監基報620
監査基準報告書620「専門家の業務の利用」
出典:日本公認会計士協会『監査基準報告書620「専門家の業務の利用」』最終改正 2023年1月12日公式ページ:JICPA 監査実務指針等の一覧 ↗本文(要求事項・適用指針)を収録。付録(文例・表)と「適用」の節は載せていません。本文は公式の文書から取り出し、一字一句照合しています(2026-10-19 取得)。出題された1か所に線を引いています。
1.本報告書の範囲
1
本報告書は、監査人が十分かつ適切な監査証拠を入手する際に、会計又は監査以外の専門分野における個人又は組織の業務を利用する場合の実務上の指針を提供するものである。
2
本報告書は、以下の場合を取り扱うものではない。(1)監査チームが会計又は監査の特殊な領域で専門知識を有するメンバーを含む場合又は監査チームが会計又は監査の特殊な領域で専門知識を有する個人若しくは組織に専門的見解の問合せを実施する場合(これらは、監査基準報告書220「監査業務における品質管理」のA19項で取り扱う。)(2)企業が財務諸表を作成するに当たって、会計又は監査以外の分野において専門知識を有する個人又は組織の業務を利用する場合の当該専門知識を有する個人又は組織(経営者の利用する専門家)の業務を監査人が利用する場合(これは、監査基準報告書500「監査証拠」のA34項からA48項で取り扱う。)
2.監査意見に対する監査人の責任
3
監査人は、表明した監査意見に単独で責任を負うものであり、その責任は専門家の業務を利用したとしても軽減されるものではない。しかしながら、専門家の業務を利用した監査人が、本報告書に従い、当該専門家の業務が監査人の目的に照らして適切であると結論付けた場合には、監査人は、当該専門家による専門分野での指摘事項又は結論を適切な監査証拠として受け入れることができる。
3.本報告書の目的
4
本報告書における監査人の目的は、監査人の利用する専門家について以下の事項を実施することである。(1)専門家の業務を利用するかどうかを判断すること。(2)専門家の業務を利用する場合、当該業務が監査人の目的に照らして適切であるかどうかを判断すること。
4.定義
5
本報告書における用語の定義は、以下のとおりとする。(1)「監査人の利用する専門家」-監査人が十分かつ適切な監査証拠を入手するに当たって、会計又は監査以外の分野において専門知識を有する個人又は組織の業務を利用する場合の当該専門知識を有する個人又は組織をいう。監査人の利用する専門家は、監査人の雇用する内部の専門家(監査事務所又はネットワーク・ファームの社員等又は専門職員(非常勤者を含む。))と監査人が業務を依頼する外部の専門家を含む(A1項からA3項参照)。(2)「経営者の利用する専門家」-企業が財務諸表を作成するに当たって、会計又は監査以外の分野において専門知識を有する個人又は組織の業務を利用する場合の当該専門知識を有する個人又は組織をいう。(3)「専門知識」-特定分野での技能、知識及び経験をいう。
1.監査人の利用する専門家の必要性の判断
6
監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手するために会計又は監査以外の分野の専門知識が必要な場合、専門家の業務を利用するかどうかを判断しなければならない(A4項からA9項参照)。
2.監査手続の種類、時期及び範囲
7
本報告書の第8項から第12項における要求事項に関する監査人の手続の種類、時期及び範囲は、状況に応じて異なる。監査人は、これらの手続の種類、時期及び範囲を決定する際、少なくとも以下を考慮しなければならない(A10項参照)。(1)専門家の業務が関係する事項の性質(2)専門家の業務が関係する事項の重要な虚偽表示リスク(3)監査における専門家の業務の重要性(4)専門家が以前に実施した業務に関する監査人の知識と経験(5)監査事務所の品質管理の方針と手続への専門家の準拠(A11項からA13項参照)
3.監査人の利用する専門家の適性、能力及び客観性
8
監査人は、監査人の利用する専門家が、監査人の目的に照らして必要な適性、能力及び客観性を備えているかどうかを評価しなければならない。監査人が外部の専門家を利用する場合、客観性の評価の手続には、当該専門家の客観性を阻害する可能性がある利害関係についての質問を含めなければならない(A14項からA20項参照)。
4.監査人の利用する専門家の専門分野の理解
9
監査人は、以下の事項を判断するために、監査人の利用する専門家の専門分野を十分に理解しなければならない(A21項及びA22項参照)。(1)監査人の目的に照らして専門家の業務の内容、範囲及び目的を決定すること。(2)監査人の目的に照らして専門家の業務の適切性を評価すること。
5.監査人の利用する専門家との合意
10
監査人は、適切な場合には書面又は電磁的記録によって、監査人の利用する専門家と以下の事項について合意しなければならない(A23項からA26項参照)。(1)専門家の業務の内容、範囲及び目的(A27項参照)(2)監査人及び専門家のそれぞれの役割と責任(A28項及びA29項参照)(3)専門家が提出する報告書の様式を含め、監査人と専門家との間のコミュニケーションの内容、時期及び範囲(A30項参照)(4)専門家が秘密保持の原則を遵守する必要性(A31項参照)
6.監査人の利用する専門家の業務の適切性に係る評価
11
監査人は、監査人の目的に照らして、監査人の利用する専門家の業務の適切性を評価しなければならない。これには以下の事項を含む(A32項参照)。(1)専門家の指摘事項又は結論の適合性や合理性、及び他の監査証拠との整合性(A33項及びA34項参照)(2)専門家の業務に重要な仮定及び方法が採用されている場合には、それらの仮定及び方法についての個々の状況における適合性と合理性(A35項からA37項参照)(3)専門家の業務にとって基礎データの利用が重要な場合には、当該基礎データの目的適合性、網羅性及び正確性(A38項及びA39項参照)
12
監査人は、監査人の利用する専門家の業務が監査人の目的に照らして適切ではないと判断した場合、以下のいずれかを行わなければならない(A40項参照)。(1)専門家が実施する追加業務の内容及び範囲についての当該専門家との合意(2)監査人による、個々の状況において適切な追加的監査手続の実施《7.監査報告書における専門家の業務の利用に関する記載》
13
監査人は、表明した監査意見に単独で責任を負うものであるため、無限定意見の監査報告書において監査人の専門家の業務を利用したことを記載してはならない。
14
監査人は、除外事項付意見を表明する場合において、除外事項付意見の理由に関連するために、監査報告書において監査人の専門家の業務を利用したことに言及するときは、当該記載が監査意見に対する監査人の責任を軽減しないことを監査報告書において示さなければならない(A41項参照)。
1.監査人の利用する専門家の定義(第5項(1)参照)
A1
会計又は監査以外の分野での専門知識には、以下のような事項を含むことがある。・資産及び負債の評価-複雑な金融商品-土地及び建物、設備及び機械装置-宝石類、美術品、骨董品-無形固定資産-企業結合において受け入れた資産及び引き受けた負債-減損の可能性がある資産・保険契約又は従業員の年金制度に伴う負債の数理計算・石油及びガス埋蔵量の見積り・環境債務及び土壌浄化費用の評価・契約及び法令の解釈・税法を遵守するための複雑又は通例でない課題の分析・ITを利用した複雑な情報システム
A2
多くの場合、会計又は監査の専門知識と他の分野の専門知識の区別は、会計又は監査の特殊な領域に関係する場合であっても明確である。例えば、繰延税金の会計処理に専門知識を有している者は会計の専門家であるため、本報告書における専門家ではない。なお、税法に関する特別な専門知識を有している者は、本報告書における専門家に相当する。同様の区別は、他の領域でも可能なことがある。例えば、金融商品の会計処理に関する専門知識は会計の専門知識に含まれるが、金融商品を評価するための複雑なモデルの専門知識は含まれない。一方、特に会計又は監査の専門知識における新たな領域に関連する場合など、会計又は監査の特殊な領域とその他の分野の専門知識の区別は、職業的専門家としての判断事項となる。監査人に対する教育と適性の要件に関する職業的専門家としての基準及び規則は、監査人が当該判断を行使する際に役立つことがある。
A3
監査人の利用する専門家が個人又は組織のいずれでもあり得ることによって、どのように本報告書の要求事項の適用に影響するかについては、慎重な検討が必要になる。例えば、監査人の利用する専門家の適性、能力及び客観性を評価する場合、監査人は専門家が所属する組織を以前に利用したことがあるが、当該組織が特定の業務に選任した専門家個人とは過去に業務経験がないことがある。反対に、監査人は専門家個人とは業務経験があるが、当該専門家が所属する組織とは業務経験がないことがある。いずれの場合であっても、特定の個人の個人的資質と、組織の管理体制(例えば、組織が業務に適用する品質管理のシステムなど)の双方が、監査人の評価に関連することがある。
2.監査人の利用する専門家の必要性の判断(第6項参照)
A4
以下のような局面で、監査人が専門家の業務を利用することが必要になることがある。・企業及び企業環境、適用される財務報告の枠組み並びに企業の内部統制システムの理解・重要な虚偽表示リスクの識別と評価・財務諸表全体レベルで評価したリスクに応じた全般的な対応の決定と実施・アサーション・レベルで評価したリスクに対応する、リスク対応手続の立案と実施・監査意見の形成に当たって入手される、監査証拠の十分性と適切性の評価
A5
経営者が財務諸表の作成に当たって会計以外の分野の専門知識が必要な場合、重要な虚偽表示リスクが高まることがある。例えば、会計以外の分野の専門知識が相当に複雑である場合や、経営者が当該分野の専門知識を有していない場合である。経営者は、財務諸表の作成に当たって必要な専門知識を有していない場合、これらのリスクに対応するために経営者の利用する専門家を必要とすることがある。なお、経営者の利用する専門家の業務に対する内部統制を含め、関連する内部統制があれば、重要な虚偽表示リスクを低減することがある。
A6
会計以外の分野における専門知識を利用して財務諸表が作成されている場合、監査人は会計及び監査に精通しているものの、財務諸表の監査に必要な当該専門知識を有していないことがある。監査責任者は、監査チーム及び当該チームの一員ではない専門家が、全体として、監査業務を実施するための十分な時間を含む適性及び適切な能力を有しているかを判断することが求められている(監基報220第25項から第28項参照)。さらに、監査人は、監査の実施に必要な監査チームメンバーの能力、時期及び人数を明確にすることが求められている(監査基準報告書300「監査計画」第7項(5)参照)。これらの要求事項を満たすに当たり、専門家の業務を利用するかどうか、利用する場合には、いつ、どの程度利用するかについての監査人の判断が必要になることがある。また、監査人は、監査の進捗に伴い、又は状況の変化により、専門家の業務の利用に係る当初の判断を見直すことが必要になることがある。
A7
会計又は監査以外の分野の専門家ではない監査人であっても、当該分野について、専門家の業務を利用することなく、監査を実施するための十分な理解が得られることもある。この理解は、例えば、以下を通じて得ることができる。・財務諸表の作成に際して当該専門知識が要求される企業の監査経験・当該特定分野での教育又は専門的能力の開発これには、当該特定分野における監査人自身の能力を高めるために、適切な研修への参加や関連分野で専門知識を有する者との討議が含まれる。このような討議とは、特定の監査業務において行われる特定の状況に関する専門家への専門的な見解の問合せと異なる。専門家への専門的な見解の問合せにおいては、専門家は十分に関連する事実の提供を受け、特定の事項について詳細な情報を得た上で助言する(監基報220のA99項からA102項参照)。・類似の業務を実施した監査人との討議
A8
しかしながら、監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手する際に、専門家を利用する必要があると判断することがあり、当該専門家を利用することを選択することもある。専門家を利用するかどうかを判断する場合の考慮事項には、例えば、以下が含まれる。・経営者が財務諸表の作成に当たって利用する専門家の有無(A9項参照)・対象となる事項の内容、重要度及び複雑性・対象となる事項の重要な虚偽表示リスク・対象となる事項に関する専門家の業務に係る監査人の知識と経験、及び監査証拠の代替的な情報源の利用可能性を考慮した上で、識別したリスクに対応するために想定される手続の種類
A9
経営者が財務諸表の作成に専門家を利用した場合、監査人が専門家を利用するかどうかに関する判断は、以下のような要因によっても影響を受けることがある。・経営者の利用する専門家の業務の内容、範囲及び目的・経営者の利用する専門家は企業に雇用されているか、又は企業の依頼により業務に従事して関連するサービスを提供しているかどうか。・経営者の利用する専門家の業務に対して、経営者が支配又は影響を及ぼすことが可能な程度・経営者の利用する専門家の適性と能力・経営者の利用する専門家が、関連する専門的な業務実施基準、又は他の職業的専門家としての規定や業界の規定に従っているかどうか。・経営者の利用する専門家の業務に対して適用される企業の内部統制監査基準報告書500第7項は、経営者の利用する専門家の適性、能力及び客観性が監査証拠の証明力に与える影響に関する指針について記載している。
3.監査手続の種類、時期及び範囲(第7項参照)
A10
本報告書の第8項から第12項の要求事項に関する監査手続の種類、時期及び範囲は、個々の状況に応じて異なる。例えば、以下の状況においては、異なる手続やより広範囲な手続の必要性を示唆することがある。・専門家の業務が主観的かつ複雑な判断を伴う重要な事項に関係している。・監査人が以前に専門家の業務を利用しておらず、当該専門家の適性、能力及び客観性について予備知識がない。・専門家が個々の事項に関して専門的な見解の問合せに対して助言を提供するのではなく、監査に不可欠な手続を実施している。・専門家が外部の専門家であるため、監査事務所の品質管理システムに従っていない。
監査事務所の品質管理の方針と手続(第7項(5)参照)
A11
内部の専門家が監査事務所の社員等や非常勤者を含む専門職員(例:専門要員)である場合には、品質管理基準報告書第1号「監査事務所の品質管理」に準拠した当該事務所の品質管理システムに従う(品基報第1号第16項(23)及び監基報220第3項参照)。内部の専門家がネットワーク・ファームの社員等や専門職員(非常勤者を含む。)である場合もあり、その者は品質管理基準報告書第1号に従ってネットワークの要求事項やネットワークのサービスのための監査事務所の方針又は手続に従う。例えば、ネットワーク・ファームの内部の専門家は、監査事務所と同じネットワークの一部であるため、監査事務所と共通の品質管理の方針又は手続に従うことがある。
A12
品質管理基準報告書第1号第32項は外部の専門家の利用を含む、監査事務所によるサービス・プロバイダーからの資源の利用についての対応を求めている。外部の専門家は、監査チームの一員ではないため、品質管理基準報告書第1号に準拠した品質管理システム下における方針又は手続が適用されないことがある(品基報第1号第16項(6)参照)。また、職業倫理に関する規定に関する監査事務所の方針又は手続は外部の専門家に対して適用される方針又は手続が含まれることがある(品基報第1号第29項(2)参照)。
A13
監査基準報告書220のA4項に記載のとおり、監査業務での品質管理は、監査事務所の品質管理システムにより裏付けられ、また監査業務の具体的な内容と状況により影響を受ける。例えば、監査人は監査事務所の以下の関連する方針又は手続に依拠することができることがある。・採用と研修を通じた、適性と能力・客観性内部の専門家は、職業倫理で要求される事項(独立性に関する事項を含む。)に従う。・内部の専門家の業務の適切性に関する監査人の評価例えば、監査事務所の研修によって、内部の専門家がその専門知識と監査プロセスの関連性について適切な理解を得ることがある。このような研修への依拠は、専門家の業務の適切性を評価する監査人の手続の種類、時期及び範囲に影響を与えることがある。・品質管理システムの監視を通じた、法令等の遵守・専門家との合意監査人が監査事務所の方針又は手続に依拠するか否かを判断するために考慮する事項は、監査基準報告書220第4項(2)及びA10項に記載されている。監査事務所の方針又は手続に依拠することによっても、本報告書の要求事項を満たす監査人の責任は軽減されない。
4.監査人の利用する専門家の適性、能力及び客観性(第8項参照)
A14
監査人の利用する専門家の適性、能力及び客観性は、専門家の業務が監査人の目的に照らして適切であるかどうかに重要な影響を与える要因である。適性は、専門家の専門知識の内容と水準に関係している。能力は、個々の業務の状況においてその適性を発揮できるかどうかに関係している。能力に影響を与える要因には、例えば、所在地、時間や要員の利用可能性を含むことがある。客観性は、専門家の職業的専門家としての判断又は業務上の判断に対して、中立性の欠如の程度、利益相反の有無又はその他の事項が与える潜在的影響に関係している。
A15
監査人の利用する専門家の適性、能力及び客観性に関する情報は、以下のような様々な情報源によってもたらされることがある。・当該専門家が以前に提供した業務を利用した経験・当該専門家との討議・当該専門家の業務に精通している他の監査人等との討議・当該専門家の資格、専門家団体又は業界団体への加入状況、開業免許等についての情報・当該専門家が公表した論文又は著作物・監査事務所の品質管理システム(A11項からA13項参照)
A16
監査人の利用する専門家の適性、能力及び客観性の評価に関連する事項には、専門家の業務が専門的な業務実施基準又は他の職業的専門家としての規定や業界の規定(例えば、専門家団体又は業界団体の倫理規則及びその他会員が遵守すべき規定、資格認定団体による認定基準、又は法令が課す規定)に従っているかどうかを評価することが含まれる。
A17
上記のほかに監査人の利用する専門家の評価に際して考慮する事項には、以下の事項が含まれる。・専門家の業務を利用しようとしている事項に対する、専門家の特定領域における能力を含む、当該専門家の適性の適合性(例えば、保険数理人によっては、損害保険を専門に扱ってはいるが、年金数理計算に関しては限られた専門知識しか持っていないことがある。)・会計及び監査上要求される事項に関する専門家の適性(例えば、適用される財務報告の枠組みに準拠している仮定と方法、及び利用している場合はモデルに関連する知識)・当初の評価の再検討の必要性(予期しない出来事、状況の変化、又は監査手続の結果入手した監査証拠により、監査が進行するにつれて、専門家の適性、能力及び客観性に関する当初の評価を再検討する必要があることを示唆しているかどうか。)
A18
様々な状況(例えば、自己利益、擁護、馴れ合い、自己レビュー及び不当なプレッシャーという阻害要因)によって、専門家の客観性が阻害されることがある。このような阻害要因は、阻害要因を生じさせている状況を除去すること、又は阻害要因を許容可能な水準にまで軽減するためのセーフガードを適用することによって対処される。また、個々の監査業務に特有のセーフガードが設定されることもある。
A19
客観性に対する阻害要因が許容可能な水準にあるかどうかの評価は、監査人の利用する専門家の役割と監査に関連した当該専門家の業務への影響度に依存することがある。例えば、予定した監査人の利用する専門家が監査対象となる情報の作成に重要な役割を果たした特定の者であった場合、すなわち、経営者の利用する専門家であった場合など、阻害要因を生じさせている状況を除去したり、阻害要因を許容可能な水準にまで軽減するためのセーフガードを適用できない一定の状況が存在することがある。
A20
監査人が外部の専門家の客観性を評価する場合、以下を実施することがある。(1)当該専門家の客観性に影響を与える可能性のある、外部の専門家と企業の間の既知の利害関係について、企業に質問する。(2)当該専門家に適用される職業的専門家としての規定を含め、適用可能なセーフガードについて当該専門家と討議し、セーフガードが阻害要因を許容可能な水準に軽減するために適切であるかどうかを評価する。監査人の専門家との討議の対象となる利害関係には、以下が含まれている。・経済的利害関係・事業上及び個人的な関係・専門家による他のサービスの提供(外部の専門家が組織である場合には、当該組織が含まれる。)監査人の外部の専門家が認識している企業との利害関係について、監査人が当該専門家から書面又は電磁的記録による陳述を入手することが適切な場合もある。
5.監査人の利用する専門家の専門分野の理解(第9項参照)
A21
監査人は、A7項に記載されている事項や専門家との討議を通じて、専門家の専門分野を理解することがある。
A22
専門家の専門分野に関し、監査人が理解する必要のある事項には、以下のものを含むことがある。・専門家の専門分野が監査に関連する特定領域を含むかどうか(A17項参照)。・職業的専門家としての基準等及び法令等が適用されているかどうか。・どのような仮定及び方法(該当する場合はモデルを含む。)が専門家によって利用されているか、また、それらが専門家の専門分野において一般に認められており、財務報告目的にとって適切であるかどうか。・専門家が使用する内外のデータ又は情報の性質《6.監査人の利用する専門家との合意》(第10項参照)
A23
監査人及び専門家のそれぞれの役割と責任、並びに監査人と専門家の間のコミュニケーションの内容、時期及び範囲が様々であるため、専門家の業務の内容、範囲及び目的は、個々の状況に応じて相当に異なることがある。したがって、専門家が外部の専門家又は内部の専門家であるかどうかにかかわらず、監査人と専門家の間でこれらの事項を合意することが要求されている。
A24
第7項における事項は、書面又は電磁的記録による合意が適切であるかどうかを含め、監査人と専門家の間の合意に関する詳細さの程度と形式に影響を与えることがある。例えば、以下の状況においては、より詳細な合意や書面又は電磁的記録による合意の必要性を示唆することがある。・専門家が秘密扱い又は部外秘の企業情報にアクセスすること。・監査人及び専門家のそれぞれの役割又は責任が、通常期待されるものと異なること。・複数の国の法令等が適用されること。・専門家の業務に関係する事項が非常に複雑であること。・監査人が当該専門家によって実施された業務を以前に利用したことがないこと。・専門家の業務の範囲が広ければ広いほど、監査における重要性が高いこと。
A25
監査人と外部の専門家との間の合意は、契約書の形式となることが多い。付録において、監査人が外部の専門家との合意に関して、契約書又はその他の形式の文書に含めることを考慮する事項を記載している。
A26
監査人と専門家の間に書面又は電磁的記録による合意がない場合、合意の内容は、例えば以下に含まれる場合がある。・監査計画時のメモ又は監査手続書などの関連する監査調書・監査事務所の品質管理システムにおける方針と手続内部の専門家の場合、監査事務所の品質管理システムには、専門家の業務に関連する方針又は手続が含まれていることがある。監査調書における文書化の範囲は、そのような方針又は手続の内容に依存している。例えば、監査事務所が専門家の業務を利用する状況に関して詳細な手順を定めている場合には、監査調書において合意の内容を文書化することは必ずしも要求されない。
(1)専門家の業務の内容、範囲及び目的(第10項(1)参照)
A27
専門家の業務の内容、範囲及び目的について合意する場合に、当該専門家が従う専門的な業務実施基準又は他の職業的専門家としての規定や業界の規定に関して議論することは有用である。
(2)監査人及び専門家のそれぞれの役割と責任(第10項(2)参照)
A28
監査人及び専門家のそれぞれの役割と責任に関する合意には、以下が含まれることがある。・監査人又は専門家のいずれかによる、基礎データの詳細テストの実施・監査人が専門家の指摘事項又は結論を企業等と協議し、必要であれば、当該専門家の指摘事項又は結論の詳細を監査報告書において除外事項付意見の根拠区分に含めることの同意(A41項参照)・専門家の業務に関する監査人の結論を当該専門家に通知することについての合意《調書》
A29
監査人と専門家それぞれの役割に関する合意には、相互の調書の閲覧及び保存についての合意を含めることもある。専門家が監査チームの一員である場合、当該専門家の調書は、監査調書の一部を構成する。他に合意がない限り、外部の専門家の調書は、当該専門家の所有に属し、監査調書の一部を構成しない。
(3)コミュニケーション(第10項(3)参照)
A30
効果的な双方向のコミュニケーションにより、専門家の手続の種類、時期及び範囲を監査の他の作業と適切に一体化したり、専門家の業務の目的を監査の実施過程で適切に修正したりすることができる。例えば、専門家の業務が特別な検討を必要とするリスクに関する監査人の結論に関係する場合、当該専門家の業務結果の正式な書面又は電磁的記録による報告と、業務の進行に応じた口頭による報告の両方を実施することが適切であることがある。専門家との連絡を担当する社員等又は専門職員を特定し、当該専門家と企業の間のコミュニケーション手続を定めておくことは、特に大規模な業務において、適時で効果的なコミュニケーションに役立つ。
(4)秘密保持(第10項(4)参照)
A31
監査人に適用される職業倫理で要求される秘密保持に関する事項は、専門家にも適用することが必要である。また、法令等によって追加的に要求される事項が課されることがある。さらに、企業が特定の秘密保持条項についての合意を外部の専門家に要請することもある。
7.監査人の利用する専門家の業務の適切性に係る評価(第11項参照)
A32
専門家の適性、能力及び客観性に関する監査人の評価、専門家の専門分野についての監査人の知識、及び専門家が実施する業務の内容は、監査人の目的に照らして当該専門家の業務の適切性を評価する監査手続の種類、時期及び範囲に影響する。
(1)監査人の利用する専門家の指摘事項と結論(第11項(1)参照)
A33
監査人の目的に照らして専門家の業務の適切性を評価する手続には、以下を含めることがある。・専門家への質問・専門家の調書と報告書の査閲・他の監査手続により入手した証拠を裏付ける手続-専門家の業務の観察-信頼できる権威ある情報源からの統計的な報告等の公表データの検討-第三者への関連事項の確認-詳細な分析的手続の実施-再計算・専門家の指摘事項又は結論が他の監査証拠と整合していない場合等、関連する専門知識を有する他の専門家との討議・専門家の報告についての経営者との協議
A34
報告書等の様式に関係なく、専門家の指摘事項又は結論の適合性と合理性を評価する場合において関連する要素には、以下を含めることがある。・指摘事項や結論は、専門家の職業団体の基準や業界の規定と整合する方法で提示されているかどうか。・指摘事項や結論には、監査人と合意した専門家の業務の目的、実施した業務の範囲、及び適用した基準等が明瞭に記載されているかどうか。・指摘事項や結論は、関連する場合、適切な期間に基づき、後発事象を考慮に入れているかどうか。・指摘事項や結論に、利用に関する条件、制限又は規制が付されているかどうか、その場合には、そのことが監査に影響するかどうか。・指摘事項や結論は、専門家が特定した誤謬や逸脱についての適切な考慮に基づいているかどうか。
仮定及び方法(第11項(2)参照)
A35
専門家の業務が会計上の見積りを行う際に経営者によって使用される基礎的な仮定及び方法(該当する場合にはモデルを含む。)を評価することである場合、監査人は、主として、専門家が当該仮定及び方法を適切に検討したかどうかを評価するために手続を実施することが多い。専門家の業務が経営者の見積額と比較するための監査人の見積額又は許容範囲を設定することである場合、監査人は、主として、当該専門家が使用した仮定及び方法(適切な場合にはモデルを含む。)を評価するために手続を実施することがある。
A36
監査基準報告書540「会計上の見積りの監査」第7項、第12項及び第14項は、会計上の見積りを行う際に経営者が使用する仮定及び方法(場合により、企業が自社開発した極めて専門的なモデルの使用を含む。)を扱っており、それらに関して監査人が十分かつ適切な監査証拠を入手する観点から記述されているが、監査人の利用する専門家が使用する仮定及び方法を評価する場合において役立つこともある。
A37
監査人の利用する専門家の業務が重要な仮定及び方法の利用を含む場合、当該仮定及び方法について監査人が評価する際に、以下を含めることがある。・仮定及び方法が専門家の専門分野において一般に認められているかどうか。・仮定及び方法が適用される財務報告の枠組みで要求される事項と整合しているかどうか。・仮定及び方法が専門的なモデルの使用に依存しているかどうか。・仮定及び方法が経営者の仮定及び方法と整合しているかどうか、及び整合していない場合には相違の理由と影響《監査人の利用する専門家が使用する基礎データ》(第11項(3)参照)
A38
専門家の業務が、当該専門家の業務において重要である基礎データの使用を含む場合、当該データをテストするために、以下のような手続を実施することがある。・データの源泉の検討(データと専門家へのデータの伝送(関連する場合)に対する内部統制を理解し、必要に応じてテストすることを含む。)・データの網羅性と整合性に関する検討
A39
監査人は、多くの場合、自ら基礎データをテストできる。しかしながら、専門家の使用する基礎データが、当該専門家の専門分野において高度に専門的なデータである場合、当該専門家がその基礎データをテストすることになる。専門家が基礎データをテストした場合、監査人による当該専門家への質問や当該専門家のテストの監督又は査閲は、監査人が当該データの目的適合性、網羅性、及び正確性を評価するに当たり適切な方法であることがある。
(3)専門家の業務が適切でない場合(第12項参照)
A40
監査人は、専門家の業務が監査人の目的に照らして適切でないと結論し、第12項によって要求される追加的監査手続(専門家と監査人双方が追加作業を実施したり、他の専門家を雇用又は業務を依頼すること等が含まれる。)によっても問題事項を解消できなかった場合、監査人は十分かつ適切な監査証拠を入手しなかったことにより、監査基準報告書705「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見」に従って、限定付意見の表明又は意見不表明が必要になることがある。
8.監査報告書における専門家の業務の利用に関する記載(第14項参照)
A41
除外事項付意見の理由を説明するために、監査報告書において専門家について言及することが、個々の状況によって適切となることがある。このような状況において、監査人は、当該言及を行う前に、専門家の同意を必要とすることがある。