討する。①同じ種類の金融商品の取引を行っているマーケット・メーカーからの価格であるか。②拘束力のある価格及び拘束力のない価格がある場合に拘束力のあるオファーに基づいた価格を重視しているか。③適用される財務報告の枠組みによって要求される場合、期末日時点の市況を反映しているか。
A129
監査人は、外部情報源からの情報を監査証拠として使用する場合、外部情報源の使用した見積手法、仮定及びデータを理解するための情報が入手可能かどうか、又は情報が十分に詳細かどうかについて考慮することがある。必要な情報が入手できない又は入手出来ても十分に詳細でない場合があり、結果として、監査人の実施する手続の種類、時期及び範囲の検討に影響を与えることがある。例えば、プライシング・サービス・ベンダーは、使用した見積手法と仮定に関する情報を、個々の銘柄ごとではなく資産の分類ごとに提供することが多い。ブローカーは、個々の銘柄について参考価格を提供する際、使用したインプットと仮定について限られた情報のみを提供することが多い。監査基準報告書500のA33-8項では、裏付けとなる情報を外部情報源が提供する場合の制限に関する指針を提供している。

経営者の利用する専門家

A130
経営者の利用する専門家によって設定又は識別された会計上の見積りに関する仮定は、会計上の見積りを行う際に、経営者が使用することにより経営者自らの仮定となる。したがって、監査人は、そのような仮定に対しても本報告書の関連する要求事項を適用する。
A131
経営者の利用する専門家の業務が、会計上の見積りに関する見積手法又は情報源の使用や見積額又は財務諸表に含まれる注記事項に関する専門家の指摘事項や結論の形成に関連する場合、本報告書の第20項から第28項の要求事項は、監査人が監査基準報告書500第7項(3)を適用する上で役立つことがある。

受託会社

A132
監査基準報告書402「業務を委託している企業の監査上の考慮事項」は、内部統制を含む受託会社が提供する業務に対する監査人の理解及び評価した重要な虚偽表示リスクに対する監査人の対応についての実務上の指針を提供するものである。企業が会計上の見積りを行う際に受託会社の提供する業務を利用する場合、監査基準報告書402の要求事項と適用指針は監査人が本報告書の要求事項を適用する上で役立つことがある。

7.経営者の偏向が存在する兆候(第31項参照)

A133
経営者の偏向は、勘定科目レベルでは見出すのは困難なことがあり、監査人が複数の会計上の見積りを検討したり、全ての会計上の見積りを総括的に検討したり、又は複数の会計期間にわたって観察した場合にのみ識別されることがある。例えば、財務諸表に含まれる会計上の見積りが個々には合理的であっても、経営者の見積額が、合理的な監査人の許容範囲において経営者にとってより有利となる方向に一貫して偏っている場合、そのような状況は、経営者の偏向が存在する兆候を示していることがある。
A134
会計上の見積りに関連する経営者の偏向が存在する兆候の例示には、以下の事項がある。・経営者が、状況の変化があったとの主観的な評価に基づいて、会計上の見積り又は見積手法を変更していること・経営者の目的にとって都合の良い見積額となるような重要な仮定やデータを選択又は設定していること・見積額の選択が、楽観的又は悲観的な傾向を示していることこのような兆候が識別された場合、アサーション・レベル又は財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクが存在する可能性がある。個々の会計上の見積りの合理性に関して結論付ける際に、経営者の偏向が存在する兆候があったとしても、それだけでは虚偽表示とはならない。ただし、状況によっては、監査証拠が単なる経営者の偏向の兆候ではなく、虚偽表示を示すこともある。
A135
経営者の偏向が存在する兆候は、監査人のリスク評価及び関連する対応が適切であるかどうかに関する監査人の結論に影響を与えることがある。監査人は、会計上の見積りに関する経営者の判断の適切性に更に疑問を持つ必要があるかなど、監査の他の側面への影響の検討を必要とすることがある。さらに、経営者の偏向が存在する兆候は、財務諸表全体に重要な虚偽表示がないかどうかに関する監査人の判断にも影響を及ぼすことがある(監基報700第11項参照)。
A136
監査基準報告書240では、財務諸表に含まれる会計上の見積りにおける経営者の判断及び決定が、不正による重要な虚偽表示となるような経営者の偏向が存在する兆候を示しているかどうかを評価することを監査人に求めている(監基報240第31項(2)参照)。不正な財務報告は、会計上の見積りに関する意図的な虚偽表示を通じて行われることが多い。これには、会計上の見積りの意図的な過小表示や過大表示などがある。経営者の偏向が存在する兆候は、不正リスク要因となる場合があり、監査人は、監査人のリスク評価、特に不正リスクの評価、及び関連するリスク対応手続が依然として適切であるかどうかを再評価することがある。

8.実施した監査手続に基づく総括的評価(第32項参照)

A137
監査人は、立案した監査手続を実施するに従い、入手した監査証拠により他の立案した監査手続の種類、時期及び範囲を変更することがある(監基報330のA59項参照)。会計上の見積りに関しては、監査証拠を入手するための監査手続を実施する過程で、リスク評価の基礎となった情報と著しく異なる情報に気付くこともある。例えば、監査人は、当初、会計上の見積りに関する主観性のみを根拠として重要な虚偽表示リスクを識別したが、重要な虚偽表示リスクに対応する手続を実施する過程で、会計上の見積りが想定以上に複雑であることが判明し、重要な虚偽表示リスクの評価を見直すことが必要となる場合がある(例えば、複雑性の影響により、固有リスクの程度をより高いものとして見直すことが必要な場合)。このような場合、監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手するために、追加的なリスク対応手続の実施を必要とすることがある(監基報315第36項参照)。
A138
経営者が財務諸表において会計上の見積りを認識していない場合、監査人の評価の重点は、適用される財務報告の枠組みにおける認識要件が実際には満たされていたかどうかに置かれる可能性がある。会計上の見積りが認識されておらず、監査人がそれを適切であると判断する場合、財務報告の枠組みによっては、財務諸表において当該状況の注記事項が求められることがある。

会計上の見積りが合理的であるか虚偽表示であるかの判断(第8項及び第34項参照)

A139
実施した監査手続及び入手した監査証拠に基づき、経営者の見積額及び関連する注記事項が合理的であるか虚偽表示であるかを判断する際、監査人は、以下の事項に留意する。・監査証拠により許容範囲が裏付けられている場合、その許容範囲は大きくなることがあり、状況によっては、重要性の基準値の数倍の大きさとなることがある(A125項参照)。上記のように広範な許容範囲が適切となる場合でも、その許容範囲内の見積額の合理性に関する十分かつ適切な監査証拠を入手しているかどうかを監査人が再検討することが重要になることがある。・監査証拠により経営者の見積額とは異なる見積額が裏付けられることがある。そのような場合、監査人の見積額と経営者の見積額との差額が虚偽表示となる。・監査証拠により経営者の見積額が含まれない許容範囲が裏付けられることがある。そのような場合、経営者の見積額と監査人の許容範囲との最小の差額が虚偽表示となる。
A140
A110項からA114項は、経営者による見積額の選択及び財務諸表に含まれる関連する注記事項についての監査人の評価に役立つ指針を記載している。
A141
監査人のリスク対応手続として、経営者がどのように会計上の見積りを行ったかの検討又は監査人の見積額若しくは許容範囲の設定を含める場合、監査人は、見積りの不確実性に関する注記事項(第25項(2)及び第28項(2)参照)及びその他の注記事項(第30項参照)についての十分かつ適切な監査証拠を入手することが求められる。監査人は、その上で、適用される財務報告の枠組みに照らして会計上の見積り及び関連する注記事項が合理的であるか虚偽表示であるかの総括的な評価(第34項参照)の一環として、注記事項に関して入手した監査証拠を検討する。
A142
監査基準報告書450は、定性的な注記事項及び注記事項における虚偽表示が不正の兆候である可能性を示す場合についての指針を提供している(監基報450のA16項及びA21項参照)。
A143
財務諸表が適正表示の枠組みに準拠して作成されている場合、監査人は、財務諸表が適正表示を達成しているかどうかを評価する際に、財務諸表の全体的な表示、構成及び内容、並びに関連する注記事項を含む財務諸表が基礎となる取引や会計事象を適正に表しているかどうかの検討を含める(監基報700第14項参照)。例えば、会計上の見積りの不確実性の程度がより高い場合、監査人は、適正表示を達成するためには追加的な注記事項が必要であると判断することがある。経営者がそのような追加的な注記事項を含めない場合、監査人は、財務諸表に重要な虚偽表示があると結論付けることがある。
A144
監査基準報告書705は、経営者による財務諸表の注記事項が、(例えば、見積りの不確実性に関して)妥当でない又は利用者の誤解を招くと監査人が判断する場合における監査意見への影響に関する指針を提供している(監基報705第21項及び第22項参照)。

9.経営者確認書(第36項参照)

A145
経営者確認書には、特定の会計上の見積りに関して、以下の記載を含めることがある。・会計上の見積りにおける重要な判断を、経営者が認識している全ての関連する情報を考慮して行っている旨・会計上の見積りを行う際に経営者が使用した見積手法、仮定及びデータは、一貫して適切に選択又は適用している旨・会計上の見積りと注記事項に関連して、使用した仮定が、企業を代表して特定の行動方針を実行する経営者の意思と能力を適切に反映している旨・会計上の見積りに関する注記事項が、見積りの不確実性に関する注記事項を含め、適用される財務報告の枠組みに準拠して網羅的かつ適切である旨・会計上の見積りを行う際に、適切な専門的技能又は知識が適用されている旨・財務諸表に含まれる会計上の見積り及び注記事項に修正を必要とする後発事象がない旨・会計上の見積りが財務諸表において認識又は注記されていない場合、適用される財務報告の枠組みにおける認識又は注記に関する要件を満たしていないという経営者の判断は適切である旨《10.監査役等、経営者又はその他の関連当事者とのコミュニケーション》(第37項参照)
A146
監査基準報告書260を適用する際、監査人は、会計上の見積り及び関連する注記事項に関する企業の会計実務の質的側面のうち重要なものについての監査人の見解を監査役等とコミュニケーションを行う(監基報260第16項(1)参照)。付録2には、監査人が監査役等とコミュニケーションを行うことを検討する可能性のある、会計上の見積りに関する具体的な事項が含まれている。
A147
監査基準報告書265第8項は、監査人に、監査の過程で識別した重要な不備を、書面又は電磁的記録により監査役等に報告することを求めている。これらの重要な不備には、例えば以下に関するものが含まれる。(1)重要な会計方針の選択と適用、並びに見積手法、仮定及びデータの選択と適用(2)リスク・マネジメント及び関連するシステム(3)外部からデータを入手した場合を含む、データの完全性(4)外部提供者から入手したモデルを含む、モデルの使用、開発及び妥当性の確認、並びにモデルに対してなされた必要な調整
A148
監査人は、監査役等とのコミュニケーションに加えて、規制当局又は金融機関等の健全性に関する監督機関と直接コミュニケーションを行うことが許容又は要求される場合がある。そのようなコミュニケーションは、監査全体を通じて又は監査計画の立案や監査報告書の作成等の特定の段階で有用となることがある。例えば、特定の国では、金融機関の規制当局は、内部統制(金融商品取引、活発でない市場における金融商品の評価における課題、予想信用損失及び保険契約準備金に関する内部統制)の運用と適用に関する情報を共有するよう監査人に協力を求めることがある。また、その他の規制当局は、企業による費用の見積りを含む企業の事業の重要な側面に関する監査人の見解を理解しようとすることがある。このようなコミュニケーションは、監査人による重要な虚偽表示リスクの識別と評価及びリスクへの対応に有用となることがある。

11.監査調書(第38項参照)

A149
監査基準報告書315第37項及びA222項からA226項並びに監査基準報告書330第27項及びA62項は、監査基準報告書230第7項(3)に基づき、企業に関する監査人の理解、リスク評価及び評価したリスクへの対応の文書化に関する要求事項及び適用指針を提供している。会計上の見積りの監査において、監査人は、会計上の見積りに関連する企業及び企業環境に関し理解した主な内容に関する監査調書を作成することが求められている。また、会計上の見積りに関する重要な虚偽表示リスクの評価についての監査人の判断及び対応は、監査役等及び経営者とのコミュニケーションの文書化により、更に補強されることがある。
A150
監査基準報告書330に従って、評価したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクと実施したリスク対応手続との関連性を文書化する際、本報告書は、監査人がアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの根拠を考慮することを求めている。そのような根拠は、一つ以上の固有リスク要因又は統制リスクの評価に関連することがある。ただし、それぞれの会計上の見積りについて重要な虚偽表示リスクを識別し評価する際に、全ての固有リスク要因をどのように考慮したのかを文書化することは求められていない。
A151
監査人は、以下の事項についても文書化を検討することがある。・見積手法の適用に際して複雑なモデルの使用を伴う場合、経営者の判断が首尾一貫しているかどうか。また、該当する場合には、モデルのデザインが適用される財務報告の枠組みの測定目的を満たしているかどうか。・見積手法、重要な仮定又はデータの選択及び適用が複雑性の影響を大きく受ける場合、リスク評価手続の実施及びリスク対応手続の立案実施、並びに入手した監査証拠の評価に、専門的技能又は知識が必要かどうかに関する監査人の判断。これらの状況においては、必要な技能及び知識がどのように適用されたかについても監査調書に記載することがある。
A152
監査基準報告書230のA7項には、監査人の職業的専門家としての懐疑心を文書化する方法は一つではないが、監査調書が、監査人の職業的専門家としての懐疑心を保持していたという証拠を提供することがあると記載されている。例えば、会計上の見積りに関して、入手した監査証拠にアサーションを裏付ける証拠と矛盾する証拠の両方が含まれる場合、監査調書には、入手した監査証拠の十分性と適切性に関する結論を出す際の職業的専門家としての判断を含め、監査人がどのように当該証拠を評価したかが含まれることがある。本報告書の要求事項において、監査調書が、監査人の職業的専門家としての懐疑心を保持していたという証拠を提供する例としては、以下の事項がある。・第12項(4)は、企業の財務諸表に含まれる会計上の見積り及び関連する注記事項の内容を監査人が予想する際に、企業及び企業環境に関する監査人の理解をどのように適用するか、また、当該監査人の予想と経営者が作成した企業の財務諸表をどのように比較するかに関連するものである。・第17項は、十分かつ適切な監査証拠を入手するため、監査人は、経営者の見積りを裏付ける監査証拠の入手に偏ることなく、矛盾する監査証拠を排除しない方法で、リスク対応手続を立案し実施することを求めている。・第22項(2)、第23項(2)、第24項(2)及び第31項は、経営者の偏向が存在する兆候に対応することを求めている。・第33項は、裏付けとなるか矛盾するかにかかわらず、監査人は、入手した全ての関連する監査証拠を考慮することを求めている。

本文の出典:日本公認会計士協会『監査基準報告書540「会計上の見積りの監査」』(最終改正 2024年9月26日)。公式ページ:JICPA 監査実務指針等の一覧(https://jicpa.or.jp/specialized_field/publication/kansa/#540)。

過去問:公認会計士・監査審査会ウェブサイト(論文式試験 監査論の試験問題、公共データ利用規約1.0)。「何を問われているか」とメモはほしゅが作成したもので、公式の解答ではありません。基準との対応づけは、ほしゅの独自の分析です。

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